タックスヘイブン税制(外国子会社合算税制)の概要について解説しています。適用の有無を判定するフローや日本での係り方、主な用語解説やポイントについても紹介しています。タックスヘイブン税制(外国子会社合算税制)の概要を調べている方は参考にしてください。
目次
- タックスヘイブンとは
- 代表的な国・地域
- タックスヘイブンの仕組みと種類
- 無税(タックスパラダイス)
- 特定の事業を優遇(タックスリゾート)
- 国外での所得が非課税(タックスシェルター)
- タックスヘイブンの問題点
- 税収が減少する
- マネーロンダリングに悪用される可能性がある
- 「パナマ文書」や「パンドラ文書」が問題に
- 日本のタックスヘイブン対策税制(外国子会社合算税制)の概要・仕組み
- タックスヘイブン対策税制の適用有無の判定
- 令和5年度税制改正の内容
- OECDによるタックスヘイブン規制
- デジタル課税
- グローバルミニマム課税(ミニマムタックス)
- タックスヘイブン税制に関する主な用語解説
- まとめ
タックスヘイブンとは
タックスヘイブンとは、税金がかからなかったり、著しく軽減されていたりする国や地域を指します。「租税回避地」や「低課税地域」「軽課税国」と呼ばれることもあります。
主に地域外の外国企業に対して、戦略的に税制上の優遇措置を設けている場所が該当します。
代表的な国・地域
ここでは、タックスヘイブンとなっている主な国や地域をまとめて紹介します。
ヨーロッパ | 英領マン島、ガンジー島、ジャージー島、モナコ、ルクセンブルクなど |
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アジア | シンガポール、香港、マレーシア領ラブアン |
中東 | ドバイ、バーレーンなど |
インド洋 | モーリシャス、セーシェルなど |
オセアニア | 西サモア、クック諸島など |
カリブ海と 中央アメリカ | 英領ケイマン諸島、ヴァージン諸島、バハマ、パナマ、ベリーズなど |
タックスヘイブンの国や地域は、面積が狭いのが特徴です。面積が狭いため、農業や製造業を発展させるのが難しく、税率を安くすることで海外から企業を誘致して経済を発展させようという狙いがあります。
特に、物理的な場所をあまり必要としないインターネット関連業や金融業が中心です。
タックスヘイブンの仕組みと種類
租税条約は締結しているが税率の低い国や、様々な税制の優遇措置を取っている地域などに会社を設立して資産を移転すると、本来なら税金の高い国で納めなければならない各種税金が免除されたり、税負担を著しく軽減できたりします。
ここでは、タックスヘイブンに関する税制の優遇措置について仕組みと種類を解説します。
無税(タックスパラダイス)
税金が全額免除される国や地域を指し、タックスパラダイスと呼ばれます。
租税回避を防止する租税条約も締結しておらず、会社設立が容易な点が特徴です。
特定の事業を優遇(タックスリゾート)
特定の種類の会社または事業活動に限って税制上の優遇措置を取っている国や地域であり、タックスリゾートと呼ばれます。
例えば、海運業や金融業など国や地域ごとに優遇される業種が異なります。
国外での所得が非課税(タックスシェルター)
国外源泉所得に対して税制上の優遇措置をとっている国や地域を指します。
こういった地域はタックスシェルターと呼ばれます。
タックスヘイブンの問題点
タックスヘイブンでは税金が軽減される、または一切かからないため、企業などが主に租税を回避するために利用します。
ここでは、タックスヘイブンを利用することの問題点について解説していきます。
税収が減少する
タックスヘイブンの国や地域に会社を設立して資産を移転すると、自国で納めるべき各種税金が免除されるため、企業はその分の資金を確保できます。また、タックスヘイブンに銀行口座を開設し資産を移すことで、利率の低い日本などの銀行よりも高い利率を得られる場合があります。
自国の立場からすると、企業から納められるはずの税金がなくなり、国内の税収が減ります。税収が減ると国内で使用できる資金が減るため、国民のために必要な施策へ投資できなくなってしまいます。
マネーロンダリングに悪用される可能性がある
マネーロンダリングとは、架空または別名義の口座で送金を繰り返したり、株や債券を購入したりして、資金の出所をわからなくする行為です。
タックスヘイブンでは個人情報が強く守られており、誰がどのように資金を使用したかが不透明です。そのため、例えば犯罪組織が違法な手段で得た資金をタックスヘイブンの企業に送るといった悪意や違法性のある資産隠しができてしまい、犯罪の助長につながる恐れがあります。
「パナマ文書」や「パンドラ文書」が問題に
2016年に「パナマ文書」、2021年に「パンドラ文書」がリークされ、世界各国の首脳陣や富豪がタックスヘイブンによる取引を行っているのが明るみになり、批判が殺到しました。国民が重い税金を課されている一方で、国の上層部が税金逃れをしていたり、富豪がグレーな方法で税金逃れをしていたりすることに対する不満の声が上がったのです。
パナマ文書では、富豪などが多額の資産をタックスヘイブンに置いているのが判明し、数十億円規模の申告漏れが発覚した事例もあります。また、パンドラ文書によって世界の有力者が国外の会社を使って税金逃れをした手法や、オフショア企業を通じて不動産を購入していた事実などが明らかになりました。
日本のタックスヘイブン対策税制(外国子会社合算税制)の概要・仕組み
タックスヘイブンによる租税回避を防止するために、日本でもタックスヘイブン対策税制が施行されています。
タックスヘイブン対策税制とは、日本の居住者または内国法人が一定の条件に該当する軽課税国に実質的活動のない子会社等、いわゆるペーパーカンパニーを設立し、これらの子会社等に所得を移転することにより日本の所得税や法人税の負担を軽減する行為を規制する制度です。
タックスヘイブン対策税制が適用されると、タックスヘイブンにある子会社の所得は日本にある親会社や株主の所得に合算され、日本で法人税や所得税が課されることになります。
かつては対象地域での租税負担割合が20%以上であればタックスヘイブンとみなさない「トリガー税率」が設けられていましたが、2017年度税制改正で20%のトリガー税率は廃止されております。
以下では、タックスヘイブン対策税制の適用判定や近年の税制改正について解説します。
タックスヘイブン対策税制の適用有無の判定
タックスヘイブン対策税制の対象となる海外子会社は「外国関係会社」です。
外国関係会社とは、以下のいずれかの条件を満たす会社をいいます。
- 日本の居住者および内国法人が直接または間接にその株式の50%超を保有している外国法人
- 日本の居住者または内国法人との間に実質支配関係がある外国法人
ただし、外国関係会社に該当すれば必ずタックスヘイブン対策税制が適用されるわけではありません。外国関係会社を、その会社が所得のうち税金として納めている租税負担割合で3つに区分します。
- 30%以上(改正後27%)
- 20%以上30%(改正後27%)未満
- 20%未満
1.租税負担割合が30%以上(改正後27%)
1に該当する場合、タックスヘイブン対策税制は適用されません。
2.租税負担割合が20%以上30%(改正後27%)未満
2に該当する場合、さらに「特定外国関係会社」であるかを判定し、特定外国関係会社であればタックスヘイブン対策税制が適用されます。
特定外国関係会社とは、ペーパーカンパニー、キャッシュボックス、ブラックリストカンパニーを指します。
特定外国関係会社 | 解説 |
---|---|
ペーパーカンパニー | 主な事業を行うための事務所や店舗、工場などの施設を有しておらず、本店所在地国で事業の管理、支配、運営を行っていない会社 |
キャッシュボックス | 総資産に比べ、能動的な活動をしていなくても入ってくる受動的所得の割合が高い事業体を指す |
ブラックリストカンパニー | 租税に関する情報交換の国際的な取り組みに非協力的な国、地域に本店または主な事業所を有する外国関係会社です |
3.租税負担割合が20%未満
最後の3に該当する場合、さらに「経済活動基準」を満たすかを判定し、以下の4基準のうち1つでも満たせなければタックスヘイブン対策税制が適用され、子会社のすべての所得が親会社や、個人であれば株主に合算されます。
経済活動基準とは、外国関係会社に経済実態があるかを判定する基準です。
- 事業基準:主な事業が株式の保有、著作権の提供、船舶リース等でないこと
- 実体基準:本店所在地国に主たる事業に必要な事業所等を有すること
- 管理支配基準:本店所在地国において事業の管理、支配及び運営を自ら行っていること
- 次のいずれかの基準
・所在地国基準:主たる事業が卸売業、銀行業、信託業、金融商品取引業、保険業、水運業、航空運送業又は航空機リース業以外の場合で、かつそれを主として本店所在地国で行っていること
・非関連者基準:主たる事業が卸売業、銀行業、信託業、金融商品取引業、保険業、水運業、航空運送業又は航空機リース業の場合で、かつ非関連者との取引割合が50%超であること
上記4つの経済活動基準をすべて満たした場合には、原則的にタックスヘイブン対策税制の適用除外となり、所得の合算は必要ありません。
ただし、これら経済活動基準の4要件を満たした場合であっても、受動的所得と呼ばれる一定の所得についてはタックスヘイブン対策税制が適用される点に注意が必要です。
受動的所得は「特定所得」とも呼ばれ、配当等や利子等、有価証券の貸付対価、外国為替差損益などから得られる、実質的活動のない事業から得られる所得を指します。これらの資産運用の性質を持つ所得は、タックスヘイブン対策税制の適用対象とされています。
なお受動的所得の金額が2,000万円以下あるいは全所得のうち5%以下であれば、タックスヘイブン対策税制が適用されない免除基準もありますので、併せて覚えておきましょう。
出典:日本貿易振興機構HP「タックスヘイブン対策税制:日本」
出典:租税特別措置法66条の6
令和5年度税制改正の内容
かつては、外国関係会社の租税負担割合が20%以上30%未満の場合で特定外国関係会社に該当すれば合算課税の対象とされていました。
令和5年度税制改正において、上記の基準となる租税負担割合(いわゆる特定外国関係会社のトリガー税率)が「27%未満」に引き下げられました。
この改正は、2024年4月1日以後に開始する内国法人の事業年度から適用されています。
OECDによるタックスヘイブン規制
OECDとは経済協力開発機構の略称であり、世界中の経済、社会福祉の向上を促進するための活動を行う国際機関です。
日本やアメリカなど先進国38ヵ国が加盟しており、欧州委員会(EC)も参加しています。
ここでは、OECDによるタックスヘイブン規制について解説します。
デジタル課税
デジタル課税とは、インターネットを通じたサービス提供のように、工場や支店を持たずに海外進出を進めている企業に課税する仕組みです。OECD加盟国を含めた約140の国・地域で条約発効を予定しています。
GAFAなど巨大IT企業では、工場や支店を持たずに海外で事業を展開できます。こうしたIT企業が提供するアプリケーションやツールは、物理的な在庫を持たないため、制作に係るコストを低く抑えられます。大きな利益を生み出せるにもかかわらず、適切な課税ができなかったことが問題となっていました。
デジタル課税では、多国籍企業であり、世界全体の売上が200億ユーロ超かつ利益率が10%超の企業が対象となります。デジタル課税が適用された場合、収益の10%を超える利益のうち25%がサービスを消費する国に分配されます。
出典:OECD「国際社会がデジタル時代の画期的な租税条約を締結」
グローバルミニマム課税(ミニマムタックス)
グローバルミニマム課税とは、年間総収入金額が7.5億ユーロ以上の多国籍企業を対象として、一定の適用除外を除く所得について各国ごとに最低税率15%以上の課税を確保する仕組みです。OECDを中心とした約140の国・地域が合意し、2021年に課税ルールが定められました。
背景として、海外事業を展開するグローバル企業を中心にタックスヘイブンへ資産を移転する取り組みが横行しており、かつ昨今のデジタル化の発展によって企業の資産を容易に移転できるようになった経緯があります。
外国企業を誘致するために、国が法人税の引き下げといった優遇措置を設けるなど国際間での競争が過熱してしまい、各国の法人税収基盤が揺らいでしまったのも要因の1つです。
グローバルミニマム課税の導入によって、企業がいかなる場所で事業を行っていても、グローバルミニマム課税の対象となる場合には、負担すべき法人税の割合が最低15%に設定されました。
簡単なイメージになりますが、グローバルミニマム課税の対象となる日本企業に関して、その海外子会社の現地国での税負担が15%を下回る場合、日本の親会社において現地国での税率と15%との差額について課税がされるイメージになります。
現地の税制で5%の課税であったならば、日本において15%との差額である10%が課税されます(厳密には一定の計算がされるため実際の適用に関しては10%とは異なる数値となります)。
下図は、国税庁が提供している資料に掲載されている課税のイメージ図です。
有形資産と支払給与の一定割合は課税の対象から除外されるとしています。海外にある子会社が拠点や工場を備えており、従業員が実際に働いているといった実態があれば、日本での課税が少なくなる仕組みとなっています。
出典:国税庁「グローバル・ミニマム課税への対応に関する改正のあらまし」
タックスヘイブン税制に関する主な用語解説
用語 | 解説 | |
---|---|---|
外国関係会社 | 内国法人等が議決権等の50%超を支配する外国法人 | |
租税負担割合 | 外国関係会社の所得に対して課される租税割合(一定の調整計算あり) | |
ペーパーカンパニー | 以下のいずれにも該当しない外国関係会社 ① 実体基準 事業に必要な事務所、店舗、工場その他の固定施設を有していること ② 管理支配基準 本店所在地国においてその事業の管理、支配及び運営を自ら行っていること | |
キャッシュボックス | 配当・利子・使用料等の所得が総資産額の30%を超えており、かつ、有価証券・貸付金・無形固定資産等の帳簿残高が総資産額の50%を超えるもの等 | |
ブラックリスト国(地域) | 財務大臣が告示(現在は告示されていない) | |
経 済 活 動 基 準 | 1事業基準 | 主たる事業が株式の保有、無形資産の提供、船舶・航空機リース等でないこと |
2実体基準 | 本店所在地国においてその主たる事業を行うに必要と認められる事務所、店舗、工場その他の固定施設を有していること | |
3管理支配基準 | 本店所在地国においてその事業の管理、支配及び運営を自ら行っていること | |
4所在地国基準 | 主として本店所在国で事業を行っていること(下記の非関連者基準が適用される業種以外の業種に適用) | |
4非関連者基準 | 主として関連者以外の者と取引を行っていること(卸売業、銀行業、保険業など8業種に適用) | |
特定所得 | ①配当等 ②利子等 ③有価証券の貸付けの対価 ④有価証券の譲渡損益 ⑤その他の金融所得 ⑥有形固定資産の貸付けの対価 ⑦無形資産等の使用料 ほか |
まとめ
税率が低い、または税金がかからない「タックスヘイブン」と呼ばれる国や地域があります。企業や富豪はこういった地域を活用して税負担を軽減しようと試みますが、各国にとっては自国での税収が減ってしまうことになるため、OECDを中心として各国でタックスヘイブンを活用した租税回避行為への対策が取られています。
日系企業は、欧米企業に比べてタックスヘイブンを利用して積極的に租税回避するケースは多くありません。
むしろ、租税回避行為をするつもりはないのにも関わらず、買収した海外の子会社がタックスヘイブン対策税制の対象になっていることに気付かず、税務調査などで指摘されて追加で税金が発生するというケースもあります。
租税回避の意図がなかったとしても、税率の安い国に子会社がある場合は、タックスヘイブン税制の適用要件を満たしていないかを確認しておきましょう。