海外取引の税務調査の傾向とは?データで見る最新トレンドや一般的な法人税調査との違い

海外取引の税務調査の傾向とは?データで見る最新トレンドや一般的な法人税調査との違い

企業の海外取引に対する税務調査の状況について解説しています。通常の税務調査との違いや実際にあった調査事例、移転価格対応の最新状況についても紹介します。海外取引への税務調査について調べている方は参考にしてください。

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近年の税務調査のトレンド

経済のグローバル化が進む中で、海外取引を行う企業が増え続けています。

財務省の「貿易統計」によれば、約30年前の1990年には41.5兆円だった年間輸出総額は、2023年には2倍以上の100.9兆円まで増加しています。

年間輸出総額の推移

出典:中小企業庁「2024年度 中小企業白書 第1部第3章第8節 海外展開」

当局は海外取引を重要視している

企業の海外取引の増加に伴い、近年、税務調査においても、海外取引が重点的なテーマとして取り上げられるようになりました。

国税庁が毎年の活動内容をまとめる「国税庁レポート」でも、近年は必ず、調査において重点的に取り組んでいる事項の一つとして「海外取引」が挙げられるようになりました。

(1)調査において重点的に取り組んでいる事項
~ 資産運用の多様化・国際化を念頭に置いた調査を実施 ~
増加する海外への投資や海外取引などについて、国外送金等調書をはじめとする資料や海外当局との租税条約等に基づく情報交換制度のほか、共通報告基準(CRS)によって得た情報を効果的に活用して実態解明を行い、深度ある調査を実施しています。
引用:国税庁「国税庁レポート2024 IV 適正・公平な課税・徴収」

後ほどくわしく紹介する、法人税の税務調査の公表事績においても、主要な取り組みとして、「消費税還付申告法人」「無申告法人」と並んで、「海外取引法人等」がピックアップされています。

いわば、企業の海外取引は、税務調査で最も取り上げられやすいポイントの1つといえるでしょう。

最新の税務調査の件数と傾向

国税庁や国税局は、毎年11月~12月に、1年間の税務調査の実施件数などを取りまとめて公表しています。

この記事で使用するデータについて

この記事で使用しているデータは、注記がない限り、「令和5事務年度(2023年7月~2024年6月) 法人税等の調査事績の概要(東京国税局)」を基にしています。

法人税調査は年1.5万件(東京国税局)

まずは、国内取引も含む、法人税の実地調査全体のデータです。

 

令和5事務年度 

前年度比 

実地調査 

14,670件 

96.6% 

非違があった件数 

11,523件 

98.4% 

申告漏れ所得金額 

4,752億800万円 

131.7% 

非違1件当たりの 

申告漏れ所得金額 

4,124万円 

 

 

追徴税額 

987億9,600万円 

122.3% 

調査1件当たりの 

追徴税額 

673万5,000円 

126.6% 

表にある「非違」とは、申告漏れや所得隠し、脱税など、何らかの申告の誤りを指します。

東京国税局管内(東京・千葉・神奈川・山梨)では、2023年7月~2024年6月に、法人税の申告内容に対して14,670件の実地調査が行われ、そのうち11,523件で、非違が指摘されました。

非違指摘割合は78.5%で、いったん調査官がやってきたら、約5件中4件が何らかの非違を指摘されたことになります。

さらに、非違があった場合、1件当たりの追徴税額の平均は673万5,000円となっており、企業にとって非常に重いペナルティーであることがわかります。

1件当たり申告所得金額が増加

近年の調査件数の推移をみると、新型コロナウイルスが流行した2020年頃から調査件数が激減し、その後、社会の脱コロナに伴い、実地調査の件数も戻りつつあります。

コロナ禍においては、オンラインでの面談などを含めたリモート調査などの取り組みも行われましたが、あくまで実地調査がメインであることは変わらないようです。

【法人全体】法人税の実地調査

また、申告漏れ所得金額の推移を見ると、おそらく特定の個別案件の影響で伸びた2017~2018事務年度を除き、長く減少傾向にあったところが、コロナ禍中の2021年以降は、増加に転じています。

1件当たりの申告漏れ所得金額も、コロナ禍前は1千万円台で長く推移していましたが、コロナ禍以降、3千万円以上に急増しています。

【法人全体】申告漏れ所得金額と1件あたりの申告漏れ所得金額

また、コロナ禍以降、非違割合も微増傾向にあります。

かつては7割程度を横ばいで推移していた非違指摘割合が、ここ数年は約8割に増加しています。

実態はわかりませんが、1件当たりの申告漏れ所得金額や、非違指摘割合が増加している背景としては、いくつかの要因が考えられるでしょう。

  • 公務員の人員削減や、取引の高度化・複雑化により、当局が実地調査に充てられる人的・時間的リソースが減ったことや、コロナ禍で実地調査件数を絞るにあたって、非違の可能性や申告漏れ所得金額が高い案件をピックアップして調査するようになったため
  • AIの活用や各種調書情報などの充実により、調査先選定段階で非違を指摘できる可能性や申告漏れ金額を予測する確度が高まったため

海外取引に対する税務調査の件数と傾向

 令和5事務年度 前年度比 
実地調査 3,668件 100.0% 
海外取引等に係る非違があった件数 993件 105.9% 
海外取引等に係る申告漏れ所得金額 1,877億500万円 122.1% 
非違1件当たりの 

申告漏れ所得金額 

1億8,903万円  

 

東京国税局管内(東京・千葉・神奈川・山梨)では、2023年7月~2024年6月に、海外取引に対する法人税の実地調査が3,668件の実地調査が行われました。

非違を指摘されたのは、そのうち993件で、非違指摘割合は27%です。追徴税額のデータは発表されていませんが、海外取引等に係る非違1件当たりの申告漏れ所得金額は1億8,903万円でした。

なお、近年の推移をみてみると、法人税調査全体と同様、2020年以降のコロナ禍で調査件数が激減し、その後、戻りつつある状況です。

また、こちらでも、全体データにあった「非違指摘割合が微増」という傾向が見てとれます。

【海外取引法人】法人税の実地調査

同様に、1件当たりの申告漏れ所得金額の推移をみても、コロナ前は約1億円だったところが、コロナ禍以降では1億円台後半にまで増加しています。

【海外取引法人】申告漏れ所得金額と1件あたりの申告漏れ所得金額

海外取引に対する税務調査でも、コロナ禍を経て、1件当たりの申告漏れ所得金額や、非違指摘割合が高くなっていることを認識しておきましょう。

海外取引調査は1件当たりの申告漏れ所得金額が大きい

最新の法人税調査全体のデータと、海外取引に限定した調査のデータを比べてみると、注目点が2点あります。

  • 実地調査の件数のうち、非違が指摘された割合
  • 非違が指摘された1件当たりの申告漏れ所得金額

まず、非違が指摘された割合をみてみると、以下のようになっています。

法人税の実地調査(全体) 

海外取引法人等に対する実地調査 

78.5% 

27.0% 

一般的な調査では、ひとたび実地調査が行われると約8割で何らかの非違が見つかるのに対して、海外取引への税務調査では、非違指摘割合が約3割と、著しい乖離があります。

これは、海外取引に対する調査では、10件に7件は申告内容が是認されて終わるということです。海外取引に限っていえば、税務調査の事前連絡が来た時点で何らかの追徴を覚悟しなければならない、という考えは当てはまらなさそうです。

しかし、このデータで安心するのは早いでしょう。次に、非違が指摘された場合の、1件当たりの申告漏れ所得金額をみてみます。

法人税の実地調査(全体) 

海外取引法人等に対する実地調査 

4,124万円 

1億8,903万円 

ひとたび非違が指摘されると、海外取引に対する調査では、一般的な調査の実に4倍以上の申告漏れ金額が指摘されています。

海外取引に対する税務調査では、非違を指摘される割合は一般的な調査よりも低いものの、非違を指摘されると申告漏れ金額が極めて高額になるということがいえます。

海外取引に対する税務調査の事例

海外取引法人に対する税務調査では、どのようなポイントが見られるのでしょうか。実際にあった調査事例を2つ紹介します。

SBGが939億円の申告漏れを指摘された事例

国内通信大手のソフトバンクグループ(SBG)は、2013年に米携帯電話大手のスプリントを、2014年に米携帯卸売大手のブライトスターを買収しました。

2社は、税率の著しく低いバミューダ諸島に子会社を置き、保険料の一部が子会社に入る仕組みで利益を上げていましたが、当時のSBGは、企業規模の拡大や新規市場の開拓のためにM&Aを繰り返していたことから、一つひとつの税務処理にまで気が回らず、2社の税務処理を放置していました。

悪意のある申告漏れではなく、見落としによるミスでしたが、国税当局は、これらの税務処理を、タックスヘイブン(租税回避地)を利用した税逃れだと認定。SBGは、約939億円の申告漏れを指摘され、追徴税額は約37億円に上りました。

このほか、法人の海外取引を巡っては、以下のようなケースが、実際に発生しています。

非違内容 

申告漏れ所得金額 

経済活動の実態がない海外子会社に、外国子会社合算税制を適用 

約9億8千万円 

国外グループ会社に対し、仕入れ価格を高く設定して利益移転 

約4億2千万円 

過大支払利子税制を適用し、関連者等に対する支払利子の一部を損金不算入 

約1億7千万円 

 

出典:日本経済新聞2018年4月18日「ソフトバンクG、939億円申告漏れ」
出典:国税庁「令和5事務年度 法人税等の調査事績の概要」

遅延損害金を源泉徴収漏れした事例

税務調査の対象となった法人は、X国に住むAからの借入金を期限までに返済できず、Aから訴訟を提起されました。

その後、借入金に加えて、遅延損害金を支払うことで和解しましたが、その支払いの際に源泉徴収を行っていませんでした。

遅延損害金は、源泉徴収の対象となる「借入金の利子」に該当します。

この法人には、600万円の追徴税額が課されました。

遅延損害金を源泉徴収漏れした事例

海外関係者への支払いに伴う源泉徴収漏れは頻繁に発生しており、過去には以下のようなケースがあります。

非違内容 追徴税額 
外国法人に支払った人的役務提供事業の対価に係る源泉徴収漏れ 約2千万円 
外国法人に支払った使用料等に係る源泉徴収漏れ 約5千万円 

出典:国税庁「令和5事務年度 法人税等の調査事績の概要」

移転価格税制の相互協議に要注意

海外取引を巡る近年のトピックとして外せないのが、「移転価格税制」と、その問題解決のために行われる「相互協議」です。

海外グループ企業との取引に、移転価格税制を適用された場合、日本と相手国で二重に税を課されるリスクが生じます。

それを解決するために相互協議が行われるのですが、相互協議には多大な時間がかかり、企業にとって大きな負担となっている実態があります。

移転価格税制と相互協議とは?

日本にある本社と、海外にあるグループ企業との間で行われる取引における取引価格を「移転価格」といいます。

ただ、グループ間取引では、価格を自由に設定できるため、一般的な相場より価格を著しく高くしたり低くしたりすれば、いくらでも利益移転が可能となってしまいます。

そのため、価格調整によって税収を減らすこととなった国は、移転価格税制を適用することで、独立した第三者との取引であれば設定されたであろう価格(独立企業間価格)に引き直し、所得を調整して、その差額に課税するのです。

しかし、企業グループ全体にとってみれば、移転価格税制を適用された場合、すでに海外関係会社が現地で納税を済ませているにもかかわらず、本国で再び課税されることになります。二重課税が発生するわけです。

そこで、このようなケースでは、企業からの申し立てに基づいて、二国の税務当局が「相互協議」を行い、納め過ぎた税額を還付する仕組みが講じられています。

相互協議の発生件数の最新データ

 

事前確認 

移転価格課税 

その他 

合計 

発生 

167 

36 

9 

212 

処理 

158 

53 

8 

219 

繰越 

595 

124 

16 

735 

出典:国税庁「令和5事務年度の「相互協議の状況」について」

令和5事務年度(2023年7月~2024年6月)の相互協議の新規発生件数は212件(前事務年度比70%)でした。

そのうち、事前確認に係るものは167件(79%)、移転価格課税その他に係るものは45件(21%)でした。

事前確認とは、実際に海外取引を行う前に、移転価格税制を適用されるリスクがあるかどうかを、税務当局に問い合わせる制度です。

移転価格税制をひとたび適用されてしまうと、多大な税負担が発生し、相互協議によって解決するにしても長い時間がかかるため、企業への救済措置として設けられています。

ただ、事前確認であっても、相当の時間がかかってしまうという課題がある点は否めません。

事前確認の件数をみると、新たに発生した167件に対して、年間で158件しか処理しきれておらず、翌事務年度への繰越が9件発生しています。

このように案件が積み重なった結果、トータルの繰越件数は595件に上っています。

相互協議はさらなる長期化の恐れも

移転価格課税等の相互協議事案の発生および処理件数

直近10年間の推移をみると、相互協議の発生件数は、おおむね横ばいとなっています。

同様に、年間の処理件数もほぼ横ばいですが、その実績は、発生件数には追い付いていません。

その結果、毎年少しずつ繰越が発生し、繰越件数が徐々に増加する状態となっています。2023事務年度にはやや繰越件数が減少しましたが、高止まりしていることに変わりはありません。

ボトルネックとなっているのは、処理事案1件にかかる期間の長さです。

事案1件当たりに要した平均処理期間

事前確認 

35.8ヵ月 

移転価格課税その他 

21.5ヵ月 

全体 

31.8ヵ月 

全体でも平均2年半、事前確認に限定すれば3年弱かかることになります。

移転価格税制適用後であれば、その間納め過ぎた税金が還付されず、事前確認であっても取引を3年間待たされると考えれば、その負担の大きさは相当なものであることが想像できます。

しかも、上記の数字は、あくまで二国間の協議がスムーズに進むOECD(経済協力開発機構)加盟国を相手取った相互協議を含むデータです。

これが、OECD非加盟国・地域との相互協議になると、その処理期間は、さらに長期化せざるを得ません。

事案1件当たりに要した平均処理期間(OECD非加盟国・地域) 
事前確認 63.5ヵ月 
移転価格課税その他 20.8ヵ月 
全体 42.2ヵ月 

OECD非加盟国を相手にした事前確認では、回答を得るまでに実に5年以上が必要となります。

なお、OECD非加盟国には、インドネシアやシンガポール、中国、ベトナムといった、日本にとって非常に重要な取引相手が多く含まれており、決してレアケースではありません。

相互協議繰越事案の相手国・地域(令和5事務年度末)

 

米州 

アジア・大洋州 

欧州・アフリカ 

OECD 

加盟国 

カナダ 

米国 

メキシコ 

オーストラリア 

韓国 

アイルランド 

米国 

韓国 

イスラエル 

メキシコ 

イタリア 

英国 

オランダ 

スイス 

スウェーデン 

スペイン 

デンマーク 

ドイツ 

ハンガリー 

フィンランド 

フランス 

ベルギー 

ルクセンブルク 

OECD 

非加盟国 

地域 

 

インド 

インドネシア 

シンガポール 

タイ 

台湾 

中国 

ベトナム 

香港 

マレーシア 

南アフリカ共和国 

ルーマニア 

今後、さらに繰越件数が増加していけば、解決までにかかる期間はさらに長期化していく恐れも否定できないでしょう。

とはいえ、それを踏まえても、移転価格税制による二重課税リスクを避けるためには、事前協議を有効活用していくしかなさそうです。

出典:国税庁「令和5事務年度の「相互協議の状況」について」

まとめ

近年、経済のグローバル化を受けて、国税庁の活動方針においても、税務調査の重点項目として「海外取引」が取り上げられています。

海外取引に対する税務調査は、一般的な調査よりも非違を指摘される確率は低い一方で、非違があれば、申告漏れ所得金額が平均4倍以上に上る点を認識しておきましょう。

近年は、グループ間取引を巡る移転価格に課税する「移転価格税制」が注目されています。二重課税リスクを解消するには、長い時間がかかりますが、想定しない課税を避けるために、事前協議を活用しましょう。

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監修者

  • 八鍬 信幸

    株式会社AGSコンサルティング
    ASTHOM事業部長 兼 マレーシア支社長・日本国税理士資格保有者

    八鍬 信幸

    大学卒業後、KPMG税理士法人(国際部)に入社し、外資系企業向けの税務アドバイザリー業務に従事。 2014年 AGSコンサルティングシンガポール社に入社し、日系企業の海外進出コンサルティング業務に従事。

    2017年からAGSマレーシアの立ち上げを担当し、現在はマレーシア支社長として、ASEANを中心にクロスボーダーM&Aも含めた日系企業の海外進出をサポートしている。