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【ベトナムの税務】ベトナム特有の税務論点について

“日本とつなぐ”ASEAN各国の税務・会計講座

Covid-19の影響が限定的となっている中、法人の海外進出の動きが再び強まっており、ベトナムが中心的な候補先になっていると感じます。一方で、ASEAN唯一の社会主義国であるため、他国では導入されていないような規制もあることから、今回はベトナム特有の税務論点を、特に法人関連の2つについて掘り下げて解説します。

 

※本稿は、三菱UFJリサーチ&コンサルティング株式会社の情報サイト「BizBuddy」寄稿記事の転載となります。

1.はじめに

本稿では、(1)外国契約者税、及び(2)持分譲渡益課税を取り上げます。その背景は下記の通りとなります。

(1)外国契約者税

外国の個人または法人が、ベトナムの個人または法人に対してベトナム国内でサービスを提供し、対価を得る場合に課される税金です。外国法人がベトナム国内(あるいは領域内)で経済活動を実施することによって課される可能性があることから取り上げます。

(2)持分譲渡益課税

ベトナムへの法人での進出形態としては、大別すると現地法人設立とM&Aの2つが考えられますが、足元M&Aの件数が増加している状況です。そのため、ベトナム法人を買収した際に発生するベトナム現地側が申告納税する税金である、持分譲渡益課税に留意すべきであることから取り上げます。

2.外国契約者税

(1)概要

  1. ベトナム国外の事業者(個人または法人)が、
  2. ベトナム国内の事業者(個人または法人)に対してサービスを提供し、その対価を得る際に、
  3. その対価に対してベトナム国内で課される税金のことです。

 

なお、課税対象となる国外の事業者にはベトナムに恒久的施設(PE)を有するか否かを問いません。

外国契約者税は、ベトナム事業での取引証憑となる契約書に着目した、事業者の申告漏れを防ぐためのベトナム独自の制度となります。

2.外国契約者税

出典:各種資料をもとに執筆者作成

 

(2)外国契約者税の構造

外国契約者税は所得税(法人または個人)と付加価値税から構成される税金です。
外国契約者税(FCT)=法人所得税(CIT)or 個人所得税(PIT)+付加価値税(VAT)
※適用税率は下記の通りサービス内容により異なります。

業種付加価値税率(%)法人税率(%)
物販販売サービス免税1
一般サービス(保険・リースを含む)55
資材または機械設備の供給を伴わない建設・据付き及び関連サービス52
レストラン・ホテル・カジノ管理サービス510
資材・機械設備の供給を伴う建設・据付け・輸送・製造32
航空機関連サービス・船舶リース52
利子免税5
ロイヤルティ免税10
デリバティブ取引免税2
証券譲渡・海外への再保険・再保険譲渡からのコミッション免税0.1
その他事業55

※付加価値税及び法人税の税率はみなし税率

出典:各種資料をもとに執筆者作成

 

・所得税(法人・個人事業者<非居住>)
ベトナム国内事業者の利益(所得)に対して課される税金となります。
・付加価値税
ベトナム国内において、事業者が対価を得て行う資産の譲渡やサービスの提供、物品の輸入に対して課される税金となります。

(3)留意点

外国契約者税は、ベトナムへの物品の販売(輸出)を行う場合、例えば、機械や設備の据付サービスを行うとき、ベトナム国内での運送・輸送サービスを行うときにも賦課されうる税金であることに留意が必要です(特に、保税倉庫を利用するときには注意が必要)。

また、契約書に税率の異なるサービスごとの金額が明記されていない場合は、実務上、契約全体に対して最も高い税率が適用される可能性があるため、契約書の記載方法にも留意しなければなりません。

3.持分譲渡益課税

(1)概要

法人がベトナム法人に係る出資持分の譲渡を行った場合において、譲渡益が出るときは、譲渡法人に法人税が課されますが、譲渡対象となったベトナム法人が譲渡法人に代わって税金を申告納税する責任を有します。

(2)持分譲渡益課税の計算方法

持分譲渡による課税所得は以下の算式により計算されます。
課税所得=持分譲渡収入-持分譲渡原価-譲渡費用

  1. 持分譲渡収入は、譲渡契約書に記載されている持分譲渡価格で、譲渡人が譲受人から実際に受けとる金額となります。
  2. 譲渡持分原価は、独立監査法人の監査結果または両当事者によって確認された会計帳簿等の金額で、通常の場合は企業登録証明書(ERC)に記録された譲渡人の譲渡対象となったベトナム法人に係る持分金額となります。
  3. 譲渡費用とは、合法的証書及び請求書に記載されている、譲渡に直接関連する実際の費用のことです。譲渡費用が海外で発生する場合、元証書(契約書、請求書、支払証明書など)は費用が発生する国の公証事務所、または独立監査法人によって証明されなければならず、ベトナム語訳が必要です。

(3)留意点

ベトナムでの持分譲渡益の計算は、当事者が持分譲渡契約書で合意した譲渡価格に基づいて決定されます。

しかし、税務機関が時価に比較して支払価格が適切でないと判断できる根拠がある場合に、譲渡価格を検査し決定する権限があることに注意する必要があります。

 

その際、譲渡価格は税務機関の調査材料や譲渡時点での同様の譲渡契約書等に基づき決定されることとなります。

税務機関による譲渡価格の確定が適切ではない場合は、規定により、譲渡時点で譲渡価格を決定する権限を有する専門鑑定組織の鑑定価格に基づいて、決定されます。

4.おわりに

ベトナムはCovid-19の環境下でも高い経済成長率を維持しています。

地政学リスクを勘案した製造拠点の移転先として、また、凡そ1億人規模の市場としても日本企業の進出先に選ばれるほど非常に魅力的な国と言えます。

 

一方で、社会主義国であり、事業ライセンスの取得、税制等に特別な取り扱いがあるため、進出に当たっては事前の調査が肝要となります。

今回ご紹介した税制は代表的なベトナム独特の制度ですが、皆様にとって日本とは違う社会制度がベトナムにはあるのだという気づきの一助となりましたら幸いです。

  • 大槻 達也

    監修者

    大槻 達也

    株式会社AGSコンサルティング
    国際部門長・税理士

    大手金融機関を経て、2004年にAGSグループに入社。国内税務、IPO、M&A、再生支援などの業務に広く関わるとともに、2010年から専門家の立場で大手金融機関への出向も経験。大阪支社副支社長を経て、2017年より国際事業部に合流。

    2020年より現職。税理士登録2006年。

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