シンガポールは東南アジアに位置し、1人あたりGDPが世界で2番目に高い大変経済力に富んだ国です。 世界のビジネスの中心地となりつつあるシンガポールへ進出したいと考えている方も多いでしょう。今回は、日系企業が進出した際のメリットや市場動向について解説していきます。
2022.06.07(最終更新日:2024.01.31)
シンガポールは東南アジアに位置し、1人あたりGDPが世界で2番目に高い大変経済力に富んだ国です。 世界のビジネスの中心地となりつつあるシンガポールへ進出したいと考えている方も多いでしょう。今回は、日系企業が進出した際のメリットや市場動向について解説していきます。
2022.06.07(最終更新日:2024.01.31)
国外、特に東南アジアで事業進出しようと考えている日系企業にとってシンガポールは適切な拠点と言えます。
シンガポールに日系企業が進出するメリットは数多くあり、主に以下が挙げられます。
政府はシンガポールの国際的競争力を高めることを目的として、税制をはじめとした多くの優遇制度を用意しています。
法人税率が世界の中でも低く、加えてさまざまな税制優遇措置により、さらに実効税率が低くなります。そして、起業したてのスタートアップ企業などの個別の企業事情に配慮した税制優遇措置も用意されています。
また、他の東南アジアの国に比べて外資規制が少ないことが挙げられます。外国資本が事業所有することに関して、一定の分野を除いて制限がなく、外資規制を管轄する官庁も特段設置されていません。
さらに、特定部門を除き、外国資本による全額出資が原則的に認められています。このような外資規制が少ないことは、外資系企業がシンガポールでのビジネス活動がとてもしやすいことを意味します。
加えて、行政手続きも外国人が分かりやすいようにシンプルで、すべて英語で対応が可能です。シンガポールでは基本的に手続きのステップが少なく、簡潔に行政手続きを進められるようになっています。
行政手続きの際、個人向けにはSingPass、法人向けにはCorpPassというIDが発行されます。このIDで本人確認を行い、オンラインで行政手続きが完了することができるため、書類を作成して役所に持っていく手間がかからず、利便性が高い仕組みが整備されています。
シンガポールはビジネスのしやすさで世界中でもトップクラスの位置を占めています。
それを裏付けるデータとして、ビジネスのしやすさをランキングにしたビジネス環境ランキング(DoingBusiness)で2位(2020年時点、日本29位)という順位付けがされています。
その順位は、ビジネス進出のための最適な物流インフラが整備されていることが要因の一つでしょう。
物流の拠点として国際的に高く評価されるチャンギ国際空港、世界中の約600以上の港とつながるハブとして機能する港、高い利便性を持ちながらすべて無料で利用できる高速道路、シンガポール全域を網羅していてかつ安全性が高い地下鉄などがあります。
また、シンガポールでは優秀な人材の輩出に重点を置いていることも挙げられます。例えば、シンガポール国立大学はアジアで一番の大学として様々な大学ランキングにランクインしていることから、教育レベルの高さがわかります。
さらに、シンガポールの公用語は英語、マレー語、中国語、タミル語であり、ほとんどのシンガポール人が2か国語をネイティブレベルで話すことができるため、シンガポール人の多くがバイリンガル人材ということになります。
他のアジア諸国においては英語が通じない国も多く、英語や中国語でコミュニケーションできるという点はビジネス上のメリットといえるでしょう。
シンガポールは東南アジアの中心に位置します。
その地理的優位性が活かされ、「人、モノ、金」が集まってくるような制度が政府によって整備されています。
シンガポールでは、海外進出企業のビジネス誘致のために知的財産権が重要視されています。
シンガポールで取得された知的財産権は税務上の減価償却が認められていたり、研究開発事業に係る資金が免税となったり、研究開発や特許登録を行う海外企業への免税措置が整備されています。
そのため、世界経済フォーラム、経営研究所、政治経済リスクコンサルタンシーといった機関がシンガポールをアジアで最大級の知的財産権管理の拠点と評価しており、シンガポール国内での商標登録だけでなく、世界中での商標登録が可能です。
さまざまなメリットがある一方で、日系企業が事業をシンガポールへ進出させる際には下記のようなデメリットも考えられます。
日系企業がシンガポールに進出し、日本人スタッフを現地に送り込む場合、そのスタッフは就労ビザを取得する必要があります。
日本人が取得する就労ビザの内、主にエンプロイメント・パス(EP)とSパスがあります。
一般的に、EPは専門職や管理職に就く人が対象で、Sパスは一般職や技術職に就く人が対象です。シンガポール政府は国民の就労機会を増やすことを目的に、外国人労働者への依存を低減させる施策を2010年から採用しました。そのため、段階的に就労ビザ発行の基準が厳格化されることとなりました。
EPを取得する場合、学歴・スキル・月給などの高い条件をクリアする必要があり、Sパス取得の場合では、一定数の現地人を雇用する必要があります。
さらに、2023年からはEPの発給についてポイント制を導入することとされており、給与水準、国籍の多様性、学歴・職歴、現地人割合などの評価基準をもとにポイントが付与され、一定のポイント取得がEP発給の要件とされます。
こういった就労ビザの取得状況を踏まえ、日本人スタッフを現地に送るか、現地で人材を採用するか判断することが必要です。
シンガポールは1人あたりGDPが高く、経済的に発展している国であることは事実です。しかし、シンガポールの国土面積は東京都23区程度で、人口も600万人弱(2020年時点)であるため、その市場規模自体には限界があります。
ただ、建国半世紀ほどの非常に若い国なので、文化・芸術面の成熟度はまだまだ伸びしろがあるとも言われています。ここ10年での日系企業のシンガポール進出は多く、業種によってはすでに日系企業同士のレッドオーシャンになっています。
以上のことから、シンガポールだけでの事業展開のみならず、そこでの実績を足掛かりにアジア各国へ進出していけるかまで検討することが大切です。
シンガポールへの日系企業進出は2010〜2017年がピークで、2018年以降は停滞している傾向にあります。一方で、小売業や飲食店の進出は加速傾向です。
小売業でいうと、伊勢丹、高島屋等が早い時期から進出しており、最近では無印良品、ドン・キホーテ、ユニクロなどの大手日系企業が店舗拡大や新規進出をしております。飲食業では、すき家やスシローをはじめ、和民やモスバーガーなどの企業が進出しています。
和食業界はすでに飽和しており、シンガポールからの撤退もある一方、日系企業が提供する飲食サービスは依然として人気です。これは、シンガポールでは共働き世帯が多く、外食への支出が多い食習慣が理由の一つです。シンガポール家計支出調査によれば、スーパーなどでの支出よりレストランなどでの支出が多いという結果が出ています。
これら日系企業の進出に伴い、近年では日系企業のシンガポールでのビジネスをサポートする企業も進出しています。具体的にはコンサルティング会社、法律事務所、会計事務所、人材会社等、広告会社、サービス会社などが挙げられます。
2012〜2013年には、6つの日系大手法律事務所がシンガポールに拠点を置き、ビジネスを法律面からサポートしようとする動きが出てきました。
また、博報堂DYホールディングス傘下の読売広告社が、日系企業へサービス提供していた地場企業と資本業務提携契約を締結したり、日本最大手の広告代理店である電通が現地広告会社を買収したりと、広告業界においても進出が活発になってきています。
デメリットで述べた「市場規模の小ささ」に対し、これほど多くの日系企業が進出・起業する理由として、各企業が東南アジアへの事業進出の足掛かりを目的としているためです。
「シンガポールで流行るものはアジアでも流行る」と言われるほどで、シンガポールは東南アジアへのビジネス進出を狙う企業にとって、登竜門としての役割を担っています。
また、シンガポールは「アジアのショーケース」と呼ばれており、世界各国から政府主導で国際サミット、催事、展示会が誘致・開催されています。それだけ多くの事業のチャンスが生まれている都市とも言えます。
つまり、シンガポールに進出する企業は、人口600万人のシンガポール市場だけではなく、約6億人の東南アジア市場への進出を視野に入れているのです。
シンガポールは、ビジネス進出のための最適な社会インフラを整備することに成功しています。物流インフラでは、世界最高レベルの設備が整っているチャンギ国際空港が物流の拠点として国際的に高く評価されています。
空港だけでなく、シンガポールの港は世界中の約600以上の港とつながるハブ港として機能しています。他にも、情報インフラでは、インターネット接続スピードの速さやセキュリティの高さが有名です。これらのことから、シンガポールのビジネス環境は、アジア経済の中心地に相応しいものと言えます。
国際連合の機関であるWORLD BANKGROUPが190か国を対象に毎年発表する、ビジネスのしやすさをランキングにしたDoingBusinessで2位(2020年時点、日本29位)に順位付けされていることがその証拠です。
このような環境であるため、シンガポールにはグローバル企業が多く進出し、アジア進出のための地域を統括する拠点を設立しております。
日系企業の例として、三菱ケミカルが2018年から機能性樹脂事業のASEAN地域統括拠点を設置しています。
外国籍企業の場合、アメリカ化学業界大手のデュポンが2016年からイノベーション統括拠点を開設しており、世界的大手である中国アリババ集団も2018年からヘルスケアや輸送でのAI技術を研究する大学との共同研究所を開設しています。
既存事業展開や新しくビジネスを起こすチャンスが多く存在し、ビジネス環境として魅力的なシンガポールですが、現地へ起業・進出するにはどんな手段があるか解説していきます。
日系企業がシンガポールに進出する場合の形態は主に下記の3つです。
現地で法人を設立すると、営業や販売のような経済活動を行うことが可能です。現地法人には公開会社と非公開会社の2タイプがあり、公開会社では公募を使って資金調達ができるようになりますが、株主が50人以上いる必要があります。
一方、非公開会社では、株式の売買に制限が設けられていますが、日本から進出する多くの企業が、非公開会社として法人を設立しています。現地法人化する最大の利点は、シンガポールでの税制上のメリットを多く受けられることです。法人税率が日本のものより20%ほど低くなることもあり、その利点の大きさが分かります。
ただし、シンガポールでの税制上のメリットを享受するためには、税務上のシンガポール居住法人としての要件を満たす必要があります。さらに、日本側の税制であるタックスヘイブン税制や移転価格税制にも留意をする必要があります。
支店を設立すると、原則的に法人と同じように経済活動を行うことが可能です。銀行や保険のような金融業界がこの進出形態を採用する場合が多いです。
ただし、現地法人と異なり、法的規制や運営責任は日本本社が負い、現地法人のような税制面での優遇措置を受けられません。シンガポール支店は、シンガポールで支店単体での税務申告が必要であると同時に、日本本社と同一法人格でもあるため、日本側でも本社に含めて税務申告をする必要があります。
一方でメリットとしては、日本本社と同一法人格であるため資金のやり取りを行う上では同一社内での資金移動となり、別法人格となる現地法人に比べ手続き面で容易となります。
シンガポールでの駐在員事務所では、現地法人や支店と異なり、販売や営業といった経済活動は政府によって認められていません。
一方で、マーケット調査のような情報収集などの活動は可能です。現地法人設立と比較して、あまり手間をかけずに設立できることから、現地法人の前身として設立することも考えられます。
駐在員事務所設立には、以下の要件を満たしている必要があります。
まずは市場調査やサービスの広報活動のみを行い、シンガポールでビジネス展開するか意思決定するための準備段階として、駐在員事務所を設立することが想定されます。
現地法人の設立手続きにおいて重要なことは、必要情報ごとに留意点を把握すること、スケジュールに余裕を持つこと、信頼できる秘書役と連携をとることなどです。
会社秘書役(日本で言う司法書士)と契約して、ACRA(日本で言う法務局)にて設立登記を開始します。なお、法人設立に係る費用は、契約する代行業者や依頼する業務の範囲によっても異なり、SGD3,000~SGD10,000程度が目安となります。
下記が現地法人設立の主なプロセスです。
支店設立は、現地法人設立よりも手間と時間がかかる場合があります。
現地法人と異なる点としては、支店は日本本社の法人格として設立するため、日本本社の登記情報や決算情報を収集して英訳、必要に応じて公証人役場での公証が必要となり、書類の準備に時間を要することがあります。
下記が支店設立の主なプロセスです。
駐在員事務所設立にはシンガポール国際企業庁への申請が必要で、承認されるまで通常5営業日を要します。シンガポール国際企業庁への登録手数料はSGD200で、有効期間は1年間で毎年更新が必要となります。
なお、更新をした場合でも事務所として認められるのは3年までと決められており、3年間が経過した場合は現地法人か支店を設立する必要があります。
下記が駐在員事務所設立の主なプロセスです。
外国企業を誘致するための施策として、シンガポールに進出したい企業にとって有利な税制度となっている点が特徴的です。
例えば、日本での法人税の実効税率は約30%なのに対し、シンガポールの法人税率は17%で、一定の課税所得の減免措置も考慮すると実効税率はさらに低くなり、日本と比べて非常に低い税金になります。
また、余裕のある確定申告スケジュール、キャピタルゲイン非課税、各種軽減税率制度など、日本と異なる税制度があります。
シンガポールには財・サービス税(Goods & Services Tax:GST以下、GST)という税制度があり、日本でいうところの消費税にあたります。
日本の消費税同様、売上に係るGSTから仕入に係るGSTを控除した差額を納付または還付を受ける仕組みとなっております。
シンガポールのGST制度での課税方式はインボイス方式であり、インボイス方式とは、課税事業者として登録された者から発行されたインボイスに記載された税額のみ控除する方式のことです。
ここまでシンガポールに進出する魅力について述べてきました。
では、シンガポールへの進出を成功させるためにはどうすれば良いでしょうか。
シンガポールに限らず、日系企業の海外進出を成功させるために検討するポイントは主に以下の3つです。
消費者のニーズを正しく把握し、合理的かつスピーディーにビジネスモデルを構築できるか否かが、東南アジア進出を成功させるかのカギとなります。
日本や欧米諸国で売れている商品・サービスが、そのままシンガポール含め東南アジアで成功するとは限らないためです。
新型コロナウイルス感染症により、食品や医薬品などの必須サービス以外の小売店や飲食店の店頭営業が制限されたことで、各日系企業の売上に大きく影響を与えています。その一方で、EC取引やオンラインデリバリー業が普及するようになりました。
また、これまで外国企業や外国人労働者を受け入れることで発展してきたシンガポールですが、コロナ禍で現地人の失業率上昇に伴い、外国企業や外国人労働者への締め付けが年々強まってきています。海外進出留意事項やシンガポール進出の課題の検討に加えて、このような最新トレンドの把握をする必要もあります。
その上で、どのようにシンガポールでビジネスを展開していくか、具体的に事業計画に落とし込んでいくことがシンガポール進出のコツです。
シンガポールに進出するメリットやポイントを解説していきました。
日本と比較して法人税率が低いことや、東南アジアへのビジネス進出に最適であるなど、シンガポールへの進出にはさまざまなメリットがあります。
この記事を参考に、シンガポールへのビジネス展開を検討してみてください。