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CPF(中央積立基金)の仕組みについて|シンガポールの社会保障制度

CPF(中央積立基金)の仕組みについて|シンガポールの社会保障制度

※本稿は、みずほ銀行発信の『Asia Gateway Review』2024年7月号に寄稿した記事の転載になります。Asia Gateway Reviewはみずほ銀行シンガポール支店で編集され、主にASEAN関連のテータを中心に月一回発行されているニュースレターです。

1. 概要

中央積立基金 (以下、CPF) という社会保障制度がシンガポールにはあります。これは、シンガポールの社会保障制度の中核を成す重要な要素です。日本と同様に、シンガポールも国民の福祉と安定した生活を支えるために社会保障制度を整備していますが、CPFはその一環として、老後の収入を確保するための貯蓄手段として特に重視されています。CPFは、国民が将来の生活費や医療費、住宅ローンの支払いなどを賄うための柱として、日本の厚生年金制度と比較されることがあります。

 

2. 日本の年金制度との比較

CPFと日本の年金制度はそれぞれの国の社会経済的な状況や政策目標に合わせて運営されています。CPFはシンガポールの高い経済成長と個人の責任感を反映し、将来の収入を確保するための自己責任を促しています。一方、日本の年金制度は高齢化社会における財政的な課題や制度改革の必要性に対応し、持続可能な公的年金制度を構築するための取り組みが求められています。この点、シンガポールでは、個人の自由な資産形成がある一方で、個人としての責任が強い傾向にあります。

 

3. CPFの制度概要

CPFは、シンガポール国民と永住者が退職後の強固な基盤を構築するための資金を積み立てることを目的としています。先述したように、CPFは個人のライフスタイルに合わせて貯蓄、使用することが可能になっています。

 

①充実した貯蓄制度

CPFは、賃金を基礎とした拠出がされます。拠出した金額は、普通口座 (OA)、メディセーブ口座 (MA)、特別口座 (SA)の3つの口座に貯蓄されます。また、55歳になると、退職口座 (RA)が作成されます。

 

充実した貯蓄制度

 

それぞれの口座の概要は以下となっています。

 

・普通口座(Ordinary Account,OA)

OAには、住宅購入や教育費、投資などの用途に使用できる資金が積み立てられます。
OAに積み立てられた資金は、住宅ローンの頭金や返済に使用することができます。また、教育資金や投資などの用途にも使えます。残高は、住宅ローンの支払いや教育費などの支出を補うために利用されます。
OAの利率は比較的低く、その残高は比較的リスクの少ない投資に使用されます。

 

具体的には、金利は、同等の期間のリスクのない市場商品に固定されています。ただし、近年のように市場金利が低水準に低下した場合に国民を保護するため、CPFの貯蓄には最低金利も設定されています。現在(2024年4月時点)、OA内の資金には、最初の20,000SGDに対して3.5%の最低金利が適用され、残りの貯蓄額に対して年間2.5%を享受できます。

 

・特別口座(Special Account,SA)

SAには、将来の医療費や老後の生活費などのために積み立てられる資金が含まれます。
積み立てられた資金は、将来の医療費や老後の生活費などの支出を補うために利用されます。SAの残高は、特に老後の安定した収入を確保するために重要です。これにより、年金制度であるCPF LIFEよる受給額が増加します。そのため、老後に多くの年金を受け取りたい場合は、貯蓄すればよいし、住宅の購入などに使用したい場合には、使用できるという柔軟性があります。
また、SAの利率は、OAよりも高く、その残高は比較的リスクの高い投資に使用されます。
加えて、SA、MA、RAの資金には、少なくとも最初の40,000SGDに対して5%の最低金利が適用されます。多額の残高を保有している場合、残りについては年間4%を享受できます。

 

・医療口座(MediSave Account,MA)

MAは、シンガポールの国民が医療費を支払うために積み立てる口座です。
医療口座に積み立てられた資金は、医療費や健康関連の支出、保険料などに使用されます。
国民は、自身や家族の医療費をカバーするために、年間限度額内で医療口座に積み立てることができます。
医療口座の利率は比較的高く、その残高は安定した医療費の支払いを支援するために使用されます。
また、扶養家族の医療費にもメディセーブを使用が可能になっています。入院費を例に挙げると、最初の2日間は1日あたり最大550SGD、その後は1日あたり400SGDまで使用できます。これには、1日の病棟料金、1日の治療費、検査、薬が含まれます。その他にもメディシールドライフという、がん治療などの高額な定期的な外来治療の費用をカバーできる制度もあります。

 

・退職金口座(Retirement Account,RA)

RAは、シンガポールの国民が老後の収入を確保するために積み立てる口座です。
退職金口座に積み立てられた資金は、定期的な支払いや年金の受給、老後の生活費の補填に使用されます。退職金口座の残高は、老後の安定した収入を確保するために重要であり、年金制度であるCPF LIFEの受給額に影響します。

 

②拠出

拠出金額は基本的に賃金に一定の%を乗じて算定され、雇用主、従業員でそれぞれ一定額を負担します。拠出率、負担率は年齢によって異なります。CPF拠出率は賃金の12.5%から37%の範囲になります。
また、賃金の例としては次のようなものがあります。

  • 基本給
  • 残業代
  • インセンティブ
  • 各種手当
  • ボーナス
  • 手数料

 

加えて、当該拠出額から、普通口座、特別口座、医療口座、退職金口座に年齢ごとに一定の割合で拠出されます。
以下の表は、年齢ごとのCPFの拠出率です。

 

2024年1月1日からの拠出率

(月給 > 750 ドルの場合)

従業員の年齢
(歳)
雇用主別
(賃金の%)
従業員別
(賃金の%)
合計
(賃金の%)
55歳以下172037
55~60歳以上151631
60歳以上~
65歳未満
11.510.522
65~70歳以上97.516.5
70歳以上7.5512.5

 

4. CPFの運用

CPFの拠出を行い、国民が55歳になると、CPF LIFEという国民が老後の収入を確保するための年金制度があり、国民はCPFの残高の一部をCPF LIFEに移行し、将来の定期的な年金受給を開始します。CPF LIFEの支給額は、選択された運用オプションと積み立て額に基づいて計算されます。FRS(Full Retirement Sum)、BRS(Basic Retirement Sum)、ERS(Enhanced Retirement Sum)が選択肢として存在します。これらの選択は、将来の収入や支出、個々のライフスタイルに合わせて行われます。
FRSは、老後の収入を確保するために必要な最低限の金額を示します。BRSは、FRSよりも低い金額で、一部の国民が選択する選択肢です。ERSは、FRSを上回る金額で、より豊かな老後の生活を希望する国民が選択します。
実際の受け取ることのできる金額は、以下となっています。

 

55歳になる
タイミング
BRSFRSERS
2024年102,900205,800308,700
2025年106,500213,000426,000
2026年110,200220,400440,800
2027年114,100228,200456,400

 

これらの選択は、将来の収入や支出、個々のライフスタイルに合わせて行われます。国民は、自身や家族の健康状態、予想される医療費、生活スタイル、予定される退職時期などを考慮して、適切なオプションを選択します。

 

5. 最後に

CPFは、国民の将来の生活に向けた自己責任が強く求められ、国民が適切な選択を行い、積極的にCPFを活用する必要があります。一方で、日本の年金制度は、国が一律で運用してくれるので、一定の金額が年金として受け取ることはできます。加えて、日本も積立NISAやiDeCoなどの税務上メリットのある選択肢も多くあります。自身の資産運用などをされる場合に他国の情勢や制度も参考にいただければと思います。

 

出典:https://www.cpf.gov.sg/member/cpf-overview

  • 中村 聡一郎

    監修者

    中村 聡一郎

    株式会社AGSコンサルティング
    国際部門シンガポール支社・日本国公認会計士

    有限責任あずさ監査法人にて、上場企業、金融機関を中心に監査業務に従事。

    2023年に日本AGSに入社しM&Aトランザクション業務に従事したのち、現在はシンガポールに移り、日系企業のシンガポール進出支援のほか、クロスボーダーM&Aにおける財務デューデリジェンス、海外子会社への決算及び内部統制支援等の業務を行っている。

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