シンガポールでは世界から企業を誘致するためにさまざまな税制上の優遇措置を定めています。とりわけ重要なテーマであるシンガポールの法人税は、同国でビジネスをする上では理解しておく必要があるでしょう。そんなシンガポールにおける法人税について、日本の制度と比較しながら解説していきます。
2022.06.03(最終更新日:2024.01.31)
シンガポールでは世界から企業を誘致するためにさまざまな税制上の優遇措置を定めています。とりわけ重要なテーマであるシンガポールの法人税は、同国でビジネスをする上では理解しておく必要があるでしょう。そんなシンガポールにおける法人税について、日本の制度と比較しながら解説していきます。
2022.06.03(最終更新日:2024.01.31)
シンガポールでは、日本の地方税のようなものはなく、すべて国税となります。主な税目は以下のとおりです。
このうち法人税と個人所得税については、所得税法に規定されています。
また、日本でいう施行令、施行規則、基本通達、個別通達及び租税特別措置法などの詳細な規定はありません。判例や慣習に基づいて税務行政が判断します。
日本の申告納税方式とは異なり、シンガポールの法人税は賦課課税方式を採用しています。
シンガポールでも日本同様、納税者が確定申告を行う義務はありますが、最終的な税額の確定は税務署が決定し、納税者は税務署が確定した税額に従って納税を行います。
また、シンガポールでの法人税確定申告期限は、決算日から何カ月という形ではなく、賦課年度基準で決定されます。
例えば、決算日が2022年3月31日の場合、日本の法人税申告書の期限は決算日の2か月後の2022年5月31日です。
一方シンガポールでは、決算日から3か月後の6月30日までにECI申告(Estimated Chargeable Income、法人税見積申告)を行い、最終的な確定申告の期限は決算日の翌年の11月30日、つまり2023年11月30日が法人税の確定申告期限となります。
シンガポールでは、法人税申告スケジュールに比較的長い猶予期間が設けられていると言えます。そして法人税の中間申告制度が無く、さまざまな税制優遇措置があるのも特徴です。
シンガポールと日本における法人税制度や計算方法の違いのうち、代表的なものについて解説します。
法人税法において、企業の赤字のことを「欠損金」と呼びます。欠損金は、各事業年度の課税所得の金額の計算上、損金の額が益金の額を超える場合に生じた金額、つまり、所得がマイナスである状態のことです。
日本の法人税法上、税務上の欠損金は、翌年以降に発生した課税所得と相殺することが可能ですが、繰り越すことができる年数や金額に制限があります。
一方、シンガポールの法人税法上、こうした税務上の欠損金は原則として期限なく永久に繰り越すことが可能です。ただし、株主の過半数が実質的に変動した場合を除きます。
日本の連結納税制度に似た制度として、シンガポールにはグループリリーフという制度があります。
グループリリーフとは、シンガポール国内に複数のグループ会社がある場合、一つの会社の欠損金を他のグループ会社の所得と相殺できる制度です。適用条件は次の通りです。
シンガポールの法人税率は世界的に見ても低く設定されており、税コストが低いことは多くの外国企業から見て魅力的な要素の一つとなっています。
例えば、日本での法人税の実効税率は約30%なのに対し、シンガポールの法人税率は17%で、一定の課税所得の減免措置も考慮すると実効税率はさらに低くなり、日本の法人税と比較して大幅に低い税金になります。
日本から見たシンガポールの法人税率は、タックスヘイブン税制に定められる基準税率である20%を下回るので、シンガポールは軽課税国に該当し、原則的にタックスヘイブン税制の対象となるため、その点は専門家への相談が必要となります。
シンガポールは属地主義を採用しており、シンガポール国内で得られた所得や海外で得られた所得のうち、シンガポールに送金されるような所得は、基本的に課税対象です。
ただし、海外で得られた所得をシンガポールに送金した場合でも、その所得が配当、海外支店所得、海外サービス所得に該当し、最高税率が15%以上の国で既に課税がされている場合においては、シンガポールでは免税とされております。
これは、同じ所得への二重課税を防ぐためです。
日本同様、シンガポールにおいても、一定の所得に対して源泉税の対象となります。
ロイヤリティ、借入金の支払利息や専門家報酬など、シンガポール非居住者や非居住法人へ特定の支払いがされる場合、支払った側は源泉徴収をしたうえでシンガポール税務当局へ納税する必要があります。
日本とシンガポールとの相違点は、シンガポール居住者や居住法人に対する支払いに関して、源泉徴収を義務付けていないことです。
つまり、日本のように給与について源泉徴収がされないため、年間所得がSGD22,000以下の個人を除いて、すべての個人は確定申告をしなければなりません。
シンガポールにて事業の経営・管理を行っている法人のことを「シンガポール居住法人」と呼びます。
つまり、実質的に日本本社が事業の経営・管理を行っているような日本法人のシンガポール支店は、居住法人でないと言えます。居住法人には、新会社に対する免税措置、国外源泉所得に対する免税措置、租税条約に基づく源泉税の減免、外国税額控除などの優遇措置が用意されています。
シンガポールでは、株式譲渡益のようなキャピタルゲインには基本的に課税されません。ただし、株式トレーディング業者が売買する上場有価証券のトレーディングのような、反復して発生し、本業から得られる事業所得と考えられるものについては課税対象です。
なお、キャピタルロスや株式売却等の関連費用は、資本性の費用として損金算入はできません。
その利益がキャピタルゲインに該当するか事業所得に該当するかは、資産の保有期間の長さや取引の反復継続性等、複数の要素を総合的に判断したうえで区分します。
ただし、シンガポールにおけるグループ会社設立の弊害にならないようにするための政策的な観点から、子会社株式の譲渡については簡便かつ明確な判定基準で課税対象か否かを判断することとされています。
具体的には、「持分20%以上の株式を、24か月以上保有する」という条件をクリアすれば課税の対象外とすることが認められています。
シンガポールの法人税法上、部分所得免税制度(Partial Tax Exemption)、法人税リベート(Tax Rebate) 、スタートアップ免税制度(TaxExemption Scheme for New Start-UpCompanies)等の軽減税率制度が用意されています。
部分所得免税制度とは、2005賦課年度に全ての法人を対象に導入された、部分的に課税所得を減免する制度です。
所得の金額に応じ、75%や50%といった割合で課税所得を減免することができます。
具体的な対象金額や適用するパーセンテージは賦課年度によって変わることがあるので、実際の賦課年度において確認する必要があります。
法人税リベートとは、国際競争力を維持するために導入された、シンガポール居住法人を対象とする法人税の控除制度です。
このリベートは毎年変更になるため、計算方法に注意が必要です。
スタートアップ免税制度とは、2005賦課年度に導入され、スタートアップ企業が適用できる、部分的に課税所得の減免が可能な制度です。
2008賦課年度から新設されたスタートアップ企業のうち、一定の基準を満たせば、設立から3年間は一部の課税所得が免除される制度であり、前述の部分所得免税制度よりさらに多くの金額の免除を受けることができます。
こちらも対象となる金額は賦課年度に応じて変わるため、実際の計算には注意が必要です。
経済開発庁などの公的機関によって認定された企業は、上記とは別に法人税率の軽減等の優遇措置を受けることができます。
一般会社が対象の優遇措置は以下のとおりです。
統括会社が対象の優遇措置は以下のとおりです。
シンガポールの法人税の計算方法では、会計上の税引前当期純利益に対し、特定の項目を加算、減算したうえで所得を計算して、これに部分所得免税を反映させた課税所得から法人税額を算出、そこに法人税リベートを考慮した法人納税額を計算します。
加算される項目は、税務上損金への算入が認められない費用やキャピタルゲイン等の課税されない収入に直接紐づいた費用などです。
減算される項目は、キャピタルゲイン等の課税されない収入、リノベーションや税務上の減価償却費などのうち損金への算入が認められる金額<などになります。
課税所得獲得のためだけに発生した費用は、原則として法人税の計算上、損金算入できます。
役員報酬や接待交際費等についても、日本と違って制限が定められていないため、事業関連費用は原則として全額損金算入できます。
一方で、シンガポールでは法人税上、資本取引の範囲が広く考えられており、為替差損や借入金利子については、資本取引として一部損金不算入とされます。
また、減価償却費の損金算入についても、建物等に係る減価償却費は承認を受けたもののみ損金算入できます。
加えて、シンガポールでは政策的な配慮から、一定の支出に対して損金算入を支出額より拡大して認めるような制度も設けられています。
シンガポールの法人税制について、日本との比較を交えて解説しました。
シンガポールへ進出する際には必要となってくる知識ですので、日本との違いを頭に置きながら全体像の把握をするとよりスムーズに処理できるでしょう。