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クロスボーダーM&Aを検討する方へ!特徴や成功させるためのポイントを紹介!

クロスボーダーM&Aと聞くと、大掛かりで難易度が高い印象を持つと思います。たしかに、国内企業同士ならまだしも異なる文化や背景を持つ海外企業とのM&Aとなると、多くの論点があります。しかしM&Aに関して海外を視野に入れると、市場や成長性など多くのチャンスが眠っているのも事実です。今回は、クロスボーダーM&Aの特徴や成否を分けるポイントを解説します。

クロスボーダーM&Aとは

概要

M&Aとは、「Mergers(合併)and Acquisitions(買収)」の略語です。企業の合併や買収を異なる国の企業同士で行うことを、クロスボーダーM&Aといいます。なお、以後の説明は日本企業が買い手になるIN-OUTと呼ばれるパターンを前提としています。

手法

一般的には、対象会社の株式を買い受けることで自社グループの傘下とする手法が多くなっています。対象会社の事業単位を切り出して譲り受ける、カーブアウトという手法もあります。ですが、クロスボーダーの場合はガバナンスやマネジメントの観点で、カーブアウトは難易度が高いといわれています。

件数

日本企業が関連するM&Aは年々増加しており、特にクロスボーダー案件のうち日本企業が買い手になるIN-OUTは海外企業が買収するOUT-INよりも伸びている傾向があります。

事例

日本企業が買い手となった、直近の大型クロスボーダーM&A事例を紹介します。大型M&A市場では、ITや半導体などのハイテク系分野が活況です。

1.日立製作所のグローバルロジック買収

2021年7月、日立製作所はアメリカの子会社グローバルデジタルホールディングスを通じてアメリカのIT企業グローバルロジック社を約1兆円で買収したと発表しました。

2.パナソニックのブルーヨンダー買収

2021年4月、パナソニックはアメリカのソフトウエア大手ブルーヨンダー社の株式80%を7,800億円で取得し、既保有分の20%と合わせて完全子会社化したと発表しました。

3.ルネサスエレクトロニクスのダイアログ買収

2021年8月、ルネサスエレクトロニクスはイギリスの半導体企業ダイアログ・セミコンダクター社を6,157億円で買収したと発表しました。

日本企業によるクロスボーダーM&Aの特徴

なぜクロスボーダーなのか

日本企業がM&Aをクロスボーダーで実行する、3つの背景を説明します。

1.国内経済の縮小

直近30年の日本は経済の成熟と少子高齢化によって、経済成長率が低位で推移しています。日本企業は持続的成長のために、国内だけでなく海外市場や海外の先進技術を取り込まなければならない状況が続いています。そこでクロスボーダーM&Aにより、世界レベルの競争に一気に追いつくことができます。

2.円高

2016年以降の円高は、クロスボーダーM&Aを後押ししています。円高で円の価値が上がれば、相対的に安く海外企業を買えるのです。

3.IFRS

ここ数年で、日本企業によるIFRS(国際会計基準)の採用が増加しています。IFRS採用企業はM&Aにより生じた無形資産である「のれん」の定期償却が不要になり、日本基準採用時と比べて最終利益を押し上げる効果を見込めます。

なぜ日本企業はクロスボーダーM&Aに弱いのか

同志社大学の松本茂雄教授の研究によれば、日本企業のクロスボーダーM&Aの成功確率は8%程度といわれています。また、M&Aの専門家である杉山仁氏も所著「日本一わかりやすい海外M&A入門」の中で、日本企業のクロスボーダーM&Aが失敗に終わる確率は欧米企業と比べて高く、成功確率は10~20%程度と分析しています。ここでは、日本企業がクロスボーダーM&Aに弱いといわれる理由を説明します。

1.海外との文化の違い(PMI計画の弱さ)

江戸時代の近江商人の経営哲学に、売り手・買い手・社会にとって良い商売という意味の「三方良し」という言葉があります。元来、日本人は長期的信頼や共存共栄を良しとする気質を持っています。しかし、殖民地制度や奴隷制度を背景に発展した欧米諸国にとっては、いかに早く自分が勝ち抜くかが重要です。日本人の信頼や押しの弱さは、M&Aの条件のみならずM&A後の統合作業(以下、PMI)においても「事なかれ主義」に通ずるといわれています。

2.長期的目線

経営者が数年という短い期間でシビアに評価される欧米企業に比べて、日本企業は長い期間をかけて利害関係者全体で富むことが評価される傾向にあります。短期的な利益を上げるインセンティブが相対的に弱い日本企業にとっては、短期集中で企業価値を大きく底上げするM&A自体が馴染まないケースもあると考えられます。

3.クロスボーダーM&Aへの経営陣の理解度が低い

クロスボーダーM&Aでは英語が必須になり、検討すべき規制や会計なども複雑になるため外部アドバイザーを利用するのが一般的です。しかし、外部アドバイザーに全てを一任するのは賢明ではありません。要所で重要になるのは、買い手の経営陣による判断です。買い手自身もM&Aに関する一定程度の理解を持つことが肝心です。

クロスボーダーM&Aの目的とメリット

買収目的は事業戦略の中で決まる

クロスボーダーM&Aの目的を一言で表すと、グローバル競争で勝ち抜くためのコアビジネスの強化です。以下の4つの切り口で紹介するメリットが、自社の描く事業戦略の中でコアビジネスの強化に繋がるかを確認してみてください。

切り口①地域

先進国

先進国の企業を買収することで、すでに成果を上げている大きな市場やグローバルで通用しているノウハウを獲得できます。

新興国

新興国の持つ潜在的な成長力、そして参入障壁になりえるローカライズされたノウハウを獲得できます。

切り口②バリューチェーン

事業や組織を工程別に分解することをバリューチェーン分析といいます。これを行うことで課題を解決したり、競争優位性を高める部分を特定できれば、クロスボーダーM&Aによって当該部分を強化できます。さらに、短期間でコアビジネス全体の生み出す付加価値を高めることも可能です。

切り口③無形資産

貸借対照表に載らない現地のブランド力や人材といった無形資産が、自社の事業戦略の中でコアビジネスとシナジーを生む可能性があります。

切り口④その他

M&Aによる事業ポートフォリオ拡張のリスク分散や、新規事業への参入もメリットとして挙げられます。もっとも、事業戦略に基づかない安易な衝動買いは、コアビジネスの強化に繋がらずシナジーを生まないため避けるべきです。

クロスボーダーM&Aによる近年のシンガポール進出について

日本企業にとって同じアジア圏のM&Aは、比較的ハードルが低いという見方もあります。特にシンガポールは安定した政治や緩和された外資規制、法人税率の低さなどで、M&A先として注目されています。

シンガポールのM&A事情

今のシンガポールは日本と同じく、後継者不足による事業承継が課題となっています。移民が多く親日感情を持つ方も多いことから、日本企業を受け入れる土壌が整っているのも特徴です。日系企業によるASEAN企業の買収案件でシンガポールの比率が高い現状が今も続いております。

また、シンガポールはASEANのハブとしてASEAN域内の関係会社を統括する地域統括会社を設置している会社が多く存在します。シンガポールだけでなくASEAN市場への進出を目指す日系企業にとってもシンガポールに存在する地域統括会社を買収することによってASEAN域内のビジネスを丸ごと買収できるというメリットがあります。

シンガポールM&Aの課題

シンガポールのM&A、特に中小規模の売出し情報はまだ広く認知されておらず、現地の事業承継ニーズと買い手としての日本企業をつなげるサポートが重要になっています。

クロスボーダーM&Aの成功のポイントと留意点

クロスボーダーM&Aの成功とは何か

成功の定義

クロスボーダーM&Aの成功についての画一的な定義は存在しません。ですが、事業者と投資家それぞれの視点から、どのようなM&Aでも共通する成功の形をイメージしてみましょう。

複数の利害関係者の視点が重要

M&Aを通じて、事業者の視点では事業戦略の達成、投資家の視点では財務的リターンの獲得を目指します。前者は中長期的な期間で捉えるのに対して、後者は比較的短期での結果を求める傾向があります。よって、それぞれの視点で設定した目標を達成することが、M&A全体の成功条件といえます。 次に、成功のポイントと留意点をM&Aのフェーズごとに検討してみましょう。

ポイント①戦略

コアビジネスの明確化​​

グローバル競争で勝ち抜くためには、自社が経営資源を投下して勝負するコアビジネスを明確化する必要があります。これが曖昧だと、いざ候補案件を前にしたときに意思決定の軸がブレてタイミングを逃してしまう可能性があります。

成長ストーリー

M&Aを単発の投資と捉えるのではなく、コアビジネスの成長目標を描く中長期のストーリーの中に位置づけることが重要です。成長ストーリーはバリューチェーンや地域・市場などを自社のM&Aの目的に整合させ、誰もが理解できるようにしておきましょう。

ターゲット選定

業界やマーケットといった大きな視点だけでなく、実際の個別企業を徹底して分析することも重要です。フィットするターゲットが見つからなければ、成長ストーリーの見直しが必要です。ターゲット企業との定期的な対話も、妥当な買収金額やスムーズなPMIへとつながります。

ポイント②ディール

リーダー

クロスボーダーM&Aでは、難易度も高く通常業務外の仕事が発生するため社内での担当者や責任者の選定が難航するケースがありますが、想定外の事態でもチームを率いていけるリーダーの存在が欠かせません。社内でのリーダー不在の状況で案件がスタートするとディール自体が円滑に進まないことが多くあります。また、リーダーへの負荷が大きくなるため、そのサポート役として信頼できる外部プロフェッショナルの活用が有効な方法です。

デューデリジェンス

M&Aを実行する際には欠くことのできない最も重要なプロセスのひとつがデューデリジェンスです。言語や法規制、商習慣の異なる海外企業を対象とするクロスボーダーM&Aの際には、その重要性も難易度もさらに高くなります。財務税務や法務のデューデリジェンスに関しては外部専門家に依頼することが一般的ですが、外部専門家選定の際は価格だけでなく自社とのコミュニケーションの取りやすさ等も勘案して選定することがポイントとなります。

事業計画

売り手が提示する事業計画は、重要な共通言語です。事業に関しては自社が詳しく評価できるはずなので、事業計画を定量的にどこまで精緻に詰められるかがポイントです。一般的には売り手の提示する計画だけでなく、自社目線やシナジー加味後の複数パターンで事業計画を検討します。

アカウンタビリティ

M&Aディール中であっても、株主や従業員などの多くの利害関係者に対し説明責任を果たすのが、買収取引やその後のスムーズなPMIに向けて重要です。コアビジネスを中心とした戦略をベースに対話ができるかが、ポイントになります。

ポイント③ポストM&A

買収完了=M&A完了という勘違い

クロスボーダーM&Aで文化の異なる組織体を統合する際に、買いっぱなしで現場任せというケースは避けなければなりません。買収完了時点から、本当の意味でのM&A=コアビジネス強化が始まるのです。

計画とのギャップへの対応

競争が激しいクロスボーダーM&Aディールでは、買い手の希望が込められた計画をもとに買収価格が上振れする可能性があります。その場合、買収先の現実的な事業計画は希望の計画と離れるため、PMIの冒頭にはもう一度精査してギャップを埋める作業が必要です。また、遠く離れた海外企業に対してどうガバナンスを効かせていくか、人的リソースや仕組みも重要なポイントです。

まとめ

クロスボーダーM&Aは短期間でグローバル市場に自社の成長機会を見出し、飛躍的な成長を実現できる手段です。その一方で、クロスボーダーゆえの文化の違いやガバナンスの難しさなどの課題も多いのが現実です。クロスボーダーM&Aの「勘所」を抑えクリティカルなリスクを避けることで、多くの関係者にとって成功といえるディールを実現できると考えます。

  • 八鍬 信幸

    監修者 八鍬 信幸

    株式会社AGSコンサルティング
    国際事業部マネージャー(シンガポール/マレーシア担当)・日本国税理士有資格者

    大学卒業後、KPMG税理士法人(国際部)に入社し、外資系企業向けの税務アドバイザリー業務に従事。 2014年 AGSコンサルティングシンガポール社に入社し、日系企業の海外進出コンサルティング業務に従事。 2017年からAGSマレーシアの立ち上げを担当し、2018年からマレーシアの現地大手アカウンティングファームのCrowe Malaysiaへ出向。シンガポール・マレーシアを拠点として、クロスボーダーM&Aも含めた日系企業の海外進出をサポートしている。