ROA(総資産利益率)とは?ROEとの違いや計算式、目安となる数値などをわかりやすく解説

ROA(総資産利益率)とは?ROEとの違いや計算式、目安となる数値などをわかりやすく解説

ROA(Return On Assets/総資産利益率)とはどういう指標か解説しています。関連指標である「ROE」との違いや計算式、目安となる数値や確認する際の注意点について紹介しています。ROAについて調べている方は参考にしてください。

すべて表示

AGSの「FASサービス資料」をダウンロードする

ROA(総資産利益率)とは

ROA(総資産利益率)とは

ROAとは「Return On Assets」の略称であり、一般的には「総資産利益率」と呼びます。会社が保有している資産に対して、どれだけの利益を生んでいるのかを示す指標です。

ROAの数値が高いほど、持っている資産をうまく活用して利益を出せていることがわかるため、投資家が投資する企業を選ぶ際に参考にする指標の1つとされます。

総資産とは

総資産とは、決算時点における会社のすべての資産を指します。貸借対照表における「資産の部」の合計値であり、1年以内に現金化できる「流動資産」、1年を超えて保有する「固定資産」、「投資その他の資産」、「繰延資産」の4種類に分けられます。

ROAを算定するには、貸借対照表の左側の合計値をそのまま使用すればよいため、比較的算定が簡単な指標です。

ROEとの違い

ROEとは「Return On Equity」の略称であり、「自己資本利益率」と呼ばれます。

自己資本とは株主から出資を受けた額と、過去の利益の蓄積分の合計であり、借入金と異なり返済義務がありません。

ROEは企業が自己資本をどれだけ効率よく活用して利益を出せているかの指標で、数値が高いほど効率が良いことを示します。ROA同様、投資家が企業に投資する際に重要視する指標の1つです。

ROAは借入金など他人資本も含めたすべての資本を使った経営効率をみるのに対し、ROEは株主の投資をどれだけ効率よく活用しているかを測ります。

ROAの計算式(求め方)

ROAの計算式(求め方)

ROAの算出には、以下の計算式を使います。

ROA = 利益 ÷ 総資産 × 100

例えば、利益が10万円、総資産が100万円の企業であれば、ROAは以下のように算出します。

10 ÷ 100 × 100 = 10(%)

ROAの計算式の分子として使われる利益は、営業利益や経常利益、当期純利益などを、分析の用途に応じて用います。ただ、総資産には非事業用の資産も含まれていますので、営業外損益を勘案している経常利益や当期純利益を採用するのが理論的となります。

売上から売上原価を引き、そこからさらに販管費を引いた残りが営業利益です。
営業利益に営業外損益を加減算した残りが経常利益であり、経常利益に特別損益を加減算して税金を引いた残りが当期純利益となります。

ROAを厳密に計算する際には、総資産の平均値を用いる場合もあります。その場合、総資産の平均値の計算式は以下となります。

(期首の総資産) + (期末の総資産) ÷ 2

また、ROAをより詳しく分析する際は、以下の計算式も活用します。

売上高当期純利益率 ÷ 総資産回転率

売上高当期純利益率とは、企業の当期純利益を売上高で割って算定したものです。売上に対してどれだけ利益を上げられたかがわかる指標で、企業の収益力を把握する指標の1つです。

総資産回転率とは、売上高を総資産で割って算出した指標で、業種にもよりますが1.0以上になるのが望ましいといわれます。総資産回転率が高いほど、資産が効率よく売上に結びついていることを示します。総資産回転率を厳密に求める場合は、期首と期末の総資産の平均を用います。

ROAの目安・平均値

ROAの目安・平均値

ROAは業種によって大きく異なるため、どの程度の水準ならよいのかは一概にいえません。

一つの目安として、経済産業省が公表した「2023年企業活動基本調査確報」を基に算定したROAの例を下表にまとめました。

業種ROAの目安
総合計4%
製造業5%
食料品製造業3%
化学工業4%
電気・ガス業1%
ソフトウェア業8%
出版業3%
卸売業7%
小売業3%
広告業6%

出典:経済産業省「2023年企業活動基本調査確報ー2022年度実績ー」

ただ、同業界であっても他社の数値はあくまで参考値です。ROAを比較する場合は、自社の経年の数値や事業の類似性などを考慮して行いましょう。

ROAは高い方がいい?

ROAは総資産に対する利益の比率のため、ROAが高ければ、それだけ資産を効率的に活用して利益を上げられていることになります。

ただ、ROAは分母の総資産には事業用の資産だけではなく、投資有価証券等の非事業用の資産が含まれるため、保有する外貨や株の価値変動によって変動してしまいます。また、分子に当期純利益当を採用した場合には、災害や訴訟などによる損失からも影響を受けます。ROAは、本業以外の要因で変動してしまう指標であることを、念頭に置く必要があるでしょう。

また、借入を行って先行投資をする場合のように、分母である総資産が増えるため、一時的にROAが低下することもあります。
ROAの値が大きく増減した場合、その原因まで分析することが重要です。

ROAを高める(改善する)方法

ROAを高める(改善する)方法

ROAは企業の投資効率を表すため、高い方が望ましいとされています。ROAを高めるためには、詳細な分析が欠かせません。

ROAを高めたい場合、以下のいずれかまたは両方の施策を打つ必要があります。

  • 売上高当期利益率を上げる
  • 総資産回転率を上げる

ROAの簡便な求め方である「当期利益 ÷ 総資産」に基づいて精緻な分析をするには、以下のように計算を進めます。

当期利益 ÷ 総資産
= (当期利益÷売上高) × (売上高÷総資産)
= 売上高当期純利益 × 総資産回転率

この計算式より、ROAを高めるためには売上高当期純利益と総資産回転率を高める必要があることがわかります。

ここでは、それぞれの指標を高める方法について解説します。

売上高当期利益率を上げる

売上高当期利益率は、以下の計算式で表されます。

売上高当期利益率 = 当期利益 ÷ 売上高

売上高当期利益率を上げるには、売上における利益の割合を上げる必要があります。

例えば、高付加価値の商品やサービスを開発して購買単価を上げる、仕入れコストや在庫ロスを削減する、ムダな経費を削減したり家賃の安いところに引っ越したりするなどの施策が考えられます。

総資産回転率を上げる

総資産回転率は、以下の計算式で表されます。

売上高 ÷ 総資産

総資産回転率を上げるには、分子の売上高を増加させるか、分母の総資産を減少させる必要があります。

売上を即座に増やすのは難しいため、まずは企業内の資産のムダを徹底的に洗い出して、解消するとよいでしょう。

例えば、留保利益が多すぎるのであれば事業や設備に投資する、遊休資産があれば処分してスリム化する、不良在庫が多く出るなら適正になるよう管理するといった施策が考えられます。

ROAを確認する際の注意点

ROAを確認する際の注意点

ROAは企業の投資効率を判断する指標の1つですが、企業評価のためにROAを確認する際に注意すべき点があります。

ROAは業界によって水準が違うため、比較する際は同業他社と比べるだけでなく、同社の過年度のROAも比較し、増減の要因を分析しなければ判断を誤る可能性があります。

ここでは、ROAを評価する際の注意点について、それぞれ解説します。

ROAだけでは企業は評価できない

ROAは、企業を評価する際の1つの基準ではあるものの、分析にあたっては他の基準と併せて検証する必要があります。

例えば、ROAでは企業の資金的な余裕については判断できません。表面的にはROAが高く利益を上げている企業でも、資金不足によって黒字倒産する場合があります。

資金的な安全性を分析するためには、フリーキャッシュフローや当座比率などの指標も確認が必要です。

また、ROAが低くなったとしても、それだけで会社の収益力が悪化したとの判断はできません。金融機関から資金を借りて新事業を立ち上げた場合、ROAが一時的に下がることがあります。

表面的なROAの推移だけでなく、ROEと合わせてチェックしたり、変動要因まで目を行き届かせたりすることで、正しい分析につなげられます。

投資の影響で数値が悪化する可能性がある

企業は事業活動を行うにあたって、事業拡大のために資金調達を行い、事業や設備に投資をします。投資をした直後に利益が上がることは少なく、利益を上げるには一定の期間が必要です。

例えば、新商品開発のために技術開発を行っている最中は、まだ商品化できておらず売上になりません。

この場合、売上が立たない一方で資金調達や投資によって総資産が上昇するため、ROAが悪化します。

企業評価の際はROAを時系列で比較し、悪化している場合は何が原因となったかまで把握しておくことが大切です。

本業に関係なく数値が上下する可能性がある

企業が本業以外で保有している資産の価値が変動して、ROAの数値が上下する可能性があります。

有価証券の価値が上がれば評価益が生まれ、不動産の価値が下がれば減損が発生するなど、本業に関係ない部分で経常利益や純利益、総資産は変動します。外貨を持っている場合にも、為替の影響を受けて資産が増減します。

また、業績不調で資金不足になってしまい、資金を得るために企業の保有する固定資産を売却するケースも一例として挙げられます。

本業がうまくいっていない会社でも、固定資産売却益により当期純利益が上昇し、ROAに当期純利益を用いていた場合は、本業に関係なくROAが上昇します。

本業に関係ない利益や総資産の変動でもROAは上下してしまうため、ROAの増減はきちんと原因まで追究して分析しなければ、適切な企業評価ができません。

まとめ

ROA(総資産利益率)とは?ROEとの違いや計算式、目安となる数値などをわかりやすく解説

ROAとは総資産における利益の比率であり、会社が資産をどれだけ有効に活用して利益を上げているかを表す指標です。

ROAの数値は高い方がよいとされ、ROAを改善するには利益率の高い商品やサービスの開発、コストカット、遊休資産や不良在庫の適正管理による資産のスリム化などを行う必要があります。

ただし、ROAの水準は業界によって大きく異なることや、ROAだけでは適切な企業評価ができない点に注意しましょう。

また、ROAは投資の影響で一時的に悪化したり、本業以外の要因で上下したりする場合もあるため、表面的な数値だけでなく、変動した要因までしっかりと分析するのが重要です。

AGSの「FASサービス資料」をダウンロードする

 

監修者

  • 藤川 直貴

    株式会社AGS FAS
    FAS1事業部長・公認会計士

    藤川 直貴

    政府系金融機関を経て、2011年に監査法人に入所し、国内上場企業の監査業務に従事。

    2016年にAGSグループに入社以降、M&Aの業務に携わり、国内大手証券会社のM&A担当部署への出向も経験。公開買付け等を伴う上場会社案件に多数関与している。