コロナ禍だけでなく不況や資金繰りの悪化により経営状況が芳しくなく、不安を抱える経営者の方もいるかもしれません。今回は、「脱線した経営を線路に戻したいけどどうしたらいいか分からない」といった場合にどのような手段があるか、分かりやすくまとめていきます。
目次
- 企業再生・事業再生とは?会社が傾く具体的な事例
- 過去の倒産事例
- 事業再生の定義
- 再生を実施した具体例
- 民事再生のメリット、その他手法の種類や違い
- 2つの再生手法
- 法的再生
- 私的再生
- 手続きのやり方や流れ
- 現状確認
- 再生方針の決定
- 事業計画の策定
- スポンサー募集と財源確保
- 再生手続き
- まとめ
企業再生・事業再生とは?会社が傾く具体的な事例
日本公認会計士協会が発行している「監査基準委員会報告書570_継続企業」には、以下のような場合、その会社の経営状況は赤信号に近いと書かれています。
- 売上高が著しく減少していること
- 継続的に営業損失を出していること
- 買掛金等の返済が難しくなっていること
- 主な仕入先から与信を断られる
など、ほかにもさまざまな状況が考えられます。
過去の倒産事例
東京商工リサーチ によれば、平均して年間で約1万〜7千社ほどの会社が倒産しているという結果があります。
会社が倒産するとき、取るべき行動は主に2つです。
破産
清算を目的とした、債務整理手段の1つです。債務超過などで会社経営の存続が難しくなったとしても、破産手続きを行えば資産・負債が清算されます。
「倒産」と「破産」は、厳密には異なる意味を持つ言葉です。倒産には法的な定義がありませんが、一般的に債務の返済ができないなどの理由でこれ以上の経営が難しいときに使われます。
一方で破産は清算をするために行う法的手段であるため、「破産企業」=「倒産」といえます。ですが、倒産企業が必ずしも破産しているとは限りません。
再生
経営がうまくいっていない会社を、何らかの方法で安定した軌道に戻す救済措置全般を指します。
ここでは、まず事業再生と企業再生について解説していきます。
事業再生の定義
採算性の悪い事業に着目し、事業を根本から改善することで利益率を立て直します。
会社に倒産への赤信号がともったとしても清算せず、借入金や買掛金の弁済・延長を視野に入れ、利益率の高い事業を再構築します。
企業再生などとの比較
事業再生と一緒によく使われる言葉です。企業全体に着目し、赤字や債務超過などの原因を根本から改善し、適切で安定した経営に軌道修正します。言葉の違いに明確な法的根拠はありません。着目するのが事業なのか会社経営全体なのか、くらいに捉えていたら大丈夫です。
再生を実施した具体例
再生の事例として特に有名なのは、一度は破綻し上場廃止となったJALが再上場まで果たしたことです。
倒産事例
JALは2008年のリーマンショックを引き金に脆弱な財務状況が露呈し、投資にも失敗した結果、破綻状態にまで追い込まれました。
しかしその後、政府、金融機関や労働組合などさまざまな協力を経て、2010年に会社更生法を申請し、2012年に再上場することとなりました。 京セラ創業者の稲盛和夫氏を始め、数々の経営プロフェッショナルを投入した結果ともいえます。
ですが、適切に手続きを踏みかつ情熱を以って取り組めば再生の道が拓ける一つの事例になったともいえるでしょう。
民事再生のメリット、その他手法の種類や違い
以下からは、具体的にどんな方法があるか、内容を説明していきます。
2つの再生手法
手続きとしての再生は、「法的再生」と「私的再生」の2つに区分できます。それぞれメリットとデメリットがあるため、会社の状況を鑑みて手段を選択する必要があります。
法的再生は裁判所の介入により、反対の債権者に対しても再生計画に基づく拘束力が生じる半面、費用が多額になりやすい手段です。
一方、私的再生は会社のイメージを損ないにくくする反面、反対する債権者の影響力が大きくなりやすい手段です。
法的再生
裁判所の管理の元で実施される、法的手続を利用して再生する手法のことです。再建型手続(会社を立て直す手法)の民事再生、会社更生、特定調停、そして清算型手続(会社を畳む手法)の破産と特別清算があります。
再建型、清算型どちらがいいとは一概にはいえません。手続きに係る費用を用意できるか、早期の黒字化が可能かなどの観点から総合的に手段を選ぶ必要があります。
民事再生
民事再生法に基づく裁判手続であり、裁判所の監督下にあります。
経営者が主体となり、債権者などの多くの利害関係者の同意を得ながら再生計画を策定します。
これを遂行することにより、会社の事業の再建を目指すものです。
会社更生
会社更生法に基づく裁判手続です。民事再生と大きく違うのは、再生手続を主体的に進めていくのは裁判所によって選任された更生管財人です。この場合には、基本的に経営陣の交代が求められます。
特定調停
債務者が借入金などの処理について裁判所に申し立て、調停委員会と呼ばれる特別な機関に利害関係者間の仲を取り持ってもらう法的な手続きです。民事再生より比較的費用が安いのが特徴です。
破産
破産法に基づき裁判所に申し立てて、残った会社財産を債権額に応じて債権者に分配し、会社の法人格をなくす手続です。
多くの中小企業では、会社代表者が個人で会社の借入などを肩代わりすることが多くあります。
この、会社代表者個人が行う一般的な債務整理も同じ手続きで行えます。
特別清算
会社法に規定のある倒産手続(株式会社のみ利用可)です。
経営者が主体となって柔軟に手続きを進められ、破産よりも簡易迅速で安い費用で会社を清算できるのが特徴です。
私的再生
裁判所に頼らず、当事者間で協議して会社の再建を法的再生のように行う手続です。
私的整理ガイドラインや中小企業再生支援協議会、事業再生ADRなどがあります。
私的整理ガイドライン
私的整理ガイドライン研究会による規定で私的整理が始まると、金融機関などの債権者による権利行使は一時停止されます。
一般債権者への支払や決済は停止されないため、取引先などからは倒産したとは思われません。
これにより、会社のイメージを損ないにくいという特徴があります。
中小企業再生支援協議会
中小企業再生支援協議会が定める、スキームによる手続きです。
中小企業の再生を支援する組織で全国各地に存在し、中立の立場で私的再生に協力してくれます。
事業再生ADR
私的再生の際に、中立的な第三者機関であるADR事業者が私的再生に協力する手続きです。
ADRとは「Alternative Dispute Resolution」の略称で、つまり一定の条件の下、裁判以外の場で問題を解決する手法です。民事再生と同じく、債権者には税法上の債権放棄に関わる損失計上が認められます。
また債務者も債務免除を行った際に発生する免除益課税に対して、一定の要件を満たすことにより税制上配慮がなされています。
手続きのやり方や流れ
ここからは、実際の手続きの流れについて述べていきます。
下記に挙げるのは、あくまで一般的な事業再生(または企業再生)の流れです。実際は、資金状況や債権者の状況などによって変わります。
どんな場合にも大事なことは、再生費用への資金がなくなる前に手続きを終わらせる迅速性です。
現状確認
今会社が置かれている状況を、数字で客観的に把握します。
資金、損益、債務残高、担保資産の有無、経営悪化の原因分析、今後の見通しについてなどを把握する必要があります。
再生方針の決定
資金繰りが悪化し続けると予想され、債務免除が不可欠となるか否かを含めて、どの再生方法が可能か適切かを判断します。
事業計画の策定
採算の取れる事業について選択と集中を行い、再生後の事業計画を立案します。
不採算事業でのリストラ、赤字部門の整理、未稼働資産の処分など、数年単位での計画が必要です。
スポンサー募集と財源確保
自力再生が困難なケースでは、資金力や信頼性に足るスポンサーを味方につけ、かつ新たな融資元を探すことになります。
会社単体での努力だけでは限界があるため、外部からの協力を得ます。
再生手続き
私的再生の場合は再生計画案を立案後、債権者への経緯説明を経て再生計画への承認を得る必要があります。
法的再生の場合は裁判所への手続開始申立後、債権者への説明責任を果たし理解を得ます。
債権調査手続と財産状況調査を行い、再生計画を立案し債権者からの承認を得る必要があります。
まとめ
デフレが長く続く日本経済下において、創業・承継してから継続して右肩上がりの会社の方が少ないかもしれません。しかし、どんな場合でも必ず対処方法はあります。
どの方法にもメリットとデメリットがあり、現在の会社状況を冷静に見極めたうえで選択する必要があります。会社を今後どうしたいか真剣に考え、情熱を以って対応すれば道は拓けるでしょう。