ベトナムの特徴

ベトナムは東南アジアに位置する社会主義共和国です。国土は南北に長く、首都ハノイは北部、商業都市ホーチミンは南部にあります。日本とは1973年に外交関係を樹立して以来、政治・経済面で良好な関係を築いています。成人の英語能力ランキングを公表している「Education First」の2025年版調査によると、ベトナム人の英語力は64位(非英語圏)で、日本の96位と比べると上位に位置しています。ただ、日常会話レベルにとどまり、同じ東南アジアのマレーシア(24位)やフィリピン(28位)などビジネスで通じる国と比較すると低い水準です。
出典:EF「英語能力指数」
ベトナムの基本データ
ベトナムの基本データは以下のとおりです。
| 人口 | 1億134万人(2024年) |
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| 首都 | ハノイ |
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| 面積 | 33万1338平方キロメートル(日本の約0.88倍) |
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| 公用語 | ベトナム語 |
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| 宗教 | 仏教、カトリック、カオダイ教ほか |
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出典:JETRO「ベトナム概況・基本統計」
ベトナムの市場動向

ベトナムの市場動向をまとめました。
内需獲得型・非製造業にシフト
ベトナムはかつて、安価で豊富な労働力を活かした生産拠点として注目されており、進出企業は輸出型・製造業が中心でした。現地に工場を移管し、そこで生産した商品を海外で売って収益を上げるパターンです。近年は人口増加や所得の向上により、進出トレンドが内需獲得型・非製造業へと徐々にシフトしつつあります。
中間層が拡大している
ベトナムは所得の向上が続いており、2020年に過半数の51.9%が中間所得層(世帯所得5,000~3万4,999米ドル)となりました。2000年時点は約11%だったことを踏まえると、近年の成長ぶりが見て取れます。人口構成は消費を担う若年層が多くなっており、今後は巨大な消費市場としても注目が集まっています。
出典:Euromonitor International「Households:Vietnam」
最低賃金の上昇
ベトナムの最低賃金は地域ごとに設定されており、いずれの地域においても政府主導で上昇が続いています。2026年1月の改定では、月額の最低賃金が7.1~7.3%台の引き上げ(2024年7月比)となりました。
ハノイやホーチミンなどの都市中心部の最低賃金は月額531万ドンで、日本円に換算すると約3万2,900円(2026年7月時点)です。安価な労働力としては依然優位性はありますが、進出済みの企業や進出検討中の企業は、将来的な賃金上昇を見据えた計画が欠かせません。
| 地域 | 月額 (2026年1月) | 時給 (2026年1月) | 月額の上昇率 (2024年7月比) |
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| ハノイ、ホーチミンの都市部など | 531万ドン (約3万2,900円) | 2万5,500ドン (約158円) | 7.1% |
| ハノイ、ホーチミンの郊外、ダナンなど | 473万ドン (約2万9,300円) | 2万2,700ドン (約141円) | 7.3% |
| 地方の都市部、工業地帯など | 414万ドン (約2万5,700円) | 1万9,900ドン (約123円) | 7.3% |
| 農村部など | 370万ドン (約2万2,940円) | 1万7,800ドン (約110円) | 7.3% |
出典:労働政策研究・研修機構「国別労働トピック」
中国からの生産移管が進む(チャイナ・プラスワン)
中国に集中していた生産拠点を周辺国・地域に分散させる「チャイナ・プラスワン」と呼ばれる動きが、日系の製造業やグローバルIT企業などで進んでいます。
中国では、新型コロナウイルス禍のロックダウンに始まり、米中貿易摩擦や地政学リスクなど事業を継続するうえでの課題が目立つようになりました。中国と陸続きのベトナムは、サプライチェーン構築が比較的容易で、拠点分散の強力な受け皿として機能しています。
出典:JETRO「地域・分析レポート」
ベトナム進出のメリット

ベトナムに進出するメリットとしては、以下のような点が挙げられます。
- 高い経済成長率と将来性
- サプライチェーン構築に有利
- 外資企業への税制優遇
- 日本と経済的な結びつきが強い
高い経済成長率と将来性
ベトナムは、他のASEAN諸国と比べても高い経済成長率を誇る国です。ここ10年間の実質GDPは、新型コロナウイルスがまん延した期間を除けば、毎年5~8%ほど伸びました。2026年の推定値は7.5%で、フィリピン(3.9%)やシンガポール(3.5%)を上回っています。
現状の経済成長率に加え、将来性の高さにも注目が集まっています。人口構成において若年層の割合が高く、生産年齢人口は2038年にピークの6,950万人を迎えるとの予測があります。中間所得層の広がりと合わせて、今後も内需の拡大が期待されています。
出典:IMF「World Economic Outlook」
出典:労働政策研究・研修機構「データブック国際労働比較」
サプライチェーン構築に有利
ベトナムは、中国南部と陸続きという地理的優位性があります。中国最大級の経済規模を持つ華南地域は貿易や製造業の拠点となっており、ベトナム国内へ自動車や電子機器などの部品を陸路で安定的に供給しています。
世界の主要国・地域と締結している自由貿易協定(FTA)により、企業は関税を抑えつつ、グローバルに輸出できる仕組みとなっています。東アジア地域包括的経済連携(RCEP)は、ASEAN諸国や日本、中国、韓国、オーストラリアが参加しており、世界でも最大級の貿易協定です。
加えて、ベトナムは欧州連合(EU)とも、EU・ベトナム自由貿易協定を結んでいます。ASEAN加盟国のうち、EUと包括的なFTAを結んでいるのは、シンガポールとベトナムだけです。
外資企業への税制優遇
ベトナム政府は外資系企業の誘致に向けて、手厚い税制優遇を設けています。大きく以下の2つの措置があります。
法人税(CIT)の優遇
法人税の優遇は、主にITやハイテク分野、研究開発企業などが認定対象です。標準的な法人税率は20%ですが、税制優遇を受けると10%に抑えられます。
加えて、最大限の優遇を受けるケースでは、利益が出た最初の年から4年間の免税、その後9年間の法人税50%を減税(4免9減)という強力な措置が適用されます。
ただ、優遇は自主適用方式であり、税務調査で事後否認されないためには事前の条件確認が必須です。
輸出入に関わる関税の免除
ベトナム国内で製品を生産し、海外へ輸出することを目的として輸入される原材料や部品については、一定の条件の下で輸入関税の免除を受けることができます。
また、工場設立時に輸入する機械設備などについても、投資優遇制度の対象となる場合には輸入関税の免除を受けることが可能です。
さらに、輸出向け製造を主体とする企業は、EPE(輸出加工企業)として認定を受けることで、関税とVAT(付加価値税)免税の優遇を享受できる場合があります。
日本と経済的な結びつきが強い
ベトナムは、日本に対して好意的な印象を持つ人が多い親日国です。外務省による2025年度の世論調査では、「日本は信頼できるか」との設問について、「信頼できる」「どちらかといえば信頼できる」という回答が計95%に上りました。信頼できる理由として、72%が「経済的な結びつき」を挙げており、日本の政府開発援助によるインフラ投資や良好な貿易関係、技能実習生の受け入れが影響しました。
2023年には、日本とベトナムとの間で包括的戦略的パートナーシップ協定が結ばれました。ハイテク分野やDX、脱炭素化などの領域で協力するほか、人的交流を深めることを確認しました。また、ベトナム政府は国家戦略としてIT人材の育成に力を入れており、IT人材が不足する日本にとっては、今後ますます有力なオフショア拠点となりそうです。
出典:外務省「海外における対日世論調査」
出典:外務省「日・ベトナム首脳会談」
出典:JETRO「調査レポート」
ベトナム進出の留意点

ベトナム進出における主な留意点は以下の点が挙げられます。
- 電力などインフラの脆弱性
- 行政手続きが煩雑で長期化しやすい
- 人材の離職率が高い
懸念点やリスクを軽減するためには、現地の法制度や商習慣に精通した信頼できる専門家に相談することが重要です。
また、日本とは異なる国民性や一般的な組織構成、雇用形態などを理解し、現地のマネジメント層に権限を適切に委譲していく姿勢が求められます。
電力などインフラの脆弱性
ベトナムは猛暑による水力発電用のダムの枯渇で電力不足に陥るほか、雨季には排水能力を超えた豪雨にたびたび見舞われます。製造業やハイテク産業は急な停電や工場への浸水により、大きな損害が出る可能性があります。
大規模な計画停電への対応や、急な工場の操業停止を見据えた備えが欠かせません。同時に、日本本社からの海外赴任者や、現地で雇用した従業員に対する安全をどう確保するのかについても、事業継続計画(BCP)の一環として整理しておくのが望ましいといえます。
行政手続きが煩雑で長期化しやすい
ベトナムに進出した日系企業の67.5%が、ライセンスの取得など行政手続きの煩雑さを投資リスクとして認識しています。現地法人の形態による進出の場合、少なくとも投資登録証明書(IRC)と企業登録証明書(ERC)の2種類を取得する必要があり、この手続きだけでも数ヵ月かかります。加えて、小売業、飲食業、教育、人材紹介などの特定の業種では、各所管省庁からの「サブライセンス(事業認可)」が必要です。
ベトナムでは書面の形式まで細かく確認されることも珍しくなく、書類の押印やサインの不備や記載内容のわずかな相違によって審査が長期化するケースも見受けられます。また、役所担当者の裁量が大きく、実務の判断が担当者によって異なることもあります。進出にあたっては、余裕を持ったスケジュールを組むことが大切です。
出典:JETRO「海外進出日系企業実態調査」
人材の離職率が高い
ベトナムでは、よりいい条件で働くため、2〜3年で転職を繰り返すジョブホッピングが当たり前に行われています。充実した福利厚生を求める傾向が強く、多くの日系企業も「従業員の確保(定着率の低さ)」を課題に感じています。メリハリのある人事評価制度や昇給システムを設計し、人材が離れるリスクを減らす仕組みが求められます。
欧米企業の進出拡大に伴い、英語力の高い人材を中心に人材獲得競争が激化しています。職種によっては日系企業を上回る給与水準を提示する企業も見られ、バイリンガル人材の確保が以前より増して難しくなっています。そのため、現地の採用戦略を含め、事前の検討が欠かせません。
出典:JETRO「海外進出日系企業実態調査」
日系企業の進出状況

ベトナムに進出する日系企業は増加しています。業種や進出先の特徴、現地企業に対するM&Aの状況などをまとめました。
拠点数は10年間で1.6倍に拡大
ベトナムに進出した日系企業の拠点数(現地法人、支店、駐在員事務所の数)は、年々増加しています。外務省の調査によると、2015年の約1,500拠点から2024年に約2,500拠点に拡大、10年間で1.6倍になりました。豊富な労働力や将来性といった経済的なメリットが強く意識されているといえます。ベトナムに進出した日系企業の56.9%が今後1~2年で事業を拡大する方針を掲げており、今後も有望な投資先として注目される国の一つとなりそうです。
主な進出企業は以下のとおりです。
| 外食産業 | 株式会社松屋フーズ 株式会社サイゼリヤ 株式会社壱番屋 |
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| 小売業 | イオン株式会社 株式会社ユニクロ 株式会社ニトリ 株式会社良品計画 |
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| 精密機器 | 富士フイルム株式会社 キヤノン株式会社 ブラザー工業株式会社 |
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| 自動車・自動車部品関連 | トヨタ自動車株式会社 本田技研工業株式会社 株式会社デンソー ヤマハ発動機株式会社 |
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出典:外務省「海外進出日系企業拠点数調査」
地域で異なる特徴
進出先としてのベトナムは、大きく北部、中部、南部に分類することができます。首都ハノイが位置する北部は、製造業や重工業が多く、現地で日系企業の支援を行うベトナム日本商工会議所によると、会員企業数は826社(2026年7月時点)です。
中部は日系企業数が219社であり、北部と南部に比べると少ないものの、ダナンを中心にIT関連産業や観光業が発展しています。近年は都市インフラの整備も進み、観光・不動産業に加え、ソフトウェア開発などの進出先としても注目されています。
南部には経済の中心地ホーチミンがあり、日系企業数は最多の1,077社となっています。人口が多く、サービス業や日用品・電子機器などの消費財企業が集積しています。
| 地域 | 北部 | 中部 | 南部 |
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| 日系企業数 | 826社 | 219社 | 1,077社 |
| 業種など | 製造業 重工業 | 観光・不動産業 IT関連 | サービス業 消費財 |
出典:ベトナム日本商工会議
出典:ダナン日本商工会議所
出典:ホーチミン日本商工会議所
非製造業の割合が半数に到達
ベトナム国内では、賃金の上昇と中間層の拡大が続いています。その結果、安価な労働力による製造拠点から、自社の商品やサービスを販売する市場へと変化してきました。
業種別に日系企業数(2021年時点)を見ると、サービス業や小売業、IT関連といった非製造業の割合は52%で、すでに半数を超えました。製造業においても、ベトナム国内での販売に取り組むケースが増えています。
ベトナム政府は、デジタル経済を国家成長の柱と位置づけています。情報通信省(MIC)が発表した「デジタル経済発展計画2021-2030」では、2030年までにデジタル経済がGDPの30%を占めることを目標に掲げ、特にソフトウェア産業とICT人材の育成を最優先課題としています。
出典:外務省「海外進出日系企業拠点数調査」
M&Aによる投資額が増加
現地企業に対するM&Aは、外資規制やライセンス規制を超え、現地企業の顧客網を即座に獲得できる選択肢です。変化の激しい内需市場において、「時間を買う」戦略として関心が寄せられています。
日系企業のM&A状況は、2017年の取引金額が1億4100万米ドルでした。大型案件の影響もあり、2021年と2023年には10億米ドルを超え、おおむね増加傾向です。件数ベースでも、ここ5年ほどは年平均20件を超えており、タイやマレーシアと比較して多い数字を保っています。
出典:レコフ「クロスボーダーM&Aマーケット情報」
進出形態

日系企業の進出形態は、大きく現地法人、支店、駐在員事務所の3形態に分類されます。
現地法人は本格的な事業展開を見据えていたり、M&Aを活用したりする場合に選択されることが一般的です。支店も現地で営業活動を行うことができますが、設置できる業種が銀行など一部の分野に限られるため、活用できるケースは限定的です。駐在員事務所は収益を伴う活動ができず、主な活動は市場調査や情報収集に限られるため、将来的な事業展開を見据えた足掛かりとして活用されることが一般的です。
現地法人
現地法人は、独立した法人格を持ち、最も一般的な進出形態です。採用や事業展開の自由度が高く、タックスホリデーなど税制優遇の対象になりうるのが特徴です。
一方、設立には提出すべき多くの書類の準備や各種ライセンスなどの取得に時間がかかり、煩雑になる傾向にあります。また、法人設立後は、厳格なベトナム会計基準(VAS)での記帳や、毎年の外部監査への対応が求められます。こうした負担を軽減するため、進出準備から進出後の運営まで、先行事例が豊富に蓄積されているコンサルティングファームや会計・税務の専門家のサポートを活用する企業も多く見られます。
支店
支店は、現地法人と異なり、法人格がありません。日本本社と損益通算できるため、事業で赤字が生じた際のリスクを軽減しながら、営業活動の足掛かりにすることができます。本社の信用力やブランド力をそのまま利用できるため、スムーズな事業展開が可能です。
一方、銀行や法律事務所などの特定の業種しか設立が認められておらず、製造業や多くのサービス業のケースでは支店形態は選択肢になり得ません。設立要件として、本社が5年以上の事業を継続していることが求められており、設立のハードルは比較的高いです。そのため、支店は特定の業種がベトナムにおける親会社の認知度向上など、特定の目的設計をしたうえで選択する形態といえます。
駐在員事務所
駐在員事務所は、法人格がなく、収益を伴う営業活動は認められていません。市場調査や情報収集を目的に設立されることが一般的であり、売上が発生しないため法人税や付加価値税の申告納付は不要です。
一方、活動範囲に制限があるほか、法令上駐在員事務所のライセンスは最長5年間であるため、5年ごとに活動期間の更新手続きが求められます。今後、現地で事業展開を見据える場合は、現地市場の調査や事業可能性の検討を行うための拠点として有効な選択肢といえます。
M&Aやジョイントベンチャー(JV)によるベトナム進出
進出方法としては,
以下の選択肢も考えられます。
M&A
現地企業に対するM&Aは、市場変化が激しいなかで素早く事業展開できるメリットがあります。「時間を買う」戦略的な方法として有効であり、日系企業によるM&Aの投資規模も拡大傾向にあります。出資のパターンは100%の株式を取得して完全子会社化する方法や、マイノリティを含む部分的出資が考えられます。
株式の100%取得は、顧客網やサプライチェーン、ライセンスを即時に活用する方法として、検討するケースが多くみられます。一方、部分的出資を検討する企業は、リスクを抑えながら現地ノウハウを吸収できる利点があり、進出後、段階的に出資比率を引き上げるといった選択肢もあります。
ジョイントベンチャー(JV)
ジョイントベンチャー(JV)は、現地企業との合弁事業を形成する進出方法です。M&Aと同じく、現地企業が持つ販売網や人材といった無形資産を活用できる点が大きなメリットです。現地文化への適応や人材確保の面で円滑に進めやすいという利点もあります。
一方、事業成功のためには、発生した利益の分配や、技術流出の防止に向けた事前交渉が欠かせません。また、重要な意思決定においてパートナー企業との調整が必要となるため、単独出資と比べて経営の自由度が低下する場合もあります。ベトナム進出時のJV活用は約11%(2021年調査結果)で、JVでの進出が盛んなインドの53%や、他のASEAN諸国と比べると低い水準にとどまっています。
このように留意点はあるものの、販売網や人材などの経営資源を活用できる点は大きな魅力です。ベトナムでは単独出資による進出が主流ですが、業種や進出目的によってはJVも有力な選択肢となります。
出典:外務省「海外進出日系企業拠点数調査」
進出前後における税務のポイント

進出時に留意したい税務のポイントをまとめました。
法人税(CIT)とグローバルミニマム課税
法人税(CIT)の基本税率は20%です。会計と税務はおおむね一致していますが、損金算入の要件としてインボイスが必要となります。また繰越欠損金は翌年度以降、最大5年に限り、課税所得と相殺することが可能です。
また、日系企業などの外資企業が享受できる税制優遇制度が設けられています。例えば、ITやハイテク分野、研究開発等の認定企業を対象に税率が10%に軽減されるほか、利益が出た最初の年から4年間の免税、その後9年間の法人税を50%減税(4免9減)といった優遇措置も設けられています。
一方で、2024年1月から運用が始まったグローバルミニマム課税には注意が必要です。連結売上高が7.5億ユーロ(約1,400億円)以上の多国籍企業が対象で、ベトナムでの実効税率が15%未満の場合は追加課税が求められます。外資企業が先に挙げた税制優遇を適用した場合でも、グローバルミニマム課税の対象となる企業については追加課税が生じる可能性があります。その結果、従来と比べて税制優遇の効果が限定的になるケースもあるため、進出にあたっては制度の影響をあらかじめ検討しておくことが重要です。
付加価値税(VAT)と電子インボイスへの対応
付加価値税(VAT)は、日本の消費税に相当する税金です。標準税率は10%ですが、景気刺激策として多くの品目に対して期限付きで8%の軽減税率が適用されています。また、製品の輸出や国外で消費されるサービスの税率は0%です。税額の計算方法は日本と同様で、売上時に預かったVATから仕入れ時に支払ったVATを差し引いて差額を納付する仕組みです。設立後12ヵ月未満あるいは前年度売上額が500億ドン(約3億円)未満の場合は四半期ごとに申告納税し、前年度売上額が500億ドン以上の場合は月次で申告納税します。
ベトナムは電子インボイス制度が導入されています。ベンダーから適切なインボイスを受領すること、得意先に対して正しく発行することが実務上欠かせません。制度の運用ルールは厳格であり、不備がある場合には税務当局から指摘を受ける可能性があるため、日常的な管理体制の整備が求められます。
個人所得税(PIT)と海外駐在員の給与設計
個人所得税(PIT)は、ベトナム居住者と非居住者で扱いが異なります。暦年のうち183日以上ベトナム国内に滞在する、あるいは183日以上の賃貸契約を有すると税務上の居住者となります。ベトナム国内で得た所得に加え、日本本社からの給与など日本で得た所得を含めた全世界所得に対して、税率5~35%の累進課税が課されます。一方、滞在期間が183日未満の場合、税務上の非居住者となり、ベトナム国内で得た所得を対象に一律の税率20%が課されます。
従業員の海外赴任にあたり、日本本社は海外赴任者の給与体系を適切に設計する必要があります。主な検討事項は以下の3点です。
- 基本給の設定および海外赴任手当等の各種手当の設定
- 海外赴任規程の整備
- 給与較差補填制度の設計
海外赴任者の給与を設計する際は、日本と異なる生活環境や勤務環境を考慮し、海外赴任手当や住宅手当などの各種手当を設定します。また、勤務時間や休日・休暇の取り扱いなどを海外赴任規程として整備しておくことも重要です。規程と実際の運用に乖離がある場合には、税務上の問題が生じる可能性があるため注意が必要です。
給与較差補填は、海外出向時に現地給与だけでは不足する金額を日本本社が補う制度を指します。現地の給与水準や物価などを基に算定根拠を明確にし、合理的な補填水準であれば、損金算入できます。逆に根拠が不明確な場合や、補填額が過大である場合には、国外関連者寄附金として損金が否認されるリスクがあります。そのため、算定方法や支給基準を海外赴任規程等で明確に定め、適切に文書化しておくことが重要です。こうした制度設計は税務上のリスク軽減だけでなく、海外赴任者に対する説明責任を果たすうえでも有効です。
移転価格税制(TP)への対応とリスク管理
移転価格税制(TP)は、グループ会社間の取引価格を意図的に調整し、税負担を不当に軽減することを防ぐ制度です。例えば、日本本社とベトナム子会社間の取引において、日本本社が実態よりも高い価格でベトナム子会社に商品を販売した場合、ベトナム子会社側の利益が減少し、ベトナムにおける課税所得が圧縮されることになります。このように利益が特定の国へ偏ることを防ぐため、グループ会社間の取引は独立した第三者間取引と同等の条件で行うことが求められています。
ベトナムの移転価格税制では、国際標準に沿ったローカルファイル、マスターファイル、国別報告書(CbCR)の文書化制度が導入されています。ローカルファイルは、独立した第三者間取引と比較しながらグループ会社間の取引価格が適正であることを説明する文書であり、マスターファイルやCbCRはグループ全体の事業内容や利益配分の状況を税務当局へ説明するための文書です。売上高が500億ドン(約3億円)未満で、かつ関連者取引総額が300億ドン(約1.8億円)未満であれば文書作成が免除されます。日本とベトナムでは免除要件が異なるため、日本側で文書化が不要な規模でも、ベトナム側では文書化義務が生じるケースがあり、注意が必要です。
またベトナム進出後、ベトナム子会社の資金調達方法として日本本社等グループ法人からの借入をするケースも多くみられますが、その際に設定する金利も移転価格税制の対象になります。市場金利と比べて著しく高い、または低い金利が設定されている場合には、税務当局から価格の妥当性について説明を求められる可能性があります。そのため、借入契約書の整備に加え、設定した金利の根拠を文書として残しておくことが重要です。
外国契約者税(FCT)の仕組みと注意点
外国契約者税(FCT)は、外国法人や外国人がベトナム国内でサービス提供やロイヤリティの受領などを行った際に課される税金です。ベトナム側の支払企業は、外国企業等へ代金を支払う際に、付加価値税(VAT)や法人税(CIT)相当額を源泉徴収し、税務当局へ納付する必要があります。親会社やグループ会社に支払うロイヤリティ、借入利息、サービスフィーなども対象となるため、海外グループ会社との取引がある場合は注意が必要です。
納付期限は支払い日後から10日以内と、比較的短く設定されていることから、申告漏れや納付漏れに注意する必要があります。
まとめ:進出のメリット多数、専門家に相談を

ベトナムへの進出動向やメリット、税務の対応について解説してきました。高い経済成長率と将来性を背景に、日系企業のベトナム進出は今後も続くことが見込まれます。
その一方で、煩雑な手続きや税制への対応といった実務面への備えに加え、中長期的な経営戦略の中でベトナム事業をどのように位置付けるかといった検討も欠かせません。特に、進出時や進出後の税務対応は複雑な論点も多いため、早い段階から専門家へ相談することが望ましいといえます。
AGSでは、現地のパートナー企業と連携しながら、ベトナムへの進出から現地法人の運営管理まで、現地デスクの専門スタッフが日本語で支援します。検討初期からのご相談を含め、ベトナムへの進出をご検討の際は、ぜひお気軽にお問い合わせください。