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デジタル課税とは?詳しい仕組みや対象企業、日本への影響も解説

経済のグローバル化やデジタル化に伴い、「デジタル課税」という新たな国際課税ルールが導入されます。デジタル課税はどのような仕組みで、課税対象となるのはどんな企業なのでしょうか。この記事では、デジタル課税の概要や導入される背景、日本への影響などについて解説します。

デジタル課税(市場国課税)とは

デジタル課税(市場国課税)とは

デジタル課税とは、支店や工場などの恒久的施設を持たない外国企業への課税が可能になる仕組みです。世界的な多国籍企業について、各国間の利益と課税権をより公平に再配分することを目的としています。

 

約140の国と地域が参加する、OECD/G20の「BEPS包摂的枠組み」において、2021年10月8日に大枠合意に至りました。OECD(経済協力開発機構)が取りまとめ、G20を含む国や地域によってBEPS(税源浸食と利益移転)に関する議論が進められてきました。今回合意した国や地域で、世界のGDPの90%を占めています。

 

デジタル課税は国際課税ルールの抜本的な改革であり、2023年前半に多国間条約の署名、2024年に条約発効を目標としています。

 

デジタル課税の仕組み

デジタル課税では、世界的な多国籍企業に対する課税権の一部を、その企業の本社が存在する国から、恒久的施設の有無に関係なく事業活動によって利益を得ている国・地域に移転します。具体的には、収益の10%を超える利益(残余利益)のうち25%がサービスを消費する国に配分されます。

 

例えば、「売上1,000、費用600、利益400」の場合、残余利益は300(400-1,000×10%)です。この残余利益300のうち75(300×25%)は、その外国企業が収益を獲得した市場国に再分配され、各国の内国法で課税されます。

 

このルールにより、毎年1,250億米ドル(約16兆2,500億円)を超える利益への課税権が市場国に再配分されることが見込まれます。 既存の税収に占める割合で見た場合、税収の増加分は先進国より途上国のほうが大きくなる見込みです。

 

出典:OECD(経済協力開発機構)「国際社会がデジタル時代の画期的な租税条約を締結」

 

デジタル課税の対象企業

デジタル課税の対象企業は、世界最大規模の多国籍企業グループ約100社です。具体的には、世界全体の売上高200億ユーロ(約2兆8,000億円)超、かつ利益率10%超の企業が対象となります。

 

GAFAM(ガーファム)※などの巨大IT企業だけでなく、他の一般企業も対象に含まれています。

 

売上高については条約発効後に見直しを行い、円滑な制度の実施を条件に100億ユーロ(約1兆4,000億円)超への引き下げが検討される予定です。※米国の大手IT企業5社(Google、Apple、Facebook(現Meta Platforms)、Amazon、Microsoft)の頭文字をとった用語

 

デジタル課税が導入される背景

デジタル課税が導入される背景

デジタル課税が導入される背景には、ビジネスモデルのグローバル化やデジタル化があります。

 

インターネットの普及により、国をまたいで商品・サービスを提供することが容易になりました。しかし、各国の税制と国際課税ルールのずれを利用することで、多国籍企業が課税所得を人為的に操作し、課税逃れを行っているとの指摘があります。

 

このような税務上の課題に対応するため、新たな国際課税ルールとしてデジタル課税が導入されることになりました。

 

拠点をもたない外国企業に市場国が課税できないため

企業が海外に進出する場合、従来は現地に支店や工場を作ってビジネスを展開していくのが一般的でした。しかし、近年ではGAFAMと呼ばれる世界的なIT企業が台頭し、ビジネスモデルが大きく変化しています。海外に支店や工場を作ることなく、インターネットを通じてさまざまな国や地域にサービスを提供し、より多くの利益を生み出せるようになりました。

 

デジタルコンテンツは一度作れば複製が容易で、いくらでも増産が可能です。在庫を抱える必要もなく、コストも抑えられるため、巨大IT企業は莫大な利益を得ています。

 

従来の国際課税ルールでは、拠点を持たない外国企業に対して市場国(ビジネスが行われている国)が課税できませんでした。デジタル課税を導入することによって、多国籍企業が事業活動で利益を生み出す場所で一定の課税権が確保されることとなります。

 

デジタル課税に加えて「グローバル・ミニマム課税」も

デジタル課税に加えて「グローバル・ミニマム課税」も

グローバル・ミニマム課税も、OECD/G20の「BEPS包摂的枠組み」において国際的に合意された課税ルールの1つです。15%の世界的な最低法人税率の導入を内容としています。法人税率の低い国に子会社を設立し、課税逃れを行う企業への課税を強化することを目的としています。

 

グローバル・ミニマム課税の導入により、単に課税権が移転するだけでなく、世界全体で税収が増えることになります。OECDによれば、世界全体で毎年1,500億米ドル(約19兆5,000億円)の追加徴収が発生する見込みです。

 

グローバル・ミニマム課税については、2022年に各国国内法の改正、2023年(一部は2024年)の実施が目標とされています。

出典:OECD(経済協力開発機構)「国際社会がデジタル時代の画期的な租税条約を締結」

 

グローバル・ミニマム課税の仕組み

グローバル・ミニマム課税では、対象企業に対して最低法人税率15%が適用されます。法人税率が低いタックスヘイブン(租税回避地)に子会社を設立し、実際に負担する税率が15%を下回る場合、親会社に対して最低税率15%と負担税率の差を上乗せして課税する仕組みです。

 

ビジネスモデルのグローバル化・デジタル化により、軽課税国への所得移転が生じていることも課題になっています。デジタル化の進展によって、税率の低い国へ所得を移転することが容易になっている背景もあります。

 

グローバル・ミニマム課税の導入により、多国籍企業が所在する国や地域に関わらず、最低法人税率15%以上で課税されます。そのため、外資誘致を目的とした税率引き下げや優遇税制の創設に対する抑止効果、軽課税国への所得移転による課税逃れの防止 が期待できます。

 

グローバル・ミニマム課税の対象企業

グローバル・ミニマム課税は、年間総収入金額が7.5億ユーロ(約1,050億円)以上の多国籍企業が対象です。

 

一定の適用除外を除き、所得に対して各国ごとに最低法人税率15%以上の課税が確保されます。

 

デジタル課税が与える日本への影響

デジタル課税が与える日本への影響

デジタル課税やグローバル・ミニマム課税が導入されると、日本では次のような影響が考えられます。

 

税収が増える

デジタル課税が導入されると、日本の税収が増える可能性があります。市場国に課税権が再配分されるため、日本に拠点がない多国籍企業の利益が課税対象となれば、法人税の税収が増加するからです。

 

日本は高齢化の進展に伴う社会保障費、新型コロナ対策の財政支出の増大などによって債務が膨らんでいます。

 

デジタル課税によって税収が増えれば、日本の財政状況の改善につながるかもしれません。

 

取引先から情報提供を依頼される可能性がある

デジタル課税では、多国籍企業の利益と課税権が市場国に再配分されます。ここで課税権を公平に配分するには、利益が生じた国や地域を把握しなくてはなりません。そのため、世界的な多国籍企業と取引をしている場合は、最終的な消費者や購入者の所在地について情報提供を求められる可能性があります。

 

デジタル課税は世界的な多国籍企業が課税対象ですが、企業規模を問わず何らかの対応が必要になる可能性が出てきます。

 

既存の税制が改正される可能性

グローバル・ミニマム課税が導入されると、既存の税制が改正される可能性があります。

 

日本では、令和5年(2023年)度税制改正大綱において、グローバル・ミニマム課税の導入に向けた所得合算ルールに係る法制化が盛り込まれています。関連法案が成立すれば、海外子会社が15%未満の軽課税の場合、日本の親会社は子会社の税負担が最低税率15%に至るまで課税される見込みです。

 

世界の国々は、タックスヘイブンを利用した租税回避への対策として、法人税率の引き下げ競争に悩まされてきました。今後はタックスヘイブン国においても、多国籍企業グループの子会社の税負担率が15%に満たない場合は15%になるまで追加課税できるため、法人税率の引き下げ競争に歯止めがかかる可能性があります。

 

海外の親会社が15%未満の軽課税で、日本に子会社があるケースなどについても、令和6年(2024年)度以降の法制化が検討されています。

 

まとめ

デジタル課税が導入されると多国籍企業グループに対する課税が増えるため、さまざまな国で税収増加が見込まれます。

 

課税対象となる日本企業は少ないものの、既存の税制が改正され、企業規模を問わず何らかの対応が必要になるかもしれません。

 

海外進出を実施・検討している場合は、デジタル課税の概要を理解しておきましょう。

  • 大槻 達也

    監修者

    大槻 達也

    株式会社AGSコンサルティング
    国際部門長・税理士

    大手金融機関を経て、2004年にAGSグループに入社。国内税務、IPO、M&A、再生支援などの業務に広く関わるとともに、2010年から専門家の立場で大手金融機関への出向も経験。大阪支社副支社長を経て、2017年より国際事業部に合流。

    2020年より現職。税理士登録2006年。

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