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【完全版】シンガポールでの法人設立の流れ|準備・手続き・費用から実務まで解説

【完全版】シンガポールでの法人設立の流れ|準備・手続き・費用から実務までガイド

シンガポールは東南アジアの中心的経済圏として世界から注目されている国です。日本をはじめ各国がシンガポールでのビジネス進出を果たしています。そんなシンガポールで法人を設立することを検討している方向けに法人設立の手続きや流れについて解説していきます。

シンガポールへの進出形態と各々のメリット・デメリット

シンガポールへの進出形態と各々のメリット・デメリット

日系企業がシンガポールでの事業進出をするにあたって、まずはシンガポールへの進出形態から解説します。

独立法人格の事業体(日本の本社とは独立した別の法人格)を設立するのか、独立法人格以外の事業体を設立(日本本社の法人格による設立)するのか、の2種類に大別できます。

 

シンガポールの独立法人格の事業体(現地法人)

シンガポールでの現地法人は日本の会社法と同様に、独立した法人格を有する事業体です。シンガポールに現地法人を設立すると、営業や販売のような経済活動ができるようになります。

シンガポールでの会社法上、現地法人は公開会社と非公開会社の2タイプに分かれています。

 

公開会社では公募を使って資金を調達できますが、株主が50人以上いる必要があります。一方、非公開会社では株式の売買に制限が設けられています。日本から現地法人を設立する多くの企業が非公開会社として法人を設立しています。

 

シンガポールで現地法人化する最大のメリットは、政府がシンガポールの国際的競争力を高めるために制定している、税制をはじめとした多くの優遇制度を受けられることです。

日本での法人税の実効税率は約30%なのに対し、シンガポールの法人税率は17%で、一定の課税所得の減免措置も考慮すると実効税率はさらに低くなるので、そのメリットの大きさが分かります。

 

ただし、シンガポールでの税制上のメリットを享受するためには、税務上のシンガポール居住法人としての要件を満たす必要があります。さらに、日本側の税制であるタックスヘイブン税制や移転価格税制にも留意をする必要があります。

 

また、シンガポール法人から日本法人に配当金を送金するような場合、原則的に日本法人側で課税が生じるため、留意が必要です。 また、他のASEAN諸国への進出と比較して、法人設立手続きが比較的シンプルであり、すべての手続きが英語で完結できるという点もメリットと言えます。

 

シンガポールの独立法人格以外の事業体

支店

シンガポールでの支店は独立した法人格を持たず、外国法人の一部とみなされますが、現地法人と同じように経済活動ができます。銀行や保険のような金融業界がこの方法を採用するケースが多いです。

ただし、上記の現地法人と異なり、法的規制や運営責任は日本本社が負うほか、税制面での優遇措置も受けられないことがあります。

 

シンガポール支店は、シンガポールで支店単体での税務申告が必要となると同時に、日本本社と同一法人格でもあるため、日本側でも本社に含めて税務申告を行う必要があります。そのため、結果としてシンガポールの低税率の恩恵を受けることができません。

また、現地法人に比べ、設立に係る書類の準備や手続きに手間がかかることはデメリットになります。

 

その一方で、現地法人と比較すると、シンガポール支店への資金移動が容易な事やシンガポール事業からの撤退判断が容易なこと、支店での赤字を日本本社の利益と相殺できることなどはメリットです。

 

駐在員事務所

シンガポールで駐在員事務所を設立しても、現地法人や支店と異なり販売や営業といった経済活動はできません。

一方で、マーケット調査などの情報収集は可能です。現地法人設立と比較してあまり手間をかけずに設立でき、また就労ビザの申請も可能になることから、現地法人の前身として設立することもあります。

 

駐在員事務所設立には、以下の要件を満たしている必要があります。

 

  • 親会社が設立して3年以上経っている
  • 売上が25万米ドル以上
  • 駐在員が5人未満

 

まず、市場調査活動のみを行い、シンガポールで本格的にビジネス展開するか否か、意思決定するための準備段階として活用できます。

なお、駐在員事務所は収益活動を営んでいないので、法人税、GSTなどに関する申告・納付義務は発生しません。ただし、駐在員・従業員の個人所得税の申告は必要となります。

 

シンガポールでの法人設立の流れ:手続きと必要書類

シンガポールに現地法人を設立する場合に必要な手続きや書類について解説していきます。

 

設立手続きにおける要点は、必要情報ごとに留意点を把握すること、スケジュールに余裕を持つこと、信頼できる会社秘書役(日本で言う司法書士)と連携をとることです。

下記が現地法人設立の主な流れです。

 

  1. スケジュール決定や書類等の事前準備
  2. 代行者の決定
  3. 会社名の申請
  4. 会社設立必要情報の決定
  5. 設立必要書類の準備と署名
  6. 会社設立登記
  7. 銀行口座の開設
  8. 資本金の入金と増資
  9. 就労ビザ申請と取得
  10. 現地法人開業

 

会社名の申請

通常3営業日で行われ、予約申請が必要となります。

 

法人設立前に会計企業規制庁(ACRA、日本でいう法務局)のウェブサイトで使用したい会社名の使用可否を確認し、使用可能であれば商号を予約します。ACRAが使用の可否を確認かつ承認したのち、登録できます。

 

なお、シンガポールでの法人設立時において、すでに同名の会社がシンガポールに存在する場合、酷似する会社名がある場合、ACRAが適切ではないと判断した文言を含む場合、その他財務大臣から指定されている禁止文言を含む場合などを除き、会社名は基本的に制限なく選択できます。しかし、支店を登録する際は、日本本社と同じ会社名でなければならないことに注意が必要です。

 

実務上、円滑に法人設立手続きを進めるために、あらかじめ会社名の候補を複数準備しておく場合が多いです。
また、営業ライセンスが必要となる業種で「Law」「Finance」「Travel」などを含む名称の場合は、関係省庁の確認を得る必要があり、承認まで14日〜60日かかる場合もあるため、その期間を考慮しておく必要があります。

 

会社設立登記

会社秘書役と契約して、ACRAにて設立登記をします。シンガポール現地法人設立の申請はACRAのオンライン登録で行い、認可された場合にはACRAへ手数料を支払います。

 

通常法人設立に係る手続きの時間は3営業日で完了しますが、「金融」「教育」「医療」など、各省庁に確認する必要がある業種の場合は、14日〜60日を要することもあります。

法人設立が完了するとACRAから証拠書類として登記簿謄本が発行されます。

 

銀行口座の開設

資本金を計上するためにも現地の銀行口座を持つ必要があります。

日系銀行のシンガポール支店、シンガポール地場銀行、シティバンクなどのグローバル銀行を使用目的に応じて使い分けます。

 

近年では銀行側での手続きが長期化しており、半年以上かかるケースもあるため、必要書類の用意や手続き全体の流れを把握すると共に、余裕を持ったスケジュール確保が必要です。

 

以下で各銀行の特徴やメリットを述べていきます。

 

日系銀行

日系のメガバンク3行(三菱UFJフィナンシャルグループ、みずほフィナンシャルグループ、三井住友フィナンシャルグループ)は、従来よりシンガポールに支店を持っており、日本語で対応可能であることや、日本の商慣習に精通していることから、多くの日系企業が口座を開設しています。

 

また、これらの銀行は各種金融サービスの提供や、ビジネス上のアドバイス、シンガポール政府とのコネクションなど、ビジネスを行うにあたってさまざまな相談も期待できることで人気です。

 

シンガポール地場銀行

シンガポール地場銀行は、シンガポール国内の至る箇所にATMが設置されており、シンガポールのローカル企業との取引、シンガポール政府、政府系企業などへの支払いにも利便性が高いなどのメリットがあります。

日々の小口取引が多くなる場合には、シンガポール地場銀行の口座を一つ用意しておくと便利です。

 

グローバル銀行

シンガポールはアジアの金融センターの役割も担っているため、シティバンク、HSBC、スタンダードチャータード銀行などのグローバル銀行も揃っています。

複雑な金融商品取引に強みがある銀行ですが、スタートアップの日系企業がそのような取引をすることは少ないです。

 

ビザの申請

現地法人を設立し日本人スタッフをシンガポール現地に送り込む場合、そのスタッフは就労ビザを取得する必要があります。

日本人が取得する就労ビザには、主にエンプロイメント・パス(EP)とSパスがあります。EPは専門職や管理職に就く人が対象で、Sパスは一般職や技術職に就く人が対象です。

 

国民の労働生産性をより向上させるために、2010年から政府によって、外国人労働者への依存割合を低減させる施策が開始されました。そのため、段階的に就労ビザの発行基準が厳格化されてきています。

 

新型コロナによる雇用状況の悪化を受けて厳格化の流れはさらに加速しており、実務上その状況を適切に加味する必要があります。

 

申請はウェブ上で行い、自社で申請をする場合には自社のオンラインアカウントを開設する必要があり、アカウントの開設手続きに通常1~2週間程度を要します。

オンラインアカウントの開設後就労ビザの申請が可能となりますが、申請をしてから承認がおりるまで通常3週間程度の時間を要します(場合によっては長期化するケースもあります)。

 

承認がおりたらIPAと呼ばれるレターが発行され、IPAレターの有効期限内に申請者本人がシンガポールにあるMOM(Ministry of Monpower)のオフィスに赴き、就労ビザの発行手続きを行う必要があります。

 

また、EPの申請をする上では申請をする会社として一定の資本金も必要と言われております。 そのため、ビザを申請するためには、オンラインでのアカウントの開設手続きとは別に、法人設立後銀行口座の開設から増資までの手続きも必要となるため、その期間も考慮してスケジュールを計画する必要があります。

 

シンガポールでの法人設立費用

シンガポールでの法人設立費用

続いて、シンガポールでの法人設立に係る費用について解説します。

 

法人設立費用

シンガポールでの法人設立に係る費用は、契約する代行業者や依頼する業務の範囲によっても異なり、SGD3,000~SGD10,000程度が目安になります。

 

シンガポールでの法人設立に際し、会社名を申請して承認を受けます。会社名確保に係る行政手数料はSGD15です。

 

法人設立申請を、会計企業規制庁(ACRA)のオンライン登録で申請した場合の手数料はSGD300です。なお、設立確認証明書の発行が必要な場合は、プラスでSGD50かかります。

 

名義取締役費用

シンガポールの会社法上、最低1人は現地に居住する取締役を登記する必要があり、日系企業が新規で進出する際は居住する取締役がいないため、コンサルティング会社等に名義取締役を依頼することが一般的です。その費用は年間SGD2,000~6,000ほどです。

 

会社秘書役(カンパニーセクレタリー)

シンガポールの会社法上、シンガポールで法人登記をした場合、6ヶ月以内に会社秘書役(カンパニーセクレタリー)を選任する必要があります。

こちらも、コンサルティング会社等に依頼をすることが一般的ですが、その費用として年間SGD2,000~6,000ほどかかります。

 

資本金

シンガポールでの法人設立登記において、最低資本金はSGD1です。しかし、従業員の就労ビザ取得には一定以上の資本金額が必要と言われています。

それを考慮すると、資本金額はSGD100,000程度からの金額で設定することが一般的です。

 

就労ビザ取得費用

就労ビザの申請手数料はSGD70、発行や更新手数料はSGD150です。一方Sパスの申請手数料はSGD60、発行や更新手数料はSGD80です。

別途、就労ビザ取得の代行業者に依頼する場合は、代行手数料SGD1,000~3,000程度が必要となります。

 

登記住所費用

シンガポールで法人設立をする際、法人の登記住所としてシンガポール国内の住所が必要となります。しかし、通常法人設立登記が完了していないと、法人名義での賃貸契約等を結ぶことができません。

そこで、実務上はコンサルティング会社等の住所貸しサービスを利用する場合や、バーチャルオフィスなどと契約するケースがあります。そういったサービスを利用する場合には、月SGD50~300ほどの費用がかかります。

 

従業員給料

仮に現地で大学新卒者を雇う場合、現地の相場はSGD3,300~4,500程度になっています。

また、日本人を現地で採用する場合の給料は、個人のスキルや経験により様々ですが、通常は就労ビザの取得が必要となり、(2022年9月以降)EPの取得が必要とされる場合は最低SGD5,000、Sパスの取得が必要とされる場合は最低SGD3,000の月給が必要となり、個人の年齢や学歴等によりこの最低金額は上昇します。

 

シンガポールで法人を設立した場合にかかる費用を紹介してきましたが、上記のほか、会計事務所への記帳代行費用、会計監査費用、税務申告費用等が発生します。

 

上記のほかに、実務上の会計事務所への記帳代理費用、会計監査費用、税務申告費用が発生します。

 

その他の実務上のポイント

その他の実務上のポイント

これまでシンガポールに現地法人を設立する際の準備や設立手続きでの実務上のポイントを述べてきました。

そのほか、会社設立に関する必要情報について下記で解説します。

 

事業内容

主要事業をシンガポールの事業リストから2つまで選択します。

日本と異なり、シンガポールでは事業内容は定款への記載事項とされておりませんが、登記簿謄本へ記載がされます。

 

株主

シンガポールで法人を設立する際、最初の株主が発起人となります。

発起人は個人・法人のいずれでも構いません。また、シンガポールに在住している必要もありません。

 

取締役

取締役は複数名登記することができますが、最低1人はシンガポール居住者を登記する必要があります。

設立当初からシンガポール在住の取締役を選任するのが困難な場合、設立を委託するコンサルティング会社等に代理で取締役を依頼することが一般的です。

 

会社秘書役

最低1人はシンガポール居住者を登記する必要があるため、通常現地のコンサルティング会社等に依頼することが一般的です。

 

資本金

シンガポール法人の最低資本金はSGD1になります。

 

ただし、就労ビザ取得を考慮すると、SGD100,000程度の資本金が必要と言われております。資本金については、シンガポールドルである必要はありませんが、後々の会計業務などを考慮すると、決算書作成に使用する機能通貨に資本金通貨を合わせると手続きが容易になります。

 

住所

登記住所はシンガポール国内の住所を登録する必要があります。

しかし、設立当初から登記住所を用意することは難しい場合があるため、設立代行会社で提供されている住所貸しサービスを利用する場合が多いです。

 

まとめ

まとめ

ここまでシンガポール法人設立について実務上のポイントを交えて解説してきました。

シンガポールでの法人設立は比較的簡便であるとはいえ、準備しておくべき書類や会社法上での決まりを確認しておく必要があります。

 

実務上の手続きの流れを把握したうえで、適切なスケジュールを立てることが肝心です。この記事を参考に、法人設立の準備を進めてみてください。

 

  • 八鍬 信幸

    監修者

    八鍬 信幸

    株式会社AGSコンサルティング
    ASTHOM事業部長・税理士

    大学卒業後、KPMG税理士法人(国際部)に入社し、外資系企業向けの税務アドバイザリー業務に従事。 2014年 AGSコンサルティングシンガポール社に入社し、日系企業の海外進出コンサルティング業務に従事。

    2017年からAGSマレーシアの立ち上げを担当し、2018年からマレーシアの現地大手アカウンティングファームのCrowe Malaysiaへ出向。シンガポール・マレーシアを拠点として、クロスボーダーM&Aも含めた日系企業の海外進出をサポートしている。

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