M&Aにおけるデューデリジェンス(DD)の意味とは?目的や種類、方法を解説

M&Aにおけるデューデリジェンス(DD)の意味とは?目的や種類、方法を解説

M&Aにおけるデューデリジェンス(DD)は、企業の事業価値やリスクなどを分析・評価する調査活動です。今回は、M&Aにおけるデューデリジェンスの意味やメリット、留意点などを解説します。買い手企業と売り手企業の双方の視点から説明するので、ぜひ参考にしてみてください。

すべて表示

M&Aにおけるデューデリジェンスの意味・意義

M&Aにおけるデューデリジェンスの意味・意義

デューデリジェンス(Due Diligence)は、DDとも呼称され、元々はDue(相当な、適切な、正当な)とDiligence(注意)を意味する言葉です。

ビジネス上のデューデリジェンスは、取引上の相当の注意を果すための履行手続きです。とりわけ、特定取引行動の実施前に行うもの、取引主体である企業の価値やリスクなどを分析・評価する調査活動を意味します。

M&Aの世界において、デューデリジェンスは「買収監査」とも呼ばれ、買い手企業による買収対象会社の財務内容などの正確性を確認するための調査です。あくまで、買い手企業からの視点となっています。

金融機関において、融資活動の一環で対象企業に実施される場合もありますが、M&Aの世界の「デューデリジェンス」とは異なり、使用頻度も多くありません。

買い手企業にとってのデューデリジェンス

M&Aでリスクを負担するのは、主に買い手企業です。そのため、案件の成否を左右する最も重要かつ必須の手続きです。

対象会社のリスクを的確に認識し、M&A取引実施に関わる問題点や留意点を検証します。

売り手企業にとってのデューデリジェンス

デューデリジェンスを受ける売り手企業にとっては3つの重要な点があります。

  • 買い手企業に不信感を与えず積極的な協力姿勢を示す
  • 全てを明らかにして、問題点や潜在的なリスクを買い手企業に把握してもらう
  • 上記を前提にして、売買条件などの交渉を行う

売り手企業が自ら行うセルサイドデューデリジェンスは、売り手企業側でも事前に自社の問題点や潜在的なリスクを把握することにより、買い手企業からのデューデリジェンス前に治癒しておいたり、交渉をスムーズにしたりする効果があります。

企業調査とデューデリジェンス

企業調査とは、一般的に取引先企業の信頼性を調査することで、調査会社としては帝国データバンクや東京商工リサーチ等を想起するでしょう。

一方、デューデリジェンスは、M&Aや投融資、事業再生を行おうとする際に、対象企業の財務的、法務的事項などを調査する活動です。

M&Aにおけるデューデリジェンスの目的と方法

M&Aにおけるデューデリジェンスの目的と方法

目的

デューデリジェンスの全般的な目的は次の2点です。

  1. 買収対象の企業や事業の実態を把握し、内包する様々なリスク要因を特定する
  2. 買収対象の企業や事業の現時点の状況調査だけでなく、買収後に自社へどのようなシナジーが創出されるかを把握する

リスク確認と企業価値評価による価格妥当性

リスク確認

M&Aの成否の鍵を握るのが、リスク確認です。M&A実施の意思決定のため買収対象企業の問題点や簿外債務など、経営上のリスクを把握します。

リスクを確認していない場合、買収後に不慮の揉め事が起きて予期しない損害を受ける可能性があるため、留意が必要です。リスク回避の対応としては、次の4点があります。

  • M&A自体の中止
  • 買収価格の値下げ
  • クロージング前に売り手企業においてリスクを解消するよう働きかけ
  • 売り手企業へのリスク転嫁

企業価値評価による買収価格等の妥当性

対象企業の全体又は一部の事業の財政状態・収益の状況などを分析して、企業価値評価(バリュエーション:valuation)を行います。

そして、M&Aの買収価格が妥当なのか、投資額が予測内で回収可能なのかなどを算定します。

シナジーと説明責任

シナジーの予測

デューデリジェンスにより、対象企業の特徴を分析して、固有の技術やノウハウ、販売網などの強みを探り出します。

それをもとに、買収後の成長可能性を評価し、自社とのシナジーがどのように発揮するかを予測することができます。

ステークホルダーへの説明責任

M&Aによるシナジーの予測とその根拠について、株主等のステークホルダーに丁寧な説明をする責任があります。

スキームと契約内容

M&Aのスキームは、多岐にわたります。

目的や企業の状況によってどのスキームがよいのか異なってきます。デューデリジェンスによって対象企業の詳細を分析し、親和性の高いスキームを検討することが必要です。

また、デューデリジェンスにより予想外のリスクや問題が浮かび上がる可能性があります。取得情報をもとにリスク回避措置等を買収の最終契約書に織り込むなど、契約内容の検討も求められます。

買収後の経営管理体制

M&A成立後は、新会社の事業価値向上への経営統合プロセス(PMI:Post Merger Integration)が実施されます。

PMIは、シナジーを迅速かつ効果的に実現させるために、経営管理体制を構築する作業です。PMIにより、M&A成功のためのロードマップを描き、総合的な経営改革を進めていきます。

デューデリジェンスの方法

デューデリジェンスの方法については3つあります。

DDの方法内容
内製(全部自社)専門家・有資格者などの人的資源を自社で全て揃え、当該メンバーで実施
外部委託人材不足や制約、公平性や説明責任が問われるなどのケースで専門家へ外注
一部外部委託・社内分担一部を自社で、専門性の高い部分を外部委託して社内外で分担

どれを選択するかは、案件の規模・質や必要性・緊急性、コストを検討して決定します。

基本的な項目としては、ビジネス(事業)や財務、法務、税務です。また、案件の規模や内容、重要度によって、人事、IT、環境、技術、知的財産、サステナビリティなどが部分的に行われます。

M&Aにおけるデューデリジェンスのメリット

M&Aにおけるデューデリジェンスのメリット

買い手企業にとってのメリット

プレデューデリジェンス

基本合意契約までに実施される「プレデューデリジェンス」では、次の2点を事前に認識します。

  • 事前提供された限定情報と独自収集資料から、売り手企業の概要と自社の事業との相性
  • シナジー効果の生起可能性

この事前認識をすれば、その後の本デューデリジェンスを効果的に実施できます。

本デューデリジェンス

基本合意契約から最終譲渡契約までの間に実施されるのが、本デューデリジェンスです。

デューデリジェンスの結果、次の3つの対応策が可能になる点がメリットとして挙げられます。

  • M&Aの中止
  • M&Aスキームの変更
  • 売買価格の見直しなどによるM&Aの続行

売買価格の見直しなどによるM&Aの続行

最終譲渡契約後からクロージングまでに実施されるため、次のシナリオを想定します。

  • デューデリジェンスでの簿外債務の発見から、債務不履行訴訟への発展
  • 最終譲渡契約事項として、売り手企業の責任・義務を明確にする

その結果、M&A中止のリスクも軽減され、コストの抑制も期待できます。

売り手企業にとってのメリット

近年、売り手企業でも、本格的M&Aプロセスに進む前に自分の会社のデューデリジェンスを実施することが多くなってきました。

「セルサイドデューデリジェンス」と呼ばれるものです。主なメリットとしては、次の2点があります。

  • 自社の事業を事前に分析・調査することで、合理的な希望売却価格の設定ができる
  • 自社とのシナジー効果と企業価値との整合性などについて、本格的な面談や交渉時に具体的数値で説明できる

M&Aにおけるデューデリジェンスの種類

M&Aにおけるデューデリジェンスの種類

デューデリジェンスの調査対象は、多方面にわたります。

人事、IT、環境、不動産、技術、知的財産、顧客、ガバナンス、人権、社会、サステナビリティなどです。特に重要なものは、ビジネス(事業)、財務、法務、税務となっており、ほぼ必ず実施されます。

ビジネスデューデリジェンス

事業デューデリジェンスとも呼ばれます。

売り手企業のビジネスの仕組みを把握し、外部環境や内部環境を踏まえた上で、事業計画をもとに買い手企業が事業性評価を行い、最終的な買収価格を決定していくために調査・分析するものです。

主な専門家としては経営コンサルタントが担います。

コマーシャルデューデリジェンス

ビジネスデューデリジェンスのうち売上を重視するもので、主に対象の企業・事業の外部環境を踏まえて市場性評価を行います。

マーケットの環境と事業の状況を分析し、自社の強みと弱みを考慮に入れ、売上に重点をおいて精査します。

また、コストで精査するものは、事業計画に盛り込まれているコスト計画です。

オペレーションデューデリジェンス

ビジネスデューデリジェンスのうち、組織やオペレーションといった内部環境が買収後のコストに与える影響を主に分析します。

グループ他社に依存している機能(経理機能は親会社で実施しているなど)があったり、グループで共通インフラがあったりする場合、買収後のコストはアップすることになります。

また、生産能力を強みとする製造業の場合は、緻密な分析を必要とします。

財務デューデリジェンス

対象企業が作成した財務諸表により、当該企業の財務状況について、正確な基礎情報を調査・検証します。

そして、将来の期待収益水準や適正範囲内の債務などのリスクを洗い出します。

財務諸表は貸借対照表、損益計算書、キャッシュフロー計算書のことです。また、財務状況は財政状態、経営成績、資金繰りなどをいいます。

主な専門家としては、公認会計士や税理士が担います。

法務デューデリジェンス

次の5つの法務上のリスクを洗い出すことです。

  • 対象企業が締結した重要な契約や保有している権利
  • 債権債務などの法的基本事項の検証と確認
  • 違法・不当行為の有無
  • 重要な法律との関係
  • 訴訟リスクや継続訴訟の有無の確認

範囲は幅広く、ほかのデューデリジェンスとも密接に関連してM&A後の事業に大きな影響も与えるので、重要なポジションを占めています。

主な専門家としては弁護士が担います。

税務デューデリジェンス

財務デューデリジェンスと関連しており、次の3つの税務リスクの有無・程度を確認し、リスク事項を洗い出すことです。

  • 租税債務の適切な納付
  • 組織再編等の税務処理
  • 繰越欠損金や含み損

税務調査状況、海外取引、組織再編などに、とりわけ留意することが求められます。

主な専門家としては、税理士が担います。

人事デューデリジェンス

対象企業における人員構成、役員やキーパーソンとの関連事項、人事制度、企業文化・企業風土について調査・分析を行います。

経営資源のヒトは意思を持った従業員であることから、対応には細心の注意と十分な取り扱いが求められます。将来の事業統合といった観点からは、リスクの洗い出しだけでなく早期から時間をかけた対応策をとることが重要です。

主な専門家としては社会保険労務士や弁護士が担います。

技術デューデリジェンス

R&Dプロジェクトや知的財産デューデリジェンスとも密接に関わっています。

次の3点のテクノロジーの側面での分析・評価を行うものです。

  • 対象企業における核たる技術の特定や製品開発の状況
  • ライバルとの比較優位性の品評
  • 内部・外部間の技術アライアンスとそれに伴うシナジー効果

環境デューデリジェンス

対象企業における土地・建物等の不動産、及び工場や機械設備等の動産を対象に、以下の点で環境上の価値・リスクの精査・分析・評価をします。

  • 土壌汚染・大気汚染・騒音などに対する環境関連の許認可の確認
  • 環境管理体制
  • サプライチェーン

世界的に高まってきている環境問題は国内だけでなく、海外でも意識する必要があります。

IT デューデリジェンス

対象企業における情報システムの状況を網羅的に把握します。

そして、PMIをより強く意識したシステム統合、企業価値や売却価額、経営や事業でITの課題と対応を明確化し、評価していきます。

特に、先端技術企業のM&A案件は増加の一途をたどることが予測され、IT デューデリジェンスはさらに重要になるでしょう。

サイバーセキュリティデューデリジェンス

セキュリティ機能の有無、導入予定の製品のデータセキュリティの担保の可否、攻撃耐性の侵入テストの実施などを調査します。

デジタルデューデリジェンス

最新デジタル技術の導入程度、及び当該技術を利活用したソリューションやサービスの機能・特徴・技術レベルを確認します

そして、企業価値向上への貢献度、市場価値や競争優位性などを分析・評価します。

不動産デューデリジェンス

対象企業が保有する不動産について、経済的側面、法的側面、物理的側面の3点から多面的に調査を行うことです。経済的側面は地域市場の採算性などがあります。

法的側面は違法性のような土地建物の権利関係などをいいます。また物理的側面は、耐久性・有害物質汚染を含む建物の外観・状態などのことです。

知的財産デューデリジェンス

対象企業が保有する知的財産について権利侵害の有無などを調査・分析し、事業上の知的財産リスクの定性面・定量面を評価することです。知的財産は、対象企業が保有する特許や商標、著作権、営業秘密やライセンス契約などです。

権利侵害の有無などは、競合も含めた特許文献、ライセンス収入といったものから把握します。

ガバナンスデューデリジェンス

対象企業・事業の経営ガバナンスの運用実態を把握し、自社基準との釣り合いや、買収後に予測されるリスクを吟味することです。

子会社管理規程や決裁権限規定等の運用分析から開始され、法務デューデリジェンスとの連携も求められます。運用子会社のガバナンス体制の設計、マネジメント報酬や処遇関係などにも有益です。

社会デューデリジェンス

広義には、人権、環境、ESG、SDGs、サステナビリティの各々の個別デューデリジェンスを包括した概念です。

狭義では、人権と環境にプラスアルファしたデューデリジェンス概念です。

企業の人権・労働の方針、紛争鉱物調達の方針、サプライチェーンの管理、評判、苦情処理などについて評価を行います。方針や管理体制の不備への内部管理費用などをはじめとした、対策・改善を進めるものです。

M&Aにおけるデューデリジェンスの進め方

M&Aにおけるデューデリジェンスの進め方

プレデューデリジェンス

売り手企業による初期的開示書類をベースに、買い手候補企業も自ら売買対象企業の情報を収集し、予備的な企業評価を行います。

本デューデリジェンス

1. 具体的な実施計画の策定

まず、買い手企業は、制約条件下で調査対象の範囲の決定と手順の流れを明確化するため、具体的なデューデリジェンス実施計画を策定します。

次に、デューデリジェンスの方針として方向性も検討します。デューデリジェンスの方針とは、調査事項の優先順位、専門家の選定と委託範囲、社内検討チームの組成、などのことです。

2. 詳細な情報収集・分析と調査

買い手企業は共通調査事項の基礎情報と個別調査事項の詳細情報を収集し、外部専門家を含む担当が厳格な管理下で共有します。

対象企業における組織構造とガバナンス、全社・事業戦略と事業計画、実施状況との整合性などの共通の基礎的分析・調査から開始されます。

そして同時進行で、ビジネス、財務、税務、法務など個別デューデリジェンスを行います。インタビュー・現地調査を行いつつ、進捗状況の確認も行いましょう。

3. 報告書の作成と結果の検討

買い手企業は開示資料の分析やインタビュー・現地調査の結果をもとに報告書を作成します。

4. 顕在化問題への対応

分析・調査の結果、顕在化問題が解決不可能な場合、M&A契約自体の断念、又はM&Aを続行可能とするための対応策が求められます。

その対応策には最終契約書の見直し、M&Aスキームの変更、売却価格の引き下げなどがあります。

ポストデューデリジェンス

最終譲渡契約までに終了するのが通常です。

このポストデューデリジェンスで、問題点の解決状況の確認、クロージング後に行う統合化(PMI)のための情報収集を行います。

M&Aにおけるデューデリジェンスの費用と会計処理

M&Aにおけるデューデリジェンスの費用と会計処理

費用

デューデリジェンスの費用は、買い手企業が専門家へ依頼する際の報酬であり、対象会社の規模や調査の期間等により異なりますが、小規模な案件でも100万円以上、大規模な案件になれば数百万円以上、数千万円になることもあります。

会計処理

デューデリジェンス費用の会計処理上における扱いとして、税法・会計上のルールと裁決事例では、「デューデリジェンス実施時点で購入する有価証券が決定している場合、調査費用は取得価額に含める」という考え方に立脚しています。

それを踏まえて、一般的にデューデリジェンスはM&Aの基本合意締結後に実施されるものであることから、デューデリジェンス費用は取得した対象会社株式の取得価額に含まれることになっています。

M&Aにおけるデューデリジェンスの留意点

M&Aにおけるデューデリジェンスの留意点

情報漏洩

もし、売り手企業の情報を外部流出させた場合には、次の2つのリスクがあります。

  • M&Aの物別れ
  • 売り手企業から秘密保持契約に基づく損害賠償請求

タイミング

M&Aの成功の可能性が低い時期にデューデリジェンスを行うと、情報漏洩などによるさまざまなリスクが生じます。

会社売却手続きを進めていることが知られることで、対象企業内で動揺を生みだし、従業員の会社に対する不信感やモチベーションの低下を招き、その従業員や取引先をなくす事態まで発展する可能性もあります。

論点:中小企業M&Aとデューデリジェンス

中小企業は、ガバナンスやリスク管理の側面で体制整備が不十分であることが多くなっています。中小企業M&Aのデューデリジェンスとして、次の観点から関連当事者取引の重点的調査が必要となります。

  • オーナー経営者と自身の会社との間での利益相反取引の有無
  • オーナー経営者が個人利益のために自身の会社へ過度のリスク負担の有無
  • オーナー経営者個人が保有する資産と自身の会社が保有する資産の切り分け

会計上、法律上の側面からの諸課題も検出されることもあり、それに対応した中小企業M&Aのデューデリジェンスも必要でしょう。

まとめ

M&Aにおいてのデューデリジェンス(DD)は、必須のプロセスで、対象企業のリスクやシナジーを正確に評価します。

統合後のリスクを限定化し、シナジーを最大化することも可能です。

自社の人材で対応することも可能ではありますが、M&Aに精通した専門家とともにワンチームとなって対応することが、貴社のM&Aを成功させるポイントであると考えます。

  • 監修者
    長生 秀幸

    株式会社AGS FAS
    代表取締役

    長生 秀幸

    1995年AGSグループ入社。国内税務、事業承継業務を経験した後は、一貫してM&Aの業務に携わり、国内大手金融機関のM&A担当部署への出向も経験。 2022年AGSコンサルティングの取締役に就任し、現在はAGS FASの代表取締役。 税理士登録は1998年。