【セミナーレポート】最新の移転価格における論点と、棚卸資産・金融取引の税務調査対応を解説

【セミナーレポート】最新の移転価格税務調査における論点と、棚卸資産・金融取引の対応策を解説

移転価格事務運営要領の改正を受け、国税当局による税務調査は厳しさを増しています。グローバルに展開する企業は、自社の課税リスクを認識したうえで事前の対策が欠かせません。そこで、AGSグループ(以下、AGS)は、2026年9月18日に「移転価格に係る税務調査の現在とその対策」と題したセミナーを開催し、棚卸資産取引における移転価格税務調査の動向や、金融取引における適正金利・保証料率の設定方法などについて解説しました。本記事では、セミナーのハイライトをお伝えします。

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第1部:棚卸資産に係る移転価格

第1部では、AGS国際事業部パートナーの渡辺清弥が登壇し、棚卸資産取引における税務調査動向と事前準備の重要性を解説しました。

税務調査の最新動向と指摘事項

渡辺はまず、ここ2年ほどで税務調査の対象選定手法が劇的に変化し、国税庁によるAI活用が進んでいる点を指摘しました。法人税の更正期限(5年)やAIによる選定を通じて、特に以下のような状況にある企業が調査対象になりやすいと注意を呼び掛けます。

  • 5年以上税務調査を受けていない企業
  • 海外子会社の営業利益率が15%を超える高水準な企業
  • 低税率国の拠点と多額のロイヤリティやコミッション取引を行う企業

これらに対して企業が取り得る強力な防御策となるのが、移転価格ローカルファイルの整備です。渡辺は「税務調査で自社の取引価格設定の合理性を説明できる資料になる」と強調し、事前準備を促しました。未整備のまま税務当局から課税金額を提示された場合、納税者が追徴税額を全額取り消すのは極めて困難だと警鐘を鳴らします。具体的には、以下のような状況に該当する場合は、事前にローカルファイルなどの資料を整備することが望ましいと説明しました。

調査事例・状況主なポイント・指摘事項
海外子会社の営業

利益率が15%超

グループ間取引価格の適正性がより厳しい目で調査される。香港・シンガポールなどの低税率国に拠点を有する企業や多額のロイヤリティ・コミッション取引がある企業は、重点対象となりやすい
出張費用・役務提供

費用の親会社負担

親会社の社員が海外子会社の指導・支援のために現地へ出張した際、その人件費や出張旅費を子会社へ請求していないケース。子会社が受けた便益に応じた対価を適切に回収していないとして、指摘を受ける可能性がある
年度末の価格調整金期末に、日本側の所得を減少させる価格調整金が実施されているケース。事前に明確な移転価格ポリシーや法人間の合意がなく、単なる利益調整とみなされた場合、価格調整金の損金算入が否認される恐れがある

価格調整金の妥当性

期末に日本側の所得を減少させる「価格調整金」は、税務調査における重要な着眼点の一つとなります。単なる利益調整とみなされないためには、移転価格事務運営要領に基づき、以下の4要件をそろえ、合理的な取引価格の修正であることを証明する必要があります。

  • 移転価格ポリシーの事前作成:対象取引、検証対象法人、目標利益率レンジ、調整時期を文書化する
  • 価格調整の覚書:契約に価格調整条項を設け、計算方法を定めた覚書を事前に締結する
  • 算定根拠となるベンチマーク:独立企業間価格レンジを算定・定期更新する
  • 期中モニタリングと保存:為替や数量変動の理由を分析し、計算過程を記録・保存する

渡辺は「価格調整金はポリシーの代替ではなく、ポリシーに基づく運用上の最終調整として機能させるべきだ」と述べ、事前ルールの策定や算定根拠の保存がない利益調整は否認リスクが高いとして、早期の対応を強く促しました。

第2部:金融取引に係る移転価格

続いて、AGS国際事業部シニアパートナーの丸山裕司が登壇し、海外子会社に対する親子ローンや親子保証などの対応について、具体例を交えながら解説しました。

移転価格事務運営要領の影響と現状

丸山は冒頭、「2024年秋以降の税務調査で親子ローンの適用金利や親子保証料率の不備を指摘され、多額の修正申告を求められる事例が多発している」との現状を報告しました。これは、2022年6月公表の改正版・移転価格事務運営要領を踏まえた税務当局の対応で、従来多用されてきた「調達金利へのわずかな上乗せ」や「取引銀行へのヒアリング(見積金利)」による設定は否認される可能性があります。「税務調査に先立って金利を算定し、根拠資料を準備するなどして、課税リスクを回避することが重要だ」と説明しました。

親子ローン・親子保証における論点と実務対応

親子ローンの金利設定や親子保証における主要論点と、推奨される対応は以下のとおりです。調査官がどのようなアプローチで調査・評価しているかを理解したうえで、事前に正しい準備をすることが共通した対策といえます。

論点状況推奨される対応
海外子会社の

信用格付

親会社と同じ信用格付けを用いて貸付金利を算定している客観的な信用格付評価データベースを使用して、親会社の影響を考慮に入れた信用格付けを算出しておく
マーケット金利

(通貨)

円、米ドル、ユーロなどの複数通貨建ての貸付けに一律金利を適用している通貨ごとに市場金利やリスクが異なることを踏まえ、各通貨のマーケット金利を参照し、通貨別に適正金利を設定する
マーケット金利

(期間)

貸付期間が異なるローンに同一金利を適用している資金使途や将来キャッシュフローなどに基づいて合理的な貸付期間を設定し、期間別の金利算定資料を保存する
保証料率取引のある金融機関からヒアリングした金利を基に、保証料率を設定して回収している取引金融機関からの金利情報を参照することは基本的に認められない。第三者データベースを参照し、マーケット金利情報を入手する
借入枠への保証海外子会社の借入枠に対する債務保証について、保証料を回収していない借入枠に対する債務保証は、海外子会社に便益を提供するものである。実務上は借入を行った実際の金額を対象に保証料を回収する

グループの体制強化へ目指すべき方向性

日系グローバル企業においては、海外子会社の財務状況を十分にモニタリングできていなかったり、適時に有効な対応を取れていなかったりするケースが散見されます。

丸山は企業が目指すべき方向性として、以下の3点が必要だとの見解を示しました。

  • 本社財務部の担当者が主導し、海外子会社への財務ガバナンス体制を強化する
  • 本社財務部の責任で、海外子会社と国内子会社で統一的なファイナンス・ポリシーを策定する
  • 本社財務部の担当者が、海外子会社の財務状況を適時に把握する体制を構築し、外部からの資金調達や、グループ内での資金移動を適時に実施する

丸山は「こうした対応は課税リスクを抑えるだけではなく、一歩踏み込んで、グループ全体の財務管理強化や資金効率の向上にも直結する」とまとめ、第2部を締めくくりました。

まとめ:事前準備が成否を分ける。早めに専門家へ相談を

本セミナーに登壇した2名の講師からは、棚卸資産・金融取引のいずれも、税務調査開始後に慌てて対応しても指摘を覆すことは難しいとの認識が示されました。税務調査に先立って自主的にローカルファイルを整備し、ルールに基づき適正金利や保証料率を設定しておくことが重要です。

AGSの移転価格サービスは、年間130件の確かな実績と知見に基づき、適正金利・保証料率の算定からファイナンス・ポリシー策定まで幅広く対応しています。実務経験の豊富な専門家が、日本と現地の両面から伴走支援するのが特徴です。移転価格リスクにご不安のある方は、ぜひお気軽にお問い合わせください。

開催概要

日時2026年9月18日(金)12:00~13:00
形式オンラインのみ
参加人数72名
共催株式会社AGSコンサルティング

一般財団法人海外投融資情報財団(JOI)

 

監修者

  • 渡辺 清弥

    株式会社AGSコンサルティング
    国際事業部パートナー・税理士/日米公認会計士

    渡辺 清弥

    Big4の大手会計事務所の東京を始め、ワシントンDC、ニューヨークにて20年以上の移転価格を経験し、AGSでの移転価格に従事した年数を含めると30年以上に渡り移転価格に関するプロジェクト、その他法人税申告等の税務業務を経験。ミネソタ大学において税法の修士号(Master of Taxation)を取得するなど、幅広い税務経験を有する移転価格専門家。

  • 丸山 裕司

    株式会社AGSコンサルティング
    国際事業部シニアパートナー・米国公認会計士試験合格

    丸山 裕司

    大手監査法人、外資系コンサルティング会社等勤務を経て、2023年に株式会社AGSコンサルティングにシニアパートナーとして入所。長年にわたって多国籍企業の移転価格税制対応支援、グローバルファイナンスに関するコンサルティングサービスに従事。

    グローバルファイナンスに関するコンサルティングサービスに関しては、特にサービス提供実績が豊富であり、セミナー、執筆等の経験多数。