シンガポールのEPビザ申請制度「COMPASS」について解説しています。以前の制度からの変更点、COMPASSの基本審査基準、ボーナス審査基準、日系企業への影響についても紹介しています。「COMPASS」について調べている方は、参考にしてください。
目次
- COMPASSの概要
- COMPASSの適用除外について
- これまでのEP申請について
- 基本審査基準
- C1:給与
- C2:学歴
- C3:国籍多様性
- C4:ローカル雇用の促進
- ボーナス審査基準
- C5:スキルボーナス
- C6:戦略的経済優先ボーナス
- 具体的な影響及び対応策
- ●PMETが25人以上の企業の場合
- ●PMETが25人未満の企業の場合
- まとめ
COMPASSの概要

シンガポールに進出している日系企業で、主に利用される就労ビザには、「EP」と「S Pass」があります。S passは企業ごとに申請できる枠が限られていますが、EPは申請枠の制限が明確にはないため使いやすい就労ビザとなっています。シンガポールのEP申請は、個人の属性と企業の属性により判断されます。
そのEP の申請プロセスに関して、2023年9月1日より、新制度「COMPASS (Complementarity Assessment Framework)」が開始しました。
COMPASSは、個人属性となるC1:給与、C2:学歴と、企業属性となるC3:国籍多様性、C4:ローカル雇用の促進という計4項目の基礎基準により構成されています。また、ボーナス基準として、C5:スキルボーナスとC6:戦略的経済優先ボーナスが規定されています。
各項目では、最高20ポイント(戦略的経済優先ボーナスは最高10ポイント)を獲得することができ、合計40ポイント以上でEPを取得することができます。
COMPASSの適用除外について
月額給与が3,150シンガポールドル(SGD)以上の従業員(PMET:Professionals, Managers, Executives andTechnician)が25人未満の企業には、無条件でC3:国籍多様性とC4:ローカル雇用の促進の項目で各10ポイント(計20ポイント)が付与されます。
また、申請者が以下の場合にはCOMPASSの適用から除外されます。
- 月額固定給が2万2500SGD以上
- 海外企業内転勤(Overseas intra-corporate transferee)としての申請
- 短期での勤務(例:1カ月)
これまでのEP申請について
個人の属性は、主に月収、学歴、経験、業種等があり、これまではSATという自己判定ツールを用いてEPの要件を満たしているか事前に確認することができました。
一方、企業の属性については、具体的な数値基準などは公表されておらず、不透明感がありました。
そのため、個人の属性は満たしている場合でも、審査に落ちるというケースも起きていました。
基本審査基準

各項目の詳細について解説をしていきます。
C1:給与
| C1:給与:各セクターの年齢別ローカルPMETの月額固定給与との比較 | ポイント |
|---|---|
| 上位10%以内 | 20 |
| 上位35%以上、上位10%未満 | 10 |
| 上位35% | 0 |
出典:人材開発省(MOM)「Complementarity Assessment Framework (COMPASS)」を基に作成
2023年9月1日以前のEP申請では、最低月額給与として5,000SGD(金融業は5,500SGD)が必要でした。
これが2025年1月以降は5,600SGD(金融業は6,200SGD)に変更されています(ただし更新の場合、新基準は2026年1月以降から適用)。
また、必要となる月額給与は年齢や学歴により決定されていました。COMPASSでは、給与と学歴の判定が分離されます。月額固定給与の水準は、各セクター(業種)の年齢別のローカルPMETの給与と比較して決定されます。
月額固定給与が各セクター内の上位10%以内であれば20ポイント、上位10~35%の間であれば10ポイントが付与されます。給与の水準は、シンガポール人材開発省(MOM)により業種別に公表されています。
C2:学歴
| C2:学歴:申請者の学歴に基づく | ポイント |
|---|---|
| トップクラスの教育機関 | 20 |
| 学位相当資格(大学) | 10 |
| 学位に相当する資格なし | 0 |
出典:人材開発省(MOM)「Complementarity Assessment Framework (COMPASS)」を基に作成
トップクラスの大学の卒業資格を持っていれば20ポイント、その他の大学の卒業資格を持っていれば10ポイントが付与されます。トップクラスの大学については、毎年3月にMOMより公表され同年9月から適用されます。
2025年11月に公表された資料によると、日本からは、東京大学、京都大学、大阪大学、東北大学、東京工業大学、慶應義塾大学、早稲田大学の7つの大学がトップクラスの教育機関として認定されています。
学歴の証明として第三者機関によるVerificationの取得が求められることとなり、これにより時間、手間やコスト増が見込まれるという点に注意が必要です。
出典:人材開発省(MOM)「List of institutions awarded 20 points under COMPASS Criterion 2 (Qualifications)
C3:国籍多様性
| C3:国籍多様性:申請者と同じ国籍が企業のPMETに占める割合 | ポイント |
|---|---|
| 5%未満 | 20 |
| 5~25% | 10 |
| 25%以上 | 0 |
出典:人材開発省(MOM)「Complementarity Assessment Framework (COMPASS)」を基に作成
国籍多様性の比率を求める計算式は以下のとおりです。
- 国籍多様性比率=社内の従業員(EP申請者と同国籍のPMET)÷全従業員(PMET)
日系企業は、言語や文化的な背景から日本人を多く採用している傾向にあります。
そのため、国籍多様性の項目でポイントを確保するためには、外国籍の労働者の採用等も考慮に入れる必要があるでしょう。
C4:ローカル雇用の促進
| C4:ローカル雇用の促進:企業のローカルPMET比率の業界での順位 | ポイント |
|---|---|
| 上位50%以内 | 20 |
| 上位80%以上、上位50%未満 | 10 |
| 上位80%未満 | 0 |
出典:人材開発省(MOM)「Complementarity Assessment Framework (COMPASS)」を基に作成
業界内の他の企業と比較した場合の、ローカルPMETの雇用比率の順位によってポイントが付与されます。
- ローカル雇用比率=ローカルPMET÷全従業員PMET
ただし、ローカル雇用比率が70%以上の場合は、少なくとも10ポイントが付与されます。これは業界内のローカル雇用の水準に関係なく、ローカル雇用比率が高い企業を支援するための措置となります。
現状では、各業種のローカル雇用比率の水準は公表されていないため、各企業がこの項目でポイントを見積もることは難しいかもしれません。
とはいえ、シンガポール政府はローカル人材の雇用拡大を表明しているため、ローカル雇用比率の高い企業にとっては大きなアドバンテージとなるでしょう。
ボーナス審査基準

COMPASSには、要件を満たすことでビザ申請が有利になるボーナス審査基準が設けられています。
C5:スキルボーナス
| C5:スキルボーナス | ポイント |
|---|---|
| 人材が不足している職業リストに掲載されている仕事 | 20 |
出典:人材開発省(MOM)「Complementarity Assessment Framework (COMPASS)」を基に作成
スキルボーナスは、MOMが公表している人材不足職業リストに記載の職種の場合、20ポイントが付与されるものとなります。
ただし、全従業員の3分の1以上が申請者と同じ国籍の場合、付与されるポイントは10ポイントに減点されることに注意が必要です。人材不足職業リストには、アグリテック、グリーンエコノミー、AIエンジニア等新しい分野のほか、臨床心理士等のヘルスケア分野や海事等シンガポール特有の業種が挙げられています。このリストはMOMにより定期的に更新されます。
EPの申請者が同リストの業務に従事する場合は、大きなアドバンテージとなるため、定期的に確認するとよいでしょう。
C6:戦略的経済優先ボーナス
| C6:戦略的経済優先ボーナス | ポイント |
|---|---|
| イノベーションまたは国際化活動に関する特定の評価基準を満たした企業 | 10 |
出典:人材開発省(MOM)「Complementarity Assessment Framework (COMPASS)」を基に作成
戦略的経済優先ボーナスは、シンガポール政府の関係機関が実施するプロジェクトに参加している場合に認定され、認定企業は、採用時に申請者ごとに10ポイントが付与されます。
有効期間は、プロジェクトへの参加期間または3年間のいずれか短い期間となります。更新時には、C3やC4の要件等があるため注意が必要です。プロジェクトの実施機関はMOMで公表されており、さまざまな種類のプロジェクトがあります。
企業ポイントの付与状況によっては、自社のビジネスと親和性の高いプロジェクトへの参加を検討してもよいかもしれません。
具体的な影響及び対応策

企業のPMET従業員の人数により、影響度合いは大きく変わると言えるでしょう。
下記では、C3とC4の項目でそれぞれ10ポイントが付与される基準である、PMET従業員数25人未満か否かで分類し、EP申請の影響を考察します。
●PMETが25人以上の企業の場合
PMETを25人以上雇用している企業の場合、COMPASSの影響は大きいと言えるでしょう。
C1、C2で40ポイント以上を取るのはなかなか大変なため、C3、C4でポイントを取れるかがキーとなります。これに伴い、企業の従業員の構成を変える必要が生じる恐れがあります。
これは、一朝一夕にできるものではなく、相当程度の時間を要するため、企業側には、C5やC6のボーナス基準の利用等を含めた戦略的な対応を早めに検討されることをお勧めします。
●PMETが25人未満の企業の場合
PMETが25人未満の企業の場合、COMPASSの影響はありますが、深刻な影響とはならないでしょう。
C3とC4の項目で無条件に20ポイント付与されるため、残りの20ポイントをC1とC2で10ポイントずつ確保することが最もポピュラーなパターンとして想定されます。
また、C2やボーナス基準(C5やC6)で残りの20ポイントを満たすことができれば、C1の給与項目は0ポイントでもよいため、今まで以上に学歴や職種の項目の重要性が高まると言えます。
ただし、給与の項目が0ポイントの場合でも、SATの最低給与額は満たす必要があります。
まとめ

COMPASS制度開始後は、以前にもまして、よりシステマチックに申請~承認までの処理が進んでいるように感じられます。
手続きの効率化が進む一方で、多くの日系企業にとっては、単純に金額基準が高くなるほか、企業属性のポイント獲得が必要となる会社は、国籍多様性やローカル雇用の促進のハードルが高くなっています。
日本からの駐在ポジションをローカル人材へ切り替えたり、そもそもの人員構成の再検討に迫られたりするケースもあり、シンガポールの国策に従う形での対応が求められています。
