粗利とはどのような利益かについて解説しています。計算方法(出し方)や粗利率の目安となる数値、粗利以外の利益の種類や粗利からわかること・わからないこと、粗利を増やす方法についても紹介しています。粗利について調べている方は参考にしてください。
2024.10.02
粗利とはどのような利益かについて解説しています。計算方法(出し方)や粗利率の目安となる数値、粗利以外の利益の種類や粗利からわかること・わからないこと、粗利を増やす方法についても紹介しています。粗利について調べている方は参考にしてください。
2024.10.02
粗利とは、売上から原材料費や生産コスト、仕入といった売上原価を差し引いた金額です。損益計算書における「売上総利益」を指し、粗利益とも呼ばれます。
事業における売上と、それに直接かかった仕入や製造原価を差し引くことで、事業から得られる利益を示します。
粗利は、以下の式で算出します。
粗利 = 売上高 - 売上原価
粗利の計算には、損益計算書に記載されている売上高と売上原価の数値を使います。
このうち売上原価については、以下の式を使って導きます。
売上原価 = 期首商品棚卸高 + 仕入高 - 期末商品棚卸高
粗利率とは、売上高に占める粗利の割合のことで、以下の式で算出します。
粗利率 = 粗利 ÷ 売上高
粗利率がわかれば、販売する商品やサービスの利益率が把握できます。粗利率が高ければ、それだけ効率のいい経営・販売戦略を採れているといえます。
粗利率が下がっている場合は、原価が高騰していたり、自社の商品やサービスの競争力が落ちていたりなど、いくつかの原因が考えられます。
粗利率の水準は業界によって異なるため、粗利を企業間で比較する際は同業内で行いましょう。
例えば、仕入れた商品をそのまま販売する業種や、製造業など製造原価が高くなる業種は粗利率が低くなります。
ただ粗利率が低い業種でも、人件費が抑えられるなどの理由で営業利益の割合が大きい業種もあります。粗利率の低い業界が一概に利益水準が低いとは言えないため、注意が必要です。
総務省が公表している、中小企業実態基本調査(令和4年度決算実績)による各業界の粗利率は下表の通りです。
業種 | 粗利率 |
---|---|
建設業 | 23.87% |
製造業 | 20.73% |
情報通信業 | 47.60% |
運輸業,郵便業 | 23.49% |
卸売業 | 15.12% |
小売業 | 30.42% |
不動産業,物品賃貸業 | 46.34% |
学術研究,専門・技術サービス業 | 56.83% |
宿泊業,飲食サービス業 | 63.32% |
生活関連サービス業,娯楽業 | 41.33% |
サービス業(他に分類されないもの) | 41.66% |
出典:総務省統計局「中小企業実態基本調査 令和5年確報(令和4年度決算実績)」
同業種でも、経営戦略や業界でのポジションによって粗利率は異なります。
粗利率だけでは企業経営の良し悪しは判断できないため、他の指標と併せて分析することが必要です。
企業の利益を表す指標は、粗利を含めて5種類あります。
企業のどういった活動によって得られた利益なのかで分類され、各利益を見ることで企業経営の良し悪しを推測する目安となります。
ここでは、各利益の概要や計算式を解説します。
売上総利益は、一般的に粗利や粗利益と呼ばれますが、企業のIRなど正式な資料では「売上総利益」と表記されます。
売上総利益は、売上高から売上原価を差し引いた金額で示され、企業の収益力を図る基本的な指標です。以下の式で算出されます。
売上総利益 = 売上高 - 売上原価
営業利益は、売上総利益から人件費や広告宣伝費といった「販売費及び一般管理費」を差し引いた金額で示されます。
計算式は、以下の通りです。
営業利益 = 売上総利益 - 販売費及び一般管理費
営業利益は、企業が本業でどれだけ利益を稼げているかを示します。
売上総利益が売上に直接対応する仕入高や製造原価のみを差し引いた金額なのに対し、営業利益は人件費や広告宣伝費、地代・家賃や消耗品費など本業の活動をするためにかかったすべての費用を差し引いた金額です。
営業利益が赤字の企業は本業が好調でないと判断できるため、早急に対策を打つ必要があります。
経常利益は、営業利益から企業の本業以外で発生した経常的な損益(営業外損益)を差し引いた金額です。
以下の計算式で求めます。
経常利益 = 営業利益 + 営業外収益 - 営業外費用
経常利益は、営業利益と比べて、本業以外を含めた広い範囲の利益であり、企業の経常的な活動から発生した利益を示します。
税引前当期純利益は、税金を納めていない時点での、企業のすべての活動から生じる利益を示します。
以下の計算式で求めます。
税引前当期純利益 = 経常利益 + 特別利益 - 特別損失
特別損益とは、ある期だけに生じる、企業の本業とは関係のない臨時的な損益を指します。
例えば、固定資産売却の損益や、災害や盗難による損失、損害賠償費用などが挙げられます。
当期純利益は、税引前当期純利益から税金費用を差し引いたものであり、一会計期間における企業の最終的な利益を示します。
以下の計算式で求めます。
当期純利益 = 税引前当期純利益 - 税金費用
当期純利益がプラスなら黒字、マイナスなら赤字と呼ばれます。
当期純利益が増加すると、株主への配当や自己資本の蓄積が期待できるため、5つの利益の中でも株主や取引先といったステークホルダーから注目されやすい指標です。
粗利率が自社の過年度や同業他社と比較して高いあるいは低い場合、その原因を分析すれば経営方針の策定に役立ちます。粗利率が変化した場合、売上原価または販売価格に原因があると考えられます。
ここでは、粗利からわかることや活用方法について解説します。
原材料や仕入商品の価格、製造員の人件費などが高騰して売上原価が上昇すると、粗利率が下がります。また、廃棄や原料ロスの増加も粗利率が下がる原因です。
自社の過年度と比較して売上原価が上がっている場合は、何が原因なのかを突き止め、早期に対策を講じる必要があります。
売上が増加すればその分だけ売上原価も上昇するため、売上原価を過年度と比較する際には売上高原価率も活用しましょう。
売上高原価率とは、売上における原価の割合を示す指標です。
以下の計算式で導かれます。
売上高原価率 = 売上原価 ÷ 売上高
仕入れたものをそのままの状態で販売するより、自社で加工して付加価値を付ければ、より高い価格設定が期待できます。
同業他社には真似できない独創性に優れた商品があれば、それだけ付加価値が上がります。
例えば、ノーブランドのバッグと高級ブランドのバッグでは、同じような形・大きさ・機能でも価格には大きな差が出ます。高級ブランドには独自のデザインや品質、話題性、信頼性などが含まれ、高い付加価値を持った商品になるためです。
粗利が低い場合は、自社の商品やサービスに付加価値を与えられる施策を考え、販売価格のアップを図りましょう。
単なる同業他社との値下げ競争になってしまうと、それぞれが消耗するだけで状況は改善しません。そのため、原価をカットするよりも難しい施策ではありますが、高い付加価値のある商品やサービスを提供し、販売単価の改善を推し進めることが重要です。
粗利は売上高から売上原価のみを差し引いた値であるため、販売価格や仕入高、製造原価などの良し悪しは把握できても、それ以外の部分については把握できない点を認識しておきましょう。
事業活動には、営業や研究開発などにかかる人件費、広告宣伝費、研究開発費、店舗の家賃などの販売費及び一般管理費がかかり、企業の最終的な利益に大きく影響します。
そのため、企業分析の際には粗利だけではなく、営業利益や当期純利益など複数の利益指標を用いる必要があります。
また、粗利の水準は業界ごとに異なり、業界のポジションや販売戦略、提供する商品やサービスによっても異なります。
収益力の分析にあたっては、自社の過年度数値との比較を中心に進めましょう。
ただし、自社の過年度との比較では良好でも、同業他社と比べて粗利の水準が明らかに低い場合は、自社の競争力に問題がある可能性があります。その場合には、掘り下げて原因の分析を行うことも重要です。
粗利を増加させるには、売上高を伸ばすか、売上原価を下げるか、どちらか一方または両方が必要です。
ここでは、売上高を伸ばす方法と、売上原価を下げる方法の2つをそれぞれ解説します。
粗利を改善する方法の1つは、売上高を伸ばすことです。
売上高は、販売単価と販売数によって構成されます。売上高を伸ばしたいなら、販売単価を上げるか、販売数を増やす必要があります。
販売単価を上げるために有効な施策は、付加価値の高い新商品・新サービスを開発したり、商品・サービスの提供方法を変えたりすることです。
商品やサービスの内容を伴わずに販売単価を上げると、価格競争に勝てずに客離れが起きることが想定されます。昨今の原価高騰の流れから、販売単価の改定が受け入れられる背景はあるものの、値上げし過ぎると販売数が下がり、売上高を伸ばしたかったはずが逆効果になりかねません。
商品やサービスの販売数や提供数を増やすことでも売上の向上が見込めますが、必要な仕入量や材料などの変動費が増えて原価も上昇する点に注意が必要です。
その点、製造機械のリース料や従業員の給料など、固定費は変わらないため、粗利率の上昇につながります。
売上原価を下げるには、商品や材料の仕入先と価格交渉をしたり、仕入先を安い業者に変えたりといった施策が考えられます。
自社で行っていた作業の外注化や、外注すると高くなる部分のみ自社で行うなどの工夫をすれば原価削減につながります。材料のロスを削減したり、製造ミスが起きにくくしたりと、工程を見直すのも改善策の1つです。
売上高を急激に伸ばすのは困難なため、粗利を改善したい場合、まずは売上原価の削減から着手しましょう。
近年、仕入商品や原材料の価格上昇、人件費の高騰などが原因となって、多くの企業で粗利が悪化する傾向が見られます。
また、日本国内では少子化の影響により、将来の国内需要には悲観的な意見もあります。
こうした状況を乗り越えるためにも、企業は財務分析の一環として粗利を正しく把握し、自社の過年度や同業他社と比較して問題点を洗い出し、問題解決に着手・対処していく必要があります。
その際には、粗利はあくまで売上高と売上原価の関係しか把握できないことを踏まえ、営業利益や当期純利益など複数の収益指標を分析しましょう。