賞与引当金とは?仕訳例や損金算入の可否、税務上の注意点を解説

賞与引当金とは?仕訳例や損金算入の可否、税務上の注意点を解説

賞与引当金とはどのような勘定科目か解説しています。賞与引当金の計上が必要な理由や3月が決算月で年2賞与の場合の仕訳例、税務上の注意点も紹介しています。賞与引当金について調べている方は参考にしてください。

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賞与引当金とは

賞与引当金とは

賞与引当金とは、決算時点において、将来従業員に支払う賞与に対応する金額として事前に計上する勘定科目です。

例えば3月決算で、支給対象期間を12月~5月として6月に賞与を支払う企業があるとします。

6月賞与のうち、決算月の3月時点で経過している支給対象期間は12月~3月の4ヵ月分です。そのため、決算では、6月に支給を予定する賞与総額のうち6分の4に相当する金額を賞与引当金として計上します。

6月賞与の金額が120万円なら、3月末時点で計上すべき賞与引当金の金額は80万円です。

引当金とは

引当金とは、将来発生する可能性が高い費用等について、当期で事前に計上しておく見積りの金額です。貸借対照表においては、負債に分類されます。引当金として計上される科目は、賞与引当金の他にも貸倒引当金や退職給付引当金、修繕引当金などがあります。

例えば10年後に定期修繕が必要な建物があり、業者に見積りを依頼したところ修繕費用は1,000万円かかるとします。もし、修繕をする10年後に1,000万円を一括で費用として計上した場合、その期のみ企業の利益が大きく減ってしまいます。

10年後に修繕をするのであれば、10年にわたって修繕の費用を少しずつ計上し、利益が大きく減って見える年度が出ないよう調整することで、企業の収益力を正しく表示させることができます。

10年後に大きな支出があるのは確実なのに引当金を計上しないと、その分純資産が大きく見えてしまい、企業の財務状況が実態と異なってしまうという面からも問題です。

引当金は、企業の利益や財務状況に関して、より正確な会計を行うために計上される役割を持ちます。ただし、将来の費用を何でも引当金にできるわけではなく、以下の4つの要件を満たすもののみ引当金として計上できます。

  1. 将来の特定の費用または損失であること
  2. 発生が当期以前の事象に起因していること
  3. 発生の可能性が高いこと
  4. 金額を合理的に見積れること

「2.」に関して、事象の発生が来期以降に属する費用は、来期以降の費用として計上する必要があります。あくまで当期以前の事象に起因しているものが対象で、これは引当金を計上する目的をそのまま表している要件です。

「3.」については、発生することがほぼ確実に見込まれる賞与や修繕費用、退職金などの費用のみ計上できるということです。

「4.」では、例えばこれまで売掛金が貸し倒れた実績の割合で貸倒引当金を計上したり、業者に修繕にかかる費用の見積りをしてもらったりなど、客観的な事実に基づく金額であることを意味します。

賞与引当金繰入額とは

賞与引当金を計上するときの相手勘定は「賞与引当金繰入額」であり、費用に分類されます。

実際に賞与を支給する際に、計上した引当金より実際の支給額が大きかった場合は、差額を「賞与」などの科目で計上します。実際の支給額が引当金より小さかった場合は、差額を「賞与引当金戻入益」の科目で計上します。

賞与引当金繰入額は、発生内容の属性により、販売費および一般管理費や売およ上原価に区分されます。一方、賞与引当金戻入益は、差額が発生した要因に応じて販売費および一般管理費や営業外収益などに区分されます。

賞与引当金戻入益の区分は混乱しやすいため、注意しましょう。

賞与引当金の計上が必要な理由

賞与引当金の計上が必要な理由

3月決算で、支給対象期間を12月~5月として6月に賞与を支払う企業があるとします。

ある年(x1年とします)の12月に支給対象期間が始まり、翌年(x2年とします)3月末の決算時点では、支給対象期間のうちx1年12月~x2年3月の4ヵ月が経過しています。しかし、実際の支払いはx2年6月となるため、費用の発生と支給に時間的なズレが発生します。

x1年12月~x2年3月分の賞与をx2年3月末の決算であらかじめ引当金として計上しておけば、賞与の発生期間に見合った費用計上が可能となり、より正確な損益を算定できます。

費用は、取引や事象が発生した時点で計上する「発生主義」という考え方で計上されます。上の例の場合、6月に支給する賞与は、12月~5月の成績や勤務に対して支払うものであるため、12月~3月に「発生」した額を費用として計上することになります。

この発生主義の考え方に則って、費用とその発生期間を一致させるために、賞与引当金が必要なのです。

賞与引当金の仕訳例について

賞与引当金の仕訳例について

決算月が3月で、6月と12月の年2回賞与が支給され、6月分の支給対象期間は12月~5月、12月分の支給対象期間は6月~11月の企業のケースを考えます。

ある年(x1年とします)の12月に支給対象期間が始まり、翌年(x2年とします)6月の賞与の支給予定額は1,200万円、同年12月賞与の支給予定額は2,000万円です。

x2年6月の賞与について、按分すると1ヵ月200万円となるため、x2年3月末時点で4ヵ月分の800万円を以下の仕訳で計上します。

期末時点(x2年3月 6月賞与の引当金)

借方科目借方金額貸方科目貸方金額
賞与引当金繰入額800賞与引当金800

x2年の6月に賞与が支給された場合、実際の支給額が1,200万円より多いか少ないかで、仕訳が変わってきます。

6月賞与支給時点(x2年6月)

1. 実際の支給額が1,400万円の場合

借方科目借方金額貸方科目貸方金額
賞与引当金800現預金1,400
賞与600

引き当てていた金額より多い部分は「賞与」などの費用として費用計上します。

2. 実際の支給額が600万円の場合

借方科目借方金額貸方科目貸方金額
賞与引当金800現預金600
賞与引当金戻入益200

引き当てていた金額より少ない部分は「賞与引当金戻入益」として販売費および一般管理費や営業外収益などに計上します。

12月賞与は、支給対象期間がx2年6月~11月です。当期中の期間に対応する賞与を、当期中に支給するものであるため引当金を計上せず、仕訳例は以下の通りです。

12月賞与支給時点(x2年12月)

借方科目借方金額貸方科目貸方金額
賞与2,000現預金2,000

実際の支給額が2,000万円から変わっても、金額以外の仕訳は変わりません。

賞与引当金に関する注意点

賞与引当金に関する注意点

賞与引当金を計上する場合、税務やその他のルール上、気を付けておくべき点があります。特に税務上の処理を誤ると追徴課税の対象になるおそれがあるため、正しく理解しておきましょう。

ここでは、賞与引当金に関する注意点について解説します。

損金算入ができない

貸倒引当金など、見積りにより計上された引当金は、原則税務上の損金(≒税務上の費用)として認められません。税務上の損金は債務確定主義に基づき、事業終了年度までに債務が確定したものしか損金に算入できないルールがあります。

引当金はあくまで見積項目であり、債務が発生する確率が高くとも確定していません。そのため、税務上は基本的には引当金の損金算入は認められません。

会計で賞与引当金を計上している場合、法人税の申告においては賞与引当金繰入額を加算調整(税務上の所得を増やす調整)し、支給時の損金になるよう調整する必要があります。税務調査などで賞与引当金繰入額を加算調整していないことが発覚した場合、追徴課税の対象となるおそれがあるため注意が必要です。

仕訳の際は毎月計上する

毎月の経営分析を行う際、正確な業績と財務状況を把握するためにも賞与引当金を毎月計上する必要があります。賞与引当金を計上することで、より各月の実態に対応した人件費を把握できます。

賞与引当金は、必ず毎月計上しなければいけないルールはありません。しかし、支給対象期間の経過に伴い計上して業績と財務実態を正しく反映させるという目的を踏まえ、毎月計上するのが理想的です。

保険料も考慮して計算する

賞与にも社会保険料が発生します。そのため、賞与引当金の仕訳をする際は社会保険料を考慮する必要があります。

一般的には、社会保険料の会社負担分について未払費用を計上します。

賞与にかかる社会保険料は、賞与額から1,000円未満を切り捨てた額である「標準賞与額」に保険料率を乗じて算出します。保険料率は毎年改定されるため、計算の都度適用される料率を確認しましょう。

賞与引当金の仕訳をする際は、全体で以下の仕訳をする必要があります。

借方科目貸方科目
賞与引当金繰入額賞与引当金
法定福利費未払費用

賞与支給時には、支給日から5日以内に「被保険者賞与支払届」によって支給額等を日本年金機構へ届け出る事務手続きが必要な点も把握しておきましょう。

まとめ

賞与引当金とは?仕訳例や損金算入の可否、税務上の注意点を解説

賞与は、支払いのタイミングで費用計上するだけでは正しい業績等を把握できません。支給対象期間が経過するごとに費用が発生するという考えに基づき、賞与に対する引当金を毎月計上することで、業績や財務面でより適切な状態を反映できます。

賞与引当金は税務上の損金に算入できないため、中小企業では計上していないこともあります。

必ず計上しなければならないというルールはありませんが、より正確に企業の業績を把握するため、賞与引当金を計上しましょう。毎月の経営分析の精度を上げることにも、賞与引当金の計上は役立ちます。

また、賞与引当金を計上した際には、法人税では損金算入ができないことを踏まえ、加算調整を忘れずに行いましょう。

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