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法人が贈与する/される場合の税金まとめ|法人と個人、法人間の贈与にかかる税金を解説

法人が贈与する/される場合の税金まとめ|法人と個人、法人間の贈与にかかる税金を解説

贈与は親子のような親族間だけでなく、親族以外の個人や法人との間で行われることもあります。パターンによって課税関係が変わってくるため、「贈与する」もしくは「贈与される」予定がある場合は、税金について理解を深めておくことが大切です。今回は、法人と個人、法人間の贈与の課税関係や注意点について解説します。

贈与税とは

贈与税とは

そもそも贈与とは、財産を無償で譲り渡すことで、財産を譲り渡す人を「贈与者」、財産を受け取る人を「受贈者」といいます。

 

贈与を受ける場合、通常は取得した財産の額に応じて贈与税がかかりますが、贈与者と受贈者の関係によって課税関係は変わってきます。

 

まずは、贈与税の概要や贈与のパターンについて確認していきましょう。

 

贈与税は個人に課税される税金

贈与税とは、個人間で行われた贈与にかかる税金です。贈与税の課税方法は、「暦年課税」と「相続時精算課税」の2つがあります。

 

暦年課税は、1月1日〜12月31日の1年間に贈与を受けた財産の合計額から、基礎控除額110万円を差し引いた残りの額が課税対象です。税率は、課税価格に応じて10〜55%の8段階に区分されています。ただし、1年間に贈与を受けた金額が110万円以下であれば、贈与税はかかりません。

 

相続時精算課税は、一定の要件を満たす親族間で贈与を行う場合に選択できる課税方法です。特別控除額および一定の税率で贈与税を計算し、贈与者が亡くなったときに相続税で精算します。

 

法人・個人の贈与は4パターン

法人と個人で行われる贈与は次の4パターンです。

 

  • 「個人」から「個人」
  • 「法人」から「個人」
  • 「個人」から「法人」
  • 「法人」から「法人」

 

上述したように、個人間の贈与では受贈者に贈与税がかかりますが、贈与者に税金はかかりません。

 

法人が関わる贈与については、個人間の贈与とは課税関係が異なります。

 

ここからは、残り3パターンの税金の取り扱いについて説明していきます。

 

法人から個人へ贈与する場合の税金

法人から個人へ贈与する場合の税金

法人から個人へ贈与する場合は、その法人と個人の関係によって税金の取り扱いが変わってきます。

 

具体的には、次の3つのパターンがあります。

 

  • 受贈者がその法人の従業員
  • 受贈者がその法人の役員
  • 受贈者が第三者の個人

 

ここでは、各パターンの課税関係について確認していきましょう。

 

従業員への贈与の課税関係

法人が従業員に対して贈与を行う場合、その贈与は「賞与」として取り扱われます。

 

従業員が贈与を受けた財産は毎月の給与と同じく「給与所得」となり、所得税と住民税の課税対象です。そのため、所得金額に応じて納めるべき税額を負担することになります。

 

法人は、会計上は贈与した財産を賞与として費用計上します。税務上は、贈与財産の全額を損金に算入可能です。

 

具体例

法人が所有していた土地を従業員に贈与し、その土地の取得価額が800万円、贈与時の時価が1,000万円の場合、法人側の仕訳は以下の通りです。

 

借方貸方
賞与 1,000万円土地 800万円
固定資産売却益 200万円

 

法人は時価で土地を贈与したことになるため、取得価額と時価の差額を売却益として処理します。

 

一方、従業員は賞与として時価1,000万円の土地を受け取ることになり、給与所得として所得税と住民税がかかります。

 

役員への贈与の課税関係

法人が役員に対して贈与を行う場合、その贈与は「役員賞与」として取り扱われます。

 

役員が贈与を受けた財産は、従業員と同じく「給与所得」に該当するため、役員給与と含めて所得税や住民税の課税対象です。

 

法人は、会計上は贈与した財産を役員賞与として処理します。しかし、税務上は原則として損金にはなりません。

 

これは、役員賞与を損金として認めると、法人が好きなタイミングで賞与を出し、税負担を減らすことが可能になってしまうためです。

 

また、法人から役員への贈与は、法人税の負担が増える恐れがあります。

 

具体例

法人が所有していた土地を役員に贈与し、その土地の取得価額が800万円、贈与時の時価が1,000万円の場合、法人側の仕訳は以下の通りです。

 

借方貸方
賞与 1,000万円土地 800万円
固定資産売却益 200万円

 

上述した従業員のケースとほぼ同じですが、役員賞与は原則損金として認められません。

 

一方、役員は役員賞与として時価1,000万円の土地を受け取るため、所得税と住民税の課税対象となります。

 

第三者への贈与の課税関係

法人が第三者である個人に対して贈与を行う場合、その贈与は「寄附金」として取り扱われます。

 

法人は、贈与した財産を寄附金として処理します。税務上は、損金算入限度額までは損金に算入可能です。第三者への贈与は「一般の寄附金」に該当し、資本金等の額や所得金額をもとに損金算入限度額を計算します。

 

一方、第三者である個人が受け取った贈与財産は「一時所得」となり、所得税や住民税の課税対象です。一時所得の金額は「総収入金額-収入を得るために支出した金額-特別控除額(最高50万円)」で計算します。

 

具体例

法人が第三者である個人に現金100万円を贈与した場合、法人側の仕訳は以下の通りです。

 

借方貸方
寄附金 100万円現金 100万円

 

法人は寄附金として会計処理を行い、税務上も損金算入限度額までは損金になります。

 

ただし、損金算入限度額を超える場合、その超えた金額は法人税の課税対象です。

 

また、第三者である個人が受け取った現金100万円は、一時所得として所得税と住民税の課税対象となります。

 

個人から法人へ贈与する場合の税金

 

個人から法人へ贈与する場合の税金

次に、個人から法人へ贈与する場合について、法人と個人それぞれの課税関係と注意点を解説します。

 

贈与された法人の課税関係

個人から贈与された法人は、受け取った財産を「受贈益(特別利益)」として処理します。

 

受贈益は、贈与財産の時価で計上するのが原則です。

 

贈与を受けると利益が増えるため、その分法人税の負担も増えることになります。

 

具体例

法人が個人から時価1,000万円の土地の贈与を受けた場合、法人側の仕訳は以下の通りです。

 

借方貸方
土地 1,000万円土地受贈益 1,000万円

 

土地は貸借対照表の資産の部、土地受贈益は損益計算書の特別利益に計上します。

 

受贈益は利益となるため、法人税がかかります。

 

贈与した個人の課税関係

個人から法人への贈与では、贈与者である個人にも税金がかかる場合があります。

 

これは、税務上は贈与ではなく「みなし譲渡」に該当し、「時価で譲渡(売却)した」と考えるためです。贈与した財産の時価が取得価額を上回る場合は、その差額が「譲渡所得」として所得税・住民税の課税対象となります。

 

ただし、贈与する財産が現金の場合は、価格が変動せず利益が出ないため、基本的に課税されません。

 

具体例

個人が所有していた土地を法人に贈与し、その土地の取得価額が800万円、時価が1,000万円の場合、差額200万円(1,000万円-800万円)が譲渡所得となります。不動産の譲渡所得は、所得金額や所有期間に応じて所得税や住民税がかかります。

 

譲渡所得に適用される税率は、譲渡した年の1月1日現在で不動産の所有期間が「5年以内」の場合は39.63%、「5年超」の場合は20.315%です。

 

また、2037年までは所得税の2.1%が復興特別所得税として上乗せされます。

 

同族会社への贈与は注意が必要

同族会社とは、株主の3人以下並びにこれらの株主と特殊関係にある法人・個人が発行済株式総数または議決権の50%超を有する会社のことです。

 

個人が同族会社へ贈与する場合、その同族会社の株主に贈与税がかかる可能性があります。これは、財産を贈与して会社の価値が上がると、その価値上昇分は株主に対する贈与とみなされるためです。

 

そのため、個人が同族会社への贈与を検討する場合は、税理士などの専門家と相談し、贈与税がかかる可能性について確認しておくとよいでしょう。

 

法人間の贈与に関する税金

法人間の贈与に関する税金

法人から法人への贈与では、「贈与した法人」「贈与された法人」のどちらにも税金がかかる可能性があります。

 

ここでは、法人間の贈与に関する課税関係について確認していきましょう。

 

贈与した法人の課税関係

法人が他の法人へ財産を贈与した場合、その財産は「寄附金」として取り扱われます。寄附金の額が一定の範囲内であれば、全額が損金に算入されます。

 

損金算入限度額を超える場合、超えた分の金額は損金にならないため、法人税の課税対象となります。

 

法人が支出する寄附金は、以下のように寄附先によって損金算入できる金額が異なります。

 

寄附先寄附金の取り扱い
国・地方公共団体
公益を目的とする法人(指定寄附金)
全額損金算入
特定公益増進法人
認定NPO法人
以下を限度として損金算入
(資本金等の額の0.375%+所得金額の6.25%)×1/2
その他の法人(一般の寄附金)以下を限度として損金算入
(資本金等の額の0.25%+所得金額の2.5%)×1/4

 

具体例

資本金等の額1,000万円、所得金額1,500万円の法人が他の法人(一般事業会社)に現金100万円を贈与した場合、贈与した法人の仕訳は以下の通りです。

 

借方貸方
寄附金 100万円現金 100万円

 

贈与は一般の寄附金に該当するため、損金算入限度額は10万円となります。

 

損金算入限度額10万円=(1,000万円×0.25%+1,500万円×2.5%)×1/4

 

寄附金100万円のうち、損金算入限度額を超えた部分である90万円(100万円-10万円)は損金にならず、法人税の課税対象です。

 

贈与された法人の課税関係

法人から贈与された法人は、受け取った財産を「受贈益(特別利益)」として処理します。

 

贈与財産が土地や建物などであれば時価、現金や預金の場合は受取金額で計上するのが原則です。

 

受贈益を計上すると利益が増えるため、法人税の負担も増えることになります。

 

具体例

法人が他の法人から時価500万円の土地の贈与を受けた場合、贈与された法人の仕訳は以下の通りです。

 

借方貸方
土地 500万円土地受贈益 500万円

 

贈与した法人の取得価額に関係なく、贈与時の時価で受贈益を計上します。

 

受贈益は利益となるため、法人税の課税対象となります。

 

まとめ

贈与は個人間だけでなく、法人と個人または法人間で行われることもあります。

 

特に「法人から役員への贈与」「同族会社への贈与」は、想定よりも税負担が増える可能性があるので要注意です。

 

法人や個人との間で贈与を検討している場合は、税金の取り扱いについて確認しておきましょう。

  • 田所 謙一

    監修者

    田所 謙一

    株式会社AGSコンサルティング
    関東エリアさいたま支店長・税理士

    2003年にAGSグループに入社、税務顧問、事業承継、IPO、事業再生などの業務に広く関わるとともに、2022年からさいたま支店の支店長を務める。

    税理士登録2005年。

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