業績悪化や後継者がいないなどの理由で廃業を検討した際、具体的にどのようなやり方で進めれば良いでしょうか。会社を廃業するには、法律に定められた解散・清算の手続きが必要であるため、その手続きなどの方法から要する期間や費用までを詳しく解説します。
目次
- 会社の解散とは
- 会社を解散するメリット
- 税金を払わずにすむ
- 役員登記の手間が省ける
- 会社を解散するための7つの要件
- 定款で定めた存続期間の満了
- 定款で定めた解散事由の発生
- 株主総会の決議
- 合併による会社の消滅
- 破産手続き開始の決定
- 裁判所による解散命令
- 休眠会社のみなし解散
- 会社の解散後に必要な「清算」について
- 法人格の消滅に必要な清算手続き
- 通常清算と特別清算
- 通常清算
- 特別清算
- 会社解散の手続きの方法と流れ
- 1.株主総会の特別決議による解散決議
- 3.各機関への解散の届出
- 4.財産目録および貸借対照表の作成
- 5.債権者保護手続き
- 6.税務署へ解散確定申告書の提出
- 7.資産の現金化、債務弁済、残余財産の確定および分配
- 9.決算報告書の作成および承認
- 10.清算結了の登記
- 11.各機関に対する解散の届出
- 会社解散に要する期間
- 会社解散の手続きには2カ月以上かかる
- 会社解散にかかる費用
- 登録免許税
- 官報公告費用
- その他の諸費用
- 専門家への依頼費用
- まとめ
会社の解散とは
会社の解散とは、事業を停止して法人格を消滅させる手続きです。業績不振で回復の見込みがない、後継者がいないなど事業の継続が困難な場合に、会社の解散を決断することになります。
しかし、事業をやめさえすれば会社がなくなるわけではありません。取引先への買掛金の支払いなどを含む「清算手続き」を経る必要があります。
会社を解散するメリット
会社の解散には、コスト面と手続き面で以下のようなメリットがあります。
税金を払わずにすむ
実質的に事業を停止している会社でも、存続していれば法人住民税の均等割がかかり、たとえ売上がなくても決算申告を行う必要があります。
会社を正式に解散すれば、このような納税や申告の義務はなくなります。
役員登記の手間が省ける
会社が存続している間は、役員の任期満了の手続きが必要です。再任の場合は重任登記をしなければならず、申請を怠ると制裁金を科される可能性があります。
会社を解散してしまえば、役員の任期を意識する必要はありません。
会社を解散するための7つの要件
会社を解散するには相応の理由が必要で、会社法では以下の事由によって解散すると定められています。
定款で定めた存続期間の満了
会社の定款で、会社の存続期間を定めることが可能であり、それが満了すると会社は解散となります。
存続期間満了に伴い、解散・清算手続きが行われます。
定款で定めた解散事由の発生
会社の解散事由は定款で自由に定められます。
「○○プロジェクトが完了したら解散する」「従業員が5人以下になったら解散する」などの条件が定款に定められており、その条件に該当すると解散します。
株主総会の決議
株主総会において議決権を行使できる過半数の株主が出席し、その3分の2以上の賛成により会社解散の特別決議がなされた場合、会社は解散となります。
定款に存続期間や解散事由を定めている会社は少ないため、多くのケースで株主総会の決議によって解散します。
外部株主がいないオーナー企業であれば、経営者の意思で解散を決められます。
合併による会社の消滅
合併とは、複数の会社が1つになることです。
合併には、合併する会社のうちの1社が存続する「吸収合併」と、新しい会社に複数の会社を吸収させる「新設合併」があります。
どちらの場合も、吸収される側の会社は消滅します。
破産手続き開始の決定
裁判所により破産手続き開始が決定すると、会社は解散となります。
破産の場合は清算手続きの代わりに裁判所によって破産管財人が選任され、破産手続きが行われます。
裁判所による解散命令
違法行為の継続など会社の存在が公益に反する場合、裁判所によって会社の解散を命じられる場合があります。
裁判所に解散を命じられた会社は、解散・清算となります。
休眠会社のみなし解散
休眠会社とは、最後の登記から12年を経過している株式会社のことです。
会社法において、株式会社は最低でも10年に1度、役員変更の登記をする旨が定められています。12年もの間、役員変更登記もしない会社は解散したものとみなされます。
このような休眠会社に対し、法務大臣が官報公告を行います。官報公告から2カ月以内に登記申請がなければ解散したとみなされ、登記官の職権により解散登記が行われます。
なお、解散の登記後3年以内に会社継続の手続きをすると、解散前の状態に戻れます。
会社の解散後に必要な「清算」について
会社が事業を停止し解散しても、そのままでは法人格が消滅しません。債権を回収し、負債を支払うなどの法的な手続きを踏む必要があります。
解散後に清算人によって行われる手続きを「清算手続き」といいます。
法人格の消滅に必要な清算手続き
清算手続きとは、具体的には以下のような内容です。
現務の結了
現務の結了とは、解散時にまだ終わっていない業務を完了させることです。
具体的には、取引先との締結済み契約の履行や従業員との雇用契約の解消などです。
債権の回収
取引先への売掛金や第三者への貸付金があれば回収します。
財産の換価処分
不動産や車両など、会社の財産を売却して資金化します。
債務の弁済
買掛金や借入金、家賃の未納などがあれば支払います。
残余財産の分配
会社の財産を換価し、債権者に債務を弁済してもなお財産が残る場合、株主に残余財産を分配します。
分配割合は、各株主の株式の持分割合によって決まります。
通常清算と特別清算
会社の清算手続きは、状況によって以下の2つの方法に分かれます。
通常清算
通常清算とは、解散した会社が清算時の債務を債権回収や財産の売却などで全額支払える場合の清算方法です。
現預金だけでは債務が弁済しきれなくても、売掛金の回収や不動産の売却で完済できるのであれば通常清算が行われます。
通常清算では裁判所の監督は受けません。
特別清算
特別清算とは、解散した会社が会社の資産では債務を弁済しきれない(債務超過)の疑いがある場合に行われる清算方法です。
特別清算はいわゆる倒産手続きであり、行うにあたっては裁判所への申し立てが必要です。
申し立て後は裁判所の監督のもとで清算手続きを進めます。
会社解散の手続きの方法と流れ
会社の解散・清算の手続きの、一般的な流れは以下の通りです。
- 株主総会の特別決議による解散決議
- 解散および清算人の登記
- 各機関への解散の届出
- 財産目録および貸借対照表の作成
- 債権者保護手続き
- 税務署へ解散確定申告書の提出
- 資産の現金化、債務弁済、残余財産の確定および分配
- 税務署へ清算確定申告書の提出
- 決算報告書の作成および承認
- 清算結了の登記
- 各機関への解散の届出
1.株主総会の特別決議による解散決議
会社の解散は、株主総会での解散決議が必要です。
解散は会社にとって非常に重要な決定であるため、普通決議より厳格な特別決議の要件によって行われます。
特別決議とは発行済株式の過半数の株を持つ株主が出席し、その議決権の3分の2以上の賛成をもって行われる決議です。
2.解散および清算人の登記
通常、解散の決議と同時に清算人を選任します。清算人とは、会社解散後の清算手続きを実行する人です。
多くの場合、代表取締役や取締役が就任しますが、弁護士などの専門家の選任も可能です。
解散の日から2週間以内に、本店の所在地で解散の登記をしなければなりません。登記申請には、定款、株主総会議事録等が必要です。解散の登記と同時に、清算人選任登記を行います。
3.各機関への解散の届出
解散の登記の完了により、会社の解散は法律上成立します。この他に、税務や社会保険などで会社解散の手続きが必要です。主な届出先と必要書類は以下の通りです。
- 税務署に「異動届出書(解散届)」「事業廃止届出書(消費税)」などを提出
- 市区町村役場に「異動届出書」を提出
- 都道府県税事務所に「異動届出書」を提出
- 年金保険事務所に「健康保険・厚生年金保険適用事業所全喪届」「健康保険・厚生年金保険被保険者資格喪失届」などを提出(解散登記から5日以内)
- ハローワークに「雇用保険適用事業所廃止届」「雇用保険被保険者資格喪失届」「雇用保険被保険者離職証明書」などを提出(事業を廃止した日や退職日から10日以内)
- 労働基準監督署に「労働保険確定保険料申告書」「労働保険料・一般拠出金還付請求書」などを提出(事業廃止から50日以内)
4.財産目録および貸借対照表の作成
清算人の就任後遅滞なく、会社の財産を調査し、財産目録および貸借対照表を作成します。
作成した財産目録・貸借対照表は株主総会の承認後、会社に保管しておきます。
5.債権者保護手続き
清算人が会社の債権者に対して、会社の解散を知らせる債権者保護の手続きを行います。
債権者保護の手続きの目的は、会社に対して売掛債権や貸付金がある人に、債権回収の機会を設けることです。
官報公告
清算人が「官報公告」において債権者に会社の解散を知らせ、2カ月以上の一定期間内に申し出るよう呼びかけます。
官報公告を実施し、期間内に申し出をしなかった債権者は清算手続きから除外できます。
期間終了後に債権者が申し出ても、清算がすべて終わってしまえば、弁済を受けられません。
個別催告
官報公告以外に、会社が把握できている債権者に対して個別の催告をしなければなりません。
会社の解散を、より確実に知ってもらうためです。把握できている債権者への債務の弁済は、申し出がなくても免れません。
6.税務署へ解散確定申告書の提出
事業年度開始日から解散日までの確定申告書を税務署に提出します。
提出期限は、解散の日の翌日から2カ月以内です。
7.資産の現金化、債務弁済、残余財産の確定および分配
清算人が売掛金や貸付金などの債権を回収し、買掛金や借入金など債務を返済し市区町村役場などに清算結了の届出を行います。
また、現預金以外の棚卸資産や固定資産など資産価値のあるものは売却して換金します。
ただし、実際に債務の弁済ができるのは、上述した官報公告の期間終了後に債権者が確定してからです。最後に、すべての資産・負債を整理した後の残余財産を株主に分配します。
8.税務署へ清算確定申告書の提出
残余財産が確定後、税務署へ「清算確定申告書」を提出します。清算確定申告は解散後の清算手続きについての税務申告のことで、残余財産確定の翌日から1カ月以内に行います。
もし所得が生じた場合は納税する必要があります。なお、清算中は解散日の翌日から事業年度ごとに確定申告書を作り、提出しなければなりません。
9.決算報告書の作成および承認
清算人が清算事務の完了後に遅滞なく決算報告書を作成します。
その後、株主総会を招集して清算事務報告の承認を受けなければなりません。この承認により、会社の法人格が消滅します。
10.清算結了の登記
株主総会で清算事務報告の承認を受けてから2週間以内に、法務局に清算結了の登記申請を行います。
清算結了登記申請書には、株主総会議事録を添付します。
11.各機関に対する解散の届出
清算結了の登記完了後遅滞なく、税務署・都道府県税事務所・市区町村の役所などに清算結了を届け出ます。
届出には「異動届出書(清算結了届)」「登記事項証明書」などが必要です。
会社解散に要する期間
上述の解散の手続きを問題なく遂行するためには、準備から完了までのおおよその期間を把握し、事前にスケジュールを立てる必要があります。
では、どのくらいの時間を要するのでしょうか?
会社解散の手続きには2カ月以上かかる
先述の通り、官報の公告期間が2カ月以上と定められているため、この期間中は清算を完了できません。
つまり、最低限の目安として、清算結了までには2カ月以上かかるというわけです。
ただし、清算に必要な登記や届出、債権債務の整理などがすべて完了する期間は、ケースバイケースです。事業規模が大きく、取引先や会社の財産が多い会社であれば、清算が長期間にわたる場合もあります。
不動産の売却が難航すると長期化しやすい
会社財産が売却しきれないと、清算の結了はできません。
特に会社名義の不動産があり、買い手が見つからない場合には何年もかかる可能性があります。
会社解散にかかる費用
会社の解散・清算手続きには、さまざまな費用もかかります。
かかる費用は会社の大きさなどによっても異なりますが、一般的な目安は40万円から50万円です。
登録免許税
会社を解散した場合、登録免許税として「解散および清算人選任の登記」に39,000円、「清算結了の登記」に2,000円、合計41,000円がかかります。
登録免許税とは、登記の際に国へ納める税金です。
官報公告費用
債権者保護手続きとしての官報公告には、掲載料として約32,000円かかります。
その他の諸費用
手続きの過程で登記事項証明書の取得費用など、数千円程度の手数料等がかかります。
また、株主総会開催費用は、開催規模や場所によっては数十万円かかる場合があります。
専門家への依頼費用
会社が解散をする際、弁護士や司法書士、税理士などの専門家に依頼する場合もあります。会社の規模や依頼内容によって、費用は大幅に変わります。
例えば、解散登記や清算結了登記を司法書士へ依頼する場合、税務申告を税理士へ依頼する場合などは、数万円から数十万円かかります。
まとめ
事業を行っていない休眠状態の会社を放置すると、売上はなくても税金がかかってしまうため、事業を再開する意思がなければ、解散に踏み切ったほうがよいでしょう。解散から清算にはさまざまな手続きが必要で、時間も費用もかかります。
もし会社の解散を決断した場合、まずはどのような手続きが必要かを確認し、時間と費用を見積もりましょう。場合によっては専門家のサポートを検討して、慎重に進めていきましょう。