マレーシアの社会保険制度

マレーシアの社会保険制度

※本稿は、みずほ銀行発信の『Asia Gateway Review』2026年7月号に寄稿した記事の転載になります。Asia Gateway Reviewはみずほ銀行シンガポール支店で編集され、主にASEAN関連のテータを中心に月一回発行されているニュースレターです。

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はじめに

シンガポールにはCPF(Central Provident Fund中央積⽴基⾦)が社会保障制度としてありますが、マレーシアにはEPF(Employees Provident Fund) 、SOCSO(Social Security Organization)、EIS(Employment Insurance System)の3つの制度があり、これらによって包括的に⽣活を守る仕組みが設計されています。なお、EPFについて2025年10⽉に外国⼈も強制加⼊となる等、現地に赴任する⽇系企業の駐在員にとっても影響の⼤きい改正が⾏われています。

各制度の概要

マレーシアにおける社会保険制度の概要は以下の通りです。

制度主な目的
EPF老後資金の確保
SOCSO労働中の事故・障害補償
EIS失業時の所得補償

EPFについて

  • ⽼後資⾦を確保するための強制貯蓄制度
  • 毎⽉の給料等から雇⽤主と従業員の双⽅が資⾦を拠出し積み⽴て
  • 個⼈ごとに⼝座を管理し、⽼後資⾦のほか、医療や急な出費のための引き出しに対応した⼝座もあり
  • 積⽴型の制度(55歳から引き出し可能)
  • 拠出された資⾦は政府により運⽤され配当もつく(直近では6%以上の配当率)

SOCSOについて

  • 労働者保護のための公的保険制度であり、主に業務上・通勤時の事故や障害に対する補償を⽬的
  • 毎⽉の給料等から雇⽤主と従業員の双⽅が負担
  • Non-Employment Injury Schemeが2026年6⽉より開始され、カバー範囲が拡⼤し、就業時間中の事故だけでなく24時間365⽇、補償されることとなった

EISについて

  • 2018年に導⼊された失業時の⽣活保障と再就職⽀援を⽬的とした公的保険制度
  • 毎⽉の給料等から雇⽤主と従業員の双⽅が負担
  • ⽇本の雇⽤保険に相当する仕組み

各制度の拠出割合

各制度共通して、毎⽉の給料やボーナス等から従業員負担分と会社負担分を合わせて源泉徴収する形で拠出することとなっています。

ローカル従業員と外国⼈の拠出割合は以下の通りです。

制度従業員負担会社負担合計
ローカル外国人ローカル外国人ローカル外国人
EPF11%2%12%~13%2%23%~24%4%
SOCSO*約0.5% + 0.75%約1.75%約3%
EIS0.2%0.2%0.4%
合計12.45%3.25%約14%3.75%約26.45%7%

*SOCSOの拠出は、割合(%)ではなく給与額に基づく固定額テーブル(上限︓⽉給約RM6,000)で管理されているため、給与が⾼くなるほど実際の負担割合は⼩さくなる傾向にあります。上記%は⼀般的な⽬安です。また、2026年6⽉に開始された「Non-Employment Injury Scheme」の拠出⾦(⼀律0.75%)は、従業員のみが負担する設計となっています(今後段階的に改定予定)。

マレーシアの制度の⼤きな特徴は、ローカル従業員と外国⼈で負担割合が⼤きく異なる点、および外国⼈には加⼊対象外の制度がある点です。合計負担割合を⽐較すると、ローカル従業員の26%超に対して外国⼈は7%程度に抑えられています。これはEPFの拠出割合の違いに起因するもので、シンガポールで外国⼈がCPFの対象外となり社会保険負担が⽐較的軽いのと共通の傾向が⾒られます。しかし、EPFについては2025年10⽉より外国⼈も強制加⼊となっており、⽇系企業の駐在員もEPFに加⼊し、拠出を⾏う必要があります。

各制度の計算対象となる報酬項⽬の違い

制度ごとに、計算の基礎となる報酬項⽬(基本給、ボーナス、残業代など)が異なります。以下の表をご参照ください。

報酬項目EPFSOCSO/EIS
基本給
ボーナス×
残業代×
コミッション
各種手当
退職金××
有給買い取り×
出張手当××

〇 = 該当する × = 該当しない

特に「ボーナス」と「残業代」の取り扱いには注意が必要です。EPFはボーナスが計算対象に含まれる⼀⽅で、残業代は除外されます。 対照的に、SOCSOおよびEISはボーナスが対象外ですが、残業代は計算に含まれます。実務上の拠出額計算ミスの原因になりやすいため、適切な区分管理が重要となります。

おわりに

マレーシアの社会保険制度は、⽼後・労働・失業という個別リスクに応じて3つの制度に分解されてカバーされている点が、シンガポールでCPF(中央積⽴基⾦)に⼀元管理されている点と⼤きく異なります。駐在員の視点からは、マレーシアはローカル従業員と同様の制度に加⼊できるため、社会保障の恩恵を受けやすい設計になっていると考えられます。しかし、シンガポールのような⼀元管理型とは異なり、マレーシアでは制度ごとに異なる計算ロジックや対象報酬項⽬となっている点を正しく理解し、個別に実務運⽤していくことが重要になると考えられます。

最後に、本記事が読者の参考になりましたら幸いです。

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監修者

  • 柿原 剛

    株式会社AGSコンサルティング
    国際事業部シンガポール支社・公認会計士

    柿原 剛

    有限責任あずさ監査法人にて10年以上にわたり、大規模上場企業監査、IT監査、IPO支援など幅広い領域で監査業務に従事。2025年にAGSへ参画後は、日系企業の海外進出支援をはじめ、財務デューデリジェンス、ITデューデリジェンス、J‑SOX対応支援など、多面的な専門サービスを提供している。