M&Aに必要なPPAとは?のれんとの関係性や無形資産の評価方法を解説

M&Aに必要なPPAとは?のれんとの関係性や無形資産の評価方法を解説

PPAとはどのような手続きかを解説しています。M&AにおけるPPAの重要性や「のれん」との関係、無形資産の評価方法、仕訳例についても紹介しています。PPAについて調べている方は参考にしてください。

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PPAとは

PPAとは

PPAとは「Purchase Price Allocation」の略で、「取得原価の配分」を意味します。

企業がM&Aによって買収を行った際には、企業結合日時点における被買収企業の識別可能な資産および負債を、買収企業が受け入れます。この際に、被買収企業の資産および負債を時価評価し、買収企業の財務諸表に反映する手続きがPPAです。

PPAは、企業を買収してから1年以内に行わなければなりません。その際には、被買収企業の無形資産も評価し、計上する必要があります。

PPAと「のれん」との関係性

「のれん」とは、財務諸表に表れていない企業の「超過収益力」で、人材や技術、ブランド、取引先などの無形の価値をいいます。

会計処理としては、被買収企業の資産および負債を時価評価し、買収価格との差額をのれんとして認識します。例えば、被買収企業の資産が時価120億円、負債が時価40億円、買収価格が100億円とすると、下記の計算により、のれんが20億円になります。

買収価格100億円 – (資産120億円 – 負債40億円) = のれん20億円

ここで注意が必要なのが、分離して識別可能な無形資産はのれんに含まれず、個別に無形資産として計上する必要がある点です。

そのため、企業買収時にはPPAを実施し、被買収企業の無形資産を評価して、のれんと分けなければなりません。

無形資産とは

無形資産には、「法律上の権利」と「分離して譲渡可能な無形資産」の2種類があります。

法律上の権利とは、特許権や商標権、著作権や意匠権などです。被買収企業が特許を取得している場合、無形資産として評価します。

注意点として、法律上の権利は、定額法で減価償却しなければなりません。例えば、特許権は税務上の耐用年数が8年のため、取得時点から8年で均等に償却する必要があります。

一方、分離して譲渡可能な無形資産には、ソフトウェアや技術、顧客リストなどがあります。他の企業や個人に譲渡できるのが特徴です。

ソフトウェアは定額法で減価償却しますが、用途によって税務上の耐用年数が異なり、「複写して販売するための原本」または「研究開発用のもの」は3年、その他のものは5年です。

PPAの流れ・手順

PPAの流れ・手順

PPAを行う際の具体的な流れについて解説します。

情報収集と分析

PPAを実施する際は、無形資産を識別し計上するために情報収集から行います。
まず、下記の資料を確認します。

  • 買収の目的・概要がわかる資料
  • 事業計画書・決算書などの各種財務資料
  • デューデリジェンスの報告書
  • 株式価値算定書
  • 株式譲渡契約書

次に、確認した資料をもとに、被買収企業が計上している資産および負債を時価評価し、買収価格との差額を確認します。

差額から、無形資産の金額はどのくらいになるか、どのような無形資産が計上されるかなどを分析しましょう。

両社にヒアリング

買収企業と被買収企業の双方の経理担当者などにヒアリングし、無形資産に該当する資産を明確にします。

買収企業には買収目的を確認し、識別が必要な無形資産がないか確認する必要があります。例えば、買い手企業が技術力の獲得を目的にM&Aを実施したのであれば、技術に関する無形資産を認識しなければなりません。

被買収企業にもヒアリングが必要です。デューデリジェンス報告書に特許などの知的財産権が記載されていれば、そうした情報をもとにヒアリングする内容を決めます。

PPAは基本的に、公認会計士などの外部の専門家が行うことになるため、買収企業と被買収企業の双方にヒアリングを実施し、情報収集を行います。

無形資産の識別

資料ベースの情報収集およびヒアリングを行った後は、無形資産の識別を行います。

識別する無形資産には、商号や業務上の機密事項が該当します。また、企業や個人に譲渡でき、価格が算定可能なものとして、特許で保護されていない技術も該当します。

識別すべき無形資産に漏れがないように、法的要件を満たした権利がないか、分離して譲渡可能なものがないかを確認してください。

無形資産に識別されたものについては、具体的な計上額の計算が必要です。
その後は、価値算定を行いましょう。

無形資産の価値算定

無形資産の価値算定方法には、下記の3つがあります。

  • マーケットアプローチ
  • インカムアプローチ
  • コストアプローチ

それぞれの詳細は後述しますが、どの方法を採用するかは、対象となる無形資産の種類や目的によって決定します。

いずれにせよ、無形資産の価値算定をする際は、自社とのシナジーを分析したり、対象企業の価値の源泉を分析したり、買収した企業の顧客基盤や保有する技術・ブランドや商号に起因する競争力の分析をしたりするなど、多角的な視点からの評価が欠かせません。

会計監査

評価した無形資産の価値は、財務諸表に計上されるため、会計監査人の確認が必要です。

PPAの評価については、明確に定められた方法がないため、会計監査では、計上項目や計上に使用した計算方法、計算条件、償却期間、計上額などの確認により、適切か監査されます。

PPAには専門的な知識が必要なため、専門家に依頼するのが一般的です。
会計監査人もPPAの専門家を起用し、評価方法や計上額が妥当かを確認してもらいましょう。

なお、PPAの評価方法は複数あり、価値算定が難しい無形資産を扱うため、専門家によって評価が異なることも珍しくありません。

そのため、会計監査人による確認に時間がかかる場合があります。

会計処理

会計監査人の確認が終わり、計上項目や計上額、償却期間が確定すれば、それに則って会計処理を行います。

確定した計上項目および計上額を財務諸表に計上し、設定した償却期間に応じて償却を行います。償却は毎期行うもののため、忘れずに計上しましょう。なお、無形資産の償却は、基本的に定額法により行います。

注意点として、会計上で計上されたPPAによる無形資産は、税務上では認識されません。
そのため、PPAによる無形資産の償却費について、法人税の申告の際には調整計算が行われます。

無形資産の評価方法

無形資産の評価方法

無形資産の評価方法には、インカムアプローチ、コストアプローチ、マーケットアプローチの3つの方法があります。

それぞれの方法について解説します。

インカムアプローチ

インカムアプローチとは、無形資産が将来どれだけの収益を生み出すかを直接評価する手法です。

ただし、将来のキャッシュフローを予測するのは難しく、不確実性も考慮する必要があります。

インカムアプローチには、DCF法や収益還元法などの手法があります。

DCF法

DCFは「Discounted Cash Flow」の略で、割引キャッシュフローとも呼ばれます。DCF法は、将来の期待収益を現在価値に割り引いて算出する手法です。

DCF法では、対象となる無形資産が将来生み出すと予測される利益を、フリーキャッシュフロー(自由に使えるお金)をもとに推測します。

推測したフリーキャッシュフローを加重平均資本コスト(実際に資金を調達するためにかかるコスト)で割り引いて、現在価値を算出します。

収益還元法

収益還元法は、DCF法と同様に将来的な収益価値を現在価値に割り引いて算出するものです。DCF法との違いとして、DCF法のフリーキャッシュフローに相当する部分を、収益還元法では一定の予想収益利益とし、割引率に資本還元率を使用する点があります。

資本還元率は、市場金利や長期国債利回り、評価対象企業の調達金利等をもとに、危険率を加味して決定します。

収益還元法は、DCF法と比べて算出にかかる手順を省略できる簡便な方法です。ただし、年度ごとの予想収益を求めないため、業績の変化が大きい場合には不向きでしょう

コストアプローチ

コストアプローチは、対象となる無形資産を再取得または再生産したり、あるいは別物で代替したりするのに必要なコストを、無形資産の価値とする方法です。

市場データが不足している場合や、特異な無形資産の評価に有用です。ただし、将来もたらす利益については考慮しません。

再調達原価法

PPAにおけるコストアプローチには、再調達原価法があります。

再調達原価法は、評価対象となる無形資産と同様の無形資産を作るのに要するコストにもとづいて、無形資産の価値を算出する手法です。

マーケットアプローチ

マーケットアプローチは、類似する過去の売買取引価格やライセンス取引価格をもとに、対象企業の無形資産の価値を類推する方法です。

ただし、無形資産は個別性が強く、類似したものが見つからないことも多いため、無形資産の価値算定ではあまり用いられません。

マーケットアプローチには、ロイヤルティ免除法や利益差分比較法があります。

ロイヤルティ免除法

ロイヤルティ免除法は、その無形資産の使用を第三者より許可されたものと仮定し、その場合に支払うこととなるライセンス料を類似の無形資産から算出し、評価する方法です。

利益差分比較法

利益差分比較法は、無形資産を使用している事業と、無形資産を使用していない事業の利益の差分を比較し、その差分をもとに無形資産の価値を算定する方法です。

PPAの仕訳例

PPAの仕訳例

PPAを実施した場合の、会計上の仕訳について解説します。

PPAにより識別した無形資産を償却する場合、毎期償却額を認識するため、継続的な会計処理が必要です。

例えば、日本の会計基準を採用している企業が、買収価格100億円でM&Aを行い、被買収企業を子会社にしたと仮定します。

なお、相手企業の純資産額は40億円です。

全額のれんで計上する場合

仮に、PPAによる無形資産の識別がない場合、買収価格100億円と、被買収企業の純資産額40億円の差額60億円が全額のれんとして計上されます。

借方貸方
純資産40億円子会社株式100億円
のれん60億円

自社で保有する相手企業株式の額と、相手企業の純資産を相殺し、差額をのれんとして計上します。

日本基準の場合、のれんは設定した償却年数によって毎期償却が必要です。

例えば、のれんの償却年数が10年だとすると、のれん60億円を10年で割って、毎期6億円を償却します。

のれんの償却仕訳は下記のとおりです。

借方貸方
のれん償却費

6億円

のれん

6億円

財務諸表上、償却した金額を、のれんから直接引いた純額で表示します。

PPAを実施して無形資産を計上する場合

PPAを実施して、特許権20億円を認識・測定したとします。また、法定実効税率を30%と仮定します。

注意したいのは、PPAの無形資産を認識・測定して計上する場合、一時差異として繰延税金負債を計上する必要がある点です。

繰延税金負債の計上額は、PPAにより計上した無形資産価格に法定実効税率をかけた値で、今回は特許権20億円に法定実効税率30%をかけた6億円です。

PPAを実施して無形資産を計上した場合の仕訳は下記になります。

借方貸方
純資産40億円子会社株式100億円
特許権20億円繰延税金資産6億円
のれん46億円

PPAで「のれん」を評価する際の注意点

PPAで「のれん」を評価する際の注意点

PPAによるのれんを評価を説明する前に、のれんについての税務上の取り扱いを解説します。

税務上、M&Aの対価として交付した金銭等の額が、M&Aによる移転資産負債の時価純資産額を超える場合、「資産調整勘定」として処理します。

資産調整勘定は税務上ののれんに相当するもので、資産調整勘定は計上後5年で償却することが定められています。また、M&Aが期中に行われていても、初年度は1年分の償却を行わなければなりません。

会計上ののれんと、税務上の資産調整勘定の償却額にはズレが生じる場合があり、その場合は会計上、税効果会計を適用する必要があります。

これらを踏まえ、PPAによるのれん評価の注意点を解説します。

評価額は評価者によって異なる可能性がある

PPAによる無形資産の評価は、定まった方法がありません。どうしても見積りの部分が含まれるため、絶対的な評価が難しくなります。

そのため、収益の根拠や変数の設定が人によって変わり、無形資産額やのれんの金額が異なる可能性があります。

評価はできるだけ客観的に行う必要がありますが、それでも個人差が生まれてしまい、監査において見積りの根拠や耐用年数の考え方について指摘を受けたり、論点になったりすることが実務上発生しやすいことは否めません。

監査対応のため、適切に考え方を説明できるよう、専門家に相談しておくとよいでしょう。

のれんの減損リスクがある

のれんの減損とは、M&Aの買収価格が高すぎた場合や、想定していた利益が生み出せなかった場合に、のれんを下方修正することです。のれんの計上額を減額し、減額した期の特別損失として計上します。

のれんの金額は、買収先の超過収益力を表し、M&Aにより得られると見込んだ利益です。しかし、実際にM&Aを行った後に、見込んだ利益の回収が難しいと判断することもあるでしょう。そうした場合、回収できない分ののれんを減損処理します。

のれんの減損処理がされると、株価が低下するリスクがあります。さらに、税務上、災害による著しい損傷などの場合を除き、減損による損金処理は原則的に認められません。

のれんの減損を会計上で行っても、税務上では認められない場合が多く、税金面の影響も大きくなるでしょう。

まとめ

M&Aに必要なPPAとは?のれんとの関係性や無形資産の会計処理を解説

PPAは、M&Aの際に、被買収企業の無形資産を評価し、買収企業の財務書評に配分することです。

PPAを実施する際は、情報収集と分析を行い、買収企業と被買収企業へのヒアリングをもとに無形資産の識別や価値算定を行います。

PPAの実施方法には規定がなく、評価する人によっても結果が異なるため、計算方法や計算条件、償却期間などについて、会計監査の際に指摘を受けたり論点になったりすることが珍しくありません。

適切で論理的な説明ができるよう、専門家に相談することをおすすめします。

監修者

  • 三輪 忠孝

    株式会社AGS FAS
    FAS事業部・公認会計士

    三輪 忠孝

    カナダにて不動産ビジネスで起業し、事業売却。その後、BIG4監査法人にて国内監査・IFRS監査・IPO支援、IFRS導入アドバイザリー等を経て、現在に至る。
    AGS FASでは特にビジネス成長性や将来性目線のDDやPMIを得意とし、多様な業態・規模の案件に従事。DD/Valuation/PMIの一気通貫サービスを強みに、 M&Aディールの多様な局面に関与。