始まりは取り壊しの決まったビル
廣渡どういった経緯で貸会議室業を始めたんですか?
河野貸会議室を展開していこうと決めていたわけではなかったんです。取り壊しの決まったビルが使われてなくてもったいない、と思ったのが始まりでした。
市川そのビルはどれくらいの大きさだったんですか?
河野1フロア20坪の狭いビルです。その2・3階を、1階のレストランが立退くまでのあいだ借りただけでした。3階は工事現場事務所として貸して、2階を貸会議室にしたんです。1人1時間100円として、50人部屋なので1時間5千円。申し込みはネットから、暗証番号を伝えるので自分で開錠・施錠、使用後は原状復帰、ゴミが出たら持ち帰っていただく、という規則を作りました。違反した場合は使用禁止にします、というシンプルなシステムです。
市川完全にセルフサービスだったんですね。
河野そうなんです。そのうち「弁当が欲しい」「懇親会をしたい」といったご要望が出てきたので、私たち自身が弁当を買いに行ったり、オードブルをお皿に盛りつけてケータリングしたりしました。自分たちの手足を使うことがダイレクトに付加価値を生むので、面白かったです。
廣渡元々は伊藤忠商事で為替ディーラーをされていて、カブドットコム証券、イーバンク銀行の立ち上げにも携われたんでしたよね。大きな金額を動かす金融業の世界から、小さいビルを短い期間借りるという実業へ大きく転進された。
河野ディーラーも証券も銀行も画面上だけである程度完結していて、リアリティに欠けていると感じるようになってきたんです。扱う金額は小さくなりましたが、自分で会議室の机を「この1人の席が1時間100円だ」と思いながら拭くことが楽しくて。
廣渡「100円、100円」と思いながらですか?
河野快感ですよ 笑。掃除が終わると5千円が貯まるんです。
廣渡なるほど 笑。創業当時から「TKP」という名前にしていたのは、何の略だったんですか?
河野「Takateru Kawano Partners」だったんです。通称、タカP。
市川そう聞くと急に親しみやすくなりますね。
河野わかりやすいでしょう、「あっちにもこっちにもタカPがある」と思うと 笑。
全国各地へ広がった「TKP」。ワンストップでサービスを提供

廣渡TKPさんって印象に残りますよね。小ぎれいで、見たら忘れない。存在だけで広告効果がありそうです。
市川大きな街であればどこにでもある、というイメージがありますね。見かけると「ここにもあるんだ!」と思います。
河野例えば仙台なんかは、駅前だけで10店舗もありますからね。TKPマークが街のあちこちにあります 笑。
廣渡貸会議室業が当たる、と思ったのはどれくらいの時期でしたか?
河野始めて3ヶ月くらい経った頃ですね。当時は広くて安い公共施設を使う層と、狭くて高いホテルの宴会場を使う層に分かれていました。そこで狭くて安い会議室から始めたら、それなりに需要があったんです。その顧客基盤を持って部屋を広くしたりクオリティを上げたりして行くうちに、両方の顧客層を取り込めるようになりました。
廣渡今や大きく展開していますが、途中で厳しいと感じたような時期はありましたか?
河野もちろんありました。2011年に起きた東日本大震災後の自粛ムードで、たくさんキャンセルが出てしまった時です。とはいえ、その時は同業もやはりキャンセルでガラガラだったので、「これはチャンスだ」と思って、品川にあるホテルの宴会場を借り上げたんです。宴会のための料理人やサービスマン、厨房もTKPが引き受けました。料理を自前で作れるようになったので、このとき売上も利益率も一気に伸びました。
廣渡震災というピンチをチャンスに変えて成長に繋げたわけですね。これだけ大きくなった今、新卒もかなり採用しているんですか?
河野そうですね。毎年数十人採用していて、最初は現場で仕事をしてもらっています。
市川やっぱりまずはサービスを知ることなんですね。現場ではどんなことをするんですか?
河野コールセンターや営業マンとして、お客さんのお手伝いをします。
ネットで完結せずに対面でやり取りするのが、浮気されないポイントなんですよ。うちを利用するお客さんは、それなりに大きくてコストのかかったイベントを成功させることを最優先に考えているので、丁寧に打ち合わせをするようにしています。
それから、利用シーンに合った提案をするのも重要な仕事です。
廣渡会場選びも、営業マンの役目なんですか。
河野そうです。5つのグレードの会場を全国各地に用意していて、計画立案から運営までワンストップでサポートしています。TKPに一度頼んでしまえば、全国で、同じクオリティで、繰り返し実施できるんです。
市川予備校でアルバイトしていた頃、模試の会場としていつもTKPさんを利用していました。あちこちで毎回同じレイアウトで実施できるからだったんですね。
河野あとは大学入試や資格試験にもご利用いただいてます。都心から遠い大学のキャンパスだと一苦労ですが、TKPはどこも立地が良いので、受験のハードルを下げることができるんですよ。
廣渡全国の一等地に展開しているTKPさんだからこそできる戦略ですね
AGSの支援でマザーズへ上場。そしてその先へ
廣渡上場については、どうお考えですか?。
河野上場して、経営方針が株価に振り回される会社になっちゃいけませんよね。AGSさんにお願いしたのは、上場市場に振り回されず、むしろうまく利用する方法を一緒に考えてくれると思ったからです。僕がいきなり廣渡さんに電話して、お願いすることになりました 笑。
廣渡そう、直接電話がかかってきて 笑。六本木で食事しながら、「本当に上場するのか」と話していたのが懐かしいです。
「とにかく上場だ」というスタンスでは、結局上場した後の伸びがいまひとつ、ということもあるんですよね。上場した後、燃え尽きてしまって。
河野上場がゴールになってしまうんですよね。でも、あくまで資金調達の手段でなくてはならない。
廣渡まさにおっしゃるとおりだと思います。証券会社や監査法人が高校だとすると、私たちAGSは予備校みたいなものです。高校の授業じゃ足りない、死に物狂いでも東大に現役合格したい、という受験生のみなさんを全力でサポートします。そしてその後も戦友として、例えばM&Aや海外進出といった難問に、一緒にチャレンジしていく。これは普通の会計事務所では考えられないことですよ。
河野単なる会計事務所じゃなくコンサルティングサービスを提供していることで、会社と共にプラスアルファの価値を生んでいくわけですね。
小売店×貸会議室。TKPが考える、これからの空間活用とは

廣渡今やTKPさんは飛ぶ鳥を落とす勢いですが、今後やっていきたいことはなんですか?
河野最近はネット通販が伸びて小売店が厳しくなっているので、そこにチャンスがあると思っています。
ニューヨークの5番街の建物は、1階が商業施設で2階以上がオフィスになっているんですが、日本では新宿のような商業地、大手町のようなビジネス街、と役割が街ごとに分かれています。商業地の場合、休日は客で溢れていても平日は閑散としていて、ビジネス街はその逆。これがうまく補い合う形にできればいいのに、と思ったんです。
そこで、百貨店や小売店で平日に使っていないスペースを会議室にすればちょうど良いのでは、と。
廣渡TKPさんは平日の堅実な需要で、相当な人数を集めていますからね。
河野そうなんです。ターミナルステーションの近くなら商業地でも会議室の需要はあるので、ハイブリッドな形にすればいいと思っています。最近では大塚家具さんと業務提携して、新宿ショールームの最上階の催事場を、イベントホールとして改装し運営させていただくことになりました。
百貨店ならば半分をTKPに変えてしまって、平日は半分が会議室、休日は催事場にもなって売り場が二倍!という形にすれば、店舗をもっと有効活用できるのではないかと考えているところです。
廣渡リアルな店舗の需要はなくなりませんね。見たり触ったりしたいですし。
市川服や靴みたいに、どうしても実物を試して買いたいものもやっぱりありますよね。
河野リアルの店舗には、ショールームのような役割があるんですよね。こうした形で小売店を残していくことができれば、ゆくゆくはネットとリアルとの連動というところへ生きてくると思っています。
廣渡なるほど。これからはハイブリッドで付加価値を生み出していく時代ですね。
本日はありがとうございました。