消費税の「課税事業者」とはどういう事業者か解説しています。「免税事業者」との違いや課税事業者に該当する要件、消費税の計算方法やインボイス制度の影響、8割控除などについても紹介しています。課税事業者について調べている方は参考にしてください。
目次
- 消費税の課税事業者とは
- 課税事業者と免税事業者の違い
- 課税事業者に該当する主な要件
- 基準期間における課税売上高が1,000万円超
- 特定期間における課税売上高が1,000万円超、なおかつ特定期間における給与支払額が1,000万円超
- 消費税課税事業者選択届出書を提出する
- 資本金1,000万円以上の新規設立法人
- 課税事業者の消費税の計算方法
- 一般課税方式(原則課税)
- 簡易課税方式
- インボイスによる課税事業者への影響
- インボイス(適格請求書)を発行するために登録が必要
- 免税事業者との取引は「仕入税額控除」が適用できない
- インボイス(適格請求書)に対応した経理システムの導入
- まとめ
消費税の課税事業者とは
消費税の課税事業者とは、消費税の納付義務がある法人や個人事業主を指します。基準期間の課税売上高が一定額超であることなど、判定基準に該当した年から消費税の課税事業者となり、消費税の申告と納付をする義務が生じます。
商品やサービスを販売して受け取った金額には消費税分が含まれており、消費税相当額を一時的に預かっている状態です。一方で、商品の仕入や経費として支払った金額にも消費税分が含まれており、預かった消費税と支払った消費税の差額を納付します。預かった消費税より支払った消費税の方が多ければ、差額が還付されます。
消費税の確定申告と納付の期限は、法人の場合は事業年度終了の日の翌日から2ヵ月以内、個人事業主の場合は翌年の3月31日までとなり、申告書類の提出先は納税地を所轄する税務署です。
納税地を所轄する税務署とは、国内に住所を有する個人事業主の場合は自身の住所地、内国法人の場合は本店または主たる事務所の所在地の住所を所轄する税務署のことです。
税務署の所轄については、国税庁の公式サイトで調べられます。
課税事業者と免税事業者の違い
免税事業者とは、課税事業者に該当する要件に当てはまらず、かつ、自主的に課税事業者になることを選択していない事業者が該当します。新たに設立された法人は、原則として2年間納税義務が免除されます。
免税事業者は消費税の申告・納付の義務がありません。
免税事業者が課税事業者となることを選択する場合、納税地を所轄する税務署に原則として課税期間の初日の前日までに「消費税課税事業者選択届出書」を提出する必要があります。課税事業者の該当要件に当てはまらなくとも、自発的に消費税課税事業者選択届出書を提出することで課税事業者になれます。
課税期間とは、消費税の確定申告の対象となる期間であり、個人であれば1月1日~12月31日、法人であれば該当する事業年度となります。例えば、3月決算法人であれば、4月1日~3月31日が課税期間となります。
ただし、届出書を提出すると、原則として課税事業者になった日から2年間は免税事業者に戻れません。
課税事業者から免税事業者になる場合は、免税事業者になろうとする課税期間の初日の前日までに「消費税課税事業者選択不適用届出書」を提出する必要があります。
課税事業者に該当する主な要件
課税事業者に該当する場合、期限内に消費税の申告・納付をしなければなりません。
課税事業者に該当するにもかかわらず期限内に申告・納付をしないと、ペナルティとして「無申告加算税」「延滞税」という税金が追加されるため、忘れずに申告・納付を行いましょう。
課税事業者に該当する要件は複数あり、いずれか1つでも該当すると課税事業者となるため、それぞれの要件を把握して該当の有無を確認する必要があります。
ここでは、それぞれの要件について解説していきます。
基準期間における課税売上高が1,000万円超
基準期間とは、個人事業主についてはその年の前々年、法人については原則としてその事業年度の前々事業年度をいいます。言い換えると、個人の場合は2年前、法人の場合は2事業年度前の課税売上高が1,000万円を超えていると、消費税の課税事業者に該当します。
課税売上高とは、消費税が課税される取引の売上金額から、その取引の返品、売上値引、売上割戻金額を除いた金額です。
課税される売上は、国内で事業として行われる取引であり、海外への輸出売上は消費税が免除されます。これは、消費税は外国で消費されるものには課税しないという考えに基づくものです(免税)。
また、国内で事業として行われる取引であっても、取引の性格や社会政策的配慮から、消費税がかからない取引もあります(非課税)。非課税とされる取引は以下の通りです。
- 土地の譲渡、貸付け(一時的なものを除く)など
- 有価証券、支払手段の譲渡など
- 利子、保証料、保険料など
- 特定の場所で行う郵便切手、印紙などの譲渡
- 商品券、プリペイドカードなどの譲渡
- 住民票、戸籍抄本等の行政手数料など
- 外国為替など
- 社会保険医療など
- 介護保険サービス、社会福祉事業など
- お産費用など
- 埋葬料、火葬料
- 一定の身体障害者用物品の譲渡、貸付けなど
- 一定の学校の授業料、入学金、入学検定料、施設設備費など
- 教科用図書の譲渡
- 住宅の貸付け(一時的なものを除く)
課税事業者に該当していることを見落とさないように、基準期間の消費税を除いた課税売上高が1,000万円を超えていないかどうかは、毎期チェックが必要です。
特定期間における課税売上高が1,000万円超、なおかつ特定期間における給与支払額が1,000万円超
課税事業者に該当する要件として、特定期間における課税売上高および給与支払額の基準があります。
特定期間とは、個人事業主の場合はその年の前年1月1日から6月30日までの期間、法人の場合は原則としてその事業年度の前事業年度開始の日以後6ヵ月の期間です。
特定期間において、課税売上高が1,000万円を超え、なおかつ特定期間中に支払った給与等の金額が1,000万円を超えていると、課税事業者に該当します。
消費税課税事業者選択届出書を提出する
課税事業者となる要件を満たしていない免税事業者でも、消費税課税事業者選択届出書を提出すると、課税事業者となれます。
2023年10月にインボイス制度が開始され、取引先との関係などから、免税事業者であってもインボイスの発行事業者に登録する必要が出てきました。
免税事業者がインボイスの発行事業者に登録したい場合、課税事業者となるための「消費税課税事業者選択届出書」と、適格請求書発行事業者となるための「登録申請書」を、納税地を所轄する税務署長に提出する必要があります。
ただし、2023年10月1日から2029年9月30日まで日の属する課税期間中に登録事業者として登録を受ける場合、免税事業者は、消費税課税事業者選択届出書を提出する必要はなく、登録申請書のみで課税事業者となる経過措置が設けられています。
届出書を提出し免税事業者から課税事業者になると、課税事業者となった日から2年間は免税事業者に戻れない点に注意が必要です。
資本金1,000万円以上の新規設立法人
新規設立法人については、設立1期目および2期目は原則として消費税の納税義務が免除されます。
ただし例外として、その事業年度開始の日における資本金または出資の金額が1,000万円以上である場合(新設法人)は納税義務が免除されず、課税事業者となります。
資本または出資の金額が1,000万円未満の場合であっても、一定の要件を満たせば課税事業者となる場合がありますので、法人を新規設立する際には、会計士、税理士、弁護士等の専門家に相談してください。
課税事業者の消費税の計算方法
課税事業者の消費税の計算方法は、一般課税方式(原則課税)と簡易課税方式があります。
簡易課税方式を適用にするには条件があり、基準期間の課税売上高が5,000万円以下であること、およびその課税期間の初日の前日までに「消費税簡易課税制度選択届出書」を提出することが必要です。
ただし、新規開業した事業者は、開業した課税期間の末日までに届出書を選択すれば、その課税期間から簡易課税制度の適用を受けられます。
いったん簡易課税方式を選択すると、その課税期間の初日から2年を経過する課税期間の初日以後でなければ一般課税方式に変更できません。
簡易課税方式から一般課税方式に変更したい場合は、「消費税簡易課税制度選択不適用届出書」を、対象となる課税期間の初日の前日までに提出する必要があります。
消費税の計算を間違えて実際に納付する税額より少なく申告した場合、ペナルティとして「過少申告加算税」と、納めていなかった期間に応じて「延滞税」が追加されてしまいます。ペナルティを受けないためにも、消費税の計算は適切に行いましょう。
ここでは、一般課税方式と簡易課税方式の計算方法を解説します。
一般課税方式(原則課税)
一般課税方式では、課税売上高にかかる消費税から、課税仕入れにかかった消費税を控除した残額を納付する計算となります。課税仕入れにかかった消費税を差し引く計算を「仕入税額控除」と呼びます。
課税売上高には、売上以外の雑収入や営業外収益なども該当します。
また、課税仕入れに該当しないものとして、給与や役員報酬、生命保険などの保険料、海外での旅費交通費、土地の購入や賃借料、租税公課、減価償却費などが挙げられます。
計算にあたっては、課税売上高にかかる消費税から仕入税額控除分を差し引いて納付する消費税を算定します。ただし、全売上のうち課税売上割合が95%未満、または課税期間の課税売上高が5億円を超える場合には、仕入や経費に対する消費税の全額を仕入税額控除できず、さらに詳細な計算が必要となります。
課税売上割合とは、課税期間中の税抜の課税売上高を、税抜の総売上高で割った割合のことです。
課税売上割合95%未満、または、課税売上高が5億円超のいずれかに該当する場合の計算方法は、「個別対応方式」と「一括比例配分方式」の2つがあり、どちらかを選んで計算します。
個別対応方式では、仕入にかかる消費税を3つに分けます。
A. 課税売上にのみ対応するもの
B. 課税売上、非課税売上に共通するもの
C. 非課税売上にのみ対応するもの
そして、仕入税額控除を適用する金額として、以下の式を使用します。
仕入控除税額 = A + (B × 課税売上割合)
一括比例配分方式では、上記A~Cのように仕入にかかる消費税を分けず、以下の式で計算します。
仕入控除税額 = 課税仕入れにかかる消費税額 × 課税売上割合
簡易課税方式
簡易課税方式では、課税売上高にかかる消費税から課税売上高にかかる消費税額にみなし仕入率を乗じて仕入れに係る消費税額として計算し、控除した残額を納付する計算となります。
みなし仕入率は発生した収入の事業区分によって変わり、下表の通りです。
事業区分 | みなし仕入率 |
---|---|
第1種事業(卸売業) | 90% |
第2種事業(小売業、農業・林業・漁業(飲食料品の譲渡に係る事業に限る)) | 80% |
第3種事業(農業・林業・漁業(飲食料品の譲渡に係る事業を除く)、鉱業、建設業、製造業、電気業、ガス業、熱供給業および水道業) | 70% |
第4種事業(第1種事業、第2種事業、第3種事業、第5種事業および第6種事業以外の事業) | 60% |
第5種事業(運輸通信業、金融業および保険業、サービス業(飲食店業に該当するものを除く)) | 50% |
第6種事業(不動産業) | 40% |
収入が2種類以上の事業から発生している場合は、事業ごとに収入を分け、それぞれのみなし仕入率を乗じて算出します。
ただし、2つ以上の事業を行っており、そのうちの1つが課税対象となる売上高の75%以上を占める場合、その事業のみなし仕入率を使って仕入税額控除全体の金額を計算できます。
また、3種類以上の事業を行っており、そのうち2つの事業区分で課税対象となる売上高の75%以上を占める場合、その2つの事業については、みなし税率が高い方の事業は該当する税率をそのまま使用します。それ以外の事業の課税売上高は、その2つの事業のうち、税率が低い方の事業のみなし税率を使って仕入税額控除を計算できます。
例えば、第1種事業の売上が50、第2種事業の売上が30、それ以外の事業の売上が20あったとします。この場合、仕入税額控除は以下の計算となります。
仕入控除税額 = 50 × 90% + (30 + 20) × 80%
インボイスによる課税事業者への影響
2023年10月に開始されたインボイス制度により、消費税の仕入税額控除に関するルールが変わりました。
仕入税額控除をするには、インボイス(適格請求書)の様式に則った領収書などを受領し、7年間保存する必要があります。この条件を満たしていない仕入や経費に関しては、仕入税額控除ができなくなりました。
そのため、取引の相手方が発行する請求書や領収書がインボイスの様式を満たしているかの確認が必要です。なお、適格請求書の様式を満たしているのであれば、請求書や領収書、レシートの形でも問題ありません。
具体的には、従来の区分記載の請求書の項目に加え、以下の情報が必要となります。
- Tから始まる13桁のインボイス登録番号
- 税率ごとに区分して合計した対価の額および適用税率
- 税率ごとに区分した消費税額等
ここでは、インボイス制度が開始されたことによる法人および個人事業主への影響を解説します。
インボイス(適格請求書)を発行するために登録が必要
適格請求書を発行できるのは「適格請求書発行事業者」に限られます。適格請求書発行事業者になるには、納税地を所轄する税務署長に対して登録申請書の提出が必要です。
適格請求書の発行事業者には、消費税の課税事業者しかなれません。免税事業者は、消費税課税事業者選択届出書を税務署に提出して課税事業者になってから、インボイス登録の手続きを進める必要があります。
ただし、この規定には経過措置があり、2023年10月1日から2029年9月30日までの日の属する課税期間中にインボイス発行事業者の登録申請手続を行うと、消費税課税事業者選択届出書を提出しなくとも登録日から課税事業者になれます。
適格請求書は発行側にも7年間の保存義務があるため、発行した請求書の書類やデータを廃棄しないよう注意しましょう。
なお、適格請求書の発行事業者にならないことも可能です。ただしその場合、適格請求書が発行できないため、取引先は仕入税額控除ができなくなってしまいます。取引先にとって免税事業者との取引は消費税の負担が増すため、今後の取引を見直される可能性も考慮して、適格請求書発行事業者への登録を検討しましょう。
免税事業者との取引は「仕入税額控除」が適用できない
仕入税額控除をするには、適格請求書の発行を受ける必要があるため、インボイスの発行事業者になれない免税事業者との取引では仕入税額控除ができません。
ここでは、免税事業者との取引に関する経過措置について解説します。
8割控除について
免税事業者との取引で適格請求書を発行してもらえなくても、一定期間までは該当する仕入税額のうち一部を仕入税額控除できます。
該当期間および仕入税額控除できる割合は、以下の通りです。
期 間 | 割 合 |
---|---|
2023年10月1日から2026年9月30日まで | 仕入税額相当額の80% |
2026年10月1日から2029年9月30日まで | 仕入税額相当額の50% |
(参考)2割特例について
インボイス制度を機に免税事業者から課税事業者になった場合、「2割特例」という制度を適用できます。
これは業種にかかわらず、売上税額の一律2割を納付すればいいという制度で、2023年10月1日から2026年9月30日の属する課税期間まで適用できます。課税事業者になったばかりの事業者が仕入税額控除の計算をしなくて済むため、事務負担が軽減されます。
ただし、2割特例は、あくまでインボイスを機に課税事業者になったケースのみが対象です。基準期間における課税売上高が1,000万円超や、資本金1,000万円超などするなど、他の理由で課税事業者に該当する場合は、2割特例を適用できません。
インボイス(適格請求書)に対応した経理システムの導入
仕入税額控除の計算をするには、免税事業者との取引に対する8割控除や2割特例に対応する経理ソフトが必要です。
市販の経理ソフトであればおおよそ対応していますが、自社開発ソフトや大幅にカスタマイズしたソフトであれば、大規模なシステム改修を求められる可能性があります。
また、会計データを入力する際に、適格請求書の確認体制や、適格請求書の保存に関するルール作成が必須です。
経理システムの導入、見直し・改修には多くの時間を要するため、必要と判断した際は速やかに会計士、税理士、弁護士等の専門家に相談してください。
まとめ
事業者が納付する消費税については、免税事業者であっても課税事業者に該当する年度がないか見落とさないよう注意が必要です。基準期間や特定期間の売上高、支払った給与などを正しく把握し、課税事業者に該当していないか毎期確認しましょう。
また、一般課税方式を適用する際に税率を間違ったり、簡易課税方式で事業区分を間違ったりした場合、追徴課税の対象となる場合があります。
事業が小規模なうちは免税事業者でいることも手段の1つですが、事業規模の拡大に伴い、消費税の課税事業者になることは避けられないため、課税事業者となる条件や消費税の計算方法を正確に把握できる環境を整えておきましょう。