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持株会に税金はかかるのか?税額計算方法や確定申告の有無などを解説

持株会に税金はかかるのか?税額計算方法や確定申告の有無などを解説

持株会は、従業員などが自社の株式を購入できる制度のことで、従業員の福利厚生や安定株主の確保を目的として設置するケースがあります。その持株会を通じて株を売買した場合、税金はどうなるのでしょうか。今回は持株会の税金の取り扱いや税額計算方法、確定申告の必要性について解説します。

持株会とは

持株会とは?

持株会における税金を解説する前提として、そもそも持株会はどのような仕組みで運営されているのでしょうか。

 

まずは持株会の定義と種類、仕組みについて確認していきましょう。

 

持株会の定義

持株会とは、従業員や役員などが自社の株式を取得できる制度です。従業員の福利厚生や経営への参加意識を高めるといった目的で導入されるのが一般的で、上場企業を中心とした幅広い企業で導入されています。

 

持株会は、2名以上の構成員の加入で設立できる「民法上の組合」に該当する形で形成するのが一般的です。民法上の組合は、複数人が出資して共同の事業を営むことを当事者全員が合意することによって成立します。基本的に自分の意思で自由に加入・退会が可能です。

 

持株会の種類

持株会は、企業の上場の有無や加入者の状況に応じて以下の4種類に分類できます。それぞれの特徴は以下のとおりです。

 

従業員持株会

上場企業の従業員が金銭を拠出し、自社の株式を共同で取得することを目的に運営する組織です。

 

企業は奨励金の支給などの便宜を与えることによって、従業員の財産形成を支援します。

 

複数の従業員で構成される民法上の組合のため、経営側である役員は参加できません。

 

拡大従業員持株会

非上場企業の従業員が、自社の親会社など(上場会社)の株式を取得することを目的として運営する組織です。

 

基本的な仕組みは従業員持株会とほとんど変わらず、加入者が上場企業ではなく、非上場企業の従業員である点だけ異なります。複数の非上場企業の従業員が集まって「グループ従業員持株会」を設立することも可能です。

 

役員持株会

企業の役員(子会社の役員を含む)が、自社の株式を取得することを目的として運営する組織です。

 

従業員持株会とは異なり、奨励金の支給などの経済的援助は禁止されています。また、従業員持株会とは別の組織として設立・運営されます。

 

取引先持株会

企業の取引先が、自社の株式を取得することを目的として運営される組織です。

 

取引先が自社の株式を取得することで、取引関係の強化や株価の安定化などが期待できます。取引先持株会の会員は法人・個人を問いません。

 

役員持株会と同じく、奨励金の支給などの経済的援助は禁止されています。

 

持株会の仕組み

最も一般的な従業員持株会を例に、持株会の取引の流れを確認しましょう。

 

企業は持株会に加入している従業員の給与から拠出金を天引きし、持株会に渡します。加えて、従業員の株式取得を促進するため、持株会奨励金を支給する企業もあります。

 

つまり、従業員は自己の拠出金に奨励金を上乗せした分の自社株の購入が可能です。このようにして一定額の拠出金が集まったら、持株会はその拠出金を使って自社株を購入します。

 

購入した自社株は持株会が理事長名義で保有しますが、その利益は従業員に帰属するため、持株会を通じて従業員に配当金が支払われます。従業員が持株会で取得した株式は、持株会事務局に連絡をして売却することも可能です。

 

持株会の株の利益(配当・売却)に関する税金の取り扱い

持株会の株の利益(配当・売却)に関する税金の取り扱い

上記のような仕組みの持株会にて購入した株式に関して、配当金を受け取ったり売却したりして利益が出た場合、税金はかかるのでしょうか。

 

また、確定申告は必要なのでしょうか。

 

ここでは、持株会の株の利益に関する税金の取り扱いについて解説します。

 

税金を負担するのは従業員

持株会で購入した株式で利益を得た場合、その利益には税金がかかります。その税金を負担するのは企業や持株会ではなく、実際に利益を得た従業員です。

 

持株会が取得した株式は理事長名義で保有していますが、持株会はあくまでも従業員(会員)の代理行為を行うだけです。配当や売却で得た利益は各従業員に帰属するため、税金を負担するのも従業員となります。

 

配当は所得税と住民税が源泉徴収される

持株会で購入した上場株の配当は「配当所得」に該当し、所得税と住民税が源泉徴収されます。税率は20.315%(所得税・復興特別所得税15.315%+住民税5%)です。

 

配当金が2万円の場合、税金が4,063円(2万円×20.315%)が差し引かれて、手取り額は1万5,937円(2万円-4,063円)となります。

 

つまり、以下のような式で計算できます。

 

配当所得=収入金額(源泉徴収税額を差し引く前の金額)-株式を取得するための借入金の利子

 

なお、持株会にて受領する配当は一般的に再投資に充当されることになるため、手元にお金が入るわけではなく、投資残高の増加として資産形成されることになります。

 

株の売却益は譲渡所得として課税される

持株会で購入した株を売却して利益が出た場合、「譲渡所得」として課税されます。譲渡所得は以下の算式で計算できます。

 

譲渡所得=売却価額-必要経費(取得費+事務委託料など)

 

売却価額から、株の取得費などの必要経費を差し引いた残りが譲渡所得です。自社株を購入する際に事務委託料が差し引かれている場合、その事務委託料は必要経費に含まれます。

 

配当と同じく、株の譲渡所得の税率は20.315%(所得税・復興特別所得税15.315%、住民税5%)です。売却益が200万円の場合、税金として40万6,300円(200万円×20.315%)が差し引かれます。

 

株の取得費の計算方法

譲渡所得を求めるには、株の取得費を計算しなくてはなりません。

 

持株会で取得した株の取得費は、持株会から交付される「投資等報告書」や「退会(引出)精算書」などに記載されている簿価単価をもとに計算します。

 

確定申告の必要性

持株会を通じて取得した株式は、証券会社などの金融機関で管理されるのが一般的です。

 

「特定口座(源泉徴収あり)」で管理されている場合は、証券会社が税金を計算して代わりに納めてくれるため、自分で税額を計算する必要はなく、確定申告も不要です。

 

「一般口座」や「特定口座(源泉徴収なし)」で保有している場合は、自分で税額を計算して確定申告をしなくてはなりません。

 

一般口座や特定口座(源泉徴収なし)でも申告が不要なケース

従業員は、基本的に勤務先で受ける年末調整で課税関係は終了します。年末調整を受けており、株の売却益を含めて給与所得や退職所得以外の所得が年20万円以内であれば、所得税の確定申告は不要です。

 

ただし、所得税の申告は不要であっても、住民税の申告は原則必要です。詳しくはお住まいの自治体に確認しましょう。

 

申告不要でも確定申告をしたほうが有利なケース

持株会の株を売却して損失が生じた場合、税金が発生しないため確定申告の義務はありません。しかし、確定申告をすると翌年以後3年間にわたって損失の繰越控除が可能です。

 

繰り越した損失は、翌年以後の上場株式等に係る譲渡所得等の金額や配当所得等の金額から控除できます。課税所得が減額されるので、所得税・住民税の節税が期待できるでしょう。

 

翌年以降に配当金の受け取りや株式の売却益の発生が見込まれる場合は、確定申告をして損失を繰り越すほうが有利と言えます。

 

持株会のメリット

持株会のメリット

ここまで、持株会の株の利益に関する税金について解説しました。持株会制度の導入や加入を検討されている場合、企業と従業員の双方にどんなメリットがあるのでしょうか。

 

ここでは、法人側と従業員側それぞれのメリットを解説します。

 

法人は安定株主を確保できる

法人は持株会制度を導入し、従業員に自社の株式を取得してもらうことで安定株主を確保できるのがメリットです。株式を発行する会社には、敵対的買収のターゲットとなるリスクがあります。

 

一般株主に大量の株式を購入されると、株主の権利を行使されて安定した経営ができなくなるかもしれません。従業員の大量退職につながる恐れもあります。持株会も株主として議決権がありますが、企業の運営方針に友好的であるケースが多いため、敵対的買収の防衛策になります。

 

また、従業員の経営への参加意識が高まり、仕事に対するモチベーションアップも期待できるメリットがあります。

 

従業員は投資を通じて資産形成ができる

従業員にとっては、持株会を通じて自社の株式に投資することで資産形成ができます。

 

給与天引きで購入するため、一般的な株式投資のように相場を読む必要がなく、時間や手間がかかりません。

 

持株会奨励金が支給され、自己の拠出金に上乗せした分の株式を購入できるのも魅力です。

 

持株会奨励金は給与扱い

企業が支給する持株会奨励金は従業員に対する福利厚生が目的であるため、原則として給与扱いとなります。毎月受け取る給与と同じように、給与所得として課税されます。

 

給与所得は勤務先が税額を計算して源泉徴収し、税務署に納付してくれるため、従業員は確定申告をする必要はありません。奨励金を年1回支給する場合は、賞与として源泉徴収を行います。

 

持株会のデメリット

 

持株会のデメリット

持株会はメリットだけでなくデメリットもあるため、それも加味して総合的な判断をしましょう。

 

ここでは、法人と従業員それぞれのデメリットを紹介します。

 

法人は配当を出し続ける必要がある

持株会を導入する場合、法人側は継続して配当を出すことが前提となります。安定的に配当を出さないと、従業員が自社の経営状況に対して不安を抱くようになるためです。持株会の魅力が低下し、従業員の仕事へのモチベーションが下がる恐れもあります。

 

ただし、無理に配当を出し続けて、企業経営に影響が出るのは避けなくてはなりません。状況によっては、配当や奨励金の減額・停止を検討する必要があるでしょう。

 

従業員は株の売却に時間がかかる

通常の株式投資の場合、証券会社で売却注文を出せば数日で現金化できます。しかし、持株会の株を売却するには事務局に連絡して手続きを行うため、現金化には時間がかかります。通常は持株会から株式を引き出し、従業員個人が保有する証券口座に振り替える必要があります。

 

また、たとえ持株会であっても、上場株式への投資は元本割れリスクがあります。株価の動向によっては、配当を含めても損益がマイナスになる可能性もあるので注意が必要です。持株会だけでなく、預貯金や他の銘柄にも資金を分散させてリスク軽減を図りましょう。

 

まとめ

持株会で取得した株で利益が出た場合は、従業員本人が税金を負担します。保有株が「特定口座(源泉徴収あり)」で管理されていれば、原則として確定申告は不要です。

 

ただし、申告義務がなくでも確定申告をしたほうが有利なケースもあるため、持株会の税金の取り扱いを理解して、必要に応じて確定申告を行いましょう。
また、持株会の導入・加入については、税金の取り扱いはもちろん、持株会のメリットとデメリットなどを総合的に検討して判断するようにしましょう。

  • 井上 智博

    監修者

    井上 智博

    株式会社AGSコンサルティング
    マネジメントサービス第2部門長

    2004年にAGSグループ入社、2006年に税理士登録。法人税務、M&A業務を経て、事業承継業務に従事。年間100件超の事業承継案件に関与。

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