CFO、それぞれの道
廣渡本日は今、ベンチャー企業で活躍している3人のCFO(最高財務責任者)に来ていただきました。まずはみなさんに、今の会社でCFOになるまでのことをお話しいただきたいと思います。トップバッターは今話題のZOZOTOWNを運営するスタートトゥデイの栁澤さん、いかがでしょう。
栁澤僕はCFOになりたくてスタートトゥデイに入ったんですが、それまでにいろんな会社を経験してきました。
廣渡まずは銀行、そしてコンサルティング会社、証券会社を経てスタートトゥデイでしたね。
栁澤キャリアを積む間に企業取引に興味を持ち、さらにコンサルだけでなく実業にも魅かれた。当時ITベンチャーが活況の時期で、そういう世界でCFOとして仕事をしたいと思っていました。そんなとき銀行時代の先輩が、スタートトゥデイという会社でCFOを探している、しかもIPOを間近に控えてるという話をいただいて、応募しました。
廣渡入社したときは常勤監査役というポジションだったそうですね。その頃、管理部門はもうしっかりしてたんですか。
栁澤いや、ぜんぜんしっかりしてなくて、会計事務所に丸投げしていたような状況です。入社したのが2006年2月でその二か月後から直前期に入るというのでこれは大変だと思いましたね。会計システムを導入するところから始めました。
安田仕事の内容も大変だったようですが、社内の雰囲気に慣れるのもご苦労されたみたいですね。
栁澤面接に行ってもスーツなんて誰も着ていない。だいたい洋服に興味なんかなかったかので、入社当初は社販をめちゃくちゃ利用しましたね(笑)。晴れてCFOとなったのは上場して半年後のことでした。
廣渡一方アクセルエンターメディアの峯岸さんは、最初オリコンに入社した時CFOという肩書きはついてなくて、しばらくしてからオリコンのCFOになられたんですよね。
峯岸結局、そのポジションをやる人が誰もいなくて自分がやっただけです。証券会社とか信託出身の人はいましたが、彼らは数字を見ることはできても、書類を作れない。結局、会計事務所から転職したばかりで、会社のことはなにも知らない僕が徹夜して書類を作ることになった(笑)。
廣渡本当にオリコン上場のときは大活躍でしたよね。もともと私たちAGSがオリコン社の上場支援をさせていただいていましたが、プロパーの管理人員が足りなかった。そこで面接して入ってもらったのが峯岸さん。もうそれ以来20年近いおつきあいになりますね(笑)。
廣渡さて、お待たせしました、いよいよ安田さんです(笑)。なにしろGMO本体のCFOを含めて上場しているグループ9社の役員をしているという。
安田収入もすごいと思われますが、グループ会社の役員といっても、給与もない、株もない、利害もないの“ないない”尽くしです(笑)。
栁澤僕、聞いたんですけど、GMOでは役員の収入をアルバイトさんに至るまでスタッフ全員に公開しているそうですね。
安田グループも含めると役員は70名以上になるんですが、社内では丸裸です。役員報酬ってなにかモヤモヤして気も遣うし、面倒くさいところもあるでしょ。
峯岸だからといって公開してしまうと、あの人こんなにもらっているんだなんて、ギスギスしたりしません?
安田生々しい話には不思議とならないんです。役員が掲げた目標に対してやったか、やらなかったかも合わせて明確に出ますし、その結果が役員報酬として数字で出ている。それより、役員に対して、それだけもらっているのならやることやってと。さすがに口では言わないですけど、そんな気持ちになるみたいですね。
廣渡安田さん、もとは会計士ですよね。
安田大学は法学部だったんですが、弁護士になるにはハードルが高いな、でも会計士なら、と(笑)、いや、決して会計士はハードルが低いと言うわけではなくて、たまたま親戚に会計士がいて、なんとなく自分もなれそうに思ったんです。で、卒業してから1年半浪人をしてようやく二次試験に合格、KPMGセンチュリー監査法人に入りました。そこで仕事をするうちに、もっとダイナミックで、経営に近い仕事をしたいと思うようになっていったんですね。そんな時知人から、インターキュー(現 GMOインターネット)の社長の熊谷に会ってみないかと誘われた。で、会社に行って会議室で待っていると、代表の熊谷が入ってきていきなり「一緒にインターネット革命に参加しよう」などと言われて、握手された(笑)。
廣渡初めはKPMGにも籍を置きながらの、アルバイトだったとか。
安田ですね、夕方、監査法人の仕事を終えてから通っていました。当時、まぐクリック(現 GMOアドパートナーズ)の上場プロジェクトを進めていて、僕は、目論見書などの資料を作成して、とにかく業務が面白かったですね。正式に入社したのは2000年の4月でしたが、その後もGMOグループでは超アグレッシブな資本・業務提携戦略やグループ会社上場など、いろいろと貴重な経験をさせてもらいました。
歌って踊れるCFO
廣渡ではみなさん、ご自分のことをどんなCFOと思いますか。
栁澤他薦というか、安田さんのことを言ってもいいですか。
廣渡もちろん。
栁澤安田さんは「歌って踊れるCFO」ですね(笑)。
安田いいですね、ちょうど社長の熊谷とも話していたんですが、彼もまったく同じことを言ってましたよ(笑)。確かに、カラオケなどでは歌ったり踊ったりしますが……(笑)。
廣渡でも、そういう意味だけじゃないですよね。
栁澤CFOって堅い人、というイメージが強くないですか。そのなかでもソフトなイメージで、安田さんなら絶対に営業もできると思います。
安田「ワークハード・プレイハード」ということですかね。
栁澤ですね、仕事ばかりではなく遊びもちゃんとできる。
廣渡そういえばここにいる3人は揃ってスポーツされている。
栁澤僕はフルマラソンで、安田さんも峯岸さんも走っていますね。
安田僕は泳ぎも。毎朝1キロ泳いでいます。
峯岸僕はウエイトトレーニングですね。フルマラソンに、ウエイトまでして、いったいなにを目指してるんだと言われますが(笑)。
廣渡CFOとしてしっかりしているのはいいけど、生真面目だけでは一緒に仕事していても楽しくないですしね。
安田やはりこの人と一緒に仕事したいなというキャラは必要だと思います。そのためには走ったり泳いだりすることも大事だと(笑)。
廣渡プレイハードですね。
安田僕はエネルギーマネージメントという言葉を使っているんですが、会社の規模が大きくなっていくと、自分のプレーヤーとしてのパフォーマンスよりも、リーダーシップを発揮して人とかチームを動かすことが大事になってくる。人前で話す機会も増えてくる。それとポジティブなエネルギーをいつも出すこと。それも愚直にね。朝、みんなに明るく挨拶するとか。シャイな若者が多いから無視されることもありますが、気にしないで続けてます。ポジティブな職場、チームを作るために自分自身からポジティブなエネルギーを出す。
社長をフォローするのも大事な仕事
廣渡峯岸さんはCFOを採用するにあたって大事なものはなんだと思われますか。
峯岸ひとくちにCFOといっても、もともと経理畑なのか財務畑なのかで違いますし、人事総務出身だとスキルがまったく違ってきますよね。あるところまでは自分で頑張れるくらいのタフさは必要です。ただ、そこから経営管理チームとしてある程度できる人を採用して育てていかないといけない。
廣渡峯岸さんを見ていると全部できそうな気もしますが(笑)。
峯岸社長の田島ができないことは、ぜんぶ峯ちゃんに、と回ってきてしまうというところは確かにありますね(笑)。つまり、社長に近いCFOというのは管理系の仕事ばかりしているんじゃなくて、「社長仕事」のうち社長自身が不得意な部分もフォローすることになってくる。
廣渡栁澤さんはCFOの役目をどのように思いますか。
栁澤社長をフォローするという点では私も言いたいことが(笑)。うちの会社って外から見るとよくわからない会社に見えるみたいで、社長もなんだかいいい加減に見えますしね(笑)。なので、僕は外の人となるべく付き合って、ちゃんとしている会社ですよという印象を持ってもらえるようにしています。
廣渡社長はやんちゃに見えるけど、栁澤さんのような人がそばにいるから安心だというアピールですね。
安田オーナーにはキャラの濃い人が多いから、上場会社としてはバランス感を出していくことも大事だと思います。
峯岸で、実際に社長はどんな人なんですか。
栁澤実は決してやんちゃではないんですよ。僕よりも石橋を叩きます。叩きすぎて橋を壊してしまうほど(笑)。
廣渡それは意外です。
栁澤そういうことをこうしていろんな人にブランディングしているわけです。
峯岸社長のスキルを補完し、社長のキャラクターを活かしていくこと。どちらのフォローもCFOにとって大事な仕事だと思います。
廣渡なるほど、こうして今もみなさんそれぞれがCFOの役目を果たしているわけですね(笑)。これからもCFOとして「ワークハード・プレイハード」なご活躍を期待しています。本日はありがとうございました。
安田 昌史氏
GMOインターネット株式会社
取締役副社長この人と一緒に仕事したいな
というキャラは必要だと思います。1994年にKPMGセンチュリー監査法人(現 有限責任あずさ監査法人)入所。公認会計士登録。2000年、GMOインターネット株式会社に入社。2002年取締役経営戦略室長、2003年常務取締役、2005年専務取締役を歴任し2015年同社取締役副社長に就任。現在はGMOインターネットグループの管理部門統括役員として主にCFO業務を管掌。グループ企業のGMOペイメントゲートウェイ、GMOペパボ、GMOクラウド、GMOアドパートナーズ、GMOクリックホールディングスなどの役員も兼任する。
GMOインターネット株式会社
設立:1991年5月
事業概要:インターネットインフラ事業、インターネット広告・メディア事業、インターネット証券事業、モバイルエンターテイメント事業
所在地:東京都渋谷区桜丘町26番1号 セルリアンタワー栁澤 孝旨氏
株式会社スタートトゥデイ
取締役CFOオーナーにはキャラが濃い人が多いから、
上場会社としてはバランス感を
出していくことも大事だと思います。1995年に株式会社富士銀行(現 株式会社みずほ銀行)入社。1999年に株式会社NTTデータ経営研究所入社。2005年にみずほ証券株式会社入社。 2006年、株式会社スタートトゥデイに常勤監査役として入社。2008年に取締役経営管理本部長、2009年に取締役CFO、2010年に取締役CFO兼経営企画室長に就任。 現在は同社取締役CFOとして、ZOZOTOWN HONGKONG CO., LIMITED・取締役なども兼任する。
株式会社スタートトゥデイ
設立:1998年5月
事業概要:ZOZOTOWN事業(ファッションショッピングサイト 「ZOZOTOWN」、ブランド古着のセレクトショップ「ZOZOUSED」)、BtoB事業(アパレルブランドの自社ECオンラインショップのサイト開発・運用を受託)、メディア事業(ファッションコーディネートサービス「WEAR」)
所在地:千葉県千葉市美浜区中瀬2-6-1WBGマリブウエスト峯岸 幸久氏
株式会社アクセルエンターメディア
取締役副社長一人で全部できるわけではないですから。
なにをやらせたいかが大切です。会計事務所・コンサルティング会社を経て、2000年に株式会社おりこんダイレクトデジタル(現 オリコン株式会社)入社。2002年執行役員経理本部長。2005年にアクセルマーク株式会社入社。取締役経営管理部長。2009年、常務取締役であった田島満とともにスピンアウトという形で株式会社アクセルエンターメディアを設立、現在、副社長。
株式会社アクセルエンターメディア
設立:2009年11月
事業概要:ケータイ・スマートフォン向けアーティストファンクラブの運営、PC向けアーティストファンクラブの運営、通販・ライブイベントなど上記に付随した業務
所在地:東京都渋谷区恵比寿四丁目6番1号 恵比寿MFビル4F廣渡 嘉秀
Yoshihide Hirowatari
株式会社AGSコンサルティング
代表取締役社長CEOがしっかりしているのはいいけど、
生真面目だけでは一緒に仕事していても
楽しくないですしね。1967年、福岡県生まれ。90年に早稲田大学商学部を卒業後、センチュリー監査法人(現 新日本監査法人)入所。国際部(ピートマーウィック)に所属し、主に上場会社や外資系企業の監査業務に携わる。94年、公認会計士登録するとともに株式会社AGSコンサルティングに入社。2004年に代表取締役専務、06年に副社長を経て08年より社長就任。09年のAGS税理士法人設立に伴い同法人代表社員も兼務し、現在に至る。