資産管理会社とはどういうものかを解説しています。設立するのは資産いくら以上が目安になるかやメリットやデメリット、設立するのがおすすめな人や手順・作り方も紹介しています。資産管理会社について調べている方は参考にしてください。
2022.01.18(最終更新日:2023.07.03)
資産管理会社とはどういうものかを解説しています。設立するのは資産いくら以上が目安になるかやメリットやデメリット、設立するのがおすすめな人や手順・作り方も紹介しています。資産管理会社について調べている方は参考にしてください。
2022.01.18(最終更新日:2023.07.03)
資産管理会社とは、不動産や株式などの資産を持つ個人が資産の管理を主な目的として設立する法人のことを指します。オーナーは、資産管理会社に資産の管理業務や運用業務を任せることで以下のようなメリットがあります。
一般的に資産管理会社を設立する目安は、個人の課税所得が800万円前後に達したタイミングといわれています。所得税と法人税の課税制度が異なるためであり、具体的に次のような課税制度となっています。
累進課税制度による所得税率は次のように定められています。
【所得税】※ 所得税額 = 課税所得金額 × (A) - (B)
課税される所得金額 | 税率 | 控除額 |
---|---|---|
1,000円 から 1,949,000円まで | 5% | 0円 |
1,950,000円 から 3,299,000円まで | 10% | 97,500円 |
3,300,000円 から 6,949,000円まで | 20% | 427,500円 |
6,950,000円 から 8,999,000円まで | 23% | 636,000円 |
9,000,000円 から 17,999,000円まで | 33% | 1,536,000円 |
18,000,000円 から 39,999,000円まで | 40% | 2,796,000円 |
40,000,000円 以上 | 45% | 4,796,000円 |
例えば、課税所得が800万円である場合、所得税率は23%ですが、資本金が1億円以下の中小企業の場合は法人税率が15%となります。
そのため、所得税率と法人税率の税率が逆転する「課税所得800万円」のタイミングで、資産管理会社を設立することが望ましいとされています。
【法人税】
区分 | 適用関係(開始事業年度) | ||||||
---|---|---|---|---|---|---|---|
平成28.4.1以後 | 平成30.4.1以後 | 平成31.4.1以後 | 令和4.4.1以後 | ||||
普通法人 | 資本金1億円以下の法人など | 年800万円以下の部分 | 下記以外の法人 | 15% | 15% | 15% | 15% |
適用除外事業者 | 19% | 19% | |||||
年800万円超の部分 | 23.40% | 23.20% | 23.20% | 23.20% | |||
上記以外の普通法人 | 23.40% | 23.20% | 23.20% | 23.20% |
資産管理会社の役員に、オーナー自身だけでなく妻や子供などを就任させ、家族に役員報酬(給与)を支払うことで、所得の分散が可能となります。
個人の所得税は、所得が増えるほど税率が高くなります(累進課税)。オーナー1人に報酬を支払うよりも、複数の家族間で報酬を分散することで所得税の税率が低くなり、結果的に所得税の負担を軽減することができます。
また役員報酬を毎月支払うことで、現金資産を子供に移転させることができ、相続税の納税に備えることができます。
損益通算とは、複数の事業にまたがって収支を通算することです。 個人事業主は所得の種類ごとに収支を計算し、そのうち損益通算が可能な所得が限定されているため、例えば株式投資などの損失と不動産事業の利益は通算できません。
不動産投資以外にも株などの金融商品投資や複数の事業を営もうとする場合には、資産管理会社で事業を行うことで、法人の事業収支として損益通算が可能となります。
繰越控除とは、事業で損失を出したときにその年だけでなく次年度以降にそれを繰越して所得から差し引ける制度のことです。個人事業主は繰越期間が最長3年間なのに対し、法人は10年まで損失の繰越が可能です。
不動産投資では出口戦略として所有不動産の売却が想定されますが、売却価格が購入時よりも低くなる場合には損失が発生することがあります。不動産管理会社の場合は、この損失を長期間にわたって繰り越せます。
土地などの不動産は、相続人が多くなるほど遺産分割が難しくなります。 しかし、資産管理会社に一括して不動産を所有させて株式を相続人に分配すれば、不動産に対する権利を間接的に分配できるようになり、遺産分割をスムーズに行えます。また前述のとおり、無議決権株式などを発行している場合には、相続時において会社経営に対するコントロールも可能です。
さらに資産管理会社の株式の評価額は、相続税評価額(路線価または固定資産税評価額)で計算した会社の純資産価額から、資産の含み益にかかる法人税相当額(37%)で計算されるため、不動産価額よりも低く評価されます。ただし取得後3年以内の不動産は、会社の純資産価額の計算上は通常の取引価格で評価されるため、留意が必要です。
資産管理会社の役員に就任すると給与所得者となるため、健康保険や厚生年金といった社会保険への加入が可能となります。
特に年金については、個人事業主が加入する国民年金と給与所得者が加入する厚生年金とでは内容に違いがあります。そのため、厚生年金に加入できるのはメリットです。
資産管理会社を設立する際には、デメリットや注意点を把握しておく必要があります。
法人の設立や維持、運営にはさまざまなコストがかかるため、これらは資産管理会社の設立のデメリットといえます。
設立に関する最低費用水準は、株式会社は約25万円、合同会社は約10万円です。 合同会社は会社設立時の認証手続きが不要なため定款認証費用がかからず、また決算報告義務(官報への掲載など)がありません。
各コスト | 株式会社 | 合同会社 |
---|---|---|
定款認証費用 | 5万円 | – |
登録免許税※ | 15万円 | 6万円 |
定款印紙代 | 4万円 | 4万円 |
印鑑作成、謄本手数料他 | 数千円 | 数千円 |
※ 出資額が大きくなる場合、株式会社は出資額の半分を資本金に組み入れる必要がありますが、合同会社はそのような制限がないため、資本金の額を低く抑えることで登録免許税の負担を抑えることが可能です。
定款は最近では電子定款といって、公証役場への提出をペーパーレスとすることで定款印紙代を節約できます。そのほか、司法書士などに手続きを依頼する場合には、報酬として4~8万円ほどかかります。
資産管理会社を維持していくうえで、税理士報酬や法人住民税などの負担があります。 法人の場合は赤字決算であっても住民税の均等割が最低でも毎年約7万円発生するため、継続的なコストとして大きな負担となります。
社会保険料は、会社と社員が折半で負担することになっています。資産管理会社の実態は会社と役員の両方が本人のため、経営者が支払うべき社会保険料も事実上自己負担となります。
個人名義の不動産を資産管理会社に移す際には、登録免許税(固定資産税評価額の2%)、不動産取得税(固定資産税評価額の3~4%)、消費税(取引価格の10%)などの移転コストが発生します。
また資産管理会社に移転した資産は、会社の所有物となるためオーナーが個人的な目的で自由に使うことはできなくなります。個人で利用した場合には、役員報酬や配当という形での支払いが行われ、所得税の課税対象となるため留意が必要です。
個人事業主であれば、すべての経営判断を事業主1人で行えます。 しかし、法人になると経営上の重要な事項に関しては、株主総会や取締役会の決議が必要です。実質的なオーナーだけの会社であっても、株主総会と取締役会の議事録は残しておく必要があります。
また、会計帳簿や決算書の作成、税務申告業務などの手続きや書類が増えるため、法人の場合には事務負担が増加します。
資産管理会社を設立するデメリットとして、資産管理会社に入れた資金を自由に使うことができない点が挙げられます。
資産管理会社の資金は会社の所有物となるため、個人が勝手に使うことができません。資金利用の自由度の悪さは、大きなデメリットといえるでしょう。
また、役員報酬に関する以下の制限についても注意が必要です。
ただし、資産管理会社から役員報酬や配当金という形で個人に資金を移動させることは可能となっています。
個人事業を廃業する際は、個人事業主の廃業届出書や事業廃止届出書、所得税の青色申告の取りやめ届出書などを提出することで廃業することができます。
しかし、資産管理会社の場合は、株主総会による解散決議や精算人の選任、清算結了登記などの様々な手続きを必要とします。株主総会において異議などがある場合は、手続きが煩雑になり、廃業するまでに長い期間が必要となる場合があります。
資産管理会社は、不動産や株式を持つ個人であれば誰でも設立したほうが良いというわけではありません。
資産管理会社のメリットを活かせる場合に、個人事業主の場合よりも税負担を軽減することができます。ここでは、資産管理会社の設立がどんな人におすすめか解説します。
相続や贈与時における負担を軽減したい資産家の場合は、資産管理会社の設立がおすすめです。
相続税や贈与税の税率は、法人税や所得税などの税率よりも高くなっており、資産管理会社から家族に対して役員報酬を支給することで、相続や贈与時における税負担を軽減することができます。
相続税への有効な対策の一つとして「生前贈与」が挙げられますが、贈与税の税率は高く設定されています。父母や祖父母などの直系尊属から贈与を受けた場合、特例税率という低い税率が適用されるため、生前贈与を有効に使える機会が増えています。
【贈与税率】(一般税率)
基礎控除後の課税価格 | 税率 | 控除額 |
---|---|---|
200万円以下 | 10% | – |
300万円以下 | 15% | 10万円 |
400万円以下 | 20% | 25万円 |
600万円以下 | 30% | 65万円 |
1,000万円以下 | 40% | 125万円 |
1,500万円以下 | 45% | 175万円 |
3,000万円以下 | 50% | 250万円 |
3,000万円超 | 55% | 400万円 |
出典:国税庁公式サイト「No.4408 贈与税の計算と税率(暦年課税)」
【贈与税率】(特例税率)
基礎控除後の課税価格 | 税率 | 控除額 |
---|---|---|
200万円以下 | 10% | – |
400万円以下 | 15% | 10万円 |
600万円以下 | 20% | 30万円 |
1,000万円以下 | 30% | 90万円 |
1,500万円以下 | 45% | 190万円 |
3,000万円以下 | 45% | 265万円 |
4,500万円以下 | 50% | 415万円 |
4,500万円超 | 55% | 640万円 |
出典:国税庁公式サイト「No.4408 贈与税の計算と税率(暦年課税)」
資産管理会社を設立すれば家族に対して役員報酬を支払うことで贈与税の発生を少なくすることができ、相続財産を圧縮することにも繋がります。
相続税は、相続する財産の金額によって税率が変動するため、結果として税負担を軽減することができます。
なお、相続税の税率は以下のとおりです。
【相続税率】
法定相続分に応ずる取得金額 | 税率 | 控除額 |
---|---|---|
1,000万円以下 | 10% | – |
3,000万円以下 | 15% | 50万円 |
5,000万円以下 | 20% | 200万円 |
1億円以下 | 30% | 700万円 |
2億円以下 | 40% | 1,700万円 |
3億円以下 | 45% | 2,700万円 |
6億円以下 | 50% | 4,200万円 |
6億円超 | 55% | 7,200万円 |
出典:国税庁公式サイト「No.4155 相続税の税率」速算表
個人投資家や資産運用を副業としているサラリーマン(会社員)で、毎年安定した収益が発生している場合は資産管理会社の設立がおすすめです。
個人事業と法人では経費にできるものに差があります。資産管理会社を設立することにより、これまで経費にならなかったものが経費として処理できるようになるため、税負担を軽減することができます。
例えば資産管理会社の場合、次のような費用を経費として計上できます。
また、法人の場合は社会保険への加入が義務づけられているため、個人投資家の場合は厚生年金に加入できることも大きなメリットといえるでしょう。
社名や本店所在地など、会社の基本事項を決める必要があります。社名には一定のルールがあるため、ルールに従った名前でなければなりません。
また、基本事項として以下を決めておく必要があります。
定款とは会社の目的や組織など会社の運営に関する基本事項を定めたもので、法人を設立する場合は必ず必要です。「絶対的記載事項」として定款に必ず記載すべき事項は、以下の項目です。
作成した定款を公証役場または電子認証により、公証人の認証を受けることで法的に有効な定款となります。
会社設立の際に、設立登記申請で必要となる代表者印をつくります。会社設立後の事業運営を考えて、銀行印、社印(角印)、実印の3点セットを用意することが一般的です。
出資金を金融機関に払い込みます。現在は株式会社であっても、出資金1円から設立できるようになりました。
新規で代表者が銀行口座を開設し、出資者の名前で振込を行います。
商業登記簿への登記をすることで、会社の設立が社会的に認められます。会社の設立登記は管轄の登記所(法務局)に申請して行い、登記申請が受理された日が会社設立日です。
設立登記申請を行ってから、実際に登記が完了するまでに数日かかります。完了すると、定款の写しや登記事項証明書を発行できます。
法人設立後は、「法人設立・設置届出書」を税務署及び都道府県事務所、市町村に提出してください。提出の際には、定款の写しや登記事項証明書を添付します。
資産管理会社は、「適した人」が「適したタイミング」で設立することにより、メリットを最大限に活かすことができます。
誤った知識で資産管理会社を設立してしまうと、支払う税金が多くなってしまう可能性があるため、設立前は慎重な判断が必要です。
場合によっては複雑な試算を行いながら検討する必要もあるため、事前に税理士などの専門家に相談することをおすすめします。