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役員報酬の決め方とは?相場や税金、従業員への給与との違いも解説

役員報酬の決め方とは?相場や税金、従業員への給与との違いも解説

役員報酬とはどういうものかについて解説しています。金額の相場や税金(社会保険料や源泉徴収)についてや、従業員がもらう給与との違い、金額を変更する方法やタイミングなどについても紹介しています。役員報酬について調べている方は参考にしてください。

 

※本記事では、専門家以外の人でもわかりやすいよう平易な表現を用いているため、会社法上の「役員報酬」と法人税法上の「役員給与」を区別せず「役員報酬」と表現しています。

役員報酬とは

役員報酬とは

 

「役員報酬」とは、会社法で定められた役員に対して支払われる対価のことです。

 

役員報酬は、本記事で紹介する要件を満たすことにより、損金に算入されます。「損金に算入する」とは、「法人税を計算する際の費用となる」という意味です。

 

役員報酬の損金算入要件

役員報酬の損金算入の要件には、以下3つがあります。

 

  • 定期同額給与
  • 事前確定届出給与
  • 業績連動給与

 

上記いずれかの要件を満たせば、損金に算入することが可能です。ただし、不相当に高額と認められた場合は、損金に算入できません。

 

出典:国税庁公式サイト「No.5211 役員に対する給与(平成29年4月1日以後支給決議分)」

 

定期同額給与

 

定期同額給与とは、役員報酬を毎月同じ金額に設定することです。

もし、役員報酬の支給額を自由なタイミングで変更できてしまうと、会社の利益が予想より多く出た月は報酬額を増やして会社の利益を減らし、納める法人税が少なくなるよう調整できてしまいます。そのため、原則として、損金に算入するためには、あらかじめ定められた額を毎月支給することが求められます。

 

なお、定期同額給与は事業年度ごとに定める必要があり、決算から3ヵ月以内に翌期の月額報酬を確定させることとなります。その他にも、やむを得ない事情があった場合に金額変更が認められることがあります。

 

事前確定届出給与

事前確定届出給与とは、定期同額給与以外の変則的な支給について、事前に届出をすることで損金算入を認めるものとなります。一般的には夏期冬期における役員への賞与としての支給などに利用されます。

 

役員への賞与は、基本的に損金算入の対象となりませんが、「支払う金額」や「支払う日時」、「誰に支払うか」についてあらかじめ税務署に届出をして、その通りに支払うことで損金への算入が認められます。

 

実際に支払った金額や支給時期が届出の内容と異なっていた場合、損金算入は認められないため注意が必要です。

 

この制度を利用するためには、株主総会などでの決議した日から1ヵ月を経過する日、または事業年度開始日から4ヵ月を経過する日のいずれか早い日までに、税務署に届け出る必要があります。

 

業績連動給与

業績連動給与は、その名の通り会社の業績に応じて支給される給与のことで、主に上場企業とその完全支配関係のある子会社に適用される制度です。

 

会社の業績を示す利益・株価・売上等の客観的な指標と、役員報酬の金額を連動させて決定します。

 

業績が上がると報酬額も増えるため、役員にとっては「企業価値を上げたい」というモチベーションが高まりやすくなる手段といえるでしょう。

 

ただし、業績連動給与を損金算入するには、有価証券報告書に算定方法を開示しなければなりません。

 

これが原因で、導入をためらう会社も多いようです。

 

従業員への給与との違い

役員報酬は従業員に支払われる「給与」と同様のイメージですが、いくつか異なる点があります。

 

まず、従業員の給与額は勤務実績をもとに決まりますが、役員報酬はそのような決め方をしません。勤務実績を考慮しないため残業代はなく、賃金を日割り計算することもありません。役員は会社に雇用されているのではなく経営側の立場なので、雇用保険や労災保険等も適用されません。

 

従業員に支払われる給与は、基本的に全額を損金算入できます。一方の役員報酬は、上記で解説した一定の要件を満たさないと損金算入が認められません。

 

また、従業員の給与額は年度途中でも変更可能ですが、損金に算入できる役員報酬額は株主総会で決めなければならないなど、様々な違いがあります。

 

役員報酬の対象範囲

役員報酬の対象範囲

法人は、それぞれの根拠法に基づいて設立されますが、各根拠法では、役員を定義しています。役員は、その役割として、法人の経営を担う重要な意思決定を行っています。

 

従業員は会社と雇用契約を結びますが、株式会社を前提とすると役員は株主総会で選任がされると、会社との間で委任契約が発生するとされています。労働者ではないので、役員には労働基準法が適用されません。

 

会社法その他法人の設立根拠法に定める役員報酬の対象となる役員の役職は下記の通りです。

 

  • 取締役・執行役(会社の意思決定を行う者)
  • 会計参与(会計業務を行う者)
  • 監査役(取締役が正しく職務を行っているか監督する者)
  • 理事(会社を運営し、対外的には会社を代表する者)
  • 監事(理事が正しく職務を行っているか監督する者)
  • 清算人(会社解散後の業務を行う者)

 

このほかに、会社法では役員とされていないものの、法人税法では以下の者も役員報酬の対象となります。

 

  • 相談役や顧問など、使用人以外で会社の経営に従事している者
  • 同族会社の使用人のうち、会社の特定株主に該当し、また経営に従事している者

 

出典:国税庁「No.5200 役員の範囲」

 

役員報酬の決め方とポイント

役員報酬の決め方とポイント

ここでは、役員報酬を決める際のポイントを解説します。

 

株主総会・取締役会で決定する

会社法では、役員報酬は「定款、もしくは株主総会の決議で定める」とされています。

 

ただし、定款に報酬内容を記載すると変更時の手続きが煩雑になるため、実務では株主総会で定めるのが一般的です。

 

まず株主総会で役員報酬の総額を決定し、取締役会で役員ごとの内訳金額を定めることもできます。取締役会がない場合は、取締役が決めることも可能です。

 

株主総会や取締役会で決まった内容は、議事録に残して保存しておきましょう。議事録は税務調査の際の説明資料となります。

 

職務内容や業績も加味して金額を決める

役員報酬は、原則的に事業年度の途中で変更できません。今後1年間の収入と支出をなるべく正確に予測し、どれくらい利益が出るか把握した上で適切な報酬設定を行う必要があります。

 

役員報酬は、あくまでも役員が仕事をした対価として支払われなければなりません。「実際はほとんど働いていないのに、多くの金額が支給されている」といった事態を防ぐために、役員の職務内容や会社の業績に見合った金額を設定しましょう。

 

過大な役員報酬に注意

「職務内容に見合った報酬額」を設定する必要はあるものの、役員報酬には明確な上限・下限が定められているわけではありません。

 

ただ、会社の売上に対して役員報酬があまりにも高額に設定されていると、税務調査の対象になりやすい傾向にあります。同業の類似法人と比較して不相当に高額である場合は、過大部分であると認定された役員報酬等を損金に算入できなくなる場合もあります。

 

妥当性の観点からも、同じ業種や規模が近い会社の役員報酬の相場を参考にして報酬金額を検討することをおすすめします。

 

役員報酬を変更できる主なタイミング

役員報酬を変更できる主なタイミング

一度決めた役員報酬を変更した場合には一定額を損金算入することができませんが、条件を満たせば増額又は減額をした場合でもその全額を損金算入をすることはできます。

 

ここでは役員報酬を変更しても損金算入が可能なタイミングを紹介します。

 

基本的には事業年度開始から3ヵ月以内

役員報酬は、事業年度ごとに定めます。そのため、毎年事業年度が開始してから3ヵ月以内に決定または変更する必要があります。

 

たとえば、事業年度開始が4月であれば、6月末までに株主総会を開いて役員報酬を変更できます。定期的な報酬額の見直しは、基本的にこの期間で実施しましょう。

 

事業年度開始から4ヵ月以降に役員報酬を変更すると、特別な理由がない限りは損金算入が認められなくなるため注意しましょう。

 

出典:国税庁「No.5211 役員に対する給与(平成29年4月1日以後支給決議分)」

 

増額可能なタイミング

事業年度開始から3ヵ月を過ぎると役員報酬の額を変更した場合に一定額を損金算入できませんが、以下で紹介するタイミングでは金額変更しても損金算入が認められる場合があります。

 

ここでは、そのタイミングを解説します。

 

新たに役員が就任した時

たとえば、事業年度の途中に従業員が新しく役員に昇格した場合や、外部の人を役員として招き入れた場合が当てはまります。

 

なお、増額したことによって株主総会で定めた役員報酬の総額を上回る場合は、臨時の株主総会を開催して再度決議を行わなければなりません。併せて議事録の作成・保管をしてください。

 

役員の昇格があった時

たとえば、副社長から社長に昇格すると、仕事の責任が重くなります。当然、役員報酬額も増額されるべきでしょう。この場合も、株主総会で定めた役員報酬の総額を上回る場合は、再度株主総会を開き議事録を作成します。

 

なお、役員報酬を増やしたいがために業務内容や責任を変えず名ばかりの役員昇格を行うことはできません。このような行為をすると、損金算入が認められなくなる可能性があります。

 

減額可能なタイミング

役員報酬を減額した場合も、全額損金算入できるタイミングがあります。

 

業績が悪化した時

会社の業績が明らかに悪化し、これまでの役員報酬を支払うことが難しくなった場合は、金額を減額することができます。

 

ただし、株主や取引銀行などの第三者に影響を及ぼすほど、著しく業績が悪化した場合に限られます。

 

「通常よりも少し収益が下がった」、「一時的に資金繰りが厳しい」程度では、役員報酬の減額をした場合には一定額は損金算入が認められないため注意しましょう。

 

役員のランクが下がった時

役員のランクが下がったタイミングも、支払う役員報酬が減るため減額が可能です。

 

たとえば、「専務から平取締役に降格になった」などのタイミングが該当します。

 

役員報酬と税金について

役員報酬と税金について

役員報酬は、ルールにしたがって定めることにより損金に算入でき、経費として扱われるため、会社が支払わねばならない法人税を減らせます。

 

ここからは、役員報酬と税金の関係について解説していきましょう。

 

給与所得として税金を納付する必要がある

役員報酬も、税法上は従業員の給与と同じく「給与所得」として扱われます。

 

従業員の給与は、税金や社会保険料が源泉徴収で天引きされた状態で支払われます。役員報酬も同じように、所得税や住民税などの税金と、健康保険料や厚生年金保険料といった社会保険料が天引きされ、その残りが手取りとして手元に渡る仕組みです。

 

法人税との関係性

役員報酬を損金算入した分は経費となるため、役員報酬を増やすと会社の利益を減らすことになります。法人税は会社の利益に対して発生するため、役員報酬を増やして会社の利益を減らすと、支払う法人税も減ることになります。

 

一方で、役員報酬が増えると個人にかかってくる所得税や住民税が増えます。

 

これら役員報酬と法人税・個人にかかる税金の関係性を理解し、それぞれのバランスを考慮した金額を設定するのが理想です。

 

 

まとめ

役員報酬の決め方とは?相場や税金、従業員への給与との違いも解説

役員報酬の概要や決め方のポイントについて解説してきました。

 

役員報酬の決め方には一定のルールがあるため、特に創業したばかりの経営者は戸惑うかもしれません。まずは本記事を参考に、役員報酬のルールを理解しましょう。

 

また、役員報酬を決める際には、会社が支払う法人税と役員個人が支払う税金の両方があることを考慮する必要があります。トータルの税負担が軽くなるようシミュレーションを行い、上手に役員報酬を設定しましょう。

  • 江波戸 正人

    監修者

    江波戸 正人

    株式会社AGSコンサルティング
    税務部門長・税理士

    1991年 中央大学法学部法律学科卒業後、株式会社三和銀行(現三菱UFJ銀行)入行。
    銀行退職後、会計事務所に勤務。税理士として税務顧問業や銀行員時代の経験を活かした事業再生業務に従事するほか、二度にわたって弁護士らと協働して地方自治法に規定する政令市に対する包括外部監査を経験。
    2011年5月 (株)AGSコンサルティング/AGS税理士法人に入社。現在、税務部門長としてAGSグループ全般の税務業務に関する品質管理業務を担う。

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