フィリピンでは2021年4月、法人所得税率の引き下げや優遇税制を定めたCREATE法を前大統領のドゥテルテ政権下で定めました。それに引き続き、2024年11月にマルコス現大統領はCREATE法を改正したCREATEMORE法に署名し、同法が成立しました。今回は、CREATE MORE法の概要及び企業への影響について簡単に説明します。
※本稿は、三菱UFJ銀⾏会員制情報サイト「MUFG BizBuddy」寄稿記事からの転載です。
2025.02.05(最終更新日:2025.02.05)
フィリピンでは2021年4月、法人所得税率の引き下げや優遇税制を定めたCREATE法を前大統領のドゥテルテ政権下で定めました。それに引き続き、2024年11月にマルコス現大統領はCREATE法を改正したCREATEMORE法に署名し、同法が成立しました。今回は、CREATE MORE法の概要及び企業への影響について簡単に説明します。
※本稿は、三菱UFJ銀⾏会員制情報サイト「MUFG BizBuddy」寄稿記事からの転載です。
目次
フィリピンでは2021年4月、法人所得税率の引き下げや優遇税制を定めたCREATE法を、ロドリゴ・ドゥテルテ前大統領の下で定めました。それに引き続き、2024年11月にフェルディナンド・マルコス現大統領は、CREATE法を改正したCREATE MORE法(Corporate Recovery and Tax Incentives for Enterprises to Maximize Opportunities for Reinvigorating the Economy Act)に署名し、同法が成立しました。
今回の記事では、このCREATE MORE法の概要及び企業への影響について簡単に説明します。
主な改正点の1つとして、「追加控除制度(EDR:Enhanced Deductions Regime)」を適用しているフィリピン経済区庁(PEZA)や投資委員会(BOI)等に登録された「登録事業者(RBEs:Registered Business Enterprises)」に対する法人所得税率が、25%から20%へ引き下げられたことがあげられます。
以前のCREATE法では、追加控除(ED:Enhanced Deductions)方式(EDRと同義)が新設されたことが改正内容の1つでした。ED方式は、実際の費用に一定の追加控除割合を上乗せ(例:直接労務費は50%、研究開発費は100%、電力費は50%、研修費は100%)した金額が税務上の損金として認められ、法人所得税が軽減される制度となっていました。
ここで、登録事業者のうち輸出型企業は、法人所得税の免除期間(ITH:Income Tax Holiday)終了後、売上総所得に5%を乗じて計算する特別法人所得税(SCIT:Special Corporate Income Tax)方式とED方式のいずれかを選択適用できるようになっていました。しかし、SCIT方式の計算の方がシンプルであるなどの理由から、ED方式を採用する企業は少なかったと思われます。
しかしながら、今回の改正により、EDRを適用する登録事業者は従来25%であった法人所得税率が20%になるため、今後はEDRの採用を検討する企業が増えることが予想されています。
またEDRを選択する登録事業者に対するもう1つの大きな改正として、追加控除割合の引き上げ及び控除可能な経費項目の拡大があげられます。
たとえば、電力については上述の通り、従来の追加控除割合は50%でした。これが今回の改正で100%に引き上げられ、フィリピンの課題の1つといわれている高い電力コストを軽減する1つの施策となっています。
また新たに、控除可能な経費項目として商談会や展示会に関連する経費が含まれるようになりました。
そのため、多くの電力を消費し、自社製品を生産・販売し国内外で市場を拡大していきたい製造業などの企業には、特に多くのメリットをもたらすことが想定されます。これらの施策により、さらなるフィリピンへの投資の誘致を促進することが期待されます。
EDRを選択する登録事業者においては、5年間の繰越欠損金の利用が認められています。これについて、従来のCREATE法では、「発生年度から起算して」5年間繰り越しが可能とされていたのが、今回の改正で「ITH期間終了後から起算して」5年間の繰り越しが可能となりました。
また、ITHを適用せず、初年度からSCITまたはEDRを適用することができるようになりました。そのため、スタートアップなどの赤字が先行するようなビジネスで、ITH期間に法人所得税免除のメリットを享受することができない場合、当初はEDRを選択し、欠損金を繰り越した上で、黒字化したタイミングでITHを利用することも可能となりました(下表のオプション2参照)。
CREATE MORE法では、税制上のインセンティブの最長期間をCREATE法の17年から27年に延長しています。この長期的な優遇措置によって、企業は投資を回収し利益を得るまでの時間を十分に確保することができるため、より魅力的な投資先としてフィリピンが選ばれることが期待されています。
【表:条件別にみたCREATE MORE法の各種インセンティブ期間】
オプション | 投資資本 150億フィリピンペソ以下 (投資促進機関(IPAs) による承認) | 投資資本 150億フィリピンペソ超 (財政インセンティブ審査委員会(FERB)による承認) | ||
---|---|---|---|---|
輸出型企業 (REE) | 国内市場型企業 (DME) | 輸出型企業 (REE) | 国内市場型企業 (DME) | |
オプション1 (ITHの 適用あり) | ITH: 4~7年 + SCIT/EDR: 10年 | ITH: 4~7年 + EDR: 10年 | ITH: 4~7年 + SCIT/EDR: 20年 | ITH: 4~7年 + EDR: 20年 |
オプション2 (ITHの 適用なし) | SCIT/EDR: 14~17年 | EDR: 14~17年 | SCIT/EDR: 24~27年 | EDR: 24~27年 |
出所:各種資料より筆者作成
従来のCREATE法では、輸出型企業(REE)及び国内市場型企業(DME)がインセンティブの対象でしたが、CREATE MORE法の下では、特定の条件を満たす外国企業及び国内企業の両方が税制優遇措置の対象となるよう、適格性が拡大されました。
この改正により、EDRやSCITの選択肢を利用できる企業の範囲が広がり、国内外を問わずより幅広い企業からの投資を促進することが期待されています。
従来のCREATE法では、登録事業者が輸入または国内で購入する商品やサービスに対する付加価値税(VAT)の取り扱いが厳格化されていました。CREATE法施行前までは、PEZA登録事業者は商品やサービスの性質にかかわらず、輸入VATの免除や、国内購入時のゼロレートVAT(特定の条件を満たせばVATの税率が0%となる制度)適用など、幅広く税務インセンティブを享受していました。
しかしながら、CREATE法施行後は、輸入に対するVAT免除及びゼロレートVATは、登録事業者の登録プロジェクトまたは活動に「直接的かつ限定的に使用される」商品及びサービスにのみ適用されることとなり、それに該当しない場合は12%のVATが課されることになりました。
この「直接的かつ限定的に使用される」とは、原材料、在庫、備品、機器、包装材、サービス(基本インフラの提供、公共料金、機器の保守、修理及びオーバーホール、その他の支出)などを指します。
これらは、登録プロジェクトまたは活動に直接関連し、それがなければ登録プロジェクトまたは活動が実行できない商品及びサービスとして定義されました。また、法務、会計、その他類似のサービスなどの管理を目的としたサービスは、この定義を満たさないことが明確化されていました。
CREATE MORE法では、従来のCREATE法において使われていた「直接的かつ限定的に使用される」という表現が変更され、輸入VAT免除、ゼロレートVATの対象は、登録事業者のプロジェクトまたは活動に「直接帰属する(Directly Attributable)」商品及びサービスに適用されると規定されました。
「直接帰属する」とは、輸出型企業の輸出活動に付随し、かつ合理的に必要とされる承認及びサービスを指すと定義されました。具体的には、登録された活動に直接使用される次の商品/サービスがVAT免除またはゼロレートVATの対象に含まれると規定しています。
従来のCREATE法では、上記のサービスは登録事業に「直接的かつ限定的」に関連しないということから、12%のVATが課されていましたが、今回の改正でVAT免除、ゼロレートVATの対象範囲に含まれることになりました。
CREATE MORE法では、輸出型企業だけでなく、高付加価値国内市場型企業(HVDME:High-Value Domestic Market Enterprises)も輸入VAT免除、ゼロレートVATを適用することができるようになります。
投資資本が少なくとも150億フィリピンペソ超で、輸入品の代替となる事業を展開している企業、または輸出売上が少なくとも1億USドルである企業が対象となります。
CREATE MORE法では、地方税(RBE Local Tax)が新設され、ITHやEDR期間中の登録事業者は、総所得の最大2%の地方税が課されることとなりました。
これは、すべての地方税及びその他地方自治体が課す手数料等を代替するものであり、行政手続き及び申告納付に係る複雑な地方税の処理に煩わされることなく、本業に専念できるようになると期待されています。
フィリピンでは、以前は外資規制に加えて30%という他の東南アジア諸国と比べて高い法人所得税率など、投資判断の材料としてネガティブな要素が多くありました。しかし、前回のCREATE法に続き、今回のCREATEMORE法においても、特に大規模な投資に対して、さらなる投資促進の観点で税制優遇措置の拡充が行われています。これらの改正を適切に理解しうまく活用することが、フィリピンへの投資を成功させる鍵となります。