マレーシアは東南アジアに位置し、ASEAN諸国の中でもビジネスがしやすい親日国です。多くの日系企業が事業展開しているマレーシアに、進出したいと考えている方も多いでしょう。今回は、日系企業が進出した際のメリットや市場動向、実際に進出するにあたっての手法などについて解説します。
目次
- 日系企業のマレーシア進出のメリット
- ビジネスしやすい言語環境
- 人材の能力と人件費のバランスがよい
- ハラル市場へのゲートウェイ
- 親日国
- マレーシアはASEANの優等生
- 日系企業のマレーシア進出のデメリット
- 日本と時間の流れが違う
- 人材獲得の困難さ
- 日系企業のマレーシア進出動向
- スギ薬局が進出、ドンキやニトリも
- マレーシアの市場動向
- シンガポールからの拠点移動
- 大規模な都市開発
- マレーシアへの進出形態
- 現地法人
- 支店
- 駐在員事務所
- マレーシア進出形態別のプロセス
- 現地法人設立による進出のプロセス
- 支店設立による進出のプロセス
- 駐在員事務所設立による進出のプロセス
- 就労ビザ
- マレーシアの税制
- 法人税
- 消費税(SST)
- その他の税
- 日系企業におけるマレーシア進出のコツと課題
- 成功するためのポイント
- マレーシア進出のリスク
- まとめ
日系企業のマレーシア進出のメリット
国外に進出しようと考えている日系企業にとって、マレーシアは魅力的な国の1つです。
マレーシアに日系企業が進出するメリットは数多くあります。
主なメリットとしては、言語環境、人材と人件費のバランス、ハラル市場へのゲートウェイ、親日国であることなどが挙げられます。
ビジネスしやすい言語環境
マレーシアでは、英語でビジネスができるため、日系企業が進出する上で言語面でのハードルが低い国の1つです。
マレーシアの民族構成をみると、マレー系が約7割を占め、次いで中国系が約2割、インド系が1割弱となっています。
使われる言語もマレー語、英語、中国語、タミール語など多岐にわたりますが、ビジネスの場においては英語が標準的に使われ、日常生活でも広く英語が普及しています。
なお、成人の英語能力ランキングを公表しているEF Education First(EF)によれば、マレーシアの英語力は非英語圏では25位、アジアではシンガポール、フィリピンに次ぐ3位となっています。
また国民の約2割を中国系が占めるため、マレーシアには、英語・中国語のバイリンガルの人材が非常に豊富です。
マレーシア拠点のバイリンガル人材を活用して、英語圏、中国語圏へのビジネスを展開していくことも考えられるでしょう。
出典:外務省「マレーシア基礎データ」
出典:EF「英語能力指数」
人材の能力と人件費のバランスがよい
マレーシアの物価は、日本の3分の1から2分の1程度といわれており、人件費をそれだけ低く抑えることが可能です。
もっとも、マレーシアの隣には、シンガポールという非常に賃金水準の高い国があり、また国内でも中華系企業や欧米系企業などが総じて日系企業より高い給与を提示するため、良い人材の獲得はなかなか簡単にいきません。
特に生産工程を直接担当する現場系の労働者においては、その傾向が顕著です。
ただ、そうした背景を踏まえても、言語面を含めた人材の能力と、人件費のバランスを見たとき、マレーシアは他の国に比べて費用対効果の高い国といえるでしょう。
ハラル市場へのゲートウェイ
イスラム教において許された商品やサービスを指す「ハラル」は、国外進出する日系企業にとって無視できないテーマの1つです。
とはいえ、宗教・文化を扱うこともあり、日系企業にとってハードルが高いのは否めません。
その点、マレーシアでは、人口の6割以上がイスラム教を信仰していますが、多民族国家ということもあり、ノンハラルの人も多く存在します。
インドネシアや中東といった巨大なハラル市場に直接展開するのが難しい日系企業にとって、ハラル市場へのエントリーレベルとして比較的進出しやすいのが、マレーシアの特長です。
親日国
マレーシアは親日国として知られています。
1981年、当時のマレーシアのマハティール首相は、「ルックイースト政策」を掲げました。
欧米の先進国よりも、同じアジアであり高度経済成長を果たした日本を手本にすべきという政策です。
こうした歴史的背景も含めて、マレーシアの人々は日本に対して好意的です。
また日本人が多く住んでいるため、日本のものが比較的現地で手に入りやすいメリットもあります。
マレーシアはASEANの優等生
マレーシアは、何かで飛び抜けて魅力があるわけではありません。
他のASEANの国々と比較した際に、何か特定の領域で突出した魅力があるかと言われると、インフラ面ではシンガポールの後塵を拝していますし、人口で見たらインドネシアほどの魅力があるわけでもなく、また労働者の人件費もベトナムの方が安く済みます。
しかし、法制度、インフラ、言語、人材面など、どれをとってもASEAN加盟国のなかで上位にランクインしており、総合的に見てバランスが良く安定感のある国といえるでしょう。
日系企業のマレーシア進出のデメリット
マレーシアには国外企業に対する外資規制がありますが、他国と比べて特別厳しいものではありません。
むしろ、マレーシアに進出する上で課題となりそうなのは、文化の違いや、人材難といった面です。
ここでは、日本とマレーシアの文化の違いと、人材獲得の難しさについて説明します。
日本と時間の流れが違う
日本人がマレーシアでビジネスを始めた際に感じることとして、日本人が持つビジネスにおけるスピード感と、マレーシアの方々が持つビジネスにおけるスピード感が異なるということでしょう。
日本人はどうしてもせっかちな部分があり、特にビジネスの場においてはスピードが重視されることが多くあります。
マレーシアでは、日本と比べて時間がゆっくりと流れています。マレーシアで生活する人たちは、せかせかしておらず、日本に比べゆったりとした時間のなかで暮らしています。
のんびり暮らせるのはよいのですが、ビジネスの場面において日本人にとっては少しストレスに感じてしまう場面もあるでしょう。
マレーシアに限った話ではありませんが、違う国でビジネスをするにあたっては、国民性や文化の違いを理解した上で「郷に入っては郷に従う」の精神が必要になります。
人材獲得の困難さ
マレーシアは英語の教育レベルが高く、また中華系が人口の約2割を占めるため、英語、中国語を話せる人材が豊富です。
ただ、裏を返すと、それらの人材は日系企業ではなく中華系企業や欧米系企業でも働けます。
基本的に日系企業に比べて中華系や欧米系企業の方が給与水準が高く、報酬体系が硬直的な日系企業ではステップアップも難しいため、優秀な人ほど中華系や欧米系企業へ流れていく傾向にあります。
日系企業にとって、優秀な人材の獲得が難しいのは否めません。
さらに、マレーシアの隣には大卒初任給が40万円を超えるシンガポールが存在します。
同レベルのポジションの場合、シンガポールの給与はマレーシアの約3倍ともいわれ、マレーシアで月給5,000リンギットで働いていた人が、1つ橋を渡るだけで5,000シンガポールドル(約15,000リンギット)になるという話もあります。
かつて同じ1つの国だった歴史もあってか、マレーシア人にとってシンガポールは身近で、日本の地方都市から東京に上京するような感覚だといわれます。
マレーシアからシンガポールに人材が流出するなかで、優秀な人材を確保するのは簡単な話ではありません。
日系企業のマレーシア進出動向
2023年10月時点で、マレーシアに進出している日系企業は1,633社に上ります。そのうち836社が製造業、785社が非製造業です。
マレーシアに近年進出した日系企業には、スギ薬局やドン・キホーテ、ニトリなどが挙げられます。
またマレーシア政府がハイテク企業の誘致に力を入れているペナンを中心に、半導体関係のメーカーの進出も増えつつあります。
出典:JETRO「マレーシア概況・基本統計」
出典:JETRO「ペナンの人工島「シリコン・アイランド」、2026年着工へ開発進む、都市国家型スマートシティーへ」
スギ薬局が進出、ドンキやニトリも
ドラッグストアチェーンのスギ薬局は、2023年10月に、現地薬局チェーンと合弁で日本式ドラッグストアの1号店をオープンしました。
将来的にはインドネシアやシンガポール、ブルネイへの展開も視野に入れ、マレーシアでアジア市場への足がかりを築く方針です。
ディスカウント店のドン・キホーテは、2021年の進出以来、順調に事業を拡大し、2024年1月に、クアラルンプールの複合商業施設「ミッドバレーメガモール」に国内4号店を出店しました。
家具・インテリア販売のニトリも、2021年にマレーシアに進出し、24年3月に国内11店舗目をオープンさせるなど、事業を拡大させています。
出典:PPIH「JONETZ by DON DON DONKI Mid Valley Megamall 2024年1月31日(水)オープン」
マレーシアの市場動向
マレーシアの2023年の実質GDP成長率は3.6%でした。
2022年の8.9%には及びませんが、国内経済は堅調に推移しています。
近年の市場動向としては、シンガポールからマレーシアへの拠点移動を検討する日系企業が増えていること、クアラルンプールを中心に経済開発が進み、大型商業施設の開業や新交通システムの計画が進んでいることなどが挙げられます。
またその他の動きとして、半導体関係の産業に関しては、日系企業以外の外資系の企業も一定の設備投資を行っているようです。大規模な投資も散見します。
シンガポールからの拠点移動
近年、日系企業がシンガポールからマレーシアに拠点を移す動きがあります。
依然として、東南アジアにおける統括拠点数としてはシンガポールが最多です。
しかし、シンガポールにある統括拠点を移す可能性について、2019年にはシンガポール進出企業の7.4%だったところが、2023年度には31.0%と著しい増加を示しました。
理由としては、物価が高いシンガポールでは人件費を含む様々なコストがかさむため、よりコストを抑えられる拠点を企業が求めていることが考えられます。
また、販路拡大目的での拠点拡大先として、マレーシアを選ぶ企業が増えているのもあるでしょう。
シンガポールに地域統括拠点を置く企業は、2010年~2014年をピークに減少しつつある一方、マレーシアは徐々にではあるものの、増加傾向にあります。
出典:JETRO「2023年度 アジア大洋州地域における日系企業の地域統括機能調査報告書」
大規模な都市開発
マレーシアでは、首都クアラルンプールを中心に大規模な都市開発が進んでおり、大型商業施設の開業が相次いでいます。
施設名 | 開業時期 |
---|---|
パビリオンブキジャリル | 2021年10月開業 |
TRX | 2023年10月開業 |
ムルデカタワー | 2024年1月開業 |
パビリオンブキジャリルには蔦屋書店がマレーシアに初出店し、TRXには西武百貨店が入居するなど、日系企業の進出にも大きな影響を与えています。
またマレーシアでは現在、新たな交通システムのプロジェクトが複数進められています。
交通システム | 開通時期 |
---|---|
MRT(地下鉄) | 2017年開通、延伸計画中 |
ペナンLRT(軽高速鉄道) | 2030年開通予定 |
RTS(新高速輸送システム) | 2027年開通予定 |
クアラルンプール=シンガポール間高速鉄道 | 2023年7月に検討再開 |
今後もマレーシアの経済は発展していくことが見込まれ、魅力的な市場といえます。
マレーシアへの進出形態
既存事業展開や新しくビジネスを起こすチャンスが多く存在し、ビジネス環境として魅力的なマレーシアへ起業・進出するには、どんな手段があるか解説していきます。
日系企業がマレーシアに進出する場合の形態は、主に下記の3つです。
- 現地法人設立による進出
- 支店設立による進出
- 駐在事務所設立による進出
現地法人
現地で法人を設立すると、営業や販売のような経済活動を行えます。
現地法人には株式有限責任会社、保証有限責任会社、無限責任会社の3タイプがあり、株式有限責任会社は公開・非公開の区分があります。
日系企業を含む外資の進出では、現地法人の非公開株式有限責任会社が、最も一般的に採用される形態です。
それぞれの特徴は以下の通りです。
| 株式有限責任会社 (公開会社) | 株式有限責任会社 (非公開会社) | 保証有限責任会社 | 無限責任会社 |
---|---|---|---|---|
出資者 (組織・個人) | – | 50人以下 | – | – |
株式譲渡制限 | 制限なし | 制限あり | – | – |
株式/社債公募 | 可 | 不可 | – | – |
営業活動 | 〇 | 〇 | 〇 | 〇 |
財務諸表の開示 | 公告義務あり | 提出義務あり | 提出義務あり | 提出義務あり |
現地法人は支店に比べて、ライセンスの申請において制限がかからないケースが多く、進出にあたり最も一般的な進出形態と言えます。
また支店の場合、日本は全世界所得課税を適用しているため、マレーシア支店の所得も日本本社側で合算して日本の高い法人税率で課税されますが、現地法人の場合、日本に比較して低いマレーシアの法人税率(24%)が適用できます。
一方、現地法人のデメリットとしては、本社とは別の法人格のため、本社からの資金の送金には増資や貸付が必要です。また、現地法人が赤字になっても損金を本社に取り込むことはできません。
支店
日系企業のマレーシア支店として登記する形態です。
過去、政府系プロジェクトへ参加する場合等を除いて、設立の承認やライセンスの取得において現地法人より承認を得にくいことがあったため、外資系の進出形態として、支店はあまり一般的ではありません。
支店のメリットとしては、現地法人に比べて、本店からの送金が容易な点が挙げられます。
また、マレーシア支店が赤字の場合、本店で損金として取り込むことができます。
撤退の際、現地法人ほど難易度が高くない点も利点でしょう。
一方、支店のデメリットとしては、設立の承認を得にくい点に加えて、法的な責任が本社に帰属し、本社も含めた決算書を提出する必要がある点が挙げられます。
さらに、マレーシア支店が成功して業務拡大を行うとなった場合に、「法人成り」ができません。
マレーシアには会社分割のような制度がないため、現地法人を持ちたいなら、まったく新しい法人を設立し、支店から事業譲渡を行う必要があります。
駐在員事務所
駐在員事務所は、進出前段階での市場調査等を行うことを前提として認められる進出形態であるため、現地法人や支店と異なり、営業活動を行うこと自体が認められていません。
駐在員事務所の開設や維持に関して必要な条件等は、以下の通りです。
- 駐在員事務所の年間事業支出は最低30万リンギット(申請の際は計画ベース)が必要
- 駐在員事務所への投資はすべてマレーシア国外からの投資で行う
- 承認される期間は原則2年間。状況に応じて延長も認められるが、最長5年まで
- 毎年活動報告の提出が必要
- ビザ申請可能。ただし期間は1年で毎年延長が必要
まずは市場調査やサービスの広報活動のみを行い、マレーシアでビジネス展開するか意思決定するための準備段階として、駐在員事務所を設立することが想定されます。
マレーシア進出形態別のプロセス
マレーシアへの進出にあたっては、進出形態によって、とるべき手続きが変わります。
いずれの形態を選ぶにせよ、入念な準備が必要なため、進出前に必要な手続きを確認しておきましょう。
現地法人設立による進出のプロセス
現地法人の設立にあたっては、最低1名の居住取締役の登記、最低1名の会社秘書役(居住)の登記、マレーシア現地の住所が必要です。
これらの手続きは会社設立をサポートするコンサルティング会社等にまとめて依頼するのが一般的です。
マレーシアでは、会社法上、資本金1リンギットから法人を設立することが可能です。
会社設立後は、原則的にすべての法人に年に1回の監査法人による会計監査が必要です。
監査法人は、大規模な国際ファームからローカルファームまで多様な選択肢があり、監査報酬についても1,500米ドル~10,000米ドル超まで、監査法人や業容により様々です。
下記が現地法人設立の主なプロセスです。
- システム上の電子申請
- ネームサーチ(会社名の使用許可申請)
- 発起人および取締役の選定
- 会社設立登録の申請手続
- 会社設立登録の確認
- 銀行口座の開設
- 資本金の入金と増資
- 就労ビザ申請と取得
- 現地法人開業
支店設立による進出のプロセス
ネームサーチから始まる一連の手続きは、現地法人設立とほぼ同様です。
支店の設立にあたっては、1名以上の代理人を任命しなければならず、代理人は会社法が求める報告やペナルティーに対して責任を負います。
下記が支店設立の主なプロセスです。
- ネームサーチ(支店名の使用許可申請)
- 支店登録の申請手続
- 支店登記手数料の支払
- 銀行口座の開設
- 就労ビザ申請と取得
- 現地法人開業
駐在員事務所設立による進出のプロセス
基本的な姿勢として、マレーシアは現地法人形態での進出を奨励し、駐在員事務所の設置を積極的には認めていません。
駐在員事務所の設置期間は原則2年に限られ、最長5年まで更新が可能ではあるものの、許可の更新にあたっては、駐在員事務所が必要である理由の説明を求められます。
- 下記が駐在員事務所設立の主なプロセスです。
- 代理人の選定
- 必要書類の整備
- マレーシア投資開発庁(MIDA)に書類申請
- 駐在員事務所である旨の表示
- 設立後14日以内に住所を通知
就労ビザ
就労を目的とする滞在には、短期間でも就労ビザの取得が必要です。
就労ビザには、雇用パス、プロフェッショナル・ビジット・パス、外国人労働者(ワーカー)に対するワーク・パーミットなどがあり、いずれも入国管理局に対して取得手続きを行います。
就労ビザを取得する企業は、資本構成に応じて、それぞれ必要な最低資本金額を満たさなければなりません。
外資企業については、ローカル企業より高い最低資本金の条件が設けられています。
資本構成に応じた最低資本金は、以下の通りです。
資本構成 | 最低資本金 |
---|---|
100%ローカル資本 | 25万リンギット(約675万円) |
ローカルと外資の合弁会社 | 35万リンギット(約945万円) |
100%外国資本 | 50万リンギット(約1,350万円) |
外資51%以上の流通・サービス取引会社 | 100万リンギット(約2,700万円) |
マレーシアの税制
法人税
マレーシアの法人税は本則税率24%で、さらに小規模法人に対しては一定の課税所得に関して17%の軽減税率が設けられています。
法人税の課税所得の範囲は、「マレーシア国内で発生または稼得した所得」とされており、原則的にマレーシア国内源泉所得のみが課税対象で、国外所得は課税されません。
ただし、税制改正により2023年1月から国外源泉所得のうちマレーシアに送金されたものに関しては課税されることとされました。
マレーシアの法人税の大きな特徴として、事業年度開始日より30日前までに、年間の法人税の見積額を提出し、それに従って月次納付を行っていく点が挙げられます。
最終的に事業年度終了後に確定申告を行い、見積額と確定額の差を精算するのですが、見積に基づいた月次納税額が最終確定税額を30%以上下回っていた場合、不足額の10%がペナルティーとして課されてしまいます。
消費税(SST)
マレーシアには、日本の消費税にあたるSST(Sales & Service Tax)があります。
SSTは売上税とサービス税に分かれ、それぞれの税率は以下の通りです。
- 売上税:10%
- サービス税:6%~8%
売上税は、マレーシア国内で製造される物品およびマレーシアに輸入される物品に課されます。
生産、流通の各段階で課税される日本の消費税と異なり、製品の工場出荷や商品の輸入時点など、ある一時点の取引を捉えて課税がされる「一段階課税」を採用している点が特徴です。
政治的配慮から、食料品や一部の機械装置などに、免税措置や5%への軽減措置が講じられています。
もう1つのサービス税は、ホテルや飲食、娯楽産業、専門業者の提供するサービスなど、限定列挙された特定のサービスにのみ課される税金です。
従来は税率が一律6%でしたが、2024年3月から、一部サービスについては8%に引き上げられました。
出典:JETRO「サービス税率、3月1日に6%から8%へ引き上げ、課税対象拡大も」
その他の税
所得税については、居住者は0%~30%の累進課税、非居住者については一律30%の税率が設けられています。
また、マレーシアには相続税や贈与税が存在しません。
日系企業におけるマレーシア進出のコツと課題
ここまでマレーシアに進出する魅力について述べてきました。
では、マレーシアへの進出を成功させるためにはどうすれば良いでしょうか。
成功するためのポイント
日系企業のマレーシア進出を成功させるために検討するポイントは、以下の項目が挙げられます。
- 何を目的に進出するかを徹底的に明確化する
- 目的に応じた進出手法を検討、実行する
- KPIを定める
- 検討段階から責任者を決めておく
何を目的に進出するかを徹底的に明確化する
マレーシア進出の目的は、市場開拓、製造設備労働力の確保、ブランディング、ライセンス取得、人材確保、ハラル市場への橋頭保づくりなど、様々なものが考えられます。
まずは、自社のマレーシア進出が何のためかを徹底的に明確にし、それに応じた進出計画や経営計画を立てなければ、慣れない海外での事業を成功させるのは難しいでしょう。
目的に応じた進出手法を検討、実行する
進出する手法も、現地法人設立、ローカル法人との資本提携、業務提携、販売代理店、出張ベース、さらに最近のトレンドであるクロスボーダーM&Aなど、選択肢は多様です。
進出形態についても、目的が異なれば最適な手法も変わります。トレンドに流されるのではなく、自社の目的に最も適した形態を選ぶことが重要です。
KPIを定める
進出目的を明確にできたら、それに沿ったKPIを定めることも欠かせません。
KPIがなければ、進出が成功か失敗か、最終目標に対する現在地も確認できません。
業務拡大か撤退かという重要な経営判断を下すためにも、KPI設定は必要不可欠です。
検討段階から責任者を決めておく
最後にポイントとなるのが、人の選定です。
全社方針としてマレーシア進出を決定し、進出に向けた実務について会社決定は都度下されるものの、プロジェクトの責任の所在が曖昧なまま進んでいくケースがあります。
こうした場合、最終的に誰を現地責任者として送り込むかを選ぶ時点でもめたり、選ばれた人間が不満を覚えたりすることが珍しくありません。
そのような経緯で選ばれた責任者がプロジェクトを成功させるのは困難です。
マレーシア進出を成功させるためには、進出前の検討段階から責任者を定め、可能であれば進出後まで引き続きプロジェクトを管理させるのが、望ましい形といえるでしょう。
マレーシア進出のリスク
- 宗教
- 為替変動
- 人材流出
マレーシアは多民族国家で、また人口の6割がイスラム教を信仰する宗教国家でもあります。
宗教が異なれば文化が異なり、ビジネスの進め方も大きく異なります。たとえ悪気がなくても、そうした面で衝突が起きてしまえば、関係修復が困難となってしまう可能性があります。
マレーシアの通貨であるリンギットは、先進国と比較して、相対的に高い為替変動リスクがあります。
短期間で激しく変動することもあり、自社の財務戦略にとって無視できないリスクといえるでしょう。
また、マレーシアには、賃金水準の高いシンガポールという隣国があります。
国内においても、日系企業に比べて待遇のよい中華系や欧米系企業というライバルがいます。
さらに、マレーシア人自体が転職によるキャリアアップに積極的な国民性ということもあり、優秀な人材の定着が難しく、一度採用しても短期間で転職されてしまう可能性も低くありません。
こうしたリスクを踏まえた上で、どのようにマレーシアでビジネスを展開していくか、具体的に事業計画に落とし込んでいくことがマレーシア進出を成功させるコツです。
AGSグループでは、マレーシア現地に拠点を置き、日系企業のマレーシア進出にあたっての税務・会計顧問、国際内部統制の整備、クロスボーダーM&A、移転価格対応、進出・撤退のサポート、グローバルファイナンスなどを幅広く支援しています。お悩みがあればお気軽にご相談ください。
まとめ
マレーシアに進出するメリットやポイントを解説していきました。
東南アジアのなかでも言語面のハードルが低いことや、ハラル市場への進出の足掛かりに最適であるなど、マレーシアへの進出には様々なメリットがあります。
この記事を参考に、マレーシアへのビジネス展開を検討してみてはいかがでしょうか。