ROE(自己資本利益率)とは?ROAとの違いや計算式、目安となる数値などをわかりやすく解説

ROE(自己資本利益率)とは?ROAとの違いや計算式、目安となる数値などをわかりやすく解説

ROE(Return On Equity/自己資本利益率)とはどういう指標かについて解説しています。関連指標である「ROA」との違いや計算式、目安となる数値や確認する際の注意点について紹介しています。POEについて調べている方は参考にしてください。

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ROE(自己資本利益率)とは

ROE(自己資本利益率) とは

ROE(自己資本利益率)とは「Return On Equity」の略であり、自己資本を効率よく活用して企業が利益を創出できているかを示す指標です。

ROEは1株あたりの自己資本と純利益を用いた計算でも同様の結果が得られるため、投資家や株主が企業の自己資本と利益のバランスを判断する際の参考指標として用いられることもあります。

自己資本とは

自己資本とは、株主からの元手と過去の利益の蓄積ですので返済する必要がない要素です。

貸借対照表では、概ね資産から負債を差し引いた部分を指し、株主からの出資や資本剰余金・利益剰余金等が含まれます。

新株予約権等を含まないなど細かな違いはありますが、純資産とほぼ同義で使われます。

貸借対照表のイメージ

資産の部負債の部(他人資産)

流動資産

固定資産

   繰延資産 など

流動負債

固定負債

純資産の部(自己資産)

資本金

資本余剰金

   利益余剰金 など

なお、企業の資本としては、自己資本(純資産)のほかに他人資本(負債)があります。他人資本は、金融機関などからの借入金など、返済が必要な負債です。

ROAとの違い

ROEと同様によく使われる指標として、ROAがあります。ROAとは「Return On Assets」の略であり、総資産利益率と呼ばれます。ROAは、自己資本と他人資本の合計と一致する総資産に対する当期純利益の割合を示す指標です。以下の計算式で求めることができます。

ROA(%) = 当期純利益 ÷ 総資産 × 100

ROEは分母が自己資本なのに対し、ROAは総資産である点が異なります。総資産とは、現金預金や売掛金・固定資産など、企業が持つすべての資産のことです。自己資本や他人資本という概念は資金の調達という側面に焦点を当てており、会社はこの資金の全てを何らかの資産に供して事業等を行っております。そして、この資産サイドに焦点を当てているのが総資産という概念です。

ROAは、この総資産を分母とします。そのため、一般的には負債の増減により総資産も増減することから、企業の当期純利益が同じでも、自己資本が同額でも負債が大きければROAは低くなります。一方、負債を活用しビジネスを拡大して利益を増やすことができれば、ROEは上昇することがありますので、企業分析を行う場合には、ROEとROAの2つの数値を併用して分析するのが一般的です。

ROEの計算式

ROEの計算式

ROEを算出する計算式は、以下のとおりです。

ROE(%) = 当期純利益 ÷ 自己資本 × 100

1株あたりの当期純利益 ÷ 1株あたりの自己資本 × 100 で計算しても、同じ結果が出ます。

例えば、当期純利益が5億円、自己資本が50億円の企業の場合、以下の計算によってROEは10%とわかります。

計算式: 5億円 ÷ 50億円 × 100 = 10%

ROEの目安・平均値

ROEの目安・平均値

2013年に経済産業省より公表された「持続的成長への競争力とインセンティブ~企業と投さく資家の望ましい関係構築~」(いわゆる「伊藤レポート」)では、ROE8%を目途としていましたが、近年は徐々に改善しているとされています。

例えば、経済産業省の速報値では、2022年度の全業種の平均値は10.59%です。業種によっても基準が異なるため、業種ごとの平均値も参考にするとよいでしょう。中小企業に絞った平均値は、中小企業庁の「中小企業実態基本調査」が参考となります。

ROEは産業によって平均値が異なります。次の表は、経済産業省が2024年1月30日に公表した「2023年経済産業省企業活動基本調査速報(2022年度実績)」を参考に作成した産業別のROEの平均値です。

産業別ROE(%)
鉱業、採石業、砂利採取業7.27
製造業10.18
電気・ガス業2.45
情報通信業11.80
卸売業16.26
小売業7.21
クレジットカード業、割賦金融業5.37
物品賃貸業8.48
学術研究、専門・技術サービス業13.34
飲食サービス業10.70
生活関連サービス業、娯楽業5.78
個人教授所6.21
サービス業15.86
サービス業(その他のサービス業)8.27
その他の産業8.72

出典:経済産業省「2023年経済産業省企業活動基本調査速報(2022年度実績)の公表のお知らせ」

ROEは高い方がいい?

ROEは、一般的に高ければ高いほど良いとされています。これは数値が高い方が自己資本を効率よく活用して利益を得られており、株主にとって効率的なビジネスが行われていると判断できるためです。

ROEは自社の数値と業種の平均値や競合他社との比較で判断することもあります。例えば、同じ業界で競合するA社とB社で比較してみましょう。

A社B社
自己資本10億円100億円
当期純利益2億円4億円
ROEの計算当期純利益2億円 ÷ 自己資本10億円 × 100当期純利益4億円 ÷ 自己資本100億円 × 100
ROE20%4%

一見、B社の方が当期純利益は大きいですが、算出されたROEで比較すると、B社の4%よりもA社の方が20%と高く、A社の方が経営効率が良いことがわかります。ROEの比較によって自己資本や当期純利益の金額を比較するだけでは見えない一面がわかります。

ただし、ROEの数値だけで企業を評価すると別の経営リスクを見落とす可能性があるため、後述のとおりROAなど他の指標と組み合わせて企業分析するのが一般的です。

ROEを高める方法

ROEを高める方法

ここでは、ROEを高めるためにデュポン分析という考え方に基づき、主な3つの方法について解説します。

総資産回転率を高くする

ROEを高める方法のひとつは、総資産回転率を高めることです。総資産回転率とは、企業が総資産を有効に活用していかに売上を上げることができているかを示す指標として用いられます。これは、企業の売上に対して総資産が何回転しているかを表しており、計算式は次のとおりです。

純資産回転率(回) = 売上高 ÷ 総資産

少ない総資産で売上を上げれば上げるほど、総資産回転率が高くなります。効率的な事業投資を行いながら、事業に要しない資産を売却したり、資産を保有することからレンタルに変えたりすることで、改善する場合もあります。なお、売上が増えれば、最終的な利益である当期純利益も増える可能性があるため、ROEを高めることにつながります。

収益性を高くする

ROEを高めるためには、企業の収益性を高めることも重要です。計算上、分母が同じ自己資本であれば、分子である当期純利益が多いほど、ROEが高くなります。

企業の最終的な儲けである当期純利益を増やすためには、企業の売上を増やすことと経費や原価などのコストを抑制することが必要です。付加価値の高い事業を行うことで、利益率を高めることができれば、ROEの改善につながります。

財務レバレッジを高くする

財務レバレッジを高めることでも、ROEが高まります。財務レバレッジとは、金融機関からの借入金などの負債を活用することで、総資産が自己資本の何倍にあたるかを表す指標です。

財務レバレッジ(倍) = 総資産 ÷ 自己資本

負債を増やせば、総資産を構成する自己資本の割合が低下するため、ROEが高くなります。ただし、財務レバレッジを高める目的で過度に負債を増やしてしまうと、利息や元本返済の負担、信用力の低下などの悪影響によって経営状態が悪化する恐れもあります。

負債と自己資本のバランスの良し悪しは、一概には判断できません。借入金が少ない企業は、財務レバレッジが低くなり企業体力があるとも見られますが、事業成長のための投資が不十分である、収益を上げる機会を逃しているとも判断される可能性があります。所属する業界や競合他社の数値も参考にしながら総合的に判断することが大切です。

ROEを確認する際の注意点

ROEを確認する際の注意点

企業分析のための指標のひとつとしてROEが見られますが、ここでは、ROEを確認する際の注意点について解説します。

ROEだけで企業評価はできない

ROEは企業の収益効率を判断するための指標ですが、ROEだけでは企業を評価するには不十分です。ROAなど他の指標と併せて評価することで、経営効率と財務の健全性を総合的に判断できます。

ROAは総資産に対する当期純利益の割合を示すため、ROAが低ければ少ない資産で経営の効率化を図っていることを意味します。ただし、ROEが高くてもROAが低い場合、負債部分の負担が重く、財務の健全性に問題がある可能性があります。例えば、以下のケースで考えてみます。

A社B社
自己資本

(純資産)

40億円60億円
当期純利益10億円10億円
他人資本

(負債)

60億円20億円
ROE25%
(10億円 ÷ 40億円 × 100)
16.6%
(10億円 ÷ 60億円 × 100)
ROA10%
(10億円 ÷ 100億円 × 100)
12.5%
(10億円 ÷ 80億円 × 100)

ROEで判断すれば、A社の方が経営効率が高く見えますが、財務の健全性からみるとB社の方が負債が少なく経営基盤が安定しているといえます。ROEだけではなく負債を考慮したROAも参考にすると、経営状況をより多角的な視点で判断できます。

まとめ

ROE(自己資本利益率)とは?ROAとの違いや計算式、目安となる数値などをわかりやすく解説

ROE(自己資本利益率)は、当期純利益に対する自己資本の割合を表す指標です。業界や競合他社との比較によって、経営効率の良さを判断できます。ROEの平均値は業界によって異なるため、経済産業省の資料などを参考に比較検討するとよいでしょう。

また、ROEを高めるには、主に次の3つの方法があります。

  • 総資産回転率を高くする
  • 収益性を高くする
  • 財務レバレッジを高くする

ROEには分母に他人資本(負債)が反映されないため、単独の指標だけでは企業評価の判断材料として不十分です。ROAを併せて用いることで、より正確な企業分析につながります。他人資本が増えるとROAは低下する傾向にありますが、企業の目指す方向性や内容によって一概に悪いとは判断できません。正しく企業分析するには「ROE」と「ROA」の違いを理解し、同業他社の数値とも比較しながら検証していきましょう。

監修者

  • 藤川 直貴

    株式会社AGS FAS
    FAS1事業部長・公認会計士

    藤川 直貴

    政府系金融機関を経て、2011年に監査法人に入所し、国内上場企業の監査業務に従事。

    2016年にAGSグループに入社以降、M&Aの業務に携わり、国内大手証券会社のM&A担当部署への出向も経験。公開買付け等を伴う上場会社案件に多数関与している。