消費税還付とは?仕訳方法やいつ受け取れるか、還付対象となる条件やケースを紹介

消費税還付とは?仕訳方法やいつ受け取れるか、還付対象となる条件やケースを紹介

消費税の還付とはどういうものかを解説しています。還付の対象となる条件やケース、還付があった場合いつ頃受け取れるのかや受取方法、還付を受けた際の仕訳方法などについても紹介しています。消費税の還付について調べている方は参考にしてください。

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消費税還付とは

消費税還付とは

消費税還付とは、支払った消費税が受け取った消費税を上回った場合、または中間申告で消費税を納付し過ぎた場合に還付を受けられる制度です。

消費税還付で受け取れるのは、消費税額を控除税額が上回る「控除不足還付税額」と、納めるべき消費税額よりも中間申告で納めた金額が多い「中間納付還付税額」の2つがあります。

この記事では、消費税額が控除税額を上回ったケースの消費税還付について解説します。

消費税還付の対象となる条件

消費税還付の対象となる条件

消費税還付の対象は、そもそも消費税の納付義務がある課税事業者です。さらに、原則課税により消費税を算出している事業者に限られます。

ここでは課税事業者と原則課税について解説します。

課税事業者とは

課税事業者とは、消費税の納付義務がある事業者を指します。以下のいずれかに該当する事業者は、消費税の課税事業者になります。

  1. 基準期間の課税売上高が1,000万円を超える事業者
  2. 消費税課税事業者選択届出書を提出した事業者
  3. 適格請求書発行事業者の登録を受けている事業者
  4. 基準期間がない法人のうち、その事業年度の開始の日における資本金の額または出資の金額が1,000万円以上の法人
  5. 特定期間の課税売上高が1,000万円を超える事業者

「1」の基準期間とは、個人事業主の場合は前々年、法人の場合は前々事業年度を指します。

「4」について、事業年度開始の日の資本金の額または出資の額は1,000万円未満でも、課税売上高が5億円を超える事業者に直接・間接を問わず株式の50%超を保有されている法人は課税事業者に該当します。

「5」の特定期間とは、個人事業主は前年の1月1日から6月30日、法人は前事業年度開始の日以後6ヵ月の期間です。

原則課税とは

原則課税とは消費税の計算方法の1つで、課税売上高にかかる消費税から、課税仕入にかかる消費税を引くことで納付すべき消費税を算出する方法です。

消費税額 = 課税売上高にかかる消費税 – 課税仕入にかかる消費税

消費税の計算方法には、他に簡易課税があります。

簡易課税とは、課税売上高にかかる消費税に事業区分ごとに定められた「みなし仕入率」をかけた額を、課税売上高にかかる消費税額から引くことで納付すべき消費税を算出する方法です。

インボイス制度の2割特例

原則課税では、インボイス制度の経過措置として「2割特例」があります。

2割特例は、インボイス発行事業者になるために免税事業者から課税事業者に切り替えた場合に適用でき、課税売上高にかかる消費税に20%をかけた金額が納付すべき消費税額となります。

2割特例は、2026年9月30日までの日の属する各課税期間まで適用できます。2割特例の場合も、課税売上高にかかる消費税を控除額が上回ることはないため、控除不足による還付税額は発生しません。

消費税還付の対象となるケース

消費税還付の対象となるケース

控除不足による消費税の還付が発生するのは、課税売上高にかかる消費税よりも、課税仕入にかかる消費税額が上回った場合です。

課税仕入といっても、仕入のみが対象となるわけではなく、事業上の経費や固定資産の取得費用も対象です。そのため、赤字の事業者や金額の大きい固定資産を購入した年度は、どうしても消費税還付が発生しやすくなります。

また、売上のうち課税売上高に該当しない売上の割合が多い場合も、消費税還付が発生しやすいといえます。

ここではそれぞれのケースについて解説します。

大幅な赤字があった場合

大幅な赤字になった事業年度は、課税売上高にかかる消費税よりも課税仕入にかかる消費税が多くなりやすく、還付が発生するケースの1つです。

もっとも、消費税の課税対象でない費用は控除の計算に含めないため、赤字だからといって必ず消費税還付が受けられるとは限りません。

例えば、役員報酬や従業員への給与は消費税の課税対象ではないため、これらの人件費増加による赤字は消費税還付に結びつきません。赤字・黒字ではなく、課税売上高にかかる消費税と、課税仕入にかかる消費税を比較することで、還付が発生するかが、より正確に判断できます。

大規模な設備投資を行った場合

大規模な設備投資とは、金額の大きい機械の購入や、内装工事を伴う新規店舗の出店、社用車の購入などが該当します。

消費税のルールでは、原則として資産の引き渡しやサービスの提供時に、全額に消費税がかかると判定します。

例えば1,000万円の機械を60回の分割払いで購入したとしても、機械の引き渡し時点で1,000万円にかかる消費税全額が控除対象となります。

消費税のルール上、大規模な設備投資をした年度には多くの控除額が発生するため、消費税還付を受けやすいといえます。

輸出業などで売上の多くが免税取引の場合

消費税のルールでは、売上のすべてが課税対象ではなく、課税売上高に該当するのは以下の4つの要件をすべて満たす場合に限られます。

  1. 国内において行うもの(国内取引)であること。
  2. 事業者が事業として行うものであること。
  3. 対価を得て行うものであること。
  4. 資産の譲渡、資産の貸付け、役務の提供であること。

輸出業は4要件の1つ目「国内取引であること」に該当しない「免税売上」となるため、消費税の計算に含まれません。

輸出業で免税売上の割合が多い場合は、課税売上高にかかる消費税が少なくなり、一方で課税仕入にかかる消費税の方が多くなるため、消費税が還付されるケースが多くなります。

例えば輸出業で免税売上の多い業種としては、トヨタ自動車や本田技研工業などの自動車産業、デンソーや村田製作所などの電子部品メーカーなどが挙げられます。

消費税還付はいつ受け取れるのか

消費税還付はいつ受け取れるのか

還付をいつ受けられるのか、決まったタイミングはないものの、申告書の提出から1ヵ月~2ヵ月程度が一般的です。

電子申告を利用すると3週間程度で還付を受けられるため、急いで還付して欲しい場合は利用するとよいでしょう。所得税の確定申告時期の2月~3月は税務署が対応に追われるため、還付まで時間がかかりやすいです。

また、近年、取引の内容を偽るなどの手法で消費税の不正還付を受ける事例が多発していることから、国税庁は消費税還付の審査を厳格化しています。

不正がなくても、申告内容に不明瞭な点があると、還付金の支払いが保留され、受け取るまでに時間がかかることがあるので留意してください。
なお、還付までに時間がかかった場合、還付金が生じた事由に応じた日から還付の支出を決定した日までの日数に応じて、還付金に追加して「還付加算金」を受け取れます。

出典:国税庁公式サイト「【税金の還付】」
出典:国税庁公式サイト「消費税還付申告に関する国税当局の対応について」

消費税還付の受取方法

消費税還付の受取方法

消費税還付を受けるには、還付の申告書および「消費税の還付申告に関する明細書」を作成して、消費税の申告期限内に税務署長に提出する必要があります。還付の申告書は通常の消費税申告書と同じものを使い、必要に応じて付表も作成します。

消費税の申告期限は個人事業主では翌年3月31日まで、法人は事業年度終了の日の翌日から2ヵ月以内です。

還付金の受け取り方は、指定の預貯金口座への振り込みによる方法と、ゆうちょ銀行または郵便局に出向いて受け取る方法の2種類があります。

預貯金口座への振り込みを希望する場合は、消費税の確定申告書の「還付される税金の受取場所」欄に指定する口座を記載します。

なお、還付金の振り込みに指定できる預貯金口座は、申告者本人名義の口座に限られ、店名や事務所などの名称(屋号)が含まれていると認められないことがありますので注意してください。
納税管理人を指定している場合は、その納税管理人名義の預貯金口座になります。

消費税還付を受けた際の仕訳方法

消費税還付を受けた際の仕訳方法

消費税の計理処理として、「税抜経理方式」と「税込経理方式」のどちらを使用してもよいことになっていますが、消費税還付を受けた際の仕訳方法がそれぞれ異なります。

税抜経理方式とは、売上や仕入の金額に消費税分を含めない経理処理の方法で、例えば下記のように仕訳をします。

借方科目借方金額貸方科目貸方金額

現預金

165

売上150
仮受消費税15
借方科目借方金額貸方科目貸方金額
仕入100現預金110
仮払消費税10

一方、税込経理方式では売上や仕入の金額に消費税を含めて経理処理を行います。

借方科目借方金額貸方科目貸方金額
現預金

165

売上

165

借方科目借方金額貸方科目貸方金額
仕入

110

現預金

110

どちらの経理方式を選んでも最終的な消費税額は基本的に変わりません。

消費税還付を受けるにあたっては、決算時と還付金の受取時で2回仕訳処理を行います。税抜経理方式と税込経理方式それぞれの仕訳の方法を解説します。

税抜経理方式

税抜経理方式では、決算で還付金が発生すると分かった時点で「未収還付金」を計上します。

借方科目借方金額貸方科目貸方金額
仮受消費税20仮払消費税35
未収消費税15

そして、還付金を受け取った時点で未収消費税を取崩す処理を行います。

借方科目借方金額貸方科目貸方金額
現預金

15

未収消費税

15

税抜経理方式では、還付金の発生を認識した時点および受取時点のいずれにおいても、還付金分の収益は発生しません。

税込経理方式

税込経理方式では、原則として還付の更正または決定があった日の属する事業年度に経理処理を行い、還付額は雑収入などの科目で営業外収益に計上します。

借方科目借方金額貸方科目貸方金額
現預金

15

雑収入

15

それ以外に、税抜経理方式と同様、決算で還付金が発生すると分かったタイミングで未収消費税を計上して、計上した事業年度の益金に加えることもできます。

借方科目借方金額貸方科目貸方金額
未収消費税

15

雑収入

15

こちらの経理処理を選択した場合は、還付金の受取時に未収消費税を取り崩す処理をします。

借方科目借方金額貸方科目貸方金額
現預金

15

未収消費税

15

まとめ

消費税還付とは?仕訳方法やいつ受け取れるか、還付対象となる条件やケースを紹介

受け取った消費税より支払った消費税が多い場合、または中間納付の額が確定申告で算出した消費税より大きかった場合には、消費税の還付が受けられます。

還付を受けるには、消費税の申告期限までに申告書と付表、および「消費税の還付申告に関する明細書」を提出する必要があります。申告しないと還付を受けられないため、還付金を受け取りたい場合は必ず還付申告しましょう。

還付を受けられるのは課税事業者で、消費税の納税が免除される免税事業者は還付を受けられません。還付金の受け取り時期について、通常は申告書の提出から1ヵ月~2ヵ月程度、電子申告を利用すると3週間程度が一般的です。

ただし、所得税の確定申告時期である2月~3月頃の提出だとそれよりも受け取りまでの時期が延びる場合もあります。また、近年は還付申告の審査が厳格化しています。不正がなくても、還付金を受け取るまでに時間がかかる可能性を考慮しましょう。

監修者

  • 井上 智博

    株式会社AGSコンサルティング
    総合コンサルティング部門長 兼 事業承継部門長・税理士

    井上 智博

    2004年にAGSグループ入社、2006年に税理士登録。法人税務、M&A業務を経て、事業承継業務に従事。年間100件超の事業承継案件に関与。