株式報酬とはどのような制度かを解説しています。現金報酬との違いや種類ごとのメリットとデメリット、導入にあたっての注意点や税務についても紹介しています。株式報酬について調べている方は参考にしてください。
目次
- 株式報酬とは
- 現金報酬との違い
- ストックオプションとの違い
- 株式報酬が注目される理由
- 「攻めの経営」へのシフト
- コーポレートガバナンス改革
- 導入目的でみる株式報酬の種類
- 長期的な貢献を促したい場合
- 明確な業績目標を達成したい場合
- 株価上昇へのインセンティブを最大化したい場合
- 株式希薄化を避けたい場合
- 株式報酬を導入するメリット
- 優秀な人材の確保と定着
- 従業員のモチベーション向上と経営意識の醸成
- 財務健全性の維持
- 株式報酬を導入するリスク・デメリット
- 株式が希薄化する
- 制度設計と管理に労力がかかる
- 導入後の株価変動リスクがある
- 株式報酬を導入する際の注意点
- 目的に沿った制度を選ぶ
- 当事者への丁寧な説明と理解促進
- 株式報酬の税務
- 譲渡制限解除時
- 株式交付時
- 権利確定時(行使時)
- 株式売却時
- 株式報酬を導入した企業の事例
- デンソーの事例
- メルカリの事例
- まとめ
株式報酬とは

株式報酬は、企業の役員や従業員に対し、現金の代わりに、自社株式や、自社株式を取得する権利を付与する報酬体系です。
現金での報酬よりも、企業とそこで働く人々の利害を一致させ、中長期的な企業価値向上を目指す制度として、近年、注目されています。
株式報酬は、株式そのものを直接支給する方法や、将来的に株式を取得できる「権利」を付与する方法など、様々な種類があります。
また、株式の売却に際して、一定期間の勤務継続や、特定の業績目標の達成を課すなど、様々な条件を付けることも可能です。
現金報酬との違い
現金報酬が、労働の対価として支給されるのに対し、株式報酬は、将来の企業価値向上への貢献に対するインセンティブという違いがあります。
株式報酬を採用した企業では、従業員や役員が、自分が受け取る報酬の価値を最大化するため、自然と会社の業績や株価に強い関心を持つようになります。この仕組みが、それぞれのモチベーション向上と経営意識の醸成を促します。
さらに、多くの株式報酬制度には、一定期間の勤務を条件とする譲渡制限などが付与されるため、優秀な人材の離職を防ぎ、中長期的な定着にも有効です。
一方で、株価が思うように上がらない場合、付与された株式や権利の価値が目減りし、現金報酬と比べて、受け取る報酬額が大幅に減少する可能性は否定できません。報酬の目減りは、株式報酬ならではのリスクといえるでしょう。
ストックオプションとの違い
ストックオプションは、あらかじめ設定した価格(行使価格)で、将来的に自社株を取得できる権利を付与する制度です。
付与された従業員は、株価が行使価格を上回った場合にこの権利を行使し、株式を取得することで、その差額を利益として得ることができます。
ストックオプションは、数ある株式報酬制度の一つです。株式報酬という大きな概念の中に、ストックオプションが含まれると理解すると分かりやすいでしょう。
株式報酬が注目される理由

近年、多くの日本企業で、株式報酬の導入が検討されています。
背景には、日本経済が直面する構造的な課題と、それに対応しようとする企業の変革の動きがあります。
「攻めの経営」へのシフト
長らく続いたデフレ経済下で、多くの日本企業は、コスト削減や効率化を追求することで生き残りを図ってきました。
しかし、グローバルな競争が激化する現代においては、イノベーションが企業の成長を左右し、「守りの経営」だけでは生き残れません。
リスクを恐れず新たな事業に挑戦する「攻めの経営」へシフトする上で、必要不可欠なのが、企業とそこで働く人々が同じ方向を向き、企業価値の最大化に向けて一致団結することです。
株式報酬は、個人の貢献と会社の成長が直接的に結びつくインセンティブを提供することで、従業員一人ひとりの意識を変革し、組織全体のパフォーマンスを飛躍的に向上させる力を持ちます。これにより、企業は、より大胆な投資や事業再編に踏み切りやすくなります。
コーポレートガバナンス改革
日本企業におけるコーポレートガバナンス(企業統治)改革の進展も、株式報酬が注目される大きな理由です。
実効的なコーポレートガバナンスの原則を定めた「コーポレートガバナンス・コード」では、経営陣の報酬について、持続的な成長に向けた健全なインセンティブとして機能するよう、現金報酬と株式報酬の割合を適切に設定すべき、と明記されています。
また、2021年のコーポレートガバナンス・コードの改訂では、サステナビリティに関する取り組みの開示などが求められるようになりました。こうした変化の中で、株式報酬は、経営陣だけでなく、企業の持続的成長に貢献する全てのステークホルダーに対し、共通の目標意識を持たせるための重要なツールとして位置付けられています。
単なる固定給や短期的な業績賞与として支給するだけではなく、株価や中長期的な企業価値に連動させる株式報酬は、時代の要請に応えるものといえるでしょう。
出典:東京証券取引所「コーポレートガバナンス・コード ~会社の持続的な成長と中長期的な企業価値の向上のために~」
導入目的でみる株式報酬の種類

ここでは、以下の7種類の株式報酬制度を、その導入目的別に分類し、それぞれの特徴を解説します。
| 種類 | 概要 |
|---|---|
| 譲渡制限付株式 (RS) | 在籍条件などの一定の期間における譲渡の制限を付けた自社株式を付与 |
| 譲渡制限付株式ユニット (RSU) | 在籍条件などの一定の期間における譲渡の制限を付けた自社株式を受け取る権利を付与 |
| 業績連動型株式 (PS) | 業績条件に応じて自社株式を付与 |
| 業績連動型株式ユニット (PSU) | 業績条件に応じて自社株式を受け取る権利を付与 |
| ストックオプション (SO) | あらかじめ設定した行使価格で、将来的に自社株を取得できる権利を付与 |
| ストック・ アプリシエーション・ライト (SAR) | あらかじめ設定した価格と株式価値の増加分を現金で受け取る権利を付与 |
| ファントムストック | 「架空の株式」を発行し、架空の株価に応じた現金を支給 |
株式報酬は、付与のタイミングや形式、そして課される制限の内容によって、その機能やメリット・デメリットが大きく異なります。
長期的な貢献を促したい場合
企業の持続的な成長には、優秀な人材に長く在籍してもらい、中長期的な視点で事業に貢献してもらうことが不可欠です。
この目的を達成するための制度として、以下の2つが挙げられます。
譲渡制限付株式(RS)
譲渡制限付株式(Restricted Stock)は、役員や従業員に対し、一定期間(通常は数年間)は売却できないという「譲渡制限」を付けた自社株式を付与する制度です。
譲渡制限期間中に、対象者が退職した場合は、原則として株式は没収されるため、中長期的な人材定着を強く促すインセンティブとして機能します。
付与された側は、譲渡制限期間中であっても、株主として議決権や配当を受け取る権利を持ちます。そのため、会社の一員としての帰属意識や経営への参画意識を高める効果が期待できます。
税務上は、譲渡制限が解除された時点で、その時点の株価を基に、給与所得等として課税されます。
譲渡制限付株式ユニット(RSU)
譲渡制限付株式ユニット(Restricted Stock Unit)は、RSと同様に、一定期間の勤務継続を条件としますが、実際に付与されるのは「株式を受け取る権利(ユニット)」です。RSが「株式」そのものを付与するのに対し、RSUは「将来株式を付与する約束」と考えると分かりやすいでしょう。
RSUの大きな特徴は、実際に株式が交付されるまで、株式の希薄化(1株あたりの価値の低下)が生じないことです。また、ユニットが付与された時点では株主としての権利が発生せず、株式が交付された時点で初めて権利を獲得します。これにより、会社としては、発行済み株式数に影響を与えずにインセンティブを提供できます。
RSと同様に、原則として、株式が交付される前に途中で退職した場合はユニットは没収されます。
税務上は、ユニットの権利が行使され、実際に株式が交付された時点で、その時点の株価を基に、給与所得等として課税されます。
明確な業績目標を達成したい場合
特定の業績目標を達成させることで、より直接的に企業価値向上につなげたい場合に有効なのが、以下の2つの制度です。
業績連動型株式(PS)
業績連動型株式(Performance Share)は、売上高、営業利益、経常利益、ROE(自己資本利益率)など、あらかじめ設定した業績目標の達成度合いに応じて、譲渡制限が解除される自社株式を付与する制度です。RSの業績連動版ともいえます。
PSは、目標達成への意識が明確に報酬と結びつくため、組織全体の業績向上に対する強いインセンティブとなる点が特徴です。
付与された側は、譲渡制限期間中も株主としての権利を持ちますが、原則として、業績目標を達成できなかった場合は、株式の全部または一部が没収されます。
税務上は、株式付与時には課税されず、譲渡制限が解除されるタイミングで、給与所得等として課税されます。
業績連動型株式ユニット(PSU)
業績連動型株式ユニット(Performance Share Unit)は、PSと同様に、業績目標の達成度合いに応じて、株式を受け取る権利(ユニット)を付与する制度です。RSUの業績連動版ともいえます。
PSUは、RSUと同様、実際に株式が交付されるまで、株式の希薄化が生じず、株主としての権利も発生しない点が、PSと異なります。既存株主への影響を最小限に抑えながら、業績インセンティブを提供できる点が特徴といえるでしょう。
PSと同様、原則として、業績目標を達成できなかった場合、ユニットは没収されます。
税務上は、ユニットの権利が行使され、実際に株式が交付された時点で、その時点の株価を基に、給与所得等として課税されます。
株価上昇へのインセンティブを最大化したい場合
株価上昇へのインセンティブを最大化したい場合に採用されるのが、ストックオプション(SO)です。
ストックオプション(SO)
ストックオプション(Stock Option)は、あらかじめ設定した価格(行使価格)で、将来的に自社株をその価格で取得できる権利を付与する制度です。付与された従業員は、株価が行使価格を上回った場合に権利を行使し、安価に株式を取得することで、その差額を利益として得ることができます。
株価が上昇すればするほど権利の価値も増大するため、株価上昇に貢献するインセンティブが、最も直接的かつ強力に働く制度です。
SOには、税制上の優遇措置がある「税制適格ストックオプション」や、税務上の制限を受けない「税制非適格ストックオプション」、さらに有償発行か無償発行かなど、非常に多岐にわたる種類が存在し、その制度設計や税務・会計処理は極めて複雑です。導入を検討する際は、専門家の力を借りることが不可欠でしょう。
株式希薄化を避けたい場合
株式の希薄化を避けたい場合に採用されるのが、ストック・アプリシエーション・ライト(SAR)と、ファントムストックです。
ストック・アプリシエーション・ライト(SAR)
ストック・アプリシエーション・ライト(Stock Appreciation Rights)は、「株式価値の増加分を現金等で受け取る権利」を付与する手法です。一般的には、あらかじめ設定した株価と、権利確定時の実際の株価の差額を、現金で支給する点が特徴です。
現金で支給し、株式を実際に発行しないため、株式の希薄化が一切生じないことがSARの特徴です。
また、従業員は現金で報酬を受け取るため、株式売却の手間が生じません。
税務上は、権利確定時に支給された現金に対して給与所得等として課税されます。
SARでは、会社にキャッシュの流出が発生します。さらに受け取る側のリスクとして、株価が設定した価格を下回った場合、報酬はゼロになりかねないことや、実際の株式が付与されないため、株主としての議決権や配当を受け取る権利がない点が挙げられるでしょう。
ファントムストック
ファントムストックとは、「架空の株式」を発行し、その架空の株価に応じた現金を支給する制度のことです。
SOやSARと同様に、会社の将来価値の上昇をインセンティブに用いることができますが、SARが「差額」を支払うのに対し、ファントムストックは「株価そのもの」を基準に計算されるため、会社から見ると、より多額のキャッシュアウトが発生する可能性があります。
SARと同様、株式を発行しないため、希薄化は生じません。
また、従業員は現金を受け取るため売却の手間がない一方で、株主としての権利を持ちません。
税務上は、権利確定時に、支給された現金に対して給与所得等として課税されます。
株式報酬を導入するメリット

株式報酬を導入するメリットとして、以下の3つが挙げられます。
- 優秀な人材の確保
- 従業員のモチベーション向上と経営意識の醸成
- 財務健全性の維持
それぞれについて、解説します。
優秀な人材の確保と定着
成長段階にあるスタートアップやベンチャー企業は、大手企業に比べて、高額な給与をすぐに提供することが難しい場合があります。
株式報酬であれば、将来の企業成長と成功を共有する権利を提示し、目先の給与だけでなく、大きなリターンを期待する優秀な人材を獲得することができます。
また、多くの株式報酬制度には「一定期間の勤務継続」という条件を付けることが一般的であるため、従業員が離職するのを防ぐ効果があります。「従業員の行動を縛る」というようなネガティブな意味ではなく、短期的なキャリアアップより中長期的な視点で企業の成長にコミットしてくれる人材の定着につながる仕組みだといえるでしょう。
従業員のモチベーション向上と経営意識の醸成
自分の頑張りが、会社の業績や株価に反映され、それが自身の資産価値として「見える化」されることは、日々の業務における目的意識とやりがいにつながり、従業員の業務に対するモチベーションを向上させます。
さらに、株式を保有することは、従業員に「株主」としての視点を与えます。
自分の部署や担当業務だけでなく、会社全体の利益を俯瞰的に考える「経営意識」の醸成につながり、ひいては組織全体の生産性を高め、部門間の連携を円滑にする効果も期待できるでしょう。
財務健全性の維持
現金報酬は、企業のキャッシュフローに直接影響を与えます。特に、多額のボーナスや退職金を支払う場合、企業の資金繰りの負担になりかねません。
一方、株式報酬は、原則として現金ではなく自社株式を付与するため、キャッシュの流出を防ぐことができます。
ストック・アプリシエーション・ライト(SAR)やファントムストックのように、現金での支払いが発生するものもありますが、譲渡制限付株式(RS)やストックオプション(SO)など、多くの株式報酬制度は、企業の財務負担を軽減しながら強力なインセンティブを提供できるという点で、財務健全性の維持に貢献します。
株式報酬を導入するリスク・デメリット

株式報酬には多くのメリットがありますが、導入にあたっては慎重な検討も不可欠です。
株式報酬を導入するリスク及びデメリットとして、以下の3つが挙げられます。
- 株式が希薄化する
- 制度設計と管理に労力がかかる
- 導入後の株価変動リスクがある
それぞれについて、解説します。
株式が希薄化する
多くの株式報酬制度は、株式を新たに発行して、役員や従業員に付与する仕組みです。これは、既存の株式総数が増加し、1株当たりの価値が相対的に減少する「株式の希薄化」を意味します。
既存株主にとっては、保有する株式の価値を間接的に低下させるため、制度の導入時点で既存株主がいる場合、反対される可能性はゼロではありません。
特に、株主価値の最大化を重視する機関投資家や、創業期からのエンジェル投資家などは、この希薄化リスクに非常に敏感です。
株式報酬の導入前には、既存株主に対して制度の目的や意義を丁寧に説明し、理解を得る努力が求められます。
制度設計と管理に労力がかかる
株式報酬の種類は多岐にわたり、それぞれが非常に複雑です。どの制度が自社に最も適しているのか、誰に、どれだけの量を、どのような条件で付与するのかなど、検討すべき項目は多岐にわたります。
導入にあたっては、専門的な法務や会計税務の知識が不可欠であり、社内の担当者だけで進めるのは非常に困難です。制度導入後も、適切に運用し、従業員への説明会を実施するなど、継続的な管理とコミュニケーションに労力がかかります。
会社の成長段階に合わせて制度を見直していく必要もあるため、専門家によるサポートが欠かせません。
導入後の株価変動リスクがある
株価は、企業の業績だけでなく、市場全体の動向や外的要因によって変動するリスクを常に抱えています。
役員や従業員がどれだけ尽力しても、世界経済の悪化や業界の競争激化などの要因で、株価が下がる可能性はゼロではありません。
株式報酬を導入している場合、株価が大きく下落し、付与された株式や権利の価値が目減りすると、従業員のモチベーションが著しく低下する危険性があります。場合によっては、社内モラルの低下を招くことにもなりかねません。
また、このリスクを回避するために、短期的な株価上昇を過度に重視する経営判断に陥る可能性もあります。
株式報酬を導入する際の注意点

株式報酬制度は、その設計や運用が非常に複雑であり、成功させるためにはいくつかの重要なポイントを押さえる必要があります。
導入を検討する際は、以下の注意点を念頭に置いて進めることが不可欠です。
- 目的に沿った制度を選ぶ
- 当事者への丁寧な説明と理解促進
それぞれについて、説明します。
目的に沿った制度を選ぶ
株式報酬の導入にあたり、最も重要なのは、「何のために株式報酬を導入するのか」という目的を明確にすることです。
中長期的な人材の引き留めや定着を目指すのであれば、譲渡制限付株式(RS)や譲渡制限付株式ユニット(RSU)が適しています。また、特定の業績目標達成を強く促したいのであれば、業績連動株式(PS)や業績連動型株式ユニット(PSU)が有効です。ストックオプション(SO)は、株価上昇へのインセンティブを最大化したい場合に最適です。
自社がどのような成長フェーズにあるのか、対象者は誰か(役員か、全従業員か、特定のチームか)といった要素も、適切な制度を選ぶ上で重要となります。
例えば、創業期のスタートアップであれば、高額な給与が支払えない代わりに、将来の大きなリターンを期待させるストックオプションが有効でしょう。
一方、成熟期の大企業であれば、社員の帰属意識を高め、エンゲージメントを向上させる目的で、RSを導入するケースが増えています。
目的と制度がずれてしまうと、期待した効果が得られないどころか、かえって従業員の不信感を招くことにもなりかねません。
当事者への丁寧な説明と理解促進
株式報酬は、従業員の将来の資産形成に大きく関わる制度であり、当事者にとっては最大の関心事です。
誰が、どれだけの量を、どのような条件で受け取るのかといった付与内容はもちろん、制度の仕組み、税務上の取り扱い、そして将来の価値変動リスクまで、すべてを曖昧にせず、丁寧に説明することが不可欠です。
この説明を怠ると、「なぜあの人には多く付与されるのか」「制度が複雑でよく分からない」といった不満が生じ、モチベーション向上どころか、社内モラルの低下や離職の原因にもつながりかねません。
制度の目的や意義を経営者自らが熱意をもって伝え、従業員の疑問や不安に真摯に応えることで、初めて制度が持つ本来の力を発揮することができます。
さらに、付与後も、定期的に株価や会社の成長状況を共有し、従業員が自身の貢献を実感できるようなコミュニケーションを継続することが大切です。
株式報酬の税務

株式報酬に対する課税のタイミングは、選択する制度によって大きく異なります。
また、課税のタイミングが1回のものもあれば、複数回課税される場合もあります。主な課税のタイミングは、以下のとおりです。
- 譲渡制限解除時
- 株式交付時
- 権利確定時(行使時)
- 株式売却時
株式報酬の税務は、制度の種類や付与対象者の立場、さらには上場企業か否か、税制適格の要件を満たすかなど、個別の状況によって処理が大きく変わり、非常に複雑です。
金額が大きいため、制度設計にわずかな不備があるだけで、予期せぬ税務リスクが発生しかねません。
税務上の問題を未然に防ぎ、制度を適切に運用するためには、導入段階から、専門家である税理士や公認会計士に相談することが不可欠です。
譲渡制限解除時
譲渡制限付株式(RS)や業績連動株式(PS)など、株式そのものが付与される制度では、通常、譲渡制限が解除されたタイミングで課税が発生します。
この時点で、給与所得等とみなされ、解除時点の株価に基づき所得税等が課税されます。会社は源泉徴収義務を負います。
従業員は、実際に株式を売却して現金化する前に、税金の支払いが必要となる点に注意が必要です。
株式交付時
譲渡制限付株式ユニット(RSU)や業績連動型株式ユニット(PSU)のように、将来的に株式を受け取る権利が付与される制度では、実際に株式が交付されたタイミングで課税されます。
この時点で、交付された株式の時価が給与所得等として扱われ、所得税等が課されます。
権利確定時(行使時)
ストックオプション(SO)では、あらかじめ定められた行使価格で株式を取得する権利を行使したタイミングで課税されます。
行使時点の株価と行使価格の差額が、給与所得等として課税対象となります。
ただし、税制適格ストックオプションの要件を満たしている場合は、この行使時点での課税が繰り延べられ、次の「株式売却時」まで税負担が生じないという優遇措置が適用されます。
株式売却時
株式を売却したタイミングで、所得税等が発生します。
売却価格から取得価額を差し引いた譲渡所得として、所得税・住民税を合わせて税率は約20%で、給与所得に比べて税負担が軽いことが特徴です。
税制適格ストックオプションの場合、このタイミングでのみ課税が行われます。
株式報酬を導入した企業の事例

株式報酬制度は、その目的や企業の成長段階に応じて、様々な形で活用されています。
ここでは、日本を代表する大企業のデンソーと、イノベーションを牽引するスタートアップ企業であるメルカリの事例をそれぞれ紹介します。
デンソーの事例
トヨタグループの中核を担う自動車部品メーカーであるデンソーは、2025年5月に、最大4万7千人の従業員を対象に、5年間の譲渡制限付株式(RS)を付与する制度を発表しました。
社員一人ひとりが会社の株主となることで、経営参画意識を高め、企業価値向上へのモチベーションを醸成することを目的としています。また、将来の成長を共有することで、社員の帰属意識を高め、長期的な人材の定着を図る狙いもあります。
出典:株式会社デンソー「デンソー、社員への株式インセンティブ制度を導入」
メルカリの事例
フリマアプリ事業で急成長を遂げ、今や日本を代表するテック企業となったメルカリは、上場前から積極的にストックオプションを従業員に付与したことで知られています。
上場後も、譲渡制限付株式ユニット(RSU)や、行使価格を1円に設定した「1円ストックオプション」など、多様な株式報酬制度を導入しています。
企業の成長と個人の報酬が直接的に連動する仕組みを構築することで、従業員の高いモチベーションを維持し、優秀な人材の獲得・定着につなげるという明確な戦略に基づいています。
出典:株式会社メルカリ「コーポレート・ガバナンスに関する報告書 2025/01/06」
まとめ

株式報酬は、単なる給与制度ではなく、企業の成長戦略を推進するための強力なツールです。企業の業績や株価と連動することで、役員や従業員のモチベーションを向上させ、経営意識を醸成します。
ただし、大きなメリットがある一方、株式の希薄化や制度設計の複雑さ、株価下落といったリスクもあることを忘れてはいけません。
株式報酬を導入するには、企業の目的を明確にし、それに合致した制度を選択することにあります。制度の複雑性やリスクを理解した上で、対象者への丁寧な説明を尽くし、信頼関係を築くことが不可欠です。
AGSでは、株式報酬の最適な制度設計から導入後のサポートまでワンストップでご支援いたします。ぜひ、お気軽にご相談ください。
