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現場の税理士がよくある事例を解説!国際税務の基礎知識

現場の税理士がよくある事例を解説!国際税務の基礎知識

企業の国際的な事業活動が増えるにつれ、国際税務というワードを目にする機会が増えてきました。本コラムでは、国際税務の現場で活躍する税理士の大槻達也さんに、国際税務の基礎知識について解説してもらいます。

国際税務とは?

国際税務とは、国境をまたぐ事業活動や組織再編に関連して発生する課税関係への対応を総称するものです。法人税法などとは異なり、法律に定義のあるものではありません。

 

国内外企業間の事業形態が日々変化していくなか、国際税務に関連する法令も日々新規制定・改正されており、高度で複雑な分野となっています。

 

国際税務の頻出事例 日本の企業が陥る”よくある”落とし穴

国際税務への対応が必要となる代表的な事例として、組織再編をはじめとするクロスボーダーM&Aがあります。例えば海外への投資決定を行うにあたり、現地での税務や会計の適正性・妥当性を意識するかと思いますが、同時に日本側のタックスヘイブン対策税制への対応が必要か、検討が求められます。

 

近年では大企業だけでなく、中小企業もASEANを中心としたアジア各国へ投資を進めています。この地域には基本的な税率や優遇税制などを勘案するとタックスヘイブン対策税制の対象となる国が多く存在しているため、租税回避目的がないからといって未対応のままでいると、事後的に税務調査で適用要件に対する認識のズレやドキュメンテーションの不備などを指摘され、課税されるリスクがあります。

 

また、M&Aによりグループとなった海外の関係会社とグループ内取引が発生する場合や、既存製品の製造を新たに行わせる場合など、商流や製造機能の見直しを行うような時には、PMIの一環として移転価格税制への対応も必要になってきます。

 

その他のよくある例としては、海外子会社などへの従業員の派遣も挙げられます。出向者の給与の一部を日本の親会社が負担する場合が多く見受けられますが、この支出は日本の法人税の計算上、国外関連者への寄附金として取り扱われ、原則として損金算入が認められません。知らずに損金算入していると、税務調査時に指摘され、追徴課税のリスクがあります。

 

また、日常的な取引の観点からは、海外現地と日本側の両面的な税務に対応しきれていないケースが多く見受けられます。例えば、国外へのロイヤリティの支払い時に日本側で源泉税を徴収し忘れてしまったりする場合があります。外国子会社から配当金を吸い上げる際などには、日本側での益金不算入となる側面ばかりを意識し、海外現地での源泉税を徴収し忘れていたという事例もあります。そもそも取引相手の国との間に租税条約はあるのか、外国での納税額は日本側で外国税額控除の対象となるのかといった検討も求められ、国内法を中心とした税務顧問だけでは対応しきれないのが実情です。

 

税理士の視点から解説する、今押さえておきたい重要な7つのトピックス

国際税務の基礎を知るには、次の7つのトピックスを押さえておきましょう。

 

1. 租税条約

租税条約とは、課税関係の安定、二重課税の排除、そして脱税および租税回避への対応を目的とした二国間条約です。

 

日本は2021年3月1日現在、142の国・地域と租税条約や情報交換協定などの租税条約ネットワークを形成しています。租税条約を活用することにより税負担を軽減することが可能となりますが、そのためには国税への届出など、適正な手続きが必要です。

 

手続き時には取引先に協力いただく必要もあるため、早期の確認・着手が肝要となります。

 

2. 外国税額控除

外国税額控除は、国際的な二重課税を排除する目的で設置された国内法の規定です。

 

日本企業は国内源泉所得と国外源泉所得のいずれについても日本へ納税義務を負います(全世界所得課税)が、国外源泉所得は現地でも課税対象となることがあり、日本との間に二重課税が生じます。

 

そこで外国で納付した税額について、一定の要件のもと、法人税額の計算上、税額から控除するという計算方法です。

 

3. タックスヘイブン対策税制

タックスヘイブン対策税制は、軽課税国にある子会社などの所得を日本の親法人の所得に合算して課税する、租税回避防止のための制度です。

 

平成29年度税制改正で要件が強化され、適用除外となるための証明責任を企業側が負うこととなりました。海外に子会社などを設置する場合には、ペーパーカンパニーでないことの証明や、経済活動基準を満たしていることを証明する資料を準備しておく必要があります。

 

税務調査時に国税当局から提出を求められた際にこれらの書類を提出できないと、推定課税を受ける可能性があります(合算課税の適用を受ける可能性があります)。

 

4. 移転価格税制

企業が海外の関連法人と取引を行う際に、その価格(移転価格)を通常の取引価格(独立企業間価格)と乖離した金額に設定すると、意図的に一方の利益を他方に移転することが可能となります。

 

移転価格税制は、このように所得が国外に移転していると認められる場合に、その取引価格を独立企業間価格に引き直して算定することにより、国際的な税の振り分けのゆがみを取り除く目的で設けられたものです。

 

最も注目を集めるトピックの1つであり、タックスヘイブン対策税制と並び、近年規制強化の動きがあります。また、ロイヤリティの有無、回収漏れなどについても留意が必要となります。

 

5. 国外関連者寄附金

日本の法人税法上、海外出向者の給与については、海外現地法人がその全額を負担することが原則な考えとなっています。

 

日本法人が出向者の給与を負担する時は、その負担額は原則として、国外関連者への寄附金として全額課税されることとなります。

 

日本の法人税の計算上、損金算入が認められるためには、海外勤務規程などの整備、適正額の分析、そしてこれらの事前の文書化を通して、費用負担の合理性を担保することが求められます。

 

6. 源泉所得税

源泉所得税は税の徴収方法の1つです。支払者がその支払い時に税金を差し引いて、受取人のために国税当局へ納付するものです。

 

国際税務の観点からは、日本法人が非居住者へ課税対象の支払いをする際に、非居住者に代わって日本へ納税するために、源泉徴収する義務を負います。原則として非居住者の税率20.42%が適用されますが、多くの場合は租税条約で軽減税率が設定されているため、その都度租税条約を確認し、必要書類を提出することが求められます。

 

逆に、日本法人が外国から支払いを受ける際には外国側で源泉徴収されますので、日本側では法人税の申告時に、二重課税除去のために外国税額控除を申告するなどの対応が求められます。

 

7. 過少資本税制

過少資本税制は、日本法人が外国の関連会社から資金調達を受ける場合で、出資と貸付の比率が一定割合を超えた時に、貸付に係る支払い利子の損金算入を認めない制度です。

 

これは、仮に資金調達が出資の形態をとる場合、配当として日本法人から支払われる額は法人税の計算上、損金算入が認められませんが、貸付に係る利子は損金算入が可能なため、不当に大きな貸付が租税回避目的として悪用されることを防ぐためです。

 

同趣旨の制度が先進国で比較的よく見られるため、進出国側に同様の制度がないかの確認も肝要となります。

 

国際税務を専門とする税理士へ相談するメリット

すでに税務担当者や税務顧問のいる企業であっても、国際的に事業を展開している場合には、国際税務を専門とする税理士へ相談することが理想的です。国際税務の領域は非常に複雑であり、国内税法に精通した税理士であっても、国際税務の領域には対応しきれないというケースがよく起こってしまうためです。

 

例えば2019年には、某大企業がタックスヘイブン対策税制への未対応などから数100億円の申告漏れを指摘されました。クロスボーダーM&Aで急激に事業拡大を行っていた当該企業には税務顧問団がいたことと思いますが、それでも対応漏れが出てしまうのが国際税務の領域なのです。

 

海外における事業活動が好調である場合、国際税務を意識せずに進めているケースも多く見受けられますが、あえて専門家に依頼をしてリスクを可視化させる必要はない、対策は事後的でも問題ないと考える会社もあるかもしれません。しかしながら、国際税務はつまるところ、日本の法人税、消費税、所得税などの納税義務につながるものです。適切な納税を果たさずにいると、税務調査での指摘を受けるのはもちろんのこと、本税の納付だけでなく、延滞税や利子税、さらには重加算税まで課されるリスクがあります。

 

上場会社については株主への説明義務も発生し、企業のレピュテーションリスクを高める結果となってしまいます。国際税務領域に精通した税理士に相談することは、こうしたリスクの抑制・回避につながります。

 

どのような基準で専門家を選定すべきか

国際税務の専門家を選定する際の基準の1つとして、過去の事例や、国際税務案件のクライアント件数を見てみるとよいでしょう。国際税務という税理士の試験科目は存在しないため、いかにこの分野での経験があるかが大切な指標になります。例えば、移転価格の税務調査対応をしたことがある会計事務所・税理士法人の場合、国税庁がどのような点を指摘するかを実践的に理解しているため、ドキュメンテーションを支援する際にポイントを押さえたアドバイスを提供することが可能です。また、大手会計事務所・税理士法人での国際税務の経験がある税理士がいるか、海外勤務の経験がある税理士が在籍しているか、税務調査対応経験があるかなど、専門家個々人の経歴に注目してみるのも1つの手段です。

 

加えて、その会計事務所・税理士法人の海外拠点や海外のファームとの提携の有無も判断基準の1つとなります。ここで注意しなければならないのが、日本国内の税務面も信頼できる専門家かを見極める必要があるという点です。昨今では国際税務領域への強みをうたう会計事務所・税理士法人が増えており、海外とのネットワークを強調する専門家も少なくありません。そうした場合、蓋を開けてみると、日本国内の拠点を担当できる専門家は数名しかいなかったということもあるため、国内外どちらも信頼できる会計事務所・税理士法人かを確認しましょう。

 

AGSは1970年の創業以来、会計・税務を中心に、2,400社を超える企業を支援してまいりました。国内における盤石な実績とともに、国際税務の分野においても、6か国にまたがる自社の海外拠点や国外のパートナーと連携し、総合的なサポートを提供しています。国内外40名超のスタッフで構成される専門部署が、大手会計事務所での経験者を交え、企業の直面する高度で複雑な国際税務の課題解決を支援します。

  • 大槻 達也

    監修者

    大槻 達也

    株式会社AGSコンサルティング
    国際部門長・税理士

    大手金融機関を経て、2004年にAGSグループに入社。国内税務、IPO、M&A、再生支援などの業務に広く関わるとともに、2010年から専門家の立場で大手金融機関への出向も経験。大阪支社副支社長を経て、2017年より国際事業部に合流。

    2020年より現職。税理士登録2006年。

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