TOB(Take-Over Bid/株式公開買付)とは何か解説します。TOBを実施する目的や手続きの流れ、友好的TOBと敵対的TOBの違いや防衛策(予防策・対抗策)、TOBする側/される側それぞれのメリット・デメリットについて紹介しています。TOBについて調べている方は参考にしてください。
目次
- TOB(株式公開買付)とは
- TOBの目的
- 持ち株比率と行使できる権利の一例
- TOBの手続きの流れ
- 【買い手】対象企業の株主に向けてTOBを公表する
- 【売り手】対象企業は「意見表明報告書」を提出する
- 【買い手】質問回答報告書を提出する
- 【買い手】公開買付報告書を提出する
- 友好的TOBと敵対的TOBについて
- 友好的TOBとは
- 敵対的TOBとは
- 敵対的TOB(買収)の主な防衛策
- 主な予防策
- 主な対抗策
- TOBする側のメリット・デメリット
- メリット
- デメリット
- TOBされる側のメリット・デメリット
- メリット
- デメリット
- 【参考】2023年に実施されたTOB事例
- 日本産業パートナーズによる東芝へのTOB
- セガサミーホールディングスによるロビオ・エンターテインメント社の買収
- ブルーム1株式会社によるベネッセホールディングスの子会社化
- まとめ
TOB(株式公開買付)とは
TOBとは、「Take-Over Bid」の略であり、株式公開買付と呼ばれます。TOBにおいては不特定かつ多数の人に対して買付価格や期間、株式数などを公告し、証券取引所を通さずに株式の買付を行うことをいいます。
他の株主から株式を売却してもらうため、TOBの買付価格は市場の取引価格よりも高くなるのが一般的です。買付をした者が保有する株式の割合が発行されている全体の株式の5%を超える場合は、TOBを行う義務が生じます。
TOBの目的
TOBは、主に上場企業が自社の経営権の取得を目的として自社株の買付を行う場合や、他の上場企業の株式を取得して子会社化する場合などに活用されます。
一定以上の株式を取得することで、株主総会での決議を単独で成立させたり、特別決議の阻止ができたりする権利が得られます。取得した株式の比率に応じて取締役の選任や解任、合併の承認、完全子会社化などもできます。
持ち株比率と行使できる権利の一例
持ち株比率に応じて行使できる権利は、以下のようになります。
持ち株比率 | 行使できる権利 |
---|---|
1%以上 | 配当受取、議決、議案提出 |
3%以上 | 監査請求、株主総会の招集請求 |
33.4%以上 | 株主総会の特別決議を阻止 |
(1/3以上) | |
50.1%超 (1/2超) | 単独で株主総会の普通決議承認 |
66.7%以上 (2/3以上) | 単独で株主総会の特別決議承認 |
100% | 完全子会社化 |
持ち株比率が50.1%を超えると、普通決議によって単独で取締役の選任や解任ができます。
また、株式を66.7%以上取得すると、特別決議によって単独で企業の合併や事業譲渡を承認できるようになります。
TOBの手続きの流れ
ここでは、TOBを進めるにあたってどういった流れで行われるのかについて紹介していきます。
【買い手】対象企業の株主に向けてTOBを公表する
買主はTOBを開始するにあたって、社名、代表者名、所在地、株の買付を行う旨や目的、価格、買付予定数、買付後における買主の株式所有割合や対象の企業などを公告する必要があります。
公告の方法は、金融商品取引法第27条の規程によってEDINET、または日刊新聞紙掲載のいずれかの方法に限定されています。
公告によって、買付対象会社の株主に平等に株式を売却する機会を提供し、一部の株主のみが有利になる不公平な状況を防ぎます。
【売り手】対象企業は「意見表明報告書」を提出する
TOBの対象企業は、公告日から10日以内に公開買付に対して賛成か反対かを表明する「意見表明報告書」を内閣総理大臣に提出する必要があります。
提出後は、直ちに意見表明報告書の写しを株主及び金融商品取引所等に送付しなければなりません。
【買い手】質問回答報告書を提出する
意見表明報告書には、売主からの公開買付に関する意見の他に質問も記載できます。
売主からの質問が記載されている場合、買主は5営業日以内に質問の回答を「質問回答報告書」に記し、内閣総理大臣に提出する必要があります。
質問回答報告書の提出後、直ちにその写しについて株主及び金融商品取引所等へ送付が必要です。意見表明は義務であり、買主・売主双方の主張と反論を明確に示すことによって、株主や他の投資家に対して判断材料を提供します。
【買い手】公開買付報告書を提出する
買主は公開買付最終日の翌日に、公開買付に係る応募株式等の数、その他内閣府令で定める事項を公告または公表したうえで、これらの事項を公開買付報告書に記載して内閣総理大臣に提出する必要があります。
公告や公開買付報告書の提出によって、TOBの結果を報告します。
友好的TOBと敵対的TOBについて
TOBには、「友好的TOB」と「敵対的TOB」の2種類があります。ここでは、それぞれのTOBについて例を交えながら解説していきます。
友好的TOBとは
株式を取得される側の企業がTOBに応じる場合、事前に了承得ている場合などは、友好的TOBとなります。
例えば、双方同意の上でM&Aによる合併をするために、合併に必要な株主総会特別決議を通して株式を取得する場合があります。
敵対的TOBとは
株式を取得される側の企業がTOBに応じない場合は、敵対的TOBになります。
例えば、対象企業やその株主に対して事前の合意や通知なしにTOBを行う場合や、株式取得するための条件交渉がまとまらなかった時に、それでも強引に株式取得を進める場合などが該当します。
敵対的TOB(買収)の主な防衛策
ここでは、敵対的TOBを仕掛けられた際の防衛策を紹介します。
防衛策には予防するための方法と、敵対的TOBを仕掛けられてから対抗する方法の2種類に分けられます。
主な予防策
ここでは、敵対的TOBをされないための事前の予防策について解説します。
ポイズンピル
ポイズンピルとは、敵対的な買収企業が一定の議決権割合を取得した場合に、時価以下で権利行使できる新株予約権を発行しておくことで、買収者の持株比率や株式の価値を下げる手法です。
この方法は買収者のコストが増加するため、敵対的買収の防止につながります。
ゴールデンパラシュート
敵対的TOBが成功すると、ほとんどの場合で買収された企業の取締役は解任もしくは退任に追い込まれます。
ゴールデンパラシュートはそれを防ぐため、取締役に対してあらかじめ巨額の退職金を設定しておくことで買収後のコストを増大させ、買い手企業に買収を思いとどまらせる手法です。
ティンパラシュート
ティンパラシュートは、従業員が解雇された場合に多額の退職金や一時金を出す規定を雇用契約で結び、敵対的TOBを計画する企業をけん制できる手法です。
前述のゴールデンパラシュートより柔軟に対応できる点が特徴といえます。
マネジメントバイアウト(MBO)
マネジメントバイアウトとは、現在の経営陣が金融機関や投資ファンドなどの支援のもと、自社株や事業を買い取る方法です。
経営陣が株主となり、一定のシェアを保有することでTOBへの対抗策となります。
チェンジオブコントロール(COC)条項
一方の当事者に経営権・支配権の変動や異動が生じた場合に、契約内容に制限を設けたり、もう一方の当事者による契約解除ができたりする条項です。
例えばA社とB社が販売契約を結んでいて、A社が経営権を他者に異動させた場合に、もう一方の当事者であるB社は販売契約を破棄できる、といった条項にしておくことで、TOBをけん制することができます。
主な対抗策
ここでは、敵対的TOBを仕掛けられてから行う対抗策について紹介します。
ホワイトナイト
ホワイトナイトとは、敵対的TOBを仕掛けられた企業が新たに友好的な買収者(ホワイトナイト)を見つけて買収、もしくは合併をしてもらう方法です。
パックマンディフェンス
敵対的TOBを仕掛けられた企業が、逆に買収企業に対してTOBを仕掛ける手法です。テレビゲームの「パックマン」のような様から名付けられています。
パックマンディフェンスを行うためには、敵対的TOBを仕掛けられた側の企業にも相応の資金力が必要となります。双方にとって様々なリスクがあるため、日本国内では事例のない方法になっています。
クラウンジュエル
クラウンジュエルは、敵対的TOBを仕掛けられた企業が収益性の高い価値のある事業を第三者に売却するなどして、自社の魅力を低下させる手法です。
ジューイッシュ・デンティスト
メディアを使って買収企業のネガティブな情報を拡散し、社会的信用を低下させることによって買収意欲を低下させる手法です。
第三者割当増資
特定の第三者に対して新株を発行することを第三者割当増資といいます。
敵対的TOBを仕掛けられた際に新株、もしくは新株予約権を第三者割当増資することで、買収者の持ち株比率を低下させます。
TOBする側のメリット・デメリット
TOBが買収する側にとって、どんなメリットやデメリットがあるかを紹介します。
メリット
ここでは、TOBを行う買収側におけるメリットを紹介します。
株式を短期間で大量に買付できる
買収する側がTOBを行う最大のメリットは、短期間に一定の価格で大量の株式を買付できる点です。
取引所で大量の株式を買い集めようとすると、株価の変動によって目的の数を買うまでにコストや時間がかかります。そのため、取引所外で短期間に株式を買えるのは大きなメリットになります。期間を区切って取引ができるため、買収のスケジュール管理がしやすい点も特徴です。
株価変動の影響を受けづらい
TOBでは一定の価格で大量の株式を買付できるため、株価変動の影響を受けにくいメリットがあります。
また、価格が変動しないため、買取に必要な費用を見積りやすい点も特徴です。
デメリット
ここでは、TOBを行う買収側におけるデメリットを紹介します。
市場価格よりも買付価格が高くなる
TOBでは既存株主の売却を後押しするために、市場価格よりも高い「プレミアム価格」で買付する場合が多く、コストが高くなります。
一般的には30~40%のプレミアムが上乗せされることが多いです。
敵対的TOBは成功しづらい
敵対的TOBは事前の合意なく行われるため、相手企業に抵抗される可能性が高く成功率は低いです。
敵対的TOBを仕掛けることで疲弊した買収側企業に対して、第三者が買収を仕掛けてくるなど、まったく関係のなかった企業が介入してくる可能性もあります。
TOBされる側のメリット・デメリット
TOBされる側のメリット・デメリットについて解説します。
メリット
ここでは、TOBされる側が得られるメリットについて紹介します。
株式を市場価格よりも高く売却できる
TOBされる側の株主にとっては、市場価格よりも高値で株式を売れる点がメリットです。
より多く資金を獲得することで、企業体力をつけて事業を進めることができます。
M&Aの恩恵により経営改善が見込める可能性がある
事業再編や買収企業からの資金流入によって、経営状態が改善する可能性があります。
企業同士の合併によって販路拡大や新製品の開発、物流最適化によるコスト削減などのシナジー効果に期待できます。
デメリット
ここでは、TOBされる側に発生するデメリットを紹介していきます。
経営権を失う(影響力の低下)
TOBが成立すると経営権は買収企業に移行し、多くの場合TOBをされた側の経営陣は経営権を失います。友好的TOBだったとしても、既存の経営時の影響力は低下するのが一般的です。
また、経営陣の交代によって元々の経営方針が変わり、TOBされた側の企業がこれまでとは違った企業として運営されてしまうこともあります。
敵対的TOBを防止する際に株主の反対が想定される
敵対的TOBに対する防止策は、株主の反対を受けやすいデメリットもあります。防止策を実行する際には、既存株主に対する配慮が必要です。
例えば、敵対的TOBの対抗策としてポイズンピルや第三者割当増資を行うと、既存株主の価値が低下するため、株主からは歓迎されません。
【参考】2023年に実施されたTOB事例
ここでは、2023年に実施されたTOBの事例を紹介します。TOBの概要や目的、結果的にどうなったかを解説していきます。
日本産業パートナーズによる東芝へのTOB
東芝は2015年に発覚した不正会計問題やアメリカでの原発事業での失敗により経営危機に瀕していました。経営を立て直すべく新たに株式を発行しましたが、海外ファンドなどの「もの言う株主」が増え、かえって経営が混乱する事態になりました。
その状況において、2023年に日本産業パートナーズをはじめとする企業連合が東芝にTOBを実施し成立させました。これによって東芝は上場廃止・株式非公開となりました。「もの言う株主」の影響が排除でき、経営体制が安定化していくと予想されます。
セガサミーホールディングスによるロビオ・エンターテインメント社の買収
セガサミーホールディングスは、2023年にフィンランドに本社を構えるロビオ・エンターテインメント社を買収しました。
ロビオ・エンターテインメント社はアングリーバードで知られるモバイルゲームを制作する企業であり、このTOBによってセガはスマートフォンゲーム開発のノウハウを得たことになります。
ブルーム1株式会社によるベネッセホールディングスの子会社化
ベネッセホールディングスは、2023年11月にMBOによる買付を発表していました。その発表後、日本と中国で法律に基づく必要な手続きをしており、ベネッセホールディングスの創業者がヨーロッパの投資ファンドEQTと組んでTOBを実施しました。
ベネッセホールディングスと、EQTが出資するブルーム1株式会社によってTOBが行われ、ブルーム1株式会社がベネッセホールディングスの株を100%保有することになり、ベネッセホールディングスは上場廃止となりました。ベネッセホールディングスはEQTの知見を取り入れながら、主力の進研ゼミなどの立て直しを図っています。
まとめ
TOBは取引所外において期限を決めた買付を行うことで、買い集めたい株式を一定の価格で決められた期限に取得する手続きです。TOBを行う場合、買収企業はTOBの公告や公開買付報告書の提出といった義務を負うため、必要な手続きを遵守しましょう。
近年、TOBにより上場廃止を目指す企業が増えており、2023年は65社と、2000年以降で過去最高になりました。近年、株主からの株価を意識した経営を求める動きが強まっており、そうした影響にとらわれず、中長期の視点で経営改革を進めるための選択肢としてTOBが注目されています。