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サクセッションプランとは?取り組む目的やメリット・デメリット、作り方や事例を解説

サクセッションプランとは?取り組む目的やメリット・デメリット、作り方や事例を解説

サクセッションプランとはなにか、なぜ今注目(重要視)されているかについて解説しています。サクセッションプランに取り組む目的やメリット・デメリット、「人材育成」や「後任登用」との違い、実際の進め方やプランの作り方、事例についても紹介しています。サクセッションプランについて調査、準備している方は参考にしてください。

 

サクセッションプランとは

サクセッションプランとは

サクセッションプラン(Succession Plan)とは、経営や事業における後継者育成計画のことで、長期にわたって将来の幹部候補や経営者候補となる人材の育成を計画的に準備することを指します。

 

サクセッションプランを策定・実行することで、急遽幹部や経営者が必要となった場合にも、迅速な事業承継が可能です。ここでは、サクセッションプランと人材育成、後任登用の違いについて解説します。

 

人材育成との違い

人材育成は、企業が求める人材の育成を目的とするため、人事担当が主導となり研修などを実施します。対象者を限定せず、広範囲な人材を対象に行うのが特徴です。そのため、育成期間は比較的短期間で、取得スキルは様々です。

 

一方、サクセッションプランは、育成対象を幹部候補や経営者候補に絞り、経営層自らが長期間にわたり育成を行います。

 

後任登用との違い

後任登用は、年齢や職務などを勘案し幹部層に近い立場や部下の中から選びます。選考期間が短く、任命範囲が狭いのが特徴です。

 

サクセッションプランは、経営戦略として長期間にわたって育成し、組織や上司部下の関係などを問わずに実施されます。

 

サクセッションプランの目的や重要視される理由

サクセッションプランの目的や重要視される理由

サクセッションプランは、次世代の育成ともいえる取り組みです。

 

ここからは、サクセッションプランの目的や重要視される理由について解説します。

 

後継者不在による経営リスクの軽減

後継者不在による経営リスクの軽減

引用:経済産業省「日本企業のコーポレートガバナンスに関する実態調査 報告書 p.23」

 

日本企業において、後継者への事業承継は大きな問題となっています。経済産業省が調査委託した「日本企業のコーポレートガバナンスに関する実態調査報告書」によると、後継者計画のロードマップの立案を行っている企業は全体の23%に留まっており、十分な取り組みがされているとはいえません。

 

企業にとって、幹部や経営者は事業の経営に多大な影響を及ぼすため、後継者となる候補の選定や育成は長期的かつ慎重に行う必要があります。

 

企業の長期的な経営戦略とも直結するため、受け身ではなく積極的に取り組んでいく必要があります。

 

持続的な成長のため

サクセッションプランの目的は、持続的に企業を成長させることです。

 

企業を取り巻く環境が激しく変化する現代において、持続可能な成長を遂げるためには、企業理念を明確に継承し、迅速で的確な経営判断を行う人材が求められます。

 

後継者選定を誤ると業績の悪化につながりかねないことから、十分な経営感覚やスキルを兼ね備えた候補者の育成が重要です。

 

コーポレートガバナンスコードやISO30414での言及

サクセッションプランの必要性は、コーポレートガバナンスコードやISO30414においても言及されています。

 

コーポレートガバナンスコード(CGコード)とは、東京証券取引所が策定した企業統治に関する指針です。会社が株主をはじめ顧客・従業員・地域社会等の立場を踏まえたうえで、透明・公正かつ迅速・果断な意思決定を行うための仕組みを定めています。このなかで「取締役会は、会社の目指すところ(経営理念等)や具体的な経営戦略を踏まえ、最高経営責任者(CEO)等の後継者計画(プランニング)の策定・運用に 主体的に関与するとともに、後継者候補の育成が十分な時間と資源をかけて計画的に行われていくよう、適切に監督を行うべきである。」と指摘しています。

 

ISO30414とは、2018年12月に国際標準化機構(ISO)が発表した人的資本に関する情報開示の国際的なガイドラインのことです。このなかで「Succession planning」の項が設けられており、重要性が言及されています。

 

また、経済産業省は、「人材版伊藤レポート2.0」を取りまとめ、持続的な企業価値の向上に向けて、経営戦略と連動した人材戦略をどう実践するかについて公表しています。

 

サクセッションプランが重要視されるのは、これらの指針などで後継者育成についての言及が増えてきたことも背景の一つです。

 

出典:日本取引所グループ公式サイト「 改訂コーポレートガバナンス・コードの公表」
出典:ISO国際標準化機構公式サイト「ISO/AWI 30414 人的資源管理」
出典:経済産業省公式サイト「人材版伊藤レポート2.0」を取りまとめました

 

サクセッションプランに取り組むメリット

サクセッションプランに取り組むメリット

サクセッションプランは、幹部候補や経営者候補を育成する目的として取り組まれる方策で、多くのメリットが存在します。

 

ここでは、サクセッションプランに取り組むことで企業が得られるメリットについて解説します。

 

後継者不在によるM&Aや経営陣不在による混乱を回避できる

迅速かつ的確に経営判断を行える人材がいないと、企業活動に支障をきたすことになってしまいます。

 

サクセッションプランは、後継者の育成を計画的に行うため、後継者不在のリスクを軽減できるのが特徴といえます。人事部任せではなく、経営層が主体となって育成を行うため、企業風土や経営理念を継承しやすいです。社内で人材が育っていれば、急遽後継者が必要になった場合でも迅速な意志決定ができます。

 

従業員のモチベーションアップ(出世意欲の向上)

サクセッションプランは、その目的が明確なため従業員のモチベーションアップにつながります。

 

対象者は幹部や経営者の候補として選ばれるため、出世への道筋と捉えることも可能です。

 

候補者本人だけでなく、社内への波及効果も見込めば、企業活動の活性化にもつながります。

 

経営層に求められる人材要件を整理できる

サクセッションプランは、企業が掲げる経営理念や戦略に沿って、必要とされる育成がオープンに実施されます。そのため、評価する側もされる側もわかりやすいという点がメリットです。

 

企業が求める人材要件が明確になるため、仮に経営層を外部採用するとなった際にも活用できます。

 

サクセッションプランに取り組むデメリット

サクセッションプランに取り組むデメリット

サクセッションプランには課題もあります。

 

サクセッションプランを円滑に導入できるよう、デメリットについても把握しておきましょう。

 

長期的な育成計画の作成が必要

サクセッションプランは、将来の幹部や経営者の育成となるため、数年から数十年といった長期的な取り組みが必要です。

 

経営層が直接実施するため、時間や費用などの育成コストは大きくなります。

 

即効性のある施策ではないことに加えて、候補者が途中で辞退する可能性も考えられるため、慎重な育成計画の作成が必要です。

 

対象従業員が退職してしまうリスク

サクセッションプランの対象従業員が、育成途中に退職してしまう可能性もあります。

 

多大な時間と費用を投入している場合、損害は大きくなります。長期的な取り組みとなるため、昇格後のビジョンを共有するなど、対象者が退職しないような持続的なケアも必要です。

 

対象外となった従業員へのケアが必要

サクセッションプランによる育成の対象外となった従業員は、出世の道が途絶えたように感じてしまい、モチベーションが低下する可能性があります。

 

その結果、生産性の低下や退職につながる可能性も考えられます。対象者だけでなく、その他全従業員のキャリアプランやモチベーション維持のための施策を検討することも大切です。

 

サクセッションプランの作り方・進め方

サクセッションプランの作り方・進め方

サクセッションプランは、経営者自らが主導していくため、長期的なビジョンと手法を明確にして進める必要があります。

 

中長期の経営戦略を明確にする

サクセッションプランを進めるには、中長期の経営戦略を明確にする必要があります。それらを踏まえて幹部候補や経営者候補が定まります。

 

自社の立ち位置や取り巻く環境、競合企業と比較した場合の優位性を明らかにしたうえで、今後の舵取りを考えなければなりません。

 

サクセッションプラン自体が経営戦略であることを忘れず、中長期の視野を持つことが必要です。

 

対象となるポジションや人材要件を決める

サクセッションプランを進める場合は、対象となるポジションと人材要件を定めなければなりません。

 

必要なポジションは代表取締役のみなのか、役員クラスや部長職までなのかで、求められる人材像は異なってきます。

 

例として、役員クラスに必要な要件として以下のようなものが考えられます。

 

  • 経営に関する知識
  • リーダーシップ
  • コミュニケーション能力
  • 語学力
  • グローバルな視点
  • 責任あるポジションの経験
  • 組織内や業界での人脈

 

具体的な人材要件を決めておくと、候補者の選抜基準や育成進捗の評価に役立ちます。

 

候補者となる人材を選出する

設定した人材要件に沿って、社内から候補者を選出します。

 

候補者の選考には、試験や面接・自薦や他薦などの方法がありますが、どのポジションの候補者を選出するのか、何人選出するのかによっても方法は異なります。

 

候補者だけでなく、候補から外れた従業員に対してモチベーションが低下しないようなケアも必要です。

 

候補者に合わせた育成計画の作成と実行

候補者を選出したら、それぞれに合わせた計画を作成する必要があります。

 

能力やスキルには個人差があり、ポジションごとに求められるレベルも異なります。候補者の個性や信念・能力に合わせたプランを策定し、着実に実行していきましょう。

 

AGSコンサルティングでは、サクセッションプランの作成・運用サポートを行っています。詳しくはこちらへお問い合わせください

 

育成進捗の確認と振り返り

候補者に合わせた計画を実行したあとは、一定期間ごとに進捗の確認や振り返りを行います。

 

サクセッションプランは長期的な計画のため、進捗が芳しくないようであればやり方の変更が必要です。候補者の育成状況に合わせて、足りない点は補強するなど随時見直しを図っていきましょう。

 

万が一、期待した成果が得られない場合には、新たな候補者の選出も検討する必要があります。

 

サクセッションプランの企業事例

サクセッションプランの企業事例

サクセッションプランを導入した企業のなかには、成功事例を公表するところも増えています。

 

ここでは、参考となる事例を紹介します。

 

りそなホールディングス

りそなホールディングスは、2007年6月からサクセッションプランを導入しています。人材育成では「勝ちにこだわる姿勢」や「多角的・論理的に本質を見極める」、「新しいりそな像を創り出す力」など、7つの軸を設定しているのが特徴です。

 

設置される指名委員会は、役員の選抜を透明化し、評価・育成指標を明確化する役割を持っています。

 

また、指名委員会は報告を受けるだけでなく、各種のプログラムにも関与することで対象者と接点を持つようにしています。

 

出典:株式会社りそなホールディングス「コーポレートガバナンスの概要」

 

カゴメ

カゴメでは、役員や主要部長などポジションごとの候補者マップをつくり順位付けを行い、候補者がどれだけいるか明確にしています。

 

ポジションごとに約10年後までをイメージして人材の育成方針を決定しているのも特徴です。部署や地位・期間をどれくらい経験すべきか、その順序についても考慮されています。

 

候補人材には入れ替えもあり、社内に限らず外部の人材も含めて検討しています。さらに、役員になってからも定期的な役員教育を実施しているため、継続的な取り組みが可能です。

 

出典:日本の人事部「現場・事業・経営と向き合い、戦略実現を支える~カゴメのHRBPの事例に学ぶ」

 

コマツ

コマツは、人材を重要な経営資源の一つと捉え、継続的に投資を行っています。2006年に明文化された「コマツウェイ」は、コマツがグローバル企業として発展し、持続的に成長していくことを目的に、人材育成に関する取り組みの土台としているものです。

 

コマツでは、国内外あわせて約750にも及ぶ主要なポジションを「グローバルキーポジション」と位置づけ、サクセッションプランを策定しています。

 

経営層や候補者を対象とした「グローバルマネジメントセミナー」や、事業・機能の中核を担うミドル層を対象とした「コマツウェイリーダーシップ開発研修」の実施など、次世代リーダーの育成に計画的に取り組んでいます。

 

出典:コマツ(株式会社小松製作所)「ダイバーシティ&インクルージョン推進」

 

まとめ

サクセッションプランとは?取り組む目的やメリット・デメリット、作り方や事例を解説

サクセッションプランは、幹部候補や経営者候補を育成するための長期的な人材育成計画です。近年は、海外のみならず日本でもサクセッションプランの成功事例が報告されるようになりました。

 

サクセッションプランを策定・実行することで、後継者を育成できるだけではなく、組織の活性化にも期待できます。

 

候補者の選出は慎重に行うとともに、候補者以外のモチベーションにも配慮するなど、注意深く計画的に進めることが重要といえるでしょう。

  • 入沢 文紀

    監修者

    入沢 文紀

    株式会社AGSコンサルティング
    マネジメントサービス第1部門長 兼 HRコンサルティング部門長

    2000年の入社以降、税務会計顧問、IPO支援、BC(ビジネスコンサルティング)事業に従事。 その後、名古屋支社副支社長として事業再生支援に携わり、数多くの再生実績を有する。

    2015年からBC事業部の事業部長としてお客様の再成長支援に従事。 2017年よりマネジメントコンサルティング事業を立ち上げ、企業経営は、事業力×組織ヒトの想いのもと、中長期での経営安定のための組織/ヒトづくりに邁進。

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