大学VC(ベンチャーキャピタル)とは?成り立ちや特徴、近年の状況などを解説

大学VCとは?成り立ちや特徴、近年の状況などを解説

大学VC(ベンチャーキャピタル)とはどのような特徴があるかについて解説しています。大学VCの近況や成り立ち、これまでの経緯や代表的な大学VC(東京大学、京都大学、大阪大学、東北大学など)についても紹介しています。AGSグループへのファンドへの取り組みも掲載していますので参考にしてください。

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大学VC(ベンチャーキャピタル)とは

大学VC(ベンチャーキャピタル)とは

大学VCとは、大学や研究機関から生まれたアイデアや技術を活用する未上場企業に投資するベンチャーキャピタルです。

大学VCは、最先端の研究やアイデア、技術を社会に還元するベンチャー企業を支援します。

一般的なVCに比べて、大学発の技術を産業の創出につなげ、大学出身の人材の活用などを主目的としている点に特徴があります。

VC(ベンチャーキャピタル)とは

ベンチャーキャピタルは、未上場の成長企業に出資して株式を取得し、将来的にその企業が上場した際に第三者、あるいは新たなオーナーに株式を売却し、キャピタルゲインを得ることを目的とする投資会社や投資ファンドです。

投資を受けた企業にとっては、資金需要の高い創業期に資金的なサポートを受けられること、加えて株主としての事業支援を期待できるため、経営資源が限られている状況の中で受け入れるメリットがあります。

VCの種類は、法律などで明確に区分されているわけではありません。しかし、その性質によっていくつかに分けられます。大学VCもその1つで、大学VC以外では以下のようなVCが存在します。

ここでは大学VC以外の、代表的な5種類のVCについて解説します。

政府系VC

政府系VCは、国の機関が中心となり運営するVCです。

様々な目的のVCが存在しますが、基本的に国内産業の技術保護や産業育成を主眼とし、短期的な利益確保にとらわれない投資を行う傾向があります。民間のVCが主体となりつつも、それを補う形での投資も行っています。

金融機関系VC

金融機関系VCは、銀行や保険会社、証券会社などの金融機関系グループに属するVCです。

母体である金融機関の資金力を生かして、大規模なファンドの組成が行われており、案件によっては大きな金額での投資が行えます。また金融機関のノウハウに基づいた、経営助言や事業連携も得意です。

事業会社系VC

事業会社系VCは、投資以外に本業を持つ企業が運営するVCです。英語では「Corporate Venture Capital」といい、略してCVCと呼ばれることもあります。

事業会社系VCは、単に利益を追うだけでなく、本業の発展につながる技術を支援したり、本業とのシナジー創出を狙ったりなどの視点から投資対象企業を選定します。そのため、事業会社系VCごとに個性が出やすいといえます。

なお、事業会社系VCが立ち上げたファンドをCVCファンドといいます。

独立系VC

独立系VCは、金融機関系VCや事業会社系VCのような親会社を持たず、複数のLP(Limited Partner:有限責任組合員)から資金を調達して運営されているVCです。また、大手VCで経験を積んだ個人が運営するケースも増えています。

独立系VCは、親会社の意向にとらわれないため、投資領域を自由に設計し、投資戦略を立てています。純粋に利益の最大化を実現し、投資家である組合員に利益を分配するのが目的であるため、出資に対して得られるキャピタルゲインを重視する傾向にあります。

海外系VC

海外系VCは、日本国外に拠点を持つ、海外企業を親会社とするVCです。

世界中の企業に投資する海外系VCは、非常に大きな資金力を持ちます。積極的に多額の投資を行い、他のVCに比べて経済合理性を重視した判断を行う特徴があります。

大学VCの近況

大学VCの近況

大学VCは近年、徐々に増えつつあります。

2023年1月には東京農工大学がファンド組成を発表しました。同年3月には神戸大学、8月には金沢大学もVCを設立しています。2024年3月には北海道大学がVCと提携し、総額30億円のファンドを立ち上げることを発表しました。

大学VCが増えている背景には、政府が起業を後押ししている状況があります。

出典:神戸大学「株式会社神戸大学キャピタルが、国立大学初の100%民間資本による大学ファンドを設立しました」
出典:金沢大学「金沢大学が100%出資のベンチャーキャピタル (株)ビジョンインキュベイトを設立」
出典:15th Rock「北海道大学と15th Rockが大学発ファンド「北大Green Frontier Fund」を今春に設立」

「スタートアップ育成5か年計画」がスタート

政府は2022年、「スタートアップ創出元年」と銘打ち、イノベーションを生み出す起業サイクルを育む環境を構築するための「スタートアップ育成5か年計画」を決定しました。税制面や育成プログラムなどの支援を強化して起業を促すものです。

大学発のベンチャー企業も多く生まれ、2023年10月末時点での大学発ベンチャーの総数は、前年より506社増加して4,288件となりました。大学発ベンチャーの数は直近10年間で約2.5倍に増えています。

ただ、ベンチャー企業の成長には、投資が欠かせません。

そこで「スタートアップ育成5か年計画」では、2021年時点で約8,000億円にとどまるスタートアップへの投資額を、2027年に10兆円まで拡大する目標を掲げています。

政府の後押しもあり、VCの組成件数や運用額は増加傾向にあり、2022年には145件のVCが組成され、設立ファンド金額は6,165億円と、ともに過去最高を更新しました。

出典:内閣官房「スタートアップ育成5か年計画ロードマップ」
出典:経済産業省「令和5年度大学発ベンチャー実態等調査」
出典:一般社団法人日本ベンチャーキャピタル協会「ベンチャーキャピタル最新動向レポート(2022年度版」

大学VCの成り立ちと現在までの経緯

大学VCの成り立ちと現在までの経緯

日本の大学には、研究資源の多くが集中し、その成果のなかには新規産業の種として有望なものが多くあるにもかかわらず、それが産業に十分活用されているとはいえない状況が長く続いてきました。

その理由の一端として、国立大学法人法によって、国立大学のベンチャー投資が規制されていたことがあります。

また企業には研究部門とは別に特許管理を行う「知的財産部」があるのに対し、大学には従来そうした組織が存在しなかったことも、大学の研究成果の特許化や企業への技術移転を行う上での障害となってきました。

1998年にTLO法が施行

海外に比べて産学連携が立ち遅れている状況を改善するため、1998年にTLO法が施行されました。TLOは「Technology Licensing Organization(技術移転機関)」の略で、大学の研究成果を民間企業へ移転させやすくするものです。

2001年に、当時600社弱だった大学発ベンチャーを3年間で1000まで増加させる計画を経済産業省が発表したこと、2004年の国立大学法人化によって国立大学が経営戦略の強化を求められたことで、一気に産学連携の流れが加速します。

同年には、大学VCの先駆けともいえる株式会社東京大学エッジキャピタル(UTEC)が設立されます。同社は、東京大学の研究成果を基にしたベンチャー企業への投資を行うVCです(現在は東大発に限定していません)。

ただし、UTECは東京大学が承認する「技術移転関連事業者」という位置付けであり、東京大学の子会社ではないため、正確には独立系VCに含まれます。

出典:経済産業省「大学の技術移転(TLO)」

国立大学VCが誕生

2014年、文部省の官民イノベーションプログラムがスタートし、国立大学は一定の条件のもとでVCを設立し、ファンドを組成することが認められました。

高い研究力を持つと認められた東京大学に417億円、京都大学に292億円、大阪大学に166億円、東北大学に125億円が国から出資され、4大学はそれぞれ傘下に大学VCを設立します。

同時期には、慶応大学が設立した「株式会社慶應イノベーション・イニシアティブ」など、私立大学でも大学VCを設立する動きが生まれました。

ただ、この時点では、国立大学のVC設立は政府出資金を財源とすることが条件となり、実質的には上記4大学のみに限られていました。

この状況が変化したのが、2022年の国立大学法人法の改正による規制緩和です。

改正法では、国立大学法人が経営努力により獲得した自己収入を財源とする場合は、民間VCが組成した「認定ファンド」に対しても出資できるようになりました。

この規制緩和が前述の東京農工大、神戸大学、金沢大学、北海道大学などの動きにつながります。

今後も、大学VCを設立する大学は増えていくでしょう。

出典:文部科学省「官民イノベーションプログラムの概要」
出典:東京農工大学「国立大学法人と民間VCの連携による初の認定ファンド組成」

代表的な大学VC

代表的な大学VC

大学VCは、VCごとに特色があり、投資先企業の選定にあたって重視するポイントも異なります。

ここでは代表的な大学VCを紹介します。

東京大学

東京大学協創プラットフォーム開発株式会社(東大IPC)は、2016年に設立されました。

東京大学が100%資本を持つ投資事業会社で、投資、起業支援、人材プラットフォーム「DEEPTECH DIVE」の3つの活動を通して、東京大学のイノベーションを社会に還元し、拡大することを目指しています。

特に、科学的な発見や革新的な技術によって社会課題を解決する「ディープテック」への投資をテーマに掲げており、その投資対象は、ライフサイエンス、宇宙、AIなど最先端の科学分野が並びます。

2024年までに3つのファンドを立ち上げ、投資総額は600億円に迫ります。

東大IPCの主な投資事例

企業名 分野 
ファイメクス ライフサイエンス 
ウェルスナビ 資産運用・AI技術 
シンスペクティブ 人工衛星データ事業 
出典:東大IPC「東大IPCとは」
出典:東大IPC「投資先企業ポートフォリオ」

一方で、独立系で東京大学とは資本的なつながりはありませんが、東京大学をはじめとする国内外の大学や研究機関と幅広く提携している株式会社東京大学エッジキャピタル(UTEC)は、「技術移転関連事業者」という位置付けで、大学発ベンチャーに投資をするVCです。

投資先企業に対して、企業の各ステージに適した組織戦略や会計・財務支援、IPO支援などを各専門分野のエキスパート(常時20名程度)がサポートします。

2024年11月時点で850億円近くの5本のファンドを運営し、150社以上に投資を行い、20社を上場、20社をM&Aに導いてきました

UTECの主な投資事例

企業名 分野 
ライフネット生命 オンライン生命保険 
ペプチドリーム 創薬 
モルフォ 画像処理技術・AI技術 
出典:UTEC「FIRM PROFILE」
出典:UTEC「SUPPORT」

京都大学

京都大学は、成長企業支援にあたって「京大モデル」を採用しています。

京大モデルとは、個々の案件の最適でなく全体の最適化を志向し、互いに連携することにより産官学連携の好循環を生み出すモデルです。

京都大学は、京大モデルにより、「京都大学の理念・経営方針の下、産官学連携本部が子会社であるコンサルティング事業、研修・講習事業を担う京大オリジナル(株)、技術移転・ライセンス活動を担う(株)TLO京都、ベンチャー支援を目的にファンディング活動を担う京都大学イノベーションキャピタル(株)が有機的に連携し、大型事業、新事業の創出を目指す」としています。

京都大学イノベーションキャピタルの主な投資事例

企業名  分野 
リーガルオンテクノロジーズ 法務分野ソフトウェア開発 
ミツカリ 人事分野テックサービス 
クオリプス 再生医療 
出典:京都大学 産官学連携本部「地球社会の調和ある共存への貢献」

大阪大学

大阪大学のVC「OUVC」の特徴は、投資分野の6割超を創薬・医療分野が占めている点です。

歴史的に医学部や工学部の研究成果が豊富な同大学では、強みを生かした投資先選定に加えて、研究成果の事業化にとどまらず、事業化候補の発掘に取り組んでいるというのも特徴といえます。

OUVCの主な投資事例

企業名 分野 
ファンペップ 創薬 
ジェイテックコーポレーション ライフサイエンス・機器開発 
クリングルファーマ 創薬 
出典:大阪大学「第67回OFC講演会」
出典:OUVC「投資方針」

東北大学

東北大学は2015年2月に、「東北大学ベンチャーパートナーズ株式会社(THVP)」を設立しました。

THVPの主な目的は、産学協同の研究開発による実用化促進を図るとともに、「東北大学発の研究成果」を活用した起業を推進し、研究開発を支援しつつ、その成果を新産業の創出につなげることです。

東北大学は、素材・材料、医薬、ヘルスケア、エレキ・デバイス、通信関連、半導体関連などの研究に秀でています。

そのため、THVPの投資対象も、これらの分野に集中しています。

THVPの主な投資事例

企業名 分野 
サスメド 医療分野システム開発 
ispace 宇宙開発 
レナサイエンス 創薬 
出典:THVP「投資先企業」

AGSグループの取り組み

AGSグループの取り組み

AGSグループでは、様々なファンド組成からファンド運用まで幅広くサポートしています。

目的に合わせて、GP(無限責任組合員)として運用することから、ファンド管理業務(組合員対応、記帳、決算対応、キャッシュマネジメント、財務局対応等)まで対応するほか、VC設立の相談も受けています。

大学VCへの取り組み

大学VCは、東京大学のUTECのような別資本による運営から、大阪大学のOUVCのような直接運営まで、様々な形態が考えられます。

また、専門家から得られるサポートも、VC設立からファンド組成・運用まで全面的なパートナーとして関与するのか、ファンドの管理といったミドルバックオフィスだけを任せるのかなど、ケースバイケースです。その他、知財を産業化するための計画策定や、大学VCをビジネスとしてスケールさせていくまでの過程でサポートが必要な場合もあるでしょう。

AGSでは、大学VCへの支援に、以下のような強みを持っています。

  • 各100名超の公認会計士・税理士を中心に、IPO、M&A、国際税務、事業承継・再生、税務部署などと連携した700名体制の支援
  • 半官半民ファンド、金融機関ファンドなどで蓄積された10年以上の運営実績(地域経済活性化支援機構、日本政策金融公庫、メガバンク、地銀など)
  • 毎年新規上場する会社の2~3割のシェアを占めるIPO支援体制
  • 主要メンバーが企業の成長支援に長け、ハンズオン・モニタリングにも関与できる機動力

AGSは、どのような体制、運営方法が最適なのかも含め、入口から大学VCのプロジェクトをご支援します。既に大学VCがある場合でも、次の新たなファンドの形を考えるお手伝いをいたします。

ファンド関与実績

AGSが現在も関与している、または過去に携わったファンドを紹介します。

REVICとの半官半民ファンド

REVICとの復興支援ファンド

超高齢化の進展に伴い、地域包括ケアシステムの成立と、周辺産業を含めた医療・ヘルスケア産業の育成が必要との認識のもと、地域経済活性化支援機構(REVIC)と共同し、半官半民ファンド「地域ヘルスケア産業支援ファンド」を2014年に設立しました。

同ファンドは、事業成長に必要なリスクマネーの提供だけでなく、REVICが有するヘルスケア産業に精通した経営人材を集中投入し、地域経済の活性化に資するものです。AGSは、総額100億円に上るファンドの業務運営者として、10年以上にわたり管理・運営を担っています。

なお、AGSではこれまで、REVICと共同して計5本のファンドを設立・運営しています。

金融機関との共同運営

金融機関との共同運営

主に資本性ローンや優先株式出資等のメザニンファイナンスを行うことを目的に、株式会社A&KCソリューションズが運営し、株式会社きらぼし銀行が出資する「夢・よりそい1号ファンド」を設立しました。

東京圏に幅広い店舗ネットワークを持ち、きめ細やかな金融支援機能・コンサルティング機能の発揮に取り組んでいるきらぼし銀行と連携して、主にきらぼし銀行と取引のある中堅・中小企業の財務基盤強化、事業成長・承継・再生支援等に対し、本ファンドからメザニンファイナンス等の投融資を行っています。

参考:AGSグループ「A&KCメザニン・ファイナンス1号投資事業有限責任組合」の設立について

日本政策金融公庫との相互連携

日本政策金融公庫との相互連携

農林漁業法人等への投資育成を目的とし、株式会社東北銀行、盛岡信用金庫、株式会社日本政策金融公庫と共同して「とうぎん・もりしんアグリファンド」を設立しました。

農業は、天候等の影響を受けやすく、また、投資回収までの期間が長いといった事業特性がある中で、農業法人は自己資本や資金調達に課題があります。農業法人が着実に事業規模の拡大・成長発展を図っていくためには、外部から円滑に資金調達が図られることが重要との考えのもと、ファンドが設立されました。

設立当初は農業法人のみを対象としていましたが、後に林業・漁業法人や食品産業など、一次産業に関連する事業者に投資対象を拡大しました。

参考:AGSグループ「とうぎん・もりしんアグリ投資事業有限責任組合」の投資対象を「農業法人」から「農林漁業法人等」に拡大

CVC設立で企業のビジネスモデルを支援

新たな技術・サービスやビジネスモデルの事業化を支援するために、積水ハウス株式会社および積水ハウス イノベーション&コミュニケーション株式会社と共同でCVCファンド「積水ハウス投資事業有限責任組合」を設立しました。

技術の確立や社会実装までに資金を要する事業を支援することにより、「住まいと暮らし」を基軸に社会課題の解決に寄与し、有望なスタートアップ企業への投資を通して、新ソーシャルインパクトの創出を目指すファンドです。

参考:AGSグループ「積水ハウス投資事業有限責任組合」の設立について

まとめ

大学VCとは?成り立ちや特徴、近年の状況などを解説

大学VCは、大学から生まれた技術や研究成果を社会に還元するため、大学発ベンチャーに投資、支援するベンチャーキャピタルです。規制緩和や政府のスタートアップ育成政策の後押しを受けて、徐々に増えつつあります。

大学であっても採算性を求められる時代において、VCを活用して産学連携を推し進めていく流れはさらに加速することが予想されます。

監修者

  • 末廣 正照

    株式会社AGSコンサルティング
    ファンド事業部長

    末廣 正照

    大学卒業後ベンチャー企業へ就職、IPO準備業務を経て2002年にAGSコンサルティングに参入。入社後はIPO支援を中心としつつ、上場会社の社外投資も兼任。ファンド運営にも従事し、REVICをはじめとして複数のファンドでの投資委員を務める。2018年以降はIPO事業部長として40名前後のメンバーのマネージメントを行い、2023年よりファンド事業部長に就任。