• 経営

会社の休眠とは?手続き方法やメリット・デメリット、みなし解散や廃業との違いを解説

会社の休眠とは?手続き方法やメリット・デメリット、みなし解散や廃業との違いを解説

会社の休眠とはどういう状態かについて解説しています。休眠させる際の手続き方法やメリット・留意点(デメリット)、みなし解散や廃業との違い、発生する費用や休眠から復活させる際の手続きについても紹介しています。会社の休眠を検討されている方、調べている方は参考にしてください。

会社の休眠とは

会社の休眠とは

会社の休眠(休業)とは、法人としての事業活動を一時停止することで、活動は停止しますが、会社は消滅せず存続します。

 

なお、事業活動を一切行わず、会社が消滅してしまう場合は、「廃業」となります。

 

会社の休眠を選択する理由や目的

会社を休眠する理由は、経営者の高齢化や他事業が忙しく手が回らないなど、さまざまです。一時的なことが原因の場合は、廃業するよりも手続きが簡便ということも理由として挙げられます。

 

休眠の場合、税務署および都道府県・市区町村に休業届を提出するだけで手続きが完了するため、廃業の際に必要となる解散登記や清算といった煩雑な手続きは不要です。

 

休業中は法人としての所得がなくても、原則として市区町村により法人住民税の均等割が課税されます。市区町村に休業の届出をすれば、均等割が免除・減免される場合がありますが、休業中の均等割の取扱いは市区町村によって異なるため確認が必要です。

 

「みなし解散」との違い

会社の休眠とよく似たものとして「みなし解散」があります。会社法では、「株式会社に関する事項を最後に登記した日から12年が経過している場合、休眠会社となる」との規定があるため注意が必要です。

 

法人に関する登記を所管する全国の法務局(登記所)では、毎年、休眠会社を整理する作業(休眠会社・休眠一般法人の整理作業)が行われています。まず、法務大臣から、「休眠会社または休眠一般法人は公告から2ヵ月以内に必要な登記をせず、まだ事業を廃止していない旨の届出もされないときは解散したものとみなされる」旨の官報公告が行われます。

 

その後、法務局から管内の休眠会社または休眠一般法人に対して、公告がされた旨の通知書が送付される流れです。

 

この公告から2ヵ月以内に、「必要な登記申請」または「まだ事業を廃止していない」旨 の届出をしない場合は、実際に事業を継続していても法務局により「みなし解散の登記」が行われます。なんらかの理由で法務局からの通知が届かない場合であっても、公告から2ヵ月以内に必要な登記申請、または「まだ事業を廃止していない」旨の届出を行わないときは、同様の手続きが進められるため、休業中でも注意が必要です。

 

しかし、みなし解散の登記がされた後であっても、次の場合は3年以内であれば会社や法人を継続できます。

 

  • 株式会社は株主総会の特別決議
  • 一般社団法人または一般財団法人は社員総会の特別決議または評議員会の特別決議

 

これらの決議が行われてから2週間以内に、継続の登記申請を行うことが必要です。

 

出典:法務省公式サイト「令和5年度の休眠会社等の整理作業(みなし解散)について」
出典:法務省公式サイト「休眠会社・休眠一般法人の整理作業について」

 

「廃業(清算)」との違い

休眠とよく似た用語に「廃業(清算)」があります。廃業は、会社の事業活動を一切停止することをいいます。廃業の場合、会社の解散登記をしたあとに清算手続きを行い、手続きが完了すれば会社は消滅します。

 

これに対し、会社の「休眠」とは、会社の事業活動を一時的に停止(休業)することです。休眠中に会社は消滅せず、存続したままとなる点が異なります。

 

会社を休眠させるメリット

会社を休眠させるメリット

会社を休眠させるメリットとしては、法人税や消費税が課税されないことや法人住民税の均等割が免除される可能性があることが挙げられます。

 

ここでは、他のメリットも合わせて解説します。

 

事業活動の再開がしやすい

会社を廃業してしまうと、会社自体が消滅するため事業の再開ができません。再び事業を行うには、新たな会社を設立する必要があります。

 

休眠の場合は、一時的に事業活動をしていない状態であるため、任意のタイミングで事業を再開可能です。

 

許認可の再取得が必要ない

会社が休眠している状態であれば事業に必要な許認可は得ているため、改めて取得する必要がないのが原則です。

 

ただし、一定期間事業を行っていなかったり、数年ごとに許認可の更新手続きが必要な場合があるため、事業再開前には都道府県など許可権者に確認が必要です。

 

法人税や消費税が課税されない

会社が休眠している間に事業活動を行わず所得がなければ、法人税や消費税などが課税されません。

 

ただし、市区町村の課税する法人住民税は、申告と納税の義務がある点は押さえておきましょう。

 

出典:国税庁公式サイト「No.6503 基準期間がない法人の納税義務の免除の特例」
出典:法務省公式サイト「法人住民税」

 

法人住民税の均等割が免除される可能性がある

会社が休眠していても、原則として法人住民税の均等割は課税されます。

 

最低限の法人均等割額は次のとおりです。

 

事業所等の所在資本金等の額が1千万円以下の場合
特別区内のみに

有する法人

・70,000円(50人以下)

・140,000円(50人超)

特別区内に2以上の事業所がある場合は、1特別区あたり次の加算あり。

・50,000円(50人以下)

・120,000円(50人超)

特別区と市町村に

有する法人 

・20,000円+50,000円(50人以下)

・20,000円+120,000円(50人超)

市町村のみに事務所等を

有する法人 

・20,000円

※均等割額は資本金等の額により異なります
出典:総務省「法人住民税」

 

なお、均等割は、自治体によって休眠の届出を行うことで免除される可能性があります。

 

自治体によって減免申請の雛形が示されている場合があるため、確認しておきましょう。

 

休眠自体の費用は発生しない

会社の休眠自体に必要な費用はありません。税務署や都道府県税事務所・市区町村役場に、休眠の届出書類である「異動届出書」を提出する際にも手数料はかかりません。これらの手続きは行政書士などにも依頼できますが、自身で行えば費用は不要です。

 

一方、廃業するには多くの費用が発生します。

 

  • 登記費用(解散・清算人・清算結了など)
  • 官報への公告料
  • 証明書の取得費用
  • 行政書士や司法書士など士業への報酬

 

これらをあわせると、数十万円の費用が必要となります。このほか、会社の在庫や機械設備などがあれば、それらを処分する費用も必要です。

 

休眠であれば上記の費用は発生しないため、費用を抑えられる点はメリットといえます。

 

会社を休眠させる際の留意点(デメリット)

会社を休眠させる際の留意点(デメリット)

会社の休眠は、廃業よりも時間と手間が省けますが、休眠中にしておかなければならないこともあります。

 

ここでは、会社を休眠させる際の留意点を解説します。

 

税務申告は毎年必要

会社を休眠しても、税務申告は毎年必要です。申告の内容は収入無しでも問題ありませんが、いずれ事業を再開する時を見据えて確定申告は行いましょう。

 

申告を行わず無申告の状態だと、青色申告が取り消されてしまいます。取り消されると、事業を再開した際に再度申請しなければならない点は留意しておきましょう。

 

休眠を続けるとみなし解散となる可能性がある

前述のとおり、休眠して12年が経過するとみなし解散の対象となります。

 

法務局から文書が届いたら、存続の申請を出すことでみなし解散を回避できますので、届いた文書は忘れずチェックするよう気をつけましょう。

 

役員の変更登記が必要

会社が休眠していても、役員の変更登記は必要です。役員の任期は最長10年で、少なくとも10年に1回は変更登記が必要となります。

 

任期は休眠と関係なく経過しますので、任期を迎えた際は、再度登記が必要な点は注意しましょう。

 

不動産を所有している場合は固定資産税が課税される

会社が不動産を所有している場合は、毎年固定資産税が課税されます。固定資産税は、法人住民税の均等割とは異なり、休眠状態でも減免されません。

 

会社名義の土地や家屋・機械設備などの償却資産がある場合は、毎年納税する必要があります。

 

会社を休眠させる際に発生する費用

会社を休眠させる際に発生する費用

会社を休眠させる場合、手続きにかかる費用は発生しません。ただし、休眠する際には自治体への手続きが必要です。

 

具体的には、会社を休眠させるために、税務署や都道府県税事務所、市区町村役場に異動届出書の提出が必要となります。この手続きには手数料は不要ですが、行政書士などの専門家に依頼する場合は報酬額が必要です。

 

また、会社の休眠中に発生する役員変更登記や、税務申告を司法書士や税理士に依頼する場合は、士業への報酬が発生します。手続きは自力でもできますが、専門家に依頼した場合は専門的なアドバイスを受けられるため、依頼する場合は内容を考慮・精査しましょう。

 

会社を休眠させる際の手続き

会社を休眠させる際の手続き

会社を休眠させるには、次のとおり税務署や自治体に手続きが必要です。

 

提出先必要書類
税務署異動届出書
都道府県税事務所・市区町村役場異動届出書

 

税務署には所定の異動届出書を提出し、休眠中である旨の届け出が必要です。異動届出書の用紙は税務署に備え付けのものか、国税庁のホームページからダウンロードしたものを提出します。

 

休眠届という書式はなく、事業年度や商号などを変更した際に使用する異動届出書を使います。「異動事項等」の欄に「休業」、異動年月日の欄に「休業した日付」を記載して届け出ましょう。

 

なお、都道府県税事務所・市区町村役場に提出する異動届出書は、提出する自治体によって様式が異なるため、事前に確認が必要です。

 

出典:国税庁公式サイト [手続名]異動事項に関する届出

 

会社を休眠から復活させる際の手続き

会社を休眠から復活させる際の手続き

会社を休眠から復活させる際にも、異動届出書の提出が必要で、様式は休眠時に提出するものと同じです。

 

提出先必要書類
税務署・異動届出書

・青色申告の承認申請書

都道府県税事務所・市区町村役場異動届出書

 

まず、税務署へ提出する異動届出書には、「異動事項等」の欄に「再開」、異動年月日の欄に「再開した日付」を記載します。

 

次に、休眠中の会社を復活させる場合には、休業届を出した都道府県税事務所、市区町村役場にも事業を再開する届出が必要です。

 

事業再開までに時間がかかってしまう場合、みなし解散には注意しましょう。法務局によりみなし解散の登記をされてから、3年を経過すると復活できません。前述のとおり、復活させるには株主総会で決議した後、会社継続の登記を再度行う必要があります。

 

さらに、青色申告が取り消されている場合には、税務署に対し、再び青色申告の承認申請を行わなければなりません。休眠中でも確定申告は必要で、2年連続で期限内に申告しなかった場合には青色申告が取り消されることがあります。取り消されたままの場合は、繰越欠損金などの特典も使えなくなるため注意しましょう。

 

出典:国税庁公式サイト「異動事項に関する届出」
出典:国税庁公式サイト「法人の青色申告の承認の取消しについて(事務運営指針)」

 

まとめ

会社の休眠とは?手続き方法やメリット・デメリット、みなし解散や廃業との違いを解説

会社の休眠は、事業活動は停止しますが、会社は消滅せず存続します。会社としての事業活動を今後一切行わない廃業とは異なるため、それぞれの違いについて理解しておきましょう。

 

休眠中は事業活動に対する費用は発生しません。ただ、法人としての所得がなくても、法人住民税の均等割が課税されます。市区町村に休業の届出をすれば、均等割が免除されたり減免される場合があるため確認しましょう。

 

会社の休眠や休眠後の事業再開には、必要な手続きや考慮すべき点があります。自身の事業で休眠か廃業かで迷う場合や、手続きが不安な場合は専門家に相談するのもおすすめです。それぞれの違いについて理解して、メリット・デメリットを押さえた上で判断しましょう。

  • 杉原 礼治

    監修者

    杉原 礼治

    株式会社AGSコンサルティング
    企画部門長・公認会計士