統合報告書とはどういう資料かを解説しています。類似資料である有価証券報告書やアニュアルレポートとの違い、作成する上でのポイント、国内有名企業の統合報告書なども紹介しています。統合報告書について調べている方は参考にしてください。
目次
- 統合報告書とは
- 非財務情報(無形資産情報)とは
- 有価証券報告書との違い
- アニュアルレポートとの違い
- 統合報告書の作成は義務ではない
- 統合報告書が求められている理由
- ステークホルダーへの情報開示が求められている
- ESGが投資の判断基準となっている
- 人的資本開示が義務化された
- 統合報告書を作るメリット
- 企業の価値をステークホルダーに周知する
- 社内の文化や価値観を共有してエンゲージメントを強化する
- ダイベストメントのリスクを回避する
- 統合報告書を構成する8つの要素
- 価値観
- 長期ビジョン
- ビジネスモデル
- リスクと機会
- 実行戦略(中期経営戦略など)
- 成果と重要な成果指標(KPI)
- ガバナンス
- 実質的な対話・エンゲージメント
- 統合報告書を作成する際の4つのポイント
- 価値創造ストーリーを示す
- 経営情報と経営戦略を一致させる
- 読者が評価しやすい指標を用いる
- 幅広い読者の目をイメージする
- 統合報告書を作成する際の手順
- 1.同業他社の統合報告書をリサーチする
- 2.発行スケジュールや予算を決定する
- 3.統合報告書の方向性・盛り込む内容を固める
- 4.統合報告書を作成する
- 5.統合報告書を公開する
- 有名企業の統合報告書
- トヨタ自動車
- ANAホールディングス
- 伊藤忠商事
- まとめ
統合報告書とは

統合報告書とは、企業がステークホルダーに向けて作成・公開する情報開示資料の一つです。
特徴として、企業の財務情報と非財務情報を統合し、長期目線でのビジョンをステークホルダーに伝えることを目的にしている点があります。
単に過去の業績を報告するだけでなく、従来の「ヒト(人的資本)」「モノ(製造資本)」「カネ(財務資本)」に加え、「情報」「知的財産」「サプライヤー」「ブランド」など無形資産も取り入れた経営戦略を描くことが最大の特徴です。
統合報告書の読者は、投資家や株主にとどまりません。取引先、金融機関、地域社会、企業の将来を担う従業員まで、幅広いステークホルダーが、企業の長期的なビジョンや社会的責任に関心を持つようになっています。
近年では、特に、将来入社するかもしれない企業の情報を入手する目的で、求職者が統合報告書を見るケースが増えています。
非財務情報(無形資産情報)とは
非財務情報(無形資産情報)とは、貸借対照表や損益計算書などの財務諸表では捉えきれない、企業の社会的、環境的、ガバナンス(統治)に関する側面を示す情報です。
これらはまとめて「ESG(Environment, Social, Governance)」と呼ばれ、現代の企業価値を評価する上で不可欠な要素となっています。
| ESGを構成する要素 | 内容 |
|---|---|
| E (Environment:環境) | ・気候変動への対応 ・温室効果ガス排出量の削減目標 ・再生可能エネルギーの導入 ・廃棄物削減の取り組み |
| S (Social:社会) | ・従業員の労働環境 ・健康経営 ・多様な人材の登用(ダイバーシティ&インクルージョン) ・働きがいのある職場づくり ・顧客満足度向上への取り組み ・サプライチェーン全体の人権への配慮 |
| G (Governance:ガバナンス) | ・コンプライアンス(法令遵守) ・取締役会の独立性・多様性 ・リスク管理体制 ・公正な経営判断を下すための仕組み |
このように、非財務情報は、企業が直面するリスクや機会、そして持続可能性を多角的に評価するための指標であり、統合報告書の中核をなす重要な要素となります。
有価証券報告書との違い
「有価証券報告書」は、金融商品取引法によって上場企業に提出が義務付けられている法定開示資料です。記載内容が、法律で厳格に定められており、企業の資産、負債、損益といった財務情報が中心となります。
有価証券報告書の目的は、過去の財務実績や経営状況を詳細かつ正確に報告することです。
両者を比べるなら、有価証券報告書が企業の過去の財務状況を示す「成績表」であるのに対し、統合報告書は未来への成長戦略を描く「計画書」のような役割を持つといえるでしょう。
アニュアルレポートとの違い
「アニュアルレポート(年次報告書)」は、統合報告書と類似した、ステークホルダー向けの情報開示資料です。しかし、その内容や読者層に違いがあります。
アニュアルレポートは、株主や投資家向けに、1年間の事業概況や財務実績を報告するものです。統合報告書と同様に、非財務情報を含むこともありますが、その中心は、あくまで財務実績に置かれています。
これに対して、統合報告書は、財務と非財務を盛り込んだ経営資源を基にした、長期的な戦略や社会的価値の創造プロセスを重視します。
両者を比べるなら、アニュアルレポートが過去の実績を報告する「記録」、統合報告書は未来へのビジョンを示す「宣言」に近いといえるかもしれません。ただし、企業によっては、統合報告書とアニュアルレポートを統合して発行する場合もあります。
統合報告書の作成は義務ではない

統合報告書の作成および公開は、有価証券報告書とは異なり、法律に定められた義務ではありません。
しかし、財務情報には表れないデータをステークホルダーに伝え、対話する手段として、利用する企業は増え続けています。

出典:宝印刷D&IR研究所「統合報告書発行状況調査2024」
上場企業だけでなく、中小企業においても、自社の目指す姿や、現在の状態をステークホルダーに伝える手段として、統合報告書は効果的だといえるでしょう。
人材確保の面から見ても、若い世代の求職者ほど、会社の中長期の方向性を重視する傾向にあります。
統合報告書が求められている理由

多くの企業が、統合報告書を自主的に作成するようになった背景には、以下のような理由が挙げられます。
- ステークホルダーへの情報開示が求められている
- ESGが投資の判断基準となっている
- 人的資本開示が義務化された
それぞれについて、説明します。
ステークホルダーへの情報開示が求められている
2020年ごろから、米国では、企業価値に対して無形資産の価値の割合が8割以上となっており、単に財務情報のみで企業価値を測ることはできなくなっています。
また、市場のグローバル化や、テクノロジーの進化により、ビジネス環境は複雑化し、企業を取り巻くリスクも多様化しています。
こうした状況下で、環境・社会・ガバナンスの要素を盛り込んだ経営戦略を描くことで、持続的な利益や企業の発展に寄与することが可能となります。
ESGが投資の判断基準となっている
近年、企業の財務情報だけでなく、ESGへの取り組みを考慮して投資先を決定する「ESG投資」が世界的に拡大しています。
投資家がESGを重視する理由は、それが企業の長期的な成長性とリスク管理能力を測る重要な指標だと考えているためです。
例えば、環境に配慮しない企業は、将来的に法規制強化やブランドイメージの毀損といったリスクが顕在化する可能性を否定できません。
また、従業員の働きがいを軽視する企業は、優秀な人材を確保できず、イノベーションの創出に課題を抱える可能性があります。
統合報告書は、こうした投資家のニーズに応え、自社のESGへの取り組みを体系的に開示する役割を担います。
人的資本開示が義務化された
2023年3月期決算から、上場企業は、有価証券報告書において「人的資本」に関する情報の開示が義務付けられました。これは、「多様性の確保」「人材育成方針」「社内環境整備方針」といった、企業の競争力や持続可能性の源泉となる情報を開示することを求めるものです。
しかし、人的資本が企業の成長戦略とどのように結びついているのかを、ストーリー性をもって伝える統合報告書のほうが、より適しているといえます。
例えば、「従業員のスキルアップ投資が、新たなイノベーションの創出に繋がり、結果として企業価値の向上に貢献している」といった具体的なストーリーを語ることで、投資家からの評価を高められます。
なお、2025年3月には、サステナビリティ関連の開示におけるグローバルな基準(IFRS S1・S2)の日本版に当たる「サステナビリティ開示基準」が公表されています。
今後、統合報告書を作成する上では、こうした潮流を意識し、自社の情報をグローバル基準に沿って開示していく視点がますます重要になるでしょう。
出典:サステナビリティ基準委員会「サステナビリティ開示ユニバーサル基準 サステナビリティ開示基準の適用」
統合報告書を作るメリット

統合報告書を作ることは、企業に以下のようなメリットをもたらします。
- 企業の価値をステークホルダーに周知する
- 社内の文化や価値観を共有してエンゲージメントを強化する
- ダイベストメントのリスクを回避する
それぞれについて、説明します。
企業の価値をステークホルダーに周知する
企業のブランドイメージ、卓越した技術力、従業員のモチベーションなどの無形資産は、企業の長期的な価値を支える重要な要素です。
統合報告書は、これらの無形資産が、どのように企業の成長に貢献しているかを可視化し、投資家や金融機関、社会全体に効果的に伝える資料です。
財務情報には表れない無形資産を、統合報告書を使ってステークホルダーに周知することで、市場からの評価につながります。
社内の文化や価値観を共有してエンゲージメントを強化する
統合報告書は、社外向けだけでなく、社内向けのコミュニケーションツールとしても非常に有効です。
従業員に統合報告書を共有することで、企業が目指すビジョンや、社会に提供している価値を再認識させることができます。「自分たちの仕事が社会にどう貢献しているのか」という共通の認識を持てば、従業員のモチベーションが向上し、企業への帰属意識が高まり、エンゲージメントの強化につながるでしょう。
統合報告書を作成することは、優秀な人材の定着や、組織全体の生産性向上にも寄与します。
ダイベストメントのリスクを回避する
ESGの観点から、社会的責任を果たさない企業への投資を避ける「ダイベストメント(資金の引き上げ)」という動きが、近年強まっています。
統合報告書を通じて、ESGへの積極的な取り組みを体系的にアピールすることは、こうしたリスクを低減する上で非常に効果的です。
持続可能な社会の実現に貢献している姿勢を示せれば、責任ある投資家からの信頼を獲得し、安定的な資金調達基盤を築けるでしょう。
統合報告書を構成する8つの要素

統合報告書の中心となる要素は、以下の8つです。
これらの要素が有機的に繋がり、企業の価値創造ストーリーを構成します。
- 価値観
- 長期ビジョン
- ビジネスモデル
- リスクと機会
- 実行戦略(中期経営戦略など)
- 成果と重要な成果指標(KPI)
- ガバナンス
- 実質的な対話・エンゲージメント
それぞれについて、説明します。
価値観
社会に対してどのような価値を提供するかを示す、企業固有の価値観を明確にします。
これは、単なる建前ではなく、経営の根幹をなすものです。
報告書では、創業者の精神や社訓の本質的な部分を抽出し、それがどのように日々の事業活動に反映されているのかを説明します。
価値観を明確にすることで、企業は一貫した経営判断を下し、ステークホルダーの信頼を築けます。
長期ビジョン
数値目標ではなく、「どのように社会に貢献し、持続的な成長を実現するか」という、共有可能なビジョンです。
例えば、「デジタル技術で社会課題を解決するリーディングカンパニーになる」といった、未来像を描きます。
ビジョンは、価値観と一貫性を持ち、従業員一人ひとりの目標ともなるようなものが望ましいでしょう。
ビジネスモデル
ヒト・モノ・カネ、情報など、自社の持つ経営資源をどのように組み合わせ、顧客や社会に価値を提供していくのか、という具体的な仕組みを説明します。
ビジネスモデルが明確でなければ、投資家は企業の収益構造や競争力を深く理解できません。
リスクと機会
企業が長期的な価値創造を実現する上で直面する、外的・内的な要因を分析します。
気候変動、技術革新、市場の変化、少子高齢化など、企業を取り巻くリスクは一様ではありません。
一方で、経営環境が急速に変化する中で、新たな事業機会も多数存在します。それらを把握し、長期ビジョンやビジネスモデルにどのように反映されているのかを示すことが必要です。
リスクを開示することは、企業にとって必ずしもネガティブではなく、経営の透明性を高め、ステークホルダーからの信頼を勝ち取ることにつながります。
実行戦略(中期経営戦略など)
長期ビジョンを実現するための、具体的な行動計画を提示します。
行動計画の内容としては、例えば、新規事業への投資、M&A、DX推進などが挙げられるでしょう。
現在の財務状況やリスク・機会の分析を踏まえ、今後数年間でどのような戦略を実行していくかは、長期的なビジョンと日々の事業活動を結びつける重要な要素であり、企業の成長性を評価する上で不可欠な情報です。
成果と重要な成果指標(KPI)
過去の戦略がどのような成果を生み出してきたのか、どのように評価しているのかを示す指標です。
KPI(重要業績評価指標)を用いることで、戦略の進捗状況を客観的に管理し、必要に応じて戦略を見直すことができます。
とりわけ、統合報告書においては、財務的な成果だけでなく、ESGに関する目標達成度などもKPIとして設定することが重要です。
ガバナンス
長期的な企業価値向上に向けた、組織を規律づける仕組みです。
取締役会の役割、監査体制、リスク管理体制など、経営の透明性や健全性を確保するための仕組みを、具体的に説明します。
実効性のあるガバナンス体制が、不正や不祥事のリスクを低減し、企業価値を守ります。
実質的な対話・エンゲージメント
統合報告書は、一方的な情報開示で終わるものではありません。企業と社内外のステークホルダーが、対話を通じて報告書の内容を磨き上げていく共同作業の側面も持ちます。
対話を通じて、企業の価値創造ストーリーをさらに深め、ステークホルダーとの関係性を強化していくことは、統合報告書の最終目標の一つです。
統合報告書は、企業とステークホルダーが、共に未来を創るパートナーシップを築くための基盤となります。
統合報告書を作成する際の4つのポイント

統合報告書を、単なる情報開示資料ではなく、企業価値向上に貢献する戦略的なツールにするためには、いくつかのポイントを押さえる必要があります。
特に心掛けたいのは、以下の4点です。
- 価値創造ストーリーを示す
- 経営情報と経営戦略を一致させる
- 読者が評価しやすい指標を用いる
- 幅広い読者の目をイメージする
それぞれについて、説明します。
価値創造ストーリーを示す
統合報告書が、他の情報開示資料と最も異なる点は、統合報告書は「ストーリー」を語る資料であるということです。
統合報告書は、企業がどのような経営資源を投下し、どのような活動を通じて価値を生み出し、社会やステークホルダーに還元し、さらに再投資しているのか、という一連の「流れ」を物語として描きます。
自社の価値観(パーパス)を軸に、ビジネスモデル、ESGへの取り組みなどを戦略に組み込んだ一貫したストーリーとしてうまく描ければ、企業の存在意義や競争優位性がより鮮明になり、読者にビジョンや企業価値が自然と伝わります。
ただし、良いストーリーを描くには、経理、経営企画、人事、環境、IRなど、社内の多岐にわたる部署の協力が不可欠です。部署間の縦割り意識が強いと、必要な情報がスムーズに集まらないケースもあります。
制作チームに各部署のキーパーソンを巻き込み、全社的なプロジェクトであるという認識を持たせましょう。
経営情報と経営戦略を一致させる
統合報告書に掲載する情報が、統合報告書が伝えたいストーリーや、実際の経営戦略と乖離していては、意味がありません。
まず、描きたいストーリーを明確にした上で、そのストーリーを裏付けるような定量・定性情報を厳選して掲載することが重要です。
併せて、経営陣の考えや事業活動が、統合報告書が伝えるメッセージと一貫しているか確認しましょう。
統合報告書は、経営陣への深いヒアリングを通じて、企業の「ありたい姿」を言語化することが第一歩です。その上で、どの情報がストーリーを最も効果的に補強するか、取捨選択していく編集能力が問われます。
読者が評価しやすい指標を用いる
統合報告書では、財務情報と非財務情報を関連づけて開示します。この際、PER(株価収益率)やROE(自己資本利益率)、ROIC(投下資本利益率)といった、投資家が重視する指標を適切に用いると効果的です。
また、定性的な情報についても、取り組み内容とその実績を、なるべく数値や具体的な事例で可視化しましょう。
とはいえ、非財務情報の成果を、どのように客観的な数値(KPI)で示すかは、非常に難しい問題です。
最初から完璧を目指さず、まずは測定可能な指標から始め、ステークホルダーとの対話を通じて、より適切なKPIへと毎年見直していく姿勢が大切です。
幅広い読者の目をイメージする
統合報告書のメイン読者は、あくまで投資家や株主ですが、それ以外にも、エンドユーザー、地域住民、従業員など、読者層は多岐にわたります。
そのため、専門用語を用いる場合でも、分かりやすい解説を加えたり、図表を多用したりするなど、多様な読者が内容を理解できるような工夫を心がけましょう。
企業が社会に提供する価値を、誰もが共感できる形で伝えることが大切です。
統合報告書を作成する際の手順

統合報告書は、企業のビジョンや価値観を深く掘り下げ、社内外のステークホルダーと対話する戦略的なプロジェクトであり、単に情報を集めて資料にまとめる作業ではありません。
作成にあたっては、綿密な計画と、社内各部署の協力が不可欠となります。
必要に応じて、コンサルタントやIR専門の制作会社など、外部専門家の力を借りることも、質の高い報告書を作成する上で、非常に有効な手段です。AGSグループでは、ESG(環境、社会、ガバナンス)視点で外部・内部環境の分析や、インタビューやサーベイを活用した非財務分野の調査などの支援を行っておりますので、ご興味がある方はお気軽にお問い合わせください。
具体的に、統合報告書は、以下のようなステップを踏んで作成します。
- 同業他社の統合報告書をリサーチする
- 発行スケジュールや予算を決定する
- 統合報告書の方向性・盛り込む内容を固める
- 統合報告書を作成する
- 統合報告書を公開する
それぞれについて、説明します。
1.同業他社の統合報告書をリサーチする
統合報告書の作成は、自社の立ち位置を把握することから始まります。まず、同業他社や、他分野でも高い評価を得ている統合報告書があれば、徹底的にリサーチしましょう。
リサーチする際には、以下のポイントに注目すると効果的です。
- どのようなストーリーを描いているか
- ESGのどの項目に重点を置き、どのようなKPIを設定しているか
- デザインと構成
- 経営陣がどのような言葉で自社のビジョンを語っているか
- 各社の強みと自社の強みは何か
他社の報告書を研究することは、自社の差別化を図るためのヒントを得る上でも非常に有益です。
2.発行スケジュールや予算を決定する
統合報告書の制作には、半年から1年程度の期間を要することが一般的です。
例えば、3月決算の企業は、9月に統合報告書を発行する割合が高いですが、有価証券報告書と同時期の6月に、統合報告書も発行することが望ましいとされています。
この段階で決定すべき項目としては、以下のようなものが挙げられます。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 全工程の担当者・納期 | 全工程を洗い出し、企画、取材、原稿作成、デザイン、校正、印刷、公開など、それぞれの担当者と納期を定める |
| 予算 | 制作会社への依頼費用、デザイナーやカメラマンへの発注費用、印刷費用、Webサイトへの公開費用など、かかるコストを詳細に見積もる |
| 発行タイミング | 株主総会や決算発表といった重要なイベントに合わせ、いつ公表するのが最も効果的かを検討する |
スケジュールが遅れると、最新の情報が反映できなかったり、公開タイミングを逸したりするリスクが生じます。
余裕を持ったスケジュールを設定しましょう。
3.統合報告書の方向性・盛り込む内容を固める
リサーチとスケジュールの策定が終わったら、報告書の骨格を固める段階に入ります。
検討にあたっては、経営層だけでなく、現場の意見も十分に反映させ、報告書に「企業のリアルな姿」を盛り込むことを心がけましょう。
このプロセスでは、以下のような視点が重要となります。
発行目的の明確化
誰に、何を伝えたいのかを見定めます。
統合報告書のメイン読者は投資家ですが、それ以外にも従業員、地域社会住民など、想定するターゲット層を絞り込み、目的に応じた内容とトーンを決めましょう。
「価値創造ストーリー」の言語化
自社がどのような価値観を持ち、どのようなビジョンを描いているのかを、経営陣や各事業責任者へのヒアリングを通じて言語化します。
報告書を通じて、1つのストーリーを描くことを意識しましょう。
フレームワークの活用
経済産業省が策定した「価値共創ガイダンス」や、世界的に利用されているIIRC(国際統合報告評議会)の「国際統合報告フレームワーク」といったガイドラインを参考にすると、盛り込むべき項目や、財務情報と非財務情報の関連付けを体系的に検討できます。
重要課題の特定
自社の事業と社会課題の接点を分析し、解決すべき「重要課題(マテリアリティ)」を特定します。
自社が解決すべき社会課題を明確にすることにより、説得力のあるサステナビリティ戦略を構築できます。
4.統合報告書を作成する
内容が固まったら、いよいよ制作段階です。この段階では、社内各部署との連携が、重要になります。
半年から1年にわたる制作期間の中では、決算資料や事業の進捗、受賞歴などの情報が更新されることが多いため、最新情報を収集し、随時報告書に反映させることも、忘れてはいけません。
また、経営陣や法務部門など、複数の部署による都度都度のレビューと承認作業も生じます。報告書の最終的な内容に責任を持つ体制を確立しておきましょう。
5.統合報告書を公開する
完成した統合報告書は、公表するだけでなく、より多くのステークホルダーに届けるための工夫が必要です。
読者層や目的に応じて、以下のような方策を検討しましょう。
- 自社サイトでの公開
- 決算説明会や株主総会での配布
- プレスリリースの配信
- 紙媒体での配布
- 動画やSNSでの展開
公開後も、ステークホルダーとの対話を通じてフィードバックを得ることが重要です。
フィードバックを次回の報告書作成に活かし、より質の高い報告書へと進化させていきます。
有名企業の統合報告書

統合報告書には、それぞれの企業の特性や戦略が、色濃く反映されています。
ここでは、国内の大企業3社の統合報告書を紹介します。
トヨタ自動車

トヨタ自動車の統合報告書は、「幸せの量産」を使命に掲げ、製造業としての安全性と品質向上、サステナビリティやカーボンニュートラルへの取り組みを詳細に盛り込んでいます。
特に、近年になって立て続けに発覚した国内自動車メーカーの不正認証問題を受け、その反省と再発防止に向けた道筋を正直に開示している点が特徴的です。
その他、解決すべき社会的課題として「「Mobility for All(誰一人取り残さず移動の自由を届けること)」を挙げ、クルマが社会システムの一部となるエコシステムの構築を目指すとしています。
ANAホールディングス

ANAホールディングスの統合報告書は、航空事業の根幹である「安全」を揺るぎない経営の軸に据えている点が最大の特徴です。
また、LCC(格安航空会社)を含むマルチブランド戦略や「ANA経済圏」の拡大を通じて、「空からはじまる多様なつながり」を創造することを伝えています。
持続可能な航空燃料であるSAFへの取り組み強化など、環境課題への取り組みも強調されています。
伊藤忠商事

伊藤忠商事の統合報告書は「商人の精神」を基盤に据えている点が特徴です。
「利は川下(かわしも)にあり」という独自の経営哲学を徹底し、消費者に近い「川下」領域での事業展開と、グループシナジーの最大化による企業価値向上を目指す姿勢を鮮明にしています。
特に、「企業ブランド価値」と「人材」を成長の重要な要素と捉え、高効率経営と堅実な財務戦略を追求している点が、伊藤忠らしさを表現しています。
なお、同社の統合報告書は、年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF)が選定する「優れた統合報告書」に、最多得票で選出されました。
出典:伊藤忠商事「GPIFの国内株式運用機関が選ぶ「優れた統合報告書」に最多得票で選出、更に「第4回日経統合報告書アワード」において「準グランプリ」を受賞」
まとめ

統合報告書は、財務情報と非財務情報を統合し、企業の長期的な価値創造ストーリーを伝えるための重要な資料です。
有価証券報告書やアニュアルレポートが過去の実績を主に開示するのに対し、統合報告書は企業の将来性や持続可能性をアピールする役割を担います。
法律上の義務ではないものの、投資家がESGを重視する現代においては、ステークホルダーとの信頼関係を築き、企業価値を高めるための不可欠なツールとなりつつあります。
ぜひ、この機会に統合報告書について理解を深め、今後のビジネスに活かしてください。
