事業を営む法人や個人には、税務署から税務調査の連絡が来ることがあります。「税務調査」という言葉は知っていても、何をするのかはよくわからないのではないでしょうか。必要以上に恐れることはありませんが、事前の備えは重要です。今回は、税務調査の種類や内容、備えておきたいポイントを解説します。
目次
- 税務調査とは
- 税務申告が正しくされているかの調査
- 「個人」も調査対象
- 税務調査の種類
- 強制調査
- 任意調査
- 税務調査の対象になる確率
- 税務調査の対象になりやすい法人の特徴
- 事業規模が大きい
- 売上や利益が大きく変動している
- 不正が多い業種
- 過去の税務調査で指摘を受けている
- 税務調査対象になりやすい個人の特徴
- 税務申告をしていない
- 売上が大きく増加している
- 申告内容に不審な点がある
- 税務調査の流れと確認されやすいポイント
- 税務調査の流れ
- 確認されやすいポイント
- 税務調査の対象になったときの対策・備え
- 税務調査を過度に恐れる必要はない
- 顧問税理士と事前に打ち合わせをしておく
- 質問には正直に答え、あいまいな回答は避ける
- 質問されたことにのみ答える
- 留置きに備えて必要な書類をコピーしておく
- 税務調査で申告の誤りを指摘された場合の対処法
- 修正申告
- 更正の請求
- まとめ
税務調査とは
税務調査とはなにか、またその目的や調査対象について解説します。
税務申告が正しくされているかの調査
税務調査とは、国税庁が管轄する税務署などによって、納税者が正しく税務申告(確定申告)を行っているかを調査することです。
法人税や所得税をはじめとする多くの税金は、納税者(法人、個人)が自ら税額を計算して申告・納付する「申告納税制度」が採用されています。税額の計算ミスや虚偽の申告の可能性もあるため、不正行為の防止や申告内容の確認を目的に税務調査が行われています。
「個人」も調査対象
税務調査の対象は法人だけではありません。確定申告が必要な人であれば、個人も調査対象となります。
会社が代わりに納税の手続きをしているサラリーマンについては、基本的に税務調査の対象にはなりません。ただし、会社の給料とは別で副業によって収入を得ている場合、調査が入る可能性は十分に考えられます。給与の収入金額が2,000万円超の人、2か所以上から給与の支払を受けている人、給与の全部について源泉徴収されていない人、給与所得及び退職所得以外の所得金額が20万円超の人は、確定申告をして所得税を納めなければなりません。
たとえば、フリマサイトで手作りした商品を販売して得た収入や、ブログやYouTubeなどの広告収入などは、副業収入に含まれます。
税務調査によって副業の確定申告を怠っていたことが発覚すると、本来支払うべきだった税金に加え、ペナルティとして加算税や延滞税も支払わなければなりません。税務調査は5年前まで(偽り、その他不正があった場合は7年前まで)さかのぼることができるため、「申告していないが、今年は調査が来なかったから大丈夫」と安心していると、後でペナルティを課せられる可能性があります。
そのため、副業をはじめとした所得(給与所得及び退職所得以外の所得金額)が20万円を超えた場合は必ず確定申告を行い、確定申告が必要かどうか判断できない場合は、税務署に問い合わせて確認しましょう。
税務調査の種類
強制調査
国税局査察部が裁判所の令状を持って、強制的に行う税務調査です。脱税の疑いがある納税者が対象で、「脱税額が1億円を超える」「脱税の隠蔽工作が悪質」といった場合に実施されます。
強制調査の場合、納税者は税務調査を拒否できません。
任意調査
脱税の疑いがない、多くの法人・個人が対象の税務調査です。任意調査は税務署から電話で訪問日時などの連絡が入るため、突然訪問されることはありません。電話での事前通知が困難な場合は、通知書が届きます。
調査官(税務署の職員)には「質問検査権」が認められており、正当な理由なく帳簿書類の提示などの要求に応じない場合には罰則があります。
税務調査の対象になる確率
国税庁長官の講演レポート「税務行政の現状と課題」によると、令和元年に税務調査の対象となった法人は全体の2.4%、税務調査の対象になった個人は、税額のある申告を行った人のうち0.9%でした。
法人は40社に1社、個人は100人に1人程度と確率は高くないものの、税務調査の対象になる可能性は誰しもにあると考えられます。
税務調査はあくまで「調査」のため、脱税が疑われる会社だけでなく、毎年正しく申告している会社でも調査対象になることがあります。調査対象に選ばれたとしてもネガティブに捉える必要はないため、落ち着いて対応しましょう。
引用元:TKCグループ公式サイト「TKCタックスフォーラム2021 講演 税務行政の現状と課題」
税務調査の対象になりやすい法人の特徴
事業規模が大きい
一般的には、売上や利益が大きい法人ほど多くの税金を納めています。
申告内容に誤りがあると納めるべき税額が大きく変わるため、税務署にとっては注意すべき存在となります。
売上や利益が大きく変動している
直近の年度に比べて売上や利益が大きく変動している法人も、調査対象になりやすい傾向にあります。黒字に転換したり、利益が大幅に増加(減少)したりした場合は要注意です。
不正が多い業種
国税庁の「実地調査の状況」 によると、風俗業や飲食店(バー、大衆酒場など)、廃棄物処理といった業種で不正発見の割合が高くなっています。
これらの業種に属する法人は、税務署が「調査必要度が高い」と位置付けています。
過去の税務調査で指摘を受けている
過去に申告漏れなどの指摘を受けた場合、税務署から申告内容の誤りや不正がないかを疑われやすくなります。
過去の指摘事項を遵守しているかを確認する必要もあるため、調査対象になりやすいといえます。
税務調査対象になりやすい個人の特徴
税務申告をしていない
個人事業主の場合、「事業が忙しい」「税金のことがわからない」といった理由で税務申告をしていないケースがあります。
「申告しなければ目をつけられない」と考えるのは危険です。取引先に税務調査が入れば自身との取引金額が明らかになるので、税務署から申告漏れを疑われてしまいます。
売上が大きく増加している
売上が大きく増加している個人に申告内容の誤りがあれば、本来納めるべき金額より少ない税額を申告・納付しているかもしれません。
税務署も人員が限られるため、売上が大きく増加し修正申告の可能性が高い個人を優先する傾向にあります。
申告内容に不審な点がある
税務調査の対象になりやすい個人は、申告内容に不審な点があるのも特徴です。
たとえば、「確定申告書と取引先の支払調書で取引金額に差異がある」「売上に対して経費が多すぎる」といったケースです。不審な点があれば確かめる必要があるため、税務調査に入る可能性が高くなります。
税務調査の流れと確認されやすいポイント
税務調査の流れ
一般的な税務調査(任意調査)は以下の手順で実施されます。
- 調査通知
- 事前通知
- 事前準備
- 調査
- 調査終了の手続
税務調査を実施する2~3週間前に、税務署から調査日時について連絡が来ることが一般的です。指定された日時での対応が難しい場合は、税務署に相談して日程調整を行います。
日程が決まったら必要書類をそろえて印刷し、顧問税理士がいる場合には打ち合わせを行うなど、調査をスムーズに受けられるように準備を進めましょう。
調査当日は会社の事業概要等について聞かれ、その後1日~3日ほどかけて書類の確認作業が行われます。調査の結果、特に更正処分等をすべきなどの問題がなければ書面での通知が届いて終了です。
一方、調査の結果、是正すべきとされる事項がある場合には、国税当局は納税義務者に対し、その内容を原則として口頭により説明する必要があります。そして、本来納めるべき税額が不足していると指摘された場合や、不正に税額が計算されていた場合などには、修正申告と追徴税額の納付を行わなければなりません。指摘に納得がいかない場合は、その理由と根拠を明らかにしたうえで交渉することも可能です。
確認されやすいポイント
売上
「計上漏れがないか」「計上時期に誤りがないか」といった点を見られます。売上に関連する費用や現預金の動きなどから、売上を過少に申告していないかを確認されます。
また、今期の売上を翌期以降に計上していないかもチェックポイントです。
仕入
「架空仕入がないか」「計上時期に誤りがないか」といった点が見られます。実際には存在しない取引を仕入として帳簿に記載すれば、課税所得の減少により納める税額が減るからです。翌期の仕入分を今期に計上してないかなど、計上時期についても確認されます。
棚卸資産
「評価方法が正しいか」「実地棚卸が行われているか」「計上漏れはないか」といった点を見られます。
棚卸資産は課税所得への影響が大きく、不正の手段に使われることがあるからです。帳簿や棚卸表をもとにチェックされ、事業内容によっては倉庫などを確認されることもあります。
交際費
本来交際費に該当する取引を、ほかの科目で処理していないかを見られます。法人の交際費は一部が損金(税務上の費用)にならないので、課税所得を減らすためにほかの科目で処理をするケースがあるからです。
個人の場合は家族や友人との飲食代など、事業と無関係の支出を交際費に計上していないかを確認されます。
人件費
従業員名簿やタイムカードで「従業員は存在するか」「架空の人件費が計上されていないか」といった点が見られます。
法人の場合は、定款や株主総会議事録などから「役員報酬や退職金は過大ではないか」「事前確定届出給与の届出はされているか」といった点もチェックされます。
税務調査の対象になったときの対策・備え
税務調査を過度に恐れる必要はない
意図的に不正行為をしていなければ、税務調査を過度に恐れる必要はありません。申告内容の誤りを指摘されても、悪質なものでなければ罰せられることはなく、基本的には修正申告のみで済みます。
顧問税理士と事前に打ち合わせをしておく
必要書類や税務調査の流れ、対処方法などについて、事前に顧問税理士と打ち合わせをしておきましょう。顧問税理士は事業内容や経理・納税の状況を把握しており、税務調査に立ち会う機会も多いので、アドバイスを受けられます。調査当日は、質問の内容によっては税理士に回答を任せることも可能です。
質問には正直に答え、あいまいな回答は避ける
税務調査で質問されたことには、正直に回答しましょう。その場でわからない場合は、きちんと調べてから後日回答しても問題ありません。あいまいな回答をすると、調査官に不信感を与える可能性があるので注意が必要です。
質問されたことにのみ答える
税務調査では、質問されたことにのみ答えるのも重要なポイントです。聞かれていないことまで話してしまうと、その内容から何らかの疑いをかけられる可能性もあります。余計なことは話さないように注意しましょう。
留置きに備えて必要な書類をコピーしておく
留置きとは税務調査で必要がある場合に、調査官が納税者の承諾を得て帳簿書類などを預かることです。業務に必要な書類を税務署が預かることになれば、仕事に支障が出てしまいます。重要な書類は、事前にコピーしておくと安心です。
税務調査で申告の誤りを指摘された場合の対処法
修正申告
過去に提出した申告書を、正しい内容に修正する手続きです。税務調査で税額を実際よりも少なく申告をしていたと判明した場合は、修正申告をして不足分の税額を納めます。
納期限を過ぎているため、不足分の税額に加えて延滞税や過少申告加算税、重加算税がかかることがあります。税務調査の多くは、修正申告をして終了となります。
更正の請求
税務調査の結果、税金を納めすぎていることが判明した場合は更正の請求が可能です。
更正の請求とは、税金を納めすぎたときに税務署に対して正しい税額に訂正することを求める手続きです。税務署に請求内容が認められれば、税金の還付を受けられます。
更正の請求ができる期間は、原則として法定申告期限から5年間です。ただし、税務調査を受けて更正の請求を行うケースは少ないでしょう。
まとめ
税務調査の内容や確認すべきポイントについて解説しました。
税務調査を乗り切るには、普段から適切な処理を心掛けて正しく税務申告をすることが大切です。もし税務調査の連絡が来たら、顧問税理士と連携しながら必要書類をそろえ、質問に回答できるよう準備を進めましょう。
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