スキルマップとはどのようなものか解説しています。導入する目的やメリット、作り方、手順、作る際のポイントや参考になるサンプルやテンプレートについても紹介しています。スキルマップについて調べている方は参考にしてください。
目次
- スキルマップとは
- スキルマップを導入する目的(メリット)
- 組織・従業員のスキルの見える化
- 従業員のモチベーション向上
- 人材育成への活用
- 評価の公平性向上
- 人材採用時のスキルチェックに活用
- スキルマップの作り方と手順
- スキルマップ導入の目的を明確にする
- 業務とそれに関連するスキルを洗い出す
- 評価者や評価基準を決める
- スキルマップを作成する
- スキルマップを導入後は定期的に効果測定・見直しを行う
- スキルマップを作る際のポイント
- 事務職(経理部門)
- 営業職
- 製造業
- エンジニア職
- Webディレクター
- スキルマップのサンプル・テンプレートについて
- 【参考】トヨタの「多能工」について
- まとめ
スキルマップとは
「スキルマップ」とは、各従業員の業務に関する能力やスキルを客観的な指標によって数値化して一覧にしたものです。従業員ごとの業務内容や職責によって必要な能力や技能を設定します。力量表や力量管理表とも呼ばれ、海外ではスキルマトリックスとも呼ばれます。
スキルマップでは得意とする分野や能力の高いスキルだけでなく、不得意な分野や足りていないスキルも明確になるため、従業員の成長を図るために有効なツールです。
スキルマップを導入する目的(メリット)
現代社会では、ニーズの多様化やテクノロジーの急速な発達などにより、企業を取り巻く環境の変化が激しくなっています。
例えば、DX(デジタルトランスフォーメーション)の推進や、コロナ禍をきっかけに普及したオンラインでの打ち合わせなど、デジタル化が加速する中で、デジタル機器を始めとした新しいツールを使いこなすスキルを求められるようになりました。
企業環境の激しい変化に、対応するスキルの習得が追い付いていない企業も多く存在します。各従業員が主体性とキャリア意識を持ってスキルを開発していくために、従業員のスキルを可視化したいというニーズも増えています。
ここでは、そうした背景を踏まえ、企業がスキルマップを導入するメリットについて解説します。
組織・従業員のスキルの見える化
スキルマップによって自組織や従業員のスキルを見える化できると、事業計画遂行に必要な組織・従業員各人のスキルが客観的に把握できます。
スキルを客観的に把握することで、成長に必要な要素を把握するだけでなく、最適な業務の割り当てや人員配置、不足要素の補完、強化施策にもつなげることができます。
従業員のモチベーション向上
スキルマップにより各従業員の能力が明確に提示されるため、今後伸ばすべき能力や補っておくべきスキルが把握できることに加え、従業員同士の競争心が自然に芽生えます。
また、スキルマップを人事評価にも取り入れることで自身の課題や目標が明確になるため、従業員の成長に対するモチベーションを向上させやすい点もメリットです。
人事評価については、従業員に対して上司や評価担当者から公平かつ客観的に評価してもらえる期待感を与えられ、業務やスキルアップにやりがいを見出すことが期待できます。
人材育成への活用
スキルマップを用いることで、各従業員の持ち合わせているスキルと、不足しているスキルが明確になります。それらのデータを俯瞰し、組織としてどのようなスキルを育成していくか計画立てることが重要です。
育成計画のデータとして活用することで、不足しているスキルへの集中的な教育ができるなど人材育成が効率化でき、コストの削減にもつながります。業務に必要なスキルを各従業員に獲得させることにより、従業員間のスキルの偏りを無くし、業務の属人化を防止します。
評価の公平性向上
職能等級を用いる企業が人事評価をする際に、従業員の能力よりも年齢や勤続年数を重視してしまうと、やる気の低下や向上心のある従業員が評価に不満を感じて最悪の場合は退職してしまう恐れがあります。優秀な人材を失う事態は、企業として避けなければなりません。
スキルマップによって業務に必要なスキルを可視化して人事評価に活用することで、客観的な評価につながり、評価の公平性が向上します。
実際にはスキルマップの内容だけで評価が決まるわけではありませんが、被評価者にもある程度受け入れられやすい評価制度を構築できます。
人材採用時のスキルチェックに活用
スキルマップがあれば、新たな人材を採用する際にも業務に必要なスキルをどの程度持っているかをチェックできます。
客観的な数値でスキルチェックができるため、過去の経歴や職歴にとらわれず、組織が求める人材と採用応募者とのミスマッチを防ぐことが可能です。
スキルマップの作り方と手順
有効なスキルマップを作成するためには、手順を意識して取り組むことが重要です。
ここでは、各手順について解説します。
スキルマップ導入の目的を明確にする
スキルマップに取り入れるスキルの選定や評価基準などを設定する上で、まずは導入する目的を明確にするのが大事です。
例えば、公平な人事評価を行うのが目的であれば、現時点における各従業員の業務遂行能力を中心にスキルマップの評価項目を設定していきます。また、事業計画実現、業務品質保全を目的とすれば、経常業務に加えて有事の際のスキルセットも合わせて設計します。
一方で、将来を見据えた人材育成を目的にするのであれば、現時点の能力だけではなく、それぞれの適性やポテンシャル、将来を見据えた獲得して欲しいスキルも評価に組み込んでいくことが必要です。
業務とそれに関連するスキルを洗い出す
スキルマップを導入する目的が明確になったら、スキルマップを導入する部門や部署ごとに具体的な業務を確認し、関連するスキルを洗い出しましょう。
職務上で発生する業務を、従業員へのヒアリングやマニュアルなどから分析し、業務を種類別に分類したり難易度別に階層化したりすると、評価項目を設定しやすくなります。
評価者や評価基準を決める
スキルマップの項目が決まったら、評価者や評価基準を決めましょう。
評価の方法は様々であり、評価したいスキルやどこまでの粒度で評価したいかによって適切な評価者設定や評価基準、段階は変わります。
例えば、特定の資格や経験の有無を確認するのであれば2段階評価、スキルの程度を問うのであれば3段階以上の評価が向いています。
評価の段階を増やしすぎると評価する側の管理が大変なため、スキルの程度を問う場合でも1~4などの4段階で設定するのが一般的です。組織内で必要とするスキルの中で、最も難易度の高いものをレベル4とし、業務の種類に応じた難易度分けを行って1~4までの階層に分類していきましょう。
一方、評価者については、多くの会社が直属のライン長に設定する場合もありますが、身近に技能に接することが多い高次の専門職やOJT担当が評価することもあります。いずれにしても評価者のスキル度合いを観察できる環境にいる者を評価者に設定することが重要です。
参考:厚生労働省「職業能力評価シート(事務系職種)のダウンロード」
スキルマップを作成する
スキルの洗い出しや評価基準の設定までが完了したら、スキルマップを実際に作成していきます。
スキルマップを導入後は定期的に効果測定・見直しを行う
スキルマップを作成したら試験導入を行い、スキルマップ作成時点で抜けていた部分があれば埋めておきましょう。評価者や評価を受ける従業員からの意見を集め、都度修正を行っていくスピード感が大切です。
試験導入を経てスキルマップを活用する上での細かなルールや設定ができたら、スキルマップの活用方法についてのマニュアルを作成しましょう。
本格的な導入後も、定期的にスキルマップの効果測定や評価項目の見直しを行い、自社にとってより良い形になるよう更新していきましょう。
スキルマップを作る際のポイント
それぞれの職種において、適切なスキルを洗い出すのが重要なポイントです。
各職種におけるスキルの例として、以下が挙げられます。
事務職(経理部門) | 営業職 |
---|---|
・表計算ソフトなどの活用 ・出納業務 ・会計業務 ・財務諸表の作成、分析 ・情報の検索、加工や整理 | ・コミュニケーション ・交渉力 ・提案力 ・商品知識 ・ヒアリング |
製造業 | エンジニア職 |
・生産管理 ・ベース加工 ・検査 ・精度測定 ・部品取り付け | ・ヒアリング ・要件定義 ・プログラミング ・テスト修正 |
Webディレクター | |
・コミュニケーション ・ヒアリング ・Webマーケティング ・Webデザイン ・UI/UX ・データ分析 |
以下ではそれぞれの職種について解説します。
事務職(経理部門)
WordやExcelといった事務における一般的なPCスキルはもちろん、各人が担当する業務に必要なスキル項目を設定するのがポイントです。
仕訳の入力者であれば、証憑に基づく仕訳記入や転記などを適切に行えるスキルが必要であり、資産運用や税金計算の業務を担当するのであれば、それらに対する知識や経験が必要になります。
営業職
営業職では各商品やサービスの特徴をわかりやすく伝え、契約・購入につなげる必要があるため、商談に関するスキルを設定するのがポイントです。扱う商品の知識やコミュニケーションスキル、交渉力といったスキル項目を設定しましょう。
営業に必要なスキルを従業員に習得させ、営業活動能力を向上させるのが目的です。
製造業
ものづくりの担い手である製造業では、製品の質を向上させるために高度な専門性や技術力が必要とされます。
工場の各部門における加工や業務工程で、業務フローに沿ったスキルを洗い出すのがポイントです。
エンジニア職
「エンジニア」と一口にいっても、システムエンジニア、アプリケーションエンジニア、Webエンジニア、セールスエンジニアなど多岐にわたります。何のエンジニアなのかを明確にし、エンジニアの種類ごとに必要なスキル項目を設定しましょう。
例えば、システムエンジニアであれば、要求分析や要件定義、基本設計などの上流工程に関与し、クライアントと直接コミュニケーションをとって進めていく必要があります。
そのため、コミュニケーション能力や論理的思考力、プロジェクトマネジメント能力などが必要とされます。また、各人のキャリアパスに沿ってどういったスキルマップを適用するのが適切かの検討もすると良いでしょう。
Webディレクター
Webディレクターとは、Web制作の責任者となります。主にWeb制作の開発部分をまとめる開発ディレクターと、Web運用を担当する運用ディレクターの2つに大別されます。
Web制作に関わる場合、クライアントとの打ち合わせを行うコミュニケーションやヒアリングスキル、問題解決スキルが必要です。さらに、Webデザイナーに指示を出すために、基本的なデザインスキルや知識が必要となります。
Web制作には予算が定められており、予算の中で工数の見積りや外注などをやりくりしていかなければなりません。WebディレクターはWeb制作の責任者であるため、Web制作のスキルだけではなく管理者としてのスキルも項目に盛り込みましょう。
スキルマップのサンプル・テンプレートについて
スキルマップのサンプルやテンプレートなどは、厚生労働省や人事系サービス提供会社などが公開しています。
スキルマップを1から作成するのは手間がかかるため、最初はサンプルやテンプレートを参考にしつつ、徐々に組織の業務や将来の展望に沿ったものにブラッシュアップいくのも1つの手です。
人事系サービス提供会社では、豊富なテンプレートが用意されており、スキル分布をグラフで可視化できたり、スキルの習熟度評価を簡単に収集できたりと便利な機能が提供されています。
自社で1から作るのも良いですが、人事系サービス提供会社を活用するのも選択肢に入れておきましょう。
出典:厚生労働省公式サイト「職業能力評価シート(事務系職種)のダウンロード」
出典:厚生労働省公式サイト「キャリアマップ、職業能力評価シート及び導入・活用マニュアルのダウンロード」
【参考】トヨタの「多能工」について
スキル取得の1つの例として、多能工が挙げられます。1人で複数の作業や工程を遂行する技能を持った作業者を多能工といい、マルチスキルとも言い換えられます。
多能工という概念は、自動車メーカー最大手のトヨタが発祥とされており、トヨタでは多能工を創出するための教育に積極的です。従業員を多能工化することで、どの従業員でも柔軟に各工程や業務を担当できるため、業務の属人化を防ぎ、各人の業務平準化が期待されます。
特定の業務を担当する従業員が急に休んでしまっても、多能工化できていれば他の従業員がカバーできるため、業務や工程が止まってしまうリスクを回避できます。また、各従業員が複数の業務に関わることによって、社内コミュニケーションが活発化されチームワークの向上につながることも目的の1つです。
各従業員に「自分の業務だけこなせばよい」という意識がなくなるため、組織全体で業務に取り組めるようになり、連帯感によって組織力が強化されていきます。
また、多能工化を推し進めている組織としては、トヨタの他にリコーインダストリー株式会社や星野リゾートなども挙げられます。
まとめ
スキルマップによって各従業員のスキルを可視化して評価することで、従業員の評価が公平になり、従業員のモチベーションの向上や、組織の人材育成の効率化に寄与します。
スキルマップを作成する際には導入目的を明確にし、業務や工程に関連するスキルを洗い出してから評価基準を決めるといった流れで作成しましょう。
業種や職種で必要とされるスキルが違うため、組織ごとに代表的なスキルを押さえておくと、スキルマップ作成で大きく失敗することはありません。
スキルマップ導入後は、社内の実態を見ながら定期的に効果測定や見直しを行い、最適化していきましょう。