消費税の「免税事業者」とはどういう事業者か解説しています。「課税事業者」との違いや免税事業者に該当する要件、消費税を請求してもいいのかやインボイス制度の影響、2割特例などについても紹介しています。免税事業者について調べている方は参考にしてください。
目次
- 消費税の免税事業者とは
- 消費税は請求しても問題ないのか?
- 免税事業者と課税事業者の違い
- 免税事業者の主な要件
- インボイス制度の開始による免税事業者への影響
- インボイス(適格請求書)を発行できない
- 取引先が「仕入税額控除」できない
- 取引先に免税事業者や一般消費者が多い場合は影響が少ない
- まとめ
消費税の免税事業者とは
消費税の免税事業者とは、消費税の納税義務が免除されている事業者です。
そもそも事業者は、商品やサービスを販売した際に、商品代金に上乗せする形で消費税を受け取ります。消費税を受け取った事業者は、商品やサービスの購入者に代わって消費税を納めなければなりません。
一方で、仕入れの際やサービスを利用して代金を払うときには、事業者も消費税分を上乗せして支払っています。税務申告にあたっては、事業者は販売により受け取った消費税から、仕入れなどで支払った消費税を除いた分を納付しなければなりません。
免税事業者とは、この消費税の納付義務を免除されている事業者です。
消費税は請求しても問題ないのか?
免税事業者が、消費税相当額を請求しても問題ありません。
ただし、2023年10月に始まったインボイス制度の影響で、免税事業者の取引先に影響が生じるようになりました。インボイス制度では、「インボイス発行事業者」として登録したもののみが発行できる「適格請求書(インボイス)」がないと、仕入税額控除ができないためです。
仕入税額控除とは、仕入れやサービス利用時に支払った消費税相当額を、顧客や消費者などから受け取った消費税相当額から差し引くことを指します。
免税事業者はインボイス発行事業者になれないため、適格請求書を発行できません。免税事業者が消費税相当額を記載して取引先に請求しても、取引先は仕入税額控除ができないことになります。
国税庁のQ&Aをみると、免税事業者が「適格請求書であると誤認される恐れのある書類」を提供することは禁止されており、違反した場合は罰則として1年以下の懲役または50万円以下の罰金が科されます。
適格請求書であると誤認される恐れのある書類とは、適格請求書に記載されるTと13桁の数字に類似した英数字や、自身のものではないインボイスの登録番号を自らの登録番号として記載した書類などが挙げられます。
消費税相当額を記載した請求書などを発行する際は、適格請求書であると誤認されないように注意してください。
免税事業者が消費税相当額の請求をした場合、消費税を納付しないわけですから、あくまで消費税分の料金を、価格の一部として割増でもらっている形になります。
商品やサービスを買う側からすれば、消費税分の料金を割増で支払うのであれば、仕入税額控除ができる課税事業者と取引をしたいと考えるのが自然です。そのため、インボイス制度の導入をきっかけに、免税事業者が取引から廃除される可能性が指摘されています。
出典:国税庁ホームページ「(免税事業者の交付する請求書等)」
免税事業者と課税事業者の違い
課税事業者とは、消費税の申告納付をしなければならない事業者です。
法人の場合、2事業年度前の課税売上高が1,000万円超、あるいは前事業年度開始から6ヵ月の課税売上高が1,000万円超かつその期間中に支払った給与等の金額が1,000万円超の事業者は課税事業者に該当します。
これらの要件に該当しない新設法人であっても、事業年度開始の日の資本金の額または出資の額が1,000万円以上の法人や、「特定新規設立法人」に該当する法人は課税事業者になりますので注意してください。
特定新規設立法人とは、事業年度開始の日の資本金の額または出資の額が1,000万円未満で、課税売上高が5億円を超える事業者に直接・間接を問わず株式の50%超を保有されている法人です。
なお、課税事業者の要件を満たしていなくても、「消費税課税事業者選択届出手続」を行えば課税事業者になれます。
課税事業者は期限までに消費税の申告および納税をする義務があります。申告納付の期限は、個人事業主は翌年の3月31日まで、法人は課税期間の終了の日から原則2ヵ月以内で、納税地を所轄する税務署長に消費税の確定申告書を提出しなければなりません。
免税事業者の主な要件
免税事業者は、以下の1~4の要件をすべて満たした事業者が該当します。
- 基準期間の課税売上高1,000万円以下
- 特定期間の課税売上高または給与等支払額の合計が1,000万円以下
- 資本の額または出資の額が1,000万円未満(法人設立から2年以内の場合)
- 特定新規設立法人に該当しない
免税事業者に該当する要件の一つに、基準期間の課税売上高が1,000万円以下であることが挙げられます。
基準期間とは、個人事業主であれば前々年、法人であれば前々事業年度を指します。新規設立した事業者は基準期間が存在しないため基本的には免税事業者となりますが、事業年度開始の日の資本の額または出資の額が1,000万円以上の法人は納税義務が免除されません。
基準期間の課税売上高が1,000万円以下であっても、特定期間の課税売上高が1,000万円を超えている場合は、消費税の課税事業者です。特定期間とは、個人事業主であれば前年の1月1日から6月30日、法人であれば前事業年度の期首から6ヵ月間を指します。
なお、特定期間の課税売上高が1,000万円を超えていても、給与等支払額の合計額が1,000万円以下であれば免税事業者に該当します。
インボイス制度の開始による免税事業者への影響
2023年10月に開始されたインボイス制度により、消費税の仕入税額控除のルールが変わりました。
ルールが変わったことで免税事業者へ影響が出ており、自ら課税事業者になる選択をした事業者もいます。
インボイス制度による免税事業者への影響について解説します。
インボイス(適格請求書)を発行できない
インボイス(適格請求書)の交付ができるのは「インボイス(適格請求書)発行事業者」のみです。
インボイスには、従来の区分記載請求書保存方式における請求書等の記載事項に加え、インボイス発行事業者の登録番号や、価格を税率ごとに区分して合計した金額および適用税率、税率ごとに区分した消費税額などを記載します。
インボイス発行事業者として登録できるのは課税事業者のみのため、免税事業者はインボイス発行事業者になれません。
取引先が「仕入税額控除」できない
インボイス制度では、インボイスの発行がない取引は仕入税額控除ができません。
仕入税額控除のルールが変更になったことにより、免税事業者から商品を仕入れたりサービスの提供を受けた場合、消費税分を上乗せで支払ったにもかかわらず仕入税額控除ができなくなりました。取引先の事業者は、支払った消費税の分だけ多く資金が流出することになります。
取引相手が課税事業者の場合、仕入税額控除ができないことによる消費税分の資金流出を避けるため、免税事業者との取引を避ける可能性があります。
免税事業者のままでいると取引対象から外される可能性を考慮して、課税事業者になる選択をする事業者も出てきました。
インボイス制度を機に免税事業者から課税事業者になった小規模事業者には、「2割特例」という負担軽減措置が設けられています。
2割特例について
2割特例とは、売上に係る消費税額からその8割を差し引いた額を納付税額としてよいという経過措置です。仕入税額控除の計算が不要になる分だけ消費税額を算出する事務負担が軽くなります。
事前の届け出は不要で、2026年9月30日の属する課税期間まで適用できます。
ただし、2割特例の対象となるのは、あくまでインボイス制度を機に課税事業者となった事業者のみです。基準期間の課税売上高が1,000万円を超えるなど、別の要因で課税事業者になった事業者は2割特例を適用できません。
【参考】80%控除(8割控除)について
免税事業者との取引では仕入税額控除の適用ができなくなってしまいましたが、下記の期間は経過措置として、仕入税額相当額の一部のみ仕入税額控除ができます。
- 2023年10月1日~2026年9月30日:仕入税額相当額の80%
- 2026年10月1日~2029年9月30日:仕入税額相当額の50%
免税事業者のままでも、2029年9月まで取引先は全額ではありませんが仕入税額控除ができます。ただ、すでにインボイス発行事業者ではない事業者とは取引しない方針の会社も一部出てきているため、先々まで考えて課税事業者になるかを考える必要があります。
【参考】課税事業者になったあと2年間は免税事業者に戻れない
課税事業者になった後でも、免税事業者となる要件を満たしていれば、免税事業者に戻る課税期間の初日の前日までに「消費税課税事業者選択不適用届出書」を提出して免税事業者に戻れます。
ただし、「消費税課税事業者選択届出書」を提出すると、課税事業者となった日から2年間は免税事業者に戻れない点に注意が必要です。
いったん課税事業者になる選択をしてしまうと、基準期間の課税売上高が1,000万円以下でも消費税の納付をしなければならないため、慎重に選択しなければなりません。
取引先に免税事業者や一般消費者が多い場合は影響が少ない
仕入税額控除ができないことで影響があるのは、消費税の納税義務がある課税事業者のみです。消費税の納税義務が免除される免税事業者や、納税義務の対象とならない一般消費者は、仕入税額控除ができなくても問題ありません。
取引先に免税事業者や一般消費者が多い場合は、仕入税額控除ができないからといって問題が起きにくいため取引を見直されるリスクは小さいでしょう。
例えば、一般消費者向けの小売店などが該当します。
まとめ
消費税の免税事業者は消費税の納付義務がないため、申告のための計算や納税の負担が軽減されます。
免税事業者でいるためには、基準期間の課税売上高が1,000万円以下など一定の要件を満たす必要があります。
これまで免税事業者であった事業者が、ある年に課税売上高1,000万円を超えたにもかかわらず、消費税の課税事業者になったことを失念して納付を忘れるケースは珍しくありません。免税事業者の基準を満たしているか、毎期の確認が必要です。
インボイス制度の開始により、免税事業者でいることで取引上不利になる可能性が出てきたため、今後課税事業者に切り替えるかどうか検討しましょう。