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所得税の予定納税とは?対象条件や納付時期、減額申請や還付について解説

所得税の予定納税とは?対象条件や納付時期、減額申請や還付について解説

所得税の予定納税とは何かについて解説しています。予定納税の対象となる条件や納付する際の時期、予定納税という制度が存在する理由や納付の方法、予定納税をする際の注意点などについても紹介しています。予定納税の対象になった方や自身が対象になるかも知れないと思っている方は参考にしてください。

所得税の予定納税とは

所得税の予定納税とは

所得税の予定納税とは、その年の5月15日時点で確定している情報(前年分の所得金額、税額など)をもとに計算した予定納税基準額が15万円以上となった際に、今年度の税金の一部を先払いする制度です。

 

予定納税の額は「前年の所得税額の3分の2」となり、3分の1は第1期、3分の1は第2期と2回に分けて納付します。第1期分は7月1日から7月31日まで、第2期分は11月1日から11月30日までの期間に納税するよう定められています。

 

予定納税の対象となった場合、納税を怠ると延滞税が発生しますので十分に注意してください。

 

出典:国税庁「予定納税」

 

法人だけでなく個人事業主も対象

予定納付は法人だけの制度ではありません。前年の確定申告で所得税の納税額が15万円以上の場合は、個人事業主も所得税の納付義務が生じます。

 

個人事業主とは、個人が独立して事業を営む者を指します。予定納税は所得税を分割することで納税者の支払い負担を軽減するのが目的のため、基準額を超えれば個人事業主も当然に予定納税の対象となります。

 

自身の所得状況を正確に把握し、適切な納税手続きを行いましょう。

 

予定納税はなぜ存在するのか

予定納税はなぜ存在するのか

予定納税は、納税者の負担を軽減する目的で存在しています。

 

税金を一度にまとめて払わなければならない場合、それが大きな負担になることもあるでしょう。予定納税制度が適用されれば所得税を分割して納付できることになり、納税者は一度に大きな税金を支払う必要がなく、経済的な負担が軽減されるのです。

 

また、もし「まとめて支払うための金銭がやりくりできなかった」などの理由で納税期限が過ぎ、税金の延滞が生じると延滞税が発生し、追加の税負担が発生する可能性があります。分割して納付できれば、そのようなリスクも減少するでしょう。

 

さらに納税者側の負担軽減だけではなく、税務署側の視点でもメリットがあります。予定納税のおかげで、税務署は税金を計画的に、かつ効率的に回収できます。

 

予定納税は納税者の経済的な負担を軽減するだけでなく、税務署が確実に税金を回収するための仕組みでもあります。

 

予定納税の対象となる条件と納付期限

予定納税の対象となる条件と納付期限

予定納税の対象となる条件と納付期限について、具体的に解説していきます。

 

予定納税の対象となるかは前年の所得税額によって決まり、対象者はその年の6月15日までに、書面又はe-Taxによる通知で通知されます。

 

納付期限を過ぎると延滞税が発生してしまい、納付すべき金額が増えてしまうため、納付時期には注意しましょう。

 

出典:国税庁「所得税及び復興特別所得税の予定納税(第1期分)の納税をお忘れなく」
出典:国税庁「予定納税」

 

前年の納税額が15万円以上の場合が対象

予定納税の対象となる条件は、前年の確定申告による納税額が15万円以上であることです。

 

予定納税額の計算は原則として、前年の申告納税額が「予定納税基準額」とされ、基準額の3分の2が予定納税額になりますが、所得の種類や災害減免法の有無などで基準額が異なります。

 

予定納税基準額

下記のいずれにも当てはまらない場合には、前年度の所得納税額がそのまま予定納税基準額になります。

 

  • 前年の所得において、山林所得、退職所得等の分離課税の所得(分離課税の上場株式等の配当所得等を除きます。)及び譲渡所得、一時所得、雑所得、平均課税を受けた臨時所得の金額(除外所得の金額)が含まれていること
  • 前年の所得において外国税額控除が適用されていること
  • 前年の所得税において災害減免法が適用されていること

 

上記の要件に該当する場合には、以下の合計額が基準額となります。

 

  • 前年の課税総所得金額及び上場株式等の配当所得等の金額に係る所得税額(上記除外所得の金額がある場合には除外)から、源泉徴収された金額を差し引いた額
  • 上記金額にかかる復興特別所得税

 

ただし、災害減免法が適用されている場合、適用前の金額から計算します。

 

納付時期は7月(第1期分)と11月(第2期分)の2回

納付期限は第1期が7月1日〜7月31日、第2期が11月1日〜11月30日で、それぞれ予定納税基準額の3分の1の金額を納めます。

 

まず、6月15日までに税務署から「予定納税等通知書」が書面又はe-Taxによる通知で通知されます。この通知書には、所得税の予定納税額や納税に関する手続き、そして納付期限などの詳細が記載されています。期限を守り、指定された期日までに納税を行い延滞税がかからないようにしましょう。

 

なお、第1期、第2期の予定納税額は、あくまで前年度の所得税額から概算的に算出した金額となります。

 

そのため、予定納税を行った年の所得額が前年よりも大きく減額した場合、本来納めるべき1年の所得税額よりも多く納めてしまう可能性があります。この場合、翌年の確定申告で還付手続きを行うことで納め過ぎた所得税が還付されます。

 

所得税の予定納税に関して、納付時期や期限に関する情報を正確に把握し、計画的に納税を行いましょう。通知書をしっかりと確認し期日を守れば、無駄な手間やコストを避けられます。

予定納税は減額申請も可能

所得税の予定納税には、「減額申請」という特例措置が存在します。

 

減額申請は、次年度の所得が大幅に減少予想される場合や、特定の事情が生じた場合に所得税の予定納税額を減額して納付する制度です。

 

減額申請の存在理由は、所得の大幅な変動や特別な事情が生じた場合に、納税者の経済的な負担を軽減し、適切な税額を納付させるためです。

 

減額申請を行うには、「所得税及び復興所得税の予定納税額の7月(11月)減額申請書」に所定の事項を記載する必要があります。国税庁のホームページからダウンロードするか、税務署に直接出向いて入手できます。申請書に減額申請の理由やその金額などを記入し、添付書類と一緒に税務署に提出しましょう。

 

予定納税の減額申請を実施するには、7月1日から7月15日(第2期の場合には11月1日から11月15日)までに必要書類を提出する必要があります。ただし、予定納税の通知書の送付が遅れた場合は、届いてから1ヵ月以内に申請書を提出すれば減額申請が可能です。

 

添付書類は、減額申請の対象となる期間の損益計算書や計算の根拠書類となります。減額申請制度の詳細や申請方法を正確に理解し、必要に応じて適切に活用してください。

 

出典:国税庁公式サイト「A1-3 所得税及び復興特別所得税の予定納税額の減額申請手続」

 

予定納税の5つの納付方法

予定納税の5つの納付方法

予定納税を行う際、主に以下5つの納付方法が選択できます。

 

納付方法特徴
金融機関での納付・主な銀行やATM、郵便局などでの納付

・「預貯金口座振替依頼書兼納付書送付依頼書」を税務署に提出することで、口座から直接引き落としも可能。一度設定してしまえば、その後も自動で引き落とされる

・口座引き落としにすることで、納税忘れを無くせるメリットあり

コンビニエンスストアでの納付・指定のコンビニエンスストアでの納付

・日常の買い物と一緒に、手軽に納税ができるメリットあり

電子納付(e-Tax)・PCやスマホから行うオンラインでの税金納付

・事前に「e-tax」の利用手続きが完了している必要あり

クレジットカード納付・特定のクレジットカードを利用しての納付

・手数料がかかるものの、納付忘れを無くせるメリットあり

・カードによってはポイント付与も魅力

税務署での納付・税務署へ納付書と現金を持参し行う納付

・予定納税について相談しに行くなど、税務署へ用事がある際に一緒に納付できる

 

納税方法の選択は、納税者のライフスタイルや好みに応じて選べます。最近ではPayPayや楽天Payといったキャッシュレスサービスが利用できる場合も増えてきました。

 

それぞれの方法のメリットを理解し、自身の生活スタイルや経済状況に合わせて選択してください。

 

予定納税の注意点

予定納税の注意点

予定納税には細かな注意点や落とし穴が存在します。納税者として、これらの注意点を理解し、適切な対応を行えば、無駄な手数料や追徴課税を回避できます。以下で解説する注意点を理解し、適切な納税手続きを行いましょう。

 

なお、会社員の方は基本的に確定申告義務が生じないため、予定納税の対象とはなりません。

 

ただし、副業所得が年20万円を超えている場合や、年間の給与が2,000万円を超える場合は確定申告義務が生じ、場合によっては予定納税の対象となる可能性があるため注意してください。

 

出典:国税庁公式サイト「確定申告が必要な方」

 

納税が遅延すると延滞税が発生する

予定納税の期日を逃すと、延滞税という追加の負担が発生します。延滞税は、納税額の未払分に対して一定の利率で課せられる追加の税金です。

延滞税については、下記の場合に応じて適用される割合が異なります。

 

納期限の翌日から2ヵ月を経過する日までの期間については、予定納税額に年率7.3%と「延滞税特例基準割合+1%(令和5年は2.4%)」のいずれか低い割合納期限の翌日から2か月を経過する日の翌日以後については、年率14.6%と「延滞税特例基準割合+7.3%(令和5年は8.7%)」のいずれか低い割合利率がかかります。

 

たとえば予定納税額が50万円で、これを30日間遅延して納付した場合を考えてみましょう。なお、延滞税の適用税率は7.3%と仮定します。この場合の延滞税は、

 

「50万円×7.3%×30日÷365日= 3,000円」

 

となります。つまり、元々の税金50万円に加えて、3,000円の延滞税が発生します。所得税の予定納税の期日を守り計画的に納税を行えば、延滞税など余計な手間や負担は回避できます。

 

予定納税は申告納付を忘れやすいため、確定申告で所得の計算が終わった段階で予定納税が必要となりそうな見込みだったら、スケジュールにメモしておくなど工夫をしておくのがおすすめです。

 

出典:国税庁公式サイト「延滞税の割合」

 

納税が難しい場合は減額申請を行う

予定納税をすることになったが資金がなく納税が難しいという場合は、減額申請を検討しましょう。

 

減額申請は、次年度の所得が大幅に減少予想される場合や特定の事情が生じた場合に、所得税の予定納税額を減額して納付するという制度です。

 

特定の事情とは、たとえば収入が不安定になりやすい個人事業主が、一時的に予定納税の金額を工面できないといった場合です。ほかにも病気や災害による被害、経営環境の変化など、所得が大きく減少する見込みがある場合が該当します。

 

具体的には、予定納税を減額申請するために以下4つのいずれかに当てはまる必要があります。

 

  • 個人事業を廃業・休業・失業した場合
  • 業況不振などを理由に、所得が前年よりも明らかに減少すると見込まれる場合
  • 災害・盗難・横領などによって、事業用資産や山林に損害を受けた場合
  • 本年分の所得控除額や税額控除額が、前年分と比較して増加する場合

 

なお、その他のケースでも事情によっては減額申請が認められる場合があります。上記に当てはまらなくても、支払いに困りそうな場合は一度税務署に相談してみることをおすすめします。

 

納め過ぎた税金は確定申告で還付される

所得税の予定納税は、所得税の一種の「前払い」として位置付けられています。しかし、予定納税での前払いが多過ぎる場合、確定申告によって還付を受けられます。

 

予定納税の額は前年度の所得に基づいて計算されるため、業績や所得が変動すると、実際の所得税額と予定納税額にズレが生じます。そのような状況の場合、確定申告を行えば、過払い分の税金が還付されるのです。

 

特筆すべきは、この還付には「還付加算金」という金利分が追加され返金される点です。年率7.3%と「平均貸付割合+0.5%(令和5年は0.9%)」のいずれか低い割合となりますが、いずれにしても高金利になっています。

 

予定納税による前払いが多過ぎた場合、確定申告を正しく行えば過払分の税金とその利息が還付されます。

 

出典:財務省公式サイト「延滞税・利子税・還付加算金について」

 

まとめ

所得税の予定納税とは?対象条件や納付時期、減額申請や還付について解説

所得税の予定納税についての概要や、対象になる方について解説しました。

 

対象となった場合は期限内の納付が義務になります。延滞すると延滞税の対象になり、追加で支払いが発生するため注意が必要です。

 

「納付する資金が無い」といった場合は、減額申請を検討しましょう。減額申請には所定の要件を満たす必要がありますが、事情の特殊性によっては要件を満たしていなくても減額申請が認められる場合があります。

 

支払いが難しいからといって放置するのではなく、まずは税務署に相談することをおすすめします。

  • 鈴木 秀弥

    監修者

    鈴木 秀弥

    株式会社AGSコンサルティング
    事業承継第2事業部長・税理士