税効果会計とは?導入目的やメリット、適用手順などについて解説

税効果会計とは?導入目的やメリット、適用手順などについて解説

税効果会計とはどのような手続きかをわかりやすく解説しています。会計と税務で生じる差異(一時差異と永久差異)や目的、税公開会計が必要となる場合や適用するメリット、適用手順なども紹介しています。税効果会計について調べている方は参考にしてください。

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税効果会計とは

税効果会計とは

税効果会計とは、会計と税務のずれを調整し、適切な期間損益を求める手続きです。会計上の費用・収益と、税務上の損金・益金のルールは異なるため、会計上の税引前当期純利益と、税務上の課税所得は、通常一致しません。

両者が一致しないままだと、損益計算書上では、利益と税金費用の対応関係に相違が生じ、税引後の当期純利益が会社の業績を適切に反映しない状態になってしまいます。

損益計算書に、税効果会計を反映させることにより、損益計算書上の利益と税金費用の不整合を調整します。

税効果会計の目的

税効果会計の目的

税効果会計は、会計上の資産または負債の額と、課税所得計算上の資産または負債の額に相違がある場合に、法人税等を控除する前の当期純利益と法人税等を合理的に対応させることを目的としています。

例えば、会計において、税引前当期純利益を100円、賞与引当金を10円計上したとします。

一方、税務上、賞与引当金の計上が認められないため、引当金の10円が否認され、課税所得は110円です。
税率が30%だとすると、実際の税額は33円になります。

しかし、このままだと損益計算書の税引前当期純利益は100円で税率が30%なのにもかかわらず、税金が33円となり、計算が合いません。

そこで、税効果会計を適用し、賞与引当金の一時差異について10円に税率30%をかけた3円を法人税等調整額として計上することで、税引前当期純利益と税金の差異が調整されます。
表にすると、下記のようになります。

【税効果会計】適用なし適用あり
税引前利益100100
法人税等3333
法人税等調整額▲3
税引後利益6770

会計と税務で生じる差異

会計と税務で生じる差異

会計と税務のずれを「差異」といいます。

会計と税務で生じる差異には「一時差異」と「永久差異」の2種類があり、税効果会計の適用対象は一時差異のみになります。

一時差異と永久差異の内容、なぜ一時差異のみが税効果会計の適用対象なのか、解説します。

一時差異とは

一時差異とは、一時的にずれているだけで、将来的に解消される差異です。

会計と税務では、計上する内容自体は同じでも、認識・計上のタイミングが異なります。

例えば、賞与引当金について、会計上は賞与に充てるためのお金を事前に計上して費用を認識しますが、税務上は賞与引当金の計上は認められていません。税務上は、実際に賞与を支給した際に損金算入が認められるため、会計上と税務上で、賞与に関する費用を認識するタイミングがずれます。

一時差異には、将来減算一時差異と、将来加算一時差異の2種類があります。

将来減算一時差異

将来減算一時差異とは、一時差異のうち、解消時にその期の課税所得が減少する差異です。

将来減算一時差異が発生したときは、「繰延税金資産」を計上し、相手勘定には「法人税等調整額」の損益項目を使用します。将来的に会社の金銭負担を減少させるため、税効果会計上は資産扱いになります。

減価償却費の償却限度超過額や、税務上認められない棚卸資産評価損、賞与引当金の計上などが該当します。

例えば、繰延税金資産の額が10円の場合、下記の仕訳を計上します。
法人税の申告書では、所得金額を計算する別表4で減算調整されます。これは、税務上、認められない利益が計上されているためです。

借方貸方
繰延税金資産

10

法人税等調整額

10

法人税の申告において、一時差異が解消されたタイミングで、下記の仕訳を計上します。
法人税の申告書では、所得金額を計算する別表4で加算調整されます。これは、税務上、認められない費用が計上されているためです。

借方貸方
法人税等調整額

10

繰延税金資産

10

将来加算一時差異

将来加算一時差異とは、一時差異が解消する時に、その期の課税所得が増加する差異です。

将来加算一時差異が発生したときは「繰延税金負債」を計上し、相手勘定には法人税等調整額を使用します。
法人税等調整額は将来減算一時差異の分と相殺し、損益計算書上、純額で表示します。将来的に会社の金銭負担を増加させるため、税効果会計上は負債扱いになります。

圧縮積立金の計上、資産または負債の評価替えにより生じた評価差益などが該当します。

例えば発生額が10円の場合、下記の仕訳を計上します。
法人税の申告では、別表4で加算調整されます。これは、税務上、認められない費用が計上されているためです。

借方貸方
法人税等調整額

10

繰延税金負債

10

法人税の申告において、一時差異が解消されたタイミングで、下記の仕訳を計上します。
法人税の申告書では、所得金額を計算する別表4で減算調整されます。これは、税務上、認められない収益が計上されているためです。

借方貸方
繰延税金負債

10

法人税等調整額

10

永久差異とは

永久差異とは、会計と税務の考え方の違いにより発生した差異で、永久に解消されません。

一時差異は、会計と税務両方で計上されるものの、認識タイミングがずれているだけでしたが、永久差異は、そもそも税務上、益金や損金にならない差異を指します。

例えば、受取配当等の益金不算入額や、交際費等の損金算入限度超過額、寄附金の損金算入限度超過額などが該当します。

永久差異は、将来にわたって解消されません。将来の課税所得を減少させたり増加させたりする効果を持たないため、税効果会計の対象になりません。

税効果会計が必要となる会社

税効果会計が必要となる会社

税効果会計の適用が義務付けられる会社は、下記になります。

  • 上場会社
  • 金融商品取引法の適用を受ける非上場会社
  • 会計監査人を設置している非上場会社

会計監査人の設置が義務付けられているのは、資本金が5億円以上または負債金額が200億円以上ある、大会社、指名委員会等設置会社、監査等委員会設置会社です。

それ以外の会社でも、任意で会計監査人を設置できますが、設置すると税効果会計の適用が義務付けられます。

税効果会計を適用する会社の子会社も、税効果会計を適用する必要があるほか、連結財務諸表を作成する上での連結調整に関しても、税効果会計による調整を行わなければなりません。なお、税効果会計の適用の有無にかかわらず、法人税等の納税額は同じです。

税効果会計を適用するメリット

税効果会計を適用するメリット

税効果会計の適用は、会社にとって複数のメリットがあります。税効果会計のメリットを解説します。

当期純利益を適切に計上できる

税効果会計を適用すると、会計上の適切な当期純利益を算出できます。

当期純利益は税引前当期純利益から法人税等として税額を差し引いて算出しますが、税額は税務上の取扱いによって算出されるため、会計と計算が合いません。

両者のずれを税効果会計で調整し、適切な当期純利益を算出します。

税効果会計の適用により生じる法人税等調整額は、税引前当期純利益の下に表示し、法人税等の負担が増加する場合はプラス、減少する場合はマイナスになります。

ステークホルダーに正確な財務情報を開示できる

企業会計は、投資家や金融機関、取引先など外部の利害関係者に会社の業績を示すために行うものです。

投資家や金融機関は決算書をもとに財務状態を確認するため、税効果会計を用いて会計と税務のずれを調整し、適切な当期純利益を示す必要があります。

また、税効果会計を適用して発生した繰延税金資産は将来の税金負担を減少させる効果があり、繰延税金負債は将来の税金負担を増加させる効果があります。

繰延税金資産や繰延税金負債を貸借対照表に計上することで、ステークホルダーは将来の税負担の変動要因を把握できます。

税効果会計の適用手順

税効果会計の適用手順

税効果会計を実際に行う際の、具体的な手順について説明します。

一時差異を集計する

最初に、会計上の費用・収益と、税務上の損金・益金を比較して差異を確認します。
差異があれば、一時差異と永久差異に分類し、一時差異に該当するものだけを集計します。

上場会社であれば、将来的に開示する有価証券報告書における財務諸表で、繰延税金資産および繰延税金負債の主な発生原因別の内訳を注記する必要があります。

なお、「その他有価証券評価差額金」など、一部の科目は法人税等調整額が発生せず、繰延税金資産または繰延税金負債のみが発生します。

法定実効税率を算出する

法定実効税率とは、会社が実質的に負担する税率です。繰延税金資産や繰延税金負債を計上する際には、法定実効税率を使って算定します。税務上の中小法人等と大法人の区別で、前者は約35%、後者は約30%が一般的です。

法定実効税率は、法人に対する下記5つの税金の負担をまとめたものになります。

  • 法人税
  • 地方法人税
  • 法人住民税(法人税割)
  • 法人事業税(所得割)
  • 特別法人事業税

法定実効税率の計算式は下記になります。

・事業税に標準税率を適用する場合
法定実効税率 =

法人税率×(1+法人住民税率+地方法人税率)+事業税率(標準税率)+事業税率(標準税率)×特別法人事業税率


1+事業税率(標準税率)+事業税率(標準税率)×特別法人事業税率

・事業税に超過税率を適用する場合
法定実効税率 =

法人税率×(1+法人住民税率+地方法人税率)+事業税率(超過税率)+事業税率(標準税率)×特別法人事業税率


1+事業税率(超過税率)+事業税率(標準税率)×特別法人事業税率

超過税率とは、標準税率を超える税率を地方自治体が条例で定める制度です。資本金等の額や所得の額などによって適用されます。

なお、実効税率は、会社の規模や所在地などによって異なってくるのでご留意ください。

繰延税金資産(繰延税金負債)を算出する

集計した一時差異に対して、算出した法定実効税率を乗じて、繰延税金資産(繰延税金負債)を算出します。

繰延税金資産と繰延税金負債が両方計上される場合は、財務諸表上、重要性に応じて双方を相殺して開示します。
ただし、連結財務諸表においては、異なる納税主体の繰延税金資産と繰延税金負債を相殺せずに開示する必要があります。
例えば、親会社の繰延税金資産と子会社の繰延税金負債は相殺できません。

税率が変更される場合、決算日において国会で成立している税法規定による税率を使用し、繰延税金資産および繰延税金負債の金額を計算しなおします。

税率変更前の繰延税金資産および繰延税金負債との差額は、原則、法人税等調整額として処理します。

回収可能性の検討

繰延税金資産は、将来の税金を減額する効果を計上するものです。従って、減額できる見込みがないのであれば、繰延税金資産として計上できません。
この減額効果の有無を「回収可能性」といいます。

例えば、当期に発生した将来減算一時差異1,200のうち、回収可能性があるのは1,000のみで、法定実効税率が30%の場合、繰延税金資産として計上できるのは回収可能性がある1,000の部分だけで、繰延税金資産は300になります。

1,000 × 30% = 300

残り200については、表示を行いません。

回収可能性があるかは、下記の3つの要件に基づいて判定します。

  • 収益力に基づく一時差異等加減算前課税所得
  • タックス・プランニングに基づく一時差異等加減算前課税所得
  • 将来加算一時差異の十分性

「収益力に基づく」とは、過去の業績や将来の業績予測等を勘案して、通常の事業活動からどれくらい利益を計上できるかを指します。

タックス・プランニングに基づく判定では、通常の事業活動以外の取引による課税所得を検討します。例えば、巨額の含み益のある土地を売却する意思決定がされ、かつ、その実行可能性が高いケースなどが該当します。

こうした実行可能性が高い計画があれば、将来減算一時差異による課税所得の減額効果を享受できるため、繰延税金資産は回収可能性があると判断できます。

将来加算一時差異についても、将来減算一時差異と相殺可能な分があるのであれば、それだけ課税所得の増額を免れ、繰延税金資産が回収可能であると判断できます。

税効果会計の仕訳をする

税効果会計の仕訳は、下記になります。

・繰延税金資産

借方貸方
繰延税金資産

20

法人税等調整額

20

・繰延税金負債

借方貸方
法人税等調整額

10

繰延税金負債

10

その他有価証券評価差額金など、一部の科目は、法人税等調整額を使わずに繰延税金資産または繰延税金負債を計上します。

例えば、投資有価証券の簿価100、時価300、法定実効税率30%の場合、繰延税金負債60が発生し、その場合の仕訳は下記になります。

借方貸方
投資有価証券

200

その他有価証券評価差額金140
 繰延税金負債60

最後に、重要性に応じて、繰延税金資産と繰延税金負債を相殺します。

借方貸方
繰延税金負債

20

繰延税金資産

20

まとめ

税効果会計とは?導入目的やメリット、適用手順などについて解説

税効果会計は、会計と税務で発生する差異のうち、一時差異を調整するものです。
実際に発生した税額と当期純利益を、損益計算書の表示上で整合させます。

税効果会計は、上場会社に適用が義務付けられているほか、非上場会社でも金融商品取引法の適用を受ける会社や、会計監査人を設置している会社は適用しなければなりません。

取引のうち、一時差異を集計し、一時差異に法定実効税率を乗じて繰延税金資産または繰延税金負債を算出します。

相手勘定は、基本的に法人税等調整額という損益科目になりますが、その他有価証券評価差額金などは、法人税等調整額を使わずに仕訳を計上する点にご留意ください。

監修者

  • 小泉 崇

    株式会社AGSコンサルティング
    GT事業部 事業部長・税理士

    小泉 崇

    BIG4に長年在籍し、国際税務・組織再編税制・連結納税申告のレビュー・コンサルティングやクロスボーダー案件で十数か国の英文税務DDレポートを取り纏めなど行う。著名オーナー企業に相続・事業承継対策として毎年、株価算定シミュレーションも行う。

    AGS入社後は培った経験・ノウハウを活かし、上場企業や大規模非上場企業の税務顧問・税務コンサルティング業務に従事。