内国法人が国内外で得た所得は原則すべて日本で課税されます。併せて、外国での所得についてはその国でも課税されるのが一般的です。国内と海外で重複して課税されてしまう二重課税を解消するために、外国税額控除という制度があります。この記事では外国税額控除とはなにか、概要や計算方法、申告手続きについてわかりやすく解説します。
2021.12.03(最終更新日:2024.01.31)
内国法人が国内外で得た所得は原則すべて日本で課税されます。併せて、外国での所得についてはその国でも課税されるのが一般的です。国内と海外で重複して課税されてしまう二重課税を解消するために、外国税額控除という制度があります。この記事では外国税額控除とはなにか、概要や計算方法、申告手続きについてわかりやすく解説します。
2021.12.03(最終更新日:2024.01.31)
国外の事業で得た国外所得の外国法人税を負担する場合に、日本・海外の2箇所で負担するという課題を解決するものです。
内国法人は国内・国外すべての所得に対して課税されるのが原則です。
国外での取引があり相手国で外国法人税を支払う場合、内国法人は日本と相手国の両方で課税される「二重課税」の状態になります。この二重課税の解消を目的として作られたのが、外国税額控除制度です。
外国税額控除について知るために、ここで「外国法人税」と「控除対象外国法人税」の意味を押さえておきましょう。
外国で法人に課される税金のことを指します。海外の税制は、各国で対象や税率などに差があります。
国外での所得に対して国内で適切に課税するために、法人所得に対する課税かどうかを判断基準とし定義しているのです。
外国法人税が、そのまま外国税額控除の対象になるというわけではありません。国ごとにさまざまな税制が運用されているからです。
そこで、外国税額控除を考えるときには「控除対象外国法人税として認められるものかどうか」が鍵になります。
外国法人税の内容をそれぞれ精査したうえで控除対象・額を決める必要があるのです。
所得や税の種類により、適用の可否が分かれます。外国法人税に認められている控除には、どのようなものがあるか見ていきましょう。
外国税額控除が受けられる外国法人税には、主に次の項目が挙げられます。
補足すると、外国子会社合算税制(タックスヘイブン税制)が適用されるケースも控除対象となります。
たとえば、外国にある子会社の所得の一部金額を、親会社の日本法人が得たものとして合算課税をしたとします。
この子会社の外国法人税で、すでに日本で合算された所得に該当する金額については、控除対象外国法人税額とみなされます。
配当や利子などに対する源泉所得税も外国法人税のひとつです。源泉所得税は、法人所得を課税標準として課される税と同じカテゴリーに分類されます。
法人の特定の所得について、徴税上の便宜のために収入金額やこれに準拠しているものを課税標準とみなして課税される税金であるとされるからです。
以下については控除対象外国法人税ではないと規定されています。つまり外国税額控除の対象外です。
現在の税制では、所得に対する負担が高率かどうかの基準が税率35%に定められています。
これは、日本の法人税の実効税率が35%程度だからです。そのため、税率35%を超える外国法人税は二重課税状態ではないとされ、外国税額控除の対象外となります。
ちなみに、税率35%を超える外国税額控除の対象外部分については法人税の所得金額を計算する際、損金として扱われます。
外国税額控除を受けないで法人税を申告する、という選択肢もあります。損金算入方式で手続きをすれば問題ありません。損金算入方式とは、外国法人税を他の一般経費と同様であるとみなし、所得から控除する方法です。この方法では二重課税を排除しきれず、外国税額控除で受けられるような3年間の繰越はできない点に注意が必要です。
ただ、損金算入方式は、場合によっては有利に働くこともあります。赤字で課税所得が発生しないため税額控除を受けられないときや、控除限度額が足りないときには損金算入方式を選ぶとよいでしょう。
開発途上国へ進出した内国法人については、みなし外国税額控除が適用されることがあります。みなし外国税額控除とは、海外において税制優遇措置を受けた場合でも日本で外国税額控除を受けられる制度です。
主に開発途上国が自国への海外企業誘致を目的に、優遇税制措置として租税の減免を行うことがあります。外国税額控除対象の外国法人税額は原則、減免された後の外国法人税額が充当されます。従って外国税額控除での減免効果がなく、開発途上国での優遇税制措置の目的が果たせなくなってしまうのです。
そこで、外国税額控除を一定の条件下で適用することがあります。このケースでは、減免された租税のうち租税条約で定められた項目が対象です。これを「みなし外国税額控除」といいます。
ただし、これは実際には支払っていない税金について控除を受けられる制度という見方もでき、日本の税収に悪影響を与えかねません。そのため公平性・中立性の観点から、みなし外国税額控除は廃止や縮小傾向にあります。
外国税額控除を受けられる条件を踏まえて、控除額を算出する流れと計算式について紹介します。
全世界で得た所得の合計額などを踏まえて控除限度額を計算します。そして控除限度額と控除対象外国法人税額を比べて低い金額の方が、外国税額控除額となります。
たとえ控除対象外国法人税であっても、控除限度額を超える金額については控除されない点に注意が必要です。
控除限度額を、以下の計算式によって算出します。
(1)内国法人税額(全世界所得分)
(2)調整国外所得金額(※)
(3)全世界所得金額
→(1)×(2)÷(3)
(※)調整国外所得金額とは、国外での所得金額から外国法人税が課税されない国外源泉所得の金額を差し引いた額を指します。ただし、所得金額×90%を超過する場合は「所得金額×90%」の計算式で算出します。
次に、控除限度額と控除対象外国法人税額を比較します。2つのうち小さい金額の方が、外国税額控除額となります。
控除対象外国法人税額が法人税の控除限度額よりも大きいときは、順を追ってほかの税額から控除します。
外国法人税の税額控除は、次の順で行われます。
なお、上記の税も、それぞれ控除限度額が定められています。
外国税額控除を行う場合、以下のケースが生じます。
これらは翌年以降に繰り越せます。
控除限度額よりも控除対象外国法人税額が多い場合、控除しきれない金額を翌事業年度以降、3年にわたり繰り越せます。
控除限度額よりも控除対象外国法人税額が少ない場合、控除限度額に余りが発生します。
この控除限度額余裕分も、翌事業年度以降3年間、繰り越せます。
日本法人が外国税額控除を受けるための手続きとして、所定の明細書を添付し、かつ必要書類を保存しなければなりません。
ここからは、外国税額控除を受けるための納付申告方法や流れ、手続き期限、保存すべき関係書類について解説します。
外国税額控除を受けるためには、確定申告書などに所定の明細書を添付します。
また、控除対象外国法人税が課されたことを証明する、以下のような書類を保存しなければなりません。
内国法人と海外支店などとの間に内部取引があった場合は、その取引についての明細等が記載されている書類の作成も必要となります。
外国税額控除が適用されるのは、内国法人が外国法人税を納付した日の属する事業年度です。
ただ、下記のように、外国法人税の種類によっては税額控除の適用時期が異なることがあります。
なお、この適用時期には例外もあります。内国法人が継続的に納付すると確定した外国法人税額についてです。
この外国法人税を費用に計上した日の属する事業年度に外国税額控除の規定が適用されているときは、その計算は認められます。
二重課税の解消を目的とした外国税額控除は、非常に大切な税制です。取引の方法や状況によって多彩な事例が考えられ、それに応じた手続きが必要になります。
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