簡易課税制度とはどのような制度かについて解説しています。一般課税(本則課税)の違いや要件、選択した場合のメリット・デメリット(問題点)、消費税の計算方法や一般課税への切り替え方、インボイス制度との関係も紹介しています。簡易課税制度について調べている方は参考にしてください。
2024.09.04
簡易課税制度とはどのような制度かについて解説しています。一般課税(本則課税)の違いや要件、選択した場合のメリット・デメリット(問題点)、消費税の計算方法や一般課税への切り替え方、インボイス制度との関係も紹介しています。簡易課税制度について調べている方は参考にしてください。
2024.09.04
簡易課税制度とは、消費税の申告方法の1つです。
中小企業の事務負担を減らすための制度で、一定の要件を満たした企業が「消費税簡易課税制度選択届出書」を提出することで選択できます。
中小企業にとっては、「事務負担の簡略化」や「みなし仕入れ率」の適用による税負担軽減の可能性があるといった点が特徴です。
一般課税(本則課税)における消費税の計算にあたって、売上にかかる預かった消費税から、仕入や販管費などにかかる支払った消費税を控除した差額が納めるべき消費税額となります。売上と仕入などにかかる消費税を洗い出し、それぞれの消費税を個別に計算するのが原則的な計算方法です。
一方で、簡易課税においては売上にかかる消費税額に対し、売上の事業区分ごとに設定された「みなし仕入率」という一定割合を乗じた額を売上にかかる消費税から控除し、控除した後の差額が納めるべき消費税額となります。
一般課税(本則課税)と比べて、仕入にかかる税額を計算しなくてよいため、消費税算出の事務負担が削減できます。
簡易課税制度を選択できるのは、一定の要件を満たした企業に限られます。要件は3つあり、すべての要件を満たしていないと簡易課税制度を選択できません。
ここでは、それぞれの要件について説明します。
簡易課税制度を選択できる要件の1つとして、基準期間における課税売上高が5,000万円以下であるというものがあります。課税売上高とは消費税の課税対象になる収益であり、基準期間とは当該年度の2事業年度前の期間です。
例えば、2023年3月期の課税売上高が3,280万円だったとすると、2025年3月期は簡易課税制度の要件を満たします。
事業活動で発生した売上は基本的には課税売上高となりますが、例えば国外への売上や居住用マンションを貸し出すことによる賃貸料などは課税売上高になりません。
すべての売上を合計すると5,000万円を超えるが、課税売上高だけを集計すると5,000万円以下になるケースもあります。経理においては、課税対象となる売上を正しく計上することが必要です。
また、新規開業・設立時の1、2年目では、そもそも基準期間が存在しません。その場合、課税売上高以外の2つの要件を満たしていれば簡易課税制度を選択できます。ただし、1年目の課税売上高が5,000万円を超えてしまう場合は、2事業年度後に簡易課税制度を選択できなくなります。
3月を決算月にしているが、9月に新規設立したなど1年目の事業期間が12か月に満たない場合は、12か月に換算した金額で課税売上高の判定を行います。
簡易課税制度を選択するためには「消費税簡易課税制度選択届出書」を、適用を受ける課税期間の初日の前日までに所轄の税務署に提出する必要があります。
例えば、2025年4月1日から始まる事業年度であれば、2025年3月31日までに届出書を提出しなければなりません。
なお、新規設立したなど事業の初年度の場合は、初年度の課税期間の末日までに届出書を提出すれば簡易課税制度を選択できます。
調整対象固定資産とは、「棚卸資産以外の資産で、建物およびその附属設備、構築物、機械および装置、船舶、航空機、車両および運搬具、工具、器具および備品、鉱業権その他の資産で、一の取引単位の価額(その支払対価の額の110分の100に相当する金額)が100万円以上のもの」と定義されており、端的に言えば税抜単価100万円以上の固定資産が対象となります。
「消費税課税事業者選択届出書」を提出した事業者が、課税事業者となった課税期間の初日から2年以内に、国内において調整対象固定資産の取得をした場合、調整対象固定資産を取得した課税期間の初日から3年を経過する日の属する課税期間の初日の前日までは、簡易課税を選択できません。
例えば、課税事業者となった1年目に150万円の機械を買った場合、1年目から3年目は簡易課税事業者になれません。
大きな投資をした事業年度は、仕入にかかる消費税が多くなります。そのため、その事業年度に大きな還付を受けて、その後すぐ簡易課税を選択されてしまった場合、大きな投資をした成果に対する消費税が正しく納税されなくなってしまいます。調整対象固定資産の取得に関して条件を設けることで、こうした事態を避けています。
課税事業者となった課税期間から2年間については、固定資産の購入を慎重に行いましょう。
出典:国税庁ホームページ「No.6421 課税売上割合が著しく変動したときの調整」
簡易課税制度を選択するには、期限までに届出書を提出するなどの要件を満たす必要がありますが、消費税計算上のメリットもあります。
ここでは、簡易課税制度を選択した場合のメリットについて解説します。
原則の消費税計算では、売上と仕入それぞれの消費税を把握し、計算しなければなりません。
通常は会計システムなどに取引を記録する際、税率も一緒に入力します。入力やチェックには手間がかかるため、税率の入力漏れや、軽減税率8%の仕入を10%で入力するなど人為的なミスを避けるのは困難です。
簡易課税の場合であれば、売上の消費税とその事業区分のみに気を付けていればよいため、事務作業の負担を大幅に削減できます。
また、課税売上高5億円超または課税売上割合が95%未満の場合、該当する課税期間に控除できる仕入税額には制限がかかります。課税売上割合とは、課税期間中の課税売上高を総売上高で割った割合のことを指し、計算はすべて税抜金額で行います。
制限内の仕入税額を算定するためには、仕入れの内容によっては分けて計算作業をする必要があり、複雑で手間のかかる作業になります。課税売上割合が95%未満の場合においては、簡易課税制度を選択していると事務作業を簡略化でき、効率化が図れます。
簡易課税制度を選択した場合、みなし仕入率が設定されます。例えば、飲食店以外のサービス業であれば50%です。
売上にかかる消費税から引ける仕入税額控除が少ない場合、簡易課税制度を選択した方が納付する消費税額が軽減される場合があります。
例えば、サービス業でかかる経費の大部分が人件費であった場合、給与や通勤手当は仕入税額控除の対象にはならないため、簡易課税制度を利用した方が納付する消費税額が少なくなる可能性が高まります。
消費税に関する事務負担が減るという観点から、簡易課税制度を採用している中小企業・個人事業主は多いです。一方で、簡易課税制度にはデメリットや問題点もあります。
その1つとして、簡易課税制度より一般課税(本則課税)の方が消費税額を軽減できる可能性が挙げられます。
例えば、サービス業において、売上にかかる消費税が10万円、仕入税額控除が8万円とします。サービス業の場合、みなし仕入率は50%です。
一般課税(本則課税)にすると、10万円から仕入税額控除8万円を引いた「2万円」が納税額になります。一方で、簡易課税では10万円からみなし仕入率50%をかけた5万円を差し引いた差額「5万円」が納税額です。
このように仕入税額控除の額が大きい場合、一般課税(本則課税)の方が納める消費税を軽減できる場合も少なくありません。
また、一般課税(本則課税)では企業が赤字の場合などに還付を受けられますが、簡易課税では売上にかかる消費税にみなし仕入率をかけた額を控除する関係上、売上にかかる消費税より控除できる額が大きくなることがありません。
そのため、簡易課税では企業が赤字でも消費税の還付を受けられず、消費税の納付が必要となる点がデメリットになります。
簡易課税制度を採用することによるその他のデメリットや問題点について、以下で解説します。
簡易課税制度のみなし仕入率は、事業区分ごとに異なります。そのため、複数の事業を展開している場合は事業ごとに売上高を分ける必要が出てくるため、かえって処理が煩雑になる可能性があります。
簡易課税にした場合でも、売上の事業区分を分けて会計入力を行わないと消費税計算の手間が増えてしまうことを覚えておきましょう。
簡易課税制度の適用をすると、簡易課税制度を適用した課税期間から2年間は原則の消費税計算に変更できません。
簡易課税を選択すると2年間は変更できないため、簡易課税を選択するかどうか慎重に検討しましょう。特に仕入税額控除については、適切な経営判断が求められます。
簡易課税制度を選択した場合、消費税は以下の計算式で算出されます。
納付する消費税 = 預かった消費税額 - 預かった消費税額 × みなし仕入率
事業区分ごとのみなし仕入率は、下表の通りです。
事業区分 | みなし仕入率 |
---|---|
第1種事業(卸売業) | 90% |
第2種事業(小売業、農業・林業・漁業(飲食料品の譲渡に係る事業に限る)) | 80% |
第3種事業(農業・林業・漁業(飲食料品の譲渡に係る事業を除く)、鉱業、建設業、製造業、電気業、ガス業、熱供給業および水道業) | 70% |
第4種事業(第1種事業、第2種事業、第3種事業、第5種事業および第6種事業以外の事業) | 60% |
第5種事業(運輸通信業、金融業および保険業、サービス業(飲食店業に該当するものを除く)) | 50% |
第6種事業(不動産業) | 40% |
また、2種類以上の事業を行っている場合、計算式は以下になります。
ここでは、消費税簡易課税制度選択届出書の書き方について、詰まりやすい部分を中心に解説します。
出典:国税庁ホームページ「D1-22 消費税簡易課税制度選択届出手続」
納税地は、企業の所在地を管轄する税務署です。不明な場合は、「企業の所在地の住所+税務署」で検索して調べてみましょう。
企業の場合、法人番号を記入する必要があります。法人番号は設立登記の後に取得できる登記事項証明書(履歴事項全部証明書など)に記載されています。
「①の基準期間」は「適用開始課税期間」の2事業年度前の日付を入力し、「②の課税売上高」には「適用開始課税期間」の2事業年度前の課税売上高を記入します。
事業の内容には事業内容と事業区分を記載します。ご自身の営む事業がどの事業区分に該当するのかを事前に確認しておきましょう。
消費税簡易課税制度選択届出書は、e-Taxでも届出手続きができます。
e-Taxの利用には「利用者識別番号」という16桁の番号が必要です。「e-Taxの開始(変更等)届出書作成・提出コーナー」から開始届出書を作成・送信すると、利用者識別番号を取得できます。
その他、法人の場合はデジタル庁の「法人設立ワンストップサービス」から法人代表者のマイナンバーカードを使って、開始届出書である「電子申告・納税等開始(変更等)届出」を作成・送信することでも利用者識別番号を取得できます。
簡易課税から一般課税(本則課税)に切り替えたい場合、適用をやめようとする課税期間の初日の前日までに「消費税簡易課税制度選択不適用届出書」を所轄の税務署に提出する必要があります。
ただし、簡易課税制度を選んだ事業年度から2事業年度は切り替えができないため、変更できる期間については事前に日付まで確認しておきましょう。
2023年10月1日よりインボイス制度が開始され、適格請求書発行事業者の登録をするためには課税事業者になることが必要です。
2023年10月1日から2029年9月30日までの日の属する課税期間に、適格請求書発行事業者の登録を受け、登録を受けた日から課税事業者になる場合、その課税期間から簡易課税制度の適用を受ける旨を記載した「消費税簡易課税制度選択届出書」をその課税期間中に提出すれば、その課税期間から簡易課税制度を適用できます。
例えば、3月決算の企業が2025年5月1日から適格請求書発行事業者の登録を受け、その日から課税事業者になる場合、本来は簡易課税制度をその期に選択するには2025年3月31日までに消費税簡易課税制度選択届出書を提出する必要があります。
しかし、インボイス制度の特例により、2025年4月1日から2026年3月31日に届出書を提出すれば、その期から簡易課税制度の適用可能です。
なお、インボイスには2割特例という制度があり、売上に係る消費税額の2割が納付すべき消費税となります。インボイス制度を機に免税事業者から課税事業者になった場合のみ、2026年9月30日までの日の属する各課税期間まで適用されます。
2割特例を適用する場合に事前届出は必要なく、消費税の申告時に2割特例の適用を受ける旨を申告書に付記するだけで適用が受けられます。売上を事業区分ごとに分ける必要もないため、消費税計算の作業を簡略化できるでしょう。
2026年9月30日までの属する課税期間までは2割特例の適用を受け、特例の期間が終わる段階で簡易課税制度を選択する方法も1つの選択肢です。
簡易課税制度は、中小企業向けに消費税計算の事務作業を簡略化できる制度です。
簡易課税制度を選択するためには、売上高や取得した固定資産に関する要件などがあるため、適用を検討する際には要件を満たしているかを事前に確認しましょう。また、提出期限内に届出書を提出する必要があるため、届出書の作成及び提出は早めに行うことが肝心です。
簡易課税制度のデメリットとして、選択してから2年間は原則の方法に切り替えられない点や、仕入税額控除の金額が大きい場合には、一般課税(本則課税)の方が消費税の納付額が少なくなる場合もある点が挙げられます。
簡易課税を利用する際には、きちんとメリットを享受できるのか見極める必要があるため、慎重に検討しましょう。