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フィリピンの外資誘致施策、並びに会計税務のポイント

人口が1億人を超え、地理的にも日本と近いため魅力を感じるものの、投資する場合の制約が多いため、リスクが大きい国と考えられてきたフィリピン。しかし、外資規制が大幅に緩和され、税制の透明化が進み、日系企業がアクセスしやすい状況になってきています。今回は、外資誘致に関するフィリピンの施策を振り返るとともに、現地特有の会計税務のポイントも解説します。

 

※本稿は、三菱UFJリサーチ&コンサルティング株式会社の情報サイト「BizBuddy」寄稿記事の転載となります。

1.はじめに

近年、次々と外資誘致施策を行い、外資系企業から注目を集めるフィリピン。
今回は、企業復興税優遇法並びに外資規制緩和の内容を振り返ることで、外資誘致に関するフィリピンの施策を理解するとともに、現地特有の会計税務のポイントも解説します。

2.企業復興税優遇法の概要

企業復興税優遇法は、外資系企業からの投資を誘致するために導入された税制で、生産性の向上、雇用創出、経済成長、財政の安定につなげることを目的としており、下記の措置が講じられています。

法人所得税率の引き下げ

従来は課税所得に対して30%の税率となっていましたが、企業復興税優遇法により内国法人の法人所得税率は25%に引き下げられました。また、内国法人のうち、課税所得が500万ペソ以下かつ総資産(オフィスや工場が立地する土地を除く)が1億ペソ以下の法人については、法人所得税率が20%に引き下げられました。

最低法人税率の引き下げ

最低法人税とは、赤字法人であっても納税義務が生じる税制です。
総所得(≒売上総利益)に2%の税率を乗じることにより計算されます。
事業開始年度から4期目以降、通常の法人税額(課税所得の25%)と最低法人税額(総所得の2%)を比較していずれか高い金額を納付します。

企業復興税優遇法により、2023年6月30日までの期間においては、最低法人税率は1%となっています。

不当留保金課税の廃止

税制上、株主の不当な所得税回避目的で会社を設立することを防ぐために不当留保金課税制度が存在し、原則として企業内に不当に留保された課税所得に対し、10%の課税が行われていました。例えば、利益剰余金が払込資本を超えている場合は、事業上の合理的な理由がない限り不当留保金とみなされ課税されていました。

企業復興税優遇法の成立により、これまでの不当留保金課税制度はなくなりました。一方で、株式会社は資本金を超える利益剰余金の保有を禁止する旨が会社法に規定されているため、留保金が無制限に認められるということではない点に留意が必要です。

3.外資規制緩和の概要

小売事業の規制緩和

改正小売自由化法の成立により、小売事業の最低払込資本金が米ドル表記からペソ表記へと変更され、 従来の250万米ドルから、約5分の1となる2,500万ペソに引き下げられました。また、1店舗あたりの投資額や純資産に関する要件も改正されました。
これにより、外国事業者の小売業への参入障壁が低くなりました。

公共事業の規制緩和

広範な事業が外資規制の対象とされていましたが、改正公共サービス法の成立により、完全な外資によるビジネスが可能な範囲が広がりました。
これにより、外国人でもフィリピンの通信会社、運輸会社、内航海運会社、鉄道、地下鉄などを完全に所有することができるようになりました。

4.現地特有の会計税務のポイント

会計基準

フィリピンでは、IFRS(国際財務報告基準)と基本的に同内容のPFRS(フィリピン財務報告基準)が適用されています。一方で、中小規模事業者は、条件に応じてPFRSの簡易版であるPFRS for SMEs(中小企業向けフィリピン財務報告基準)やPFRS for SE(小規模企業向けフィリピン財務報告基準)の適用が可能になっています。

会計監査

証券取引委員会の規定により、総資産もしくは総負債が60万ペソ以上の企業については会計士による法定監査が必要となります。
また、税法の規定により、年間売上が300万ペソを超える企業も法人税申告書に監査済み財務諸表を添付することが求められます。
そのため、フィリピンに進出している日系企業はほぼ全てが法定監査の対象になります。

繰越欠損金

税務上の欠損金は、翌事業年度以降3年間の繰越しが認められています。

拡大源泉税

納税金額上位2万社、大規模納税者等の「Top Withholding Agents」に該当する企業から国内業者へ物品やサービスの提供をした場合、物品購入の場合には1%、サービス対価の支払いには2%の拡大源泉税がかかります。
その他、不動産賃借料には5%の拡大源泉税がかかります。
源泉税の徴収義務は買主にあるので、源泉徴収漏れに注意する必要があります。

キャピタルゲイン税

非上場の国内株式から生じたキャピタルゲインには、譲渡益に対して15%が課税されます。
フィリピン証券取引所で取引されている国内株式の場合、売却などで処分した際の価格の0.6%が課税されます。
また、投資用不動産の売却から生じたキャピタルゲインは、売却価格もしくは公正価格の高いほうの価格に6%の税率で課税されます。

5.おわりに

日本とフィリピンを比較すると、現在の人口はほぼ同じですが、平均年齢を比較するとフィリピンの約24歳に対して日本は約49歳です。地理的にも近く、相互に補えることが多いと感じます。

 

フィリピンが外資誘致を積極的に行う状況の下、ビジネスの面からも日本とフィリピンの結びつきがより強くなることを楽しみにしています。

 

参考:

フィリピン内国歳入庁(Bureau of Internal Revenue)

The World Fact Book‐CIA

  • 林 竜太

    監修者

    林 竜太

    株式会社AGSコンサルティング
    国際部門サブマネージャー(フィリピン担当)・公認会計士

    有限責任監査法人トーマツを経て2015年に来星、AGSコンサルティング入社。シンガポールやフィリピンを中心に日系企業の海外進出支援、M&Aの際のデューデリジェンス、IPO支援、内部統制構築業務等を行っている。

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