当期純利益とはどのような利益なのか、どのように求められるかについて解説しています。損益計算書(P/L)との関係や計算方法、当期純利益を用いる財務分析や関連する財務指標についても紹介しています。当期純利益を始めとする各指標について参考にしてください。
目次
- 当期純利益とは
- 損益計算書で確認できる
- 当期純利益の求め方(計算方法)
- 税引前当期純利益とは
- 法人税、住民税及び事業税
- 法人税等調整額
- 当期純利益を用いた財務分析
- 売上高当期純利益率
- 総資産利益率(ROA)
- 自己資本利益率(ROE)
- 1株当たり当期純利益(EPS)
- 株価収益率(PER)
- 配当性向
- まとめ
当期純利益とは
「当期純利益」とは、1年や6ヵ月、3ヵ月といった一定の期間における会社の最終的な利益のことを指し、当期純利益がプラスの状態を黒字、マイナスの状態を赤字と呼びます。会社の収益から費用を差し引いて算出されるため、会社の業績を示す代表的な財務数値といえます。
当期純利益が増加することによって株主に対する配当が増やせたり、自己資本に蓄積されることで会社の財務基盤の強化につながるため、株主や取引先といったステークホルダーも注視する重要な指標です。
損益計算書で確認できる
当期純利益は損益計算書で確認できます。損益計算書は貸借対照表やキャッシュ・フロー計算書といった財務三表の一つであり、一定期間における会社の経営成績を示す書類です。
損益計算書には、一定期間における会社の収益と費用、差額である当期純利益が表示されます。
当期純利益の求め方(計算方法)
当期純利益は、「税引前当期純利益」から「法人税、住民税及び事業税」を差し引いた上で、税効果会計により生じる「法人税等調整額」を加算・減算して計算します。
当期純利益 = 税引前当期純利益-税金(法人税+住民税+事業税など)± 法人税等調整額
税引前当期純利益とは
税引前当期純利益とは、法人税、住民税及び事業税を考慮する前の会社の業績のことです。
売上から売上原価と販売費及び一般管理費を差し引き、本業以外の収益と費用である営業外収益や費用、臨時で発生した特別損益を加算・減算して算定されます。
法人税、住民税及び事業税
法人税、住民税及び事業税とは、会社の利益に対して課される税金のことです。法人税は、国に対して納める税金の一つであり、会社の事業年度における税務上の当期純利益に相当する課税所得に一定税率を乗じて算定されます。
住民税は都道府県に対して納める税金で、主に都道府県民税と市町村民税に分類されます。住民税の一部は法人税額に一定税率を乗じて算定するため、法人税と密接に関係します。
事業税も住民税と同様、都道府県に対して納める税金です。事業税の一部は、法人税の課税所得に一定税率を乗じて算定するため、法人税と密接に関係します。
このように法人税、住民税及び事業税はいずれも関連性が高いため、損益計算書上は「法人税、住民税及び事業税」(以下、「法人税等」といいます。)として同じ科目で集計されます。
法人税等調整額
法人税等調整額とは、税効果会計による会計上と税務上の「資産」「負債」の差額を調整するための勘定科目「繰延税金資産」の増減を表す勘定科目のことです。損益計算書では、「法人税、住民税及び事業税」の次項に表示され、法人税等についてどのくらい増減の調整がされるのかを示します。
将来的に税金を減らせる効果があるものは、計上された繰延税金資産に応じて法人税を減らし、増える効果があるものについては、計上された繰延税金負債に応じて法人税を増やす仕組みです。
法人税等調整額が必要な理由の一つに、損益計算書における当期純利益の算定方法が会計基準と税法上で一致しない場合があることが挙げられます。
たとえば、賞与に関する費用は、会計基準では実際に費用を支出する前であっても費用を計上することが認められますが、税法上では実際に支払われた後でないと費用として計上することが認められません。そのため、損益計算書における税引前当期純利益の計上額に比べて、法人税等の計上額が過大になってしまいます。
そこで、当該費用に税率を乗じた金額をプラスの法人税等調整額として計上して法人税等から減算する(税引前当期純利益に加算する)ことで、税務上で算定した場合と同じ結果となります。
当期純利益を用いた財務分析
会社の業績を示す代表的な財務数値である当期純利益を分析することは、会社の収益力を把握することに役立ちます。
また、当期純利益は株主に対する配当の原資にもなるため、投資家が投資判断を行う上でも有用です。
当期純利益を用いた代表的な財務指標は、以下の通りです。
売上高当期純利益率
売上高当期純利益率は、「当期純利益÷売上高×100」により求められる財務指標です。売上高に対してどの程度利益が創出されているかを示しており、会社の収益力を把握するための指標の一つです。
売上高当期純利益率が高い会社ほど、売上高からより少ない費用で効率的に当期純利益が創出されているといえるため、収益力が高いことがわかります。
ただし、売上高当期純利益率は、業種によってばらつきがみられます。たとえば、固定資産を多く必要とする業種であれば減価償却費の負担が大きくなるため、他の業種に比べて売上高当期純利益率が低くなります。
そのため、売上高当期純利益率を比較する際は、事業内容や業種、会社のステージが近い会社を対象とすることが大事です。
総資産利益率(ROA)
総資産利益率は、「当期純利益÷総資産×100」により求められる財務指標です。英語ではReturn of Assetsと表記されるため、「ROA」とも呼ばれます。
総資産とは、流動資産や固定資産、繰延資産といった会社の貸借対照表に計上される資産の合計額です。総資産に含まれる資産としては、現預金や売上債権、未収債権、土地、建物、ソフトウェア、のれんなどが挙げられます。
総資産利益率は、会社が有する総資産に対してどの程度の当期純利益が生じたかを示しており、会社の保有する資産に対する収益力を把握するための指標です。総資産利益率が高いほど会社の有する資産が効率的に活用され、当期純利益の獲得につながっているといえます。
当期純利益は事業年度を通じて発生するものであることから、分母にあたる総資産については、その事業年度の期首時点と期末時点の平均値をとって計算する場合もあります。
自己資本利益率(ROE)
自己資本利益率は、「当期純利益÷自己資本×100」により求められる財務指標です。英語ではReturn of Equityと表記されるため、「ROE」とも呼ばれます。
自己資本利益率は、株主から預かっている資本に対してどの程度の当期純利益が生じたかを示しており、会社の自己資本に対する収益力を把握するための指標です。自己資本利益率は、数値が高いほど株主から預かっている資本を効率的に運用して当期純利益を獲得できているといえます。
自己資本は会社が株主から預かっている資本に相当するもので、貸借対照表に計上されている株主資本とその他の包括利益累計額の合計値を用いることが一般的です。計算に使用する自己資本の値は、その事業年度の期首時点と期末時点の平均値をとります。
自己資本利益率は総資産利益率と密接に関係しています。「自己資本利益率=総資産利益率×(総資産÷自己資本)」と表すことができ、総資産÷自己資本は「財務レバレッジ」と呼ばれています。
財務レバレッジとは、自己資本に対してどれだけ負債を活用できているかを示す指標のことで、この倍率が高いほど利息の支払いや社債の返済などの負担が多くなる可能性があります。
1株当たり当期純利益(EPS)
1株当たり当期純利益は、「当期純利益÷発行済株式数」により求められる財務数値です。
英語ではEarnings Per Shareと表記されるため、「EPS」とも呼ばれます。1株当たり当期純利益は、1株に対してどれだけの当期純利益が発生するかを表しており、会社の投資価値を測るための指標です。
なお、会社によっては普通株式以外にも、優先株式といった種類株式を発行している場合があります。その場合は、普通株式と種類株式を分けて1株当たり当期純利益を求めるのが一般的です。
株価収益率(PER)
株価収益率は、「株価÷1株当たり当期純利益」により求められる財務指標です。英語ではPrice Earnings Ratioと表記されるため、「PER」とも呼ばれます。株価収益率は、会社の1株当たり当期純利益に対して株価が何倍であるかを測定するもので、数値が低いほど株価が割安、高いほど株価が割高ということになります。
株価収益率は株価を参照する財務指標であるため、投資の際に参考とする指標です。ただし、株価は会社自体とその会社の属する業種の成長性をはじめ、さまざまな要素を加味して株式市場で形成されます。
そのため、株価収益率の水準は、事業内容や業種、会社のステージによって異なります。たとえば東京証券取引所の上場銘柄をみても、プライム市場の銀行セクターの平均PERは8倍程度である一方、グロース市場の情報・通信セクターの平均PERは112倍程度であり、ばらつきがみられます。(2023年7月時点)
そのため、株価収益率を会社の株価が割安か割高かを判断する上で参考にするためには、事業内容、業種や会社のステージが近い会社と比較することが大切です。
出典:日本取引所グループ(JPX)「その他統計資料(規模別・業種別PER・PBR(連結・単体)一覧)」
配当性向
配当性向は、「1株当たり配当金÷1株当たり当期純利益」により求められる財務指標で、会社の利益のうち、どの程度が株主に対する配当に充当されているかを示すものです。
配当性向が高い会社ほど株主還元に積極的であり、株主として当期純利益の増加による恩恵を受けやすい会社だといえます。上場会社の中には配当性向の下限を設定し、投資家への訴求材料としている会社もあります。
一方で、当期純利益のうち配当に充当された部分は、会社の自己資本として蓄積されるわけではありません。そのため、業績が好調ではないにもかかわらず、配当性向が高い場合には、将来的に会社の財務基盤の弱体化につながる懸念もあるため留意が必要です。
まとめ
会社の業績を示す代表的な数値である当期純利益を用いて財務分析を行うことは、会社の総合的な収益力を把握することにつながります。一方で、当期純利益を用いた財務分析にも一定の限界が存在します。
理由として、本業の実力とは無関係の要素が関係しているケースや、資金収支(キャッシュフロー)を加味していないといった点が挙げられます。そのため、当期純利益を用いた財務指標だけを気にしていると、その会社の収益力を見誤ってしまう可能性があります。
迅速にその会社の収益力を把握するという目的においては当期純利益を用いた財務分析は有効なツールとなりますが、より精緻に状態を把握するためには当期純利益を用いた指標以外の財務指標を参照することが必要です。