無機質でストレスフルな世界に、花と緑と五感で挑む【株式会社パーク・コーポレーション】

1988年に創業、翌年から生花販売に乗り出し、「青山フラワーマーケット」という一大ブランドを築き上げた株式会社パーク・コーポレーション。創業者として、今も次々と企画を生み出している代表取締役の井上英明氏に、AGSグループの廣渡嘉秀が話を伺った。

株式会社パーク・コーポレーション 代表取締役 井上 英明様

「パーク」という考え方

廣渡 本日はよろしくお願いします。
パーク・コーポレーションとは税務顧問として長くお付き合いさせていただいていますが、今回はインタビューさせていただけるということで楽しみにしていました。
パーク・コーポレーションという社名は、ニューヨークのパークアベニューが由来だとか。

井上 そうなんですよ。パークアベニューと、セントラルパークから取りました。
かつてニューヨークのKPMG(会計事務所)に勤めていたんですが、その事務所がパークアベニューにあった。
辞めて戻ってきた時に、「あいつは逃げて行った」と思われるのが癪で、いつかパークアベニューに事務所を構えてやろうと(笑)。

廣渡 ・・・そうだ!
そもそもご紹介いただいたのは、KPMGの同窓でGCAサヴィアン(現GCA)の創業者でもある渡辺章博さんでした。

井上 ニューヨーク時代の先輩である渡辺さんからのご紹介ですし、もう20年以上前になるでしょうか。

廣渡 もともと、AGS創業者の虷澤が、渡辺さんと旧知の仲だったことがきっかけのようです。
虷澤はKPMGの代表社員だったので、渡辺さんがM&Aで活躍されている時期に、ニューヨークでご一緒することも多かったそうで。

井上 そうでしたか。渡辺さんとは私も珍しく気が合いました。監査について一から教わったのを覚えています。

廣渡 脱線しましたが、社名の話でしたね(笑)。あとはセントラルパークも由来とのことですが。

井上 ええ、あそこの自由な雰囲気が大好きで。
みんな好きなことをやってるんですよ。馬に乗ったり、スケートをやったり、楽器を吹いたり。

廣渡 自由ななかにも一定のルールがある、御社の雰囲気にすごく合っていると思います。

井上 当時はそうでもなかったのですが、最近は街を歩いていると、名前に「パーク」とつくマンションがずいぶん目に付くようになりました(笑)。

廣渡 時代が求めているのかも知れません(笑)。

井上 ちょうどこの後も打合せするんですが、parkERs(パーカーズ)という空間デザインの事業部が「いばらきフラワーパーク」のリニューアルを手掛けたところ、これが好調で、群馬でもやることになったんです。それまでは花を見ることしかできなかったところを、カフェを設置し、オリジナルグッズをつくった。ワークショップなんかも企画しています。

廣渡 モノだけでなくコトがある、というのが良いですね。

井上 私たちが今まで取り組んできたことを公園のなかに再現していくと、人が集まってくれるようになった。次はこれをパッケージ化して広めていこうとしているんですが、これも「パーク」という考え方に繋がりますし、ブレずにやって来れているなと思っています。

紆余曲折して創業した、楽しい会社

廣渡 話は戻りますが、最初はKPMGに勤められていた。どんなキャリアを考えてらっしゃったんですか?

井上 実は私、もともとは商社マンになろうと思っていたんですよ。もっというと、大学時代は数学が得意だったので建築家になりたかった。ただ、父に「お前は事務所に閉じこもって図面を書いているのがイメージできないから、商社マンにでもなったらどうだ?」と言われ、「たしかに・・・」と(笑)。

廣渡 飛び回るタイプですし、そんなイメージはありますね。

井上 そこで文系に進路変更して、実際に商社からお誘いもいただいたんですが、「行ける」と決まってしまうと興味がなくなってしまった(笑)。最終的に、世界中を飛び回れて独立開業もしやすい会計事務所を選び、知人に誘われてニューヨークのKPMGに行くことになりました。

廣渡 どんどん変わりますね(笑)。

井上 でしょ。しかも、やってみると監査のような細かい仕事が性に合わない(笑)。

廣渡 私もそうです(笑)。
その後、パーク・コーポレーションを立ち上げることになりますが、最初は花屋さんではなかったそうですね。

井上 セントラルパークのような楽しい会社にしたいと思って「パーク」と名付けたものの、何をやるかは決めていませんでした。とりあえずパーティーや結婚式などイベント企画から始めたんですが、ある本に「イベントや興行ビジネスは、バスや鉄道会社などキャッシュフローが回っている本業をもたないとリスクになる」と書かれていたのを読み、「これはヤバい」と(笑)。

フラワービジネスへの道のり

廣渡 もともと花屋さんにはご縁があったんですか?

井上 全くありませんでした。
ただ、ちょうど大阪で花博(国際花と緑の博覧会)をやることになったのを新聞で読み、母も花をやっていたこともあって興味を持ちました。そこで花き市場に連れて行ってもらったところ、お店で千円ぐらいする花が百円ぐらいで売られている。
「これはおもしろい」と思い、その場で赤薔薇を30本ぐらい買って知人の代議士のところに持ち込んだんです。すると、一週間後に電話がかかってきて、「良い花だったからまた持ってきなさい」と。それからいろいろな方をご紹介いただき、売って回りました。
無店舗で完全予約制、ロスなしの花屋ですね(笑)。

廣渡 井上さんほか、何人かで?

井上 一昨年亡くなってしまったのですが、専務の植村とふたりでした。
ふたりで花を持って、真夏も滝のように汗をかきながら回ったものですよ。

廣渡 そうでしたか・・・私も植村専務のことは覚えています。
まだまだこれからというご年齢でしたし、残念です。
その後、無店舗から店舗型に移っていくことになりますが、決め手は何だったのでしょうか?

井上 引き合いも順調に増えていった頃、ビル地下のレストラン街をよく利用していたんですが、入り口あたりがデッドスペースになっていて観葉植物が置いてあった。もったいないなと思って、うどん屋で聞いてみたところ、上階に管理事務所があるとのことだったので、その足で向かって「貸してくれませんか?」と(笑)。

廣渡 まさに突撃ですね(笑)。

井上 運よくOKしていただき、格安で出店することができたんですが、始めてみたら大行列で。当時、10本千円で薔薇やチューリップを売る店は他になかった。ただ、どんどん売れていくのにキャッシュがぜんぜん溜まらない(笑)。

廣渡 たしかに、私たち税務・会計顧問の立場からすると、当時は原価や人件費の管理が十分にできていなかったように記憶しています(笑)。

井上 あわてて原価計算に取り組んで改善していったものの、他社に比べて販売価格を安く設定していたことも大きかったと思います。生花は廃棄ロスの影響が大きいので、原価率の設定は難しかったですね。

視覚型の感性と花が出会った

廣渡 当初は紆余曲折を繰り返された印象ですが、ターニングポイントはありますか?

井上 ひとつめは、やはり花との出会いですね。

廣渡 たしかに、それまでいろんなことにトライしていたのが、花と出会ってからはずっと花屋さんを貫いている。

井上 花を届け続けていると、その周辺のビジネスチャンスもありました。例えば花瓶ですね。お客さんに「良い花瓶はない?」と聞かれたんです。私は佐賀出身なので、有田焼の職人さんを紹介してもらって、仕入れるようになったり。

廣渡 なるほど。お話を伺っていると、地元のお知り合いとのご縁によるところも大きいですね。

井上 佐賀県って、何もないようにみられがちですが、文化があるんです。器や掛け軸など、花とゆかりのあるものが身近にあった。幼いころ絵を習ったりもしていて、そういう感性が育っていたのかも知れません。

廣渡 会計のような数字の世界よりも、感覚的な世界のほうが性に合っているんでしょうね。

井上 私はいわゆる右脳型で、五感でいうと特に視覚に意識が向くタイプなんだと思います。
妻は聴覚タイプの人で、面白いのが、例えばオペラを鑑賞する時。私はついつい舞台装置や演出なんかに目が行ってしまうんですが、彼女は目を閉じて音を楽しんでいる(笑)。

廣渡 同じ芸術でも、ずいぶん受け取り方が違いますね(笑)。

井上 花のビジネスは「見る」ということに特化したものでもあるので、花は私にとって運命の出会いだったと言えますね。

普段使いの花を、世界に

井上 もうひとつは、渋谷の駅前に出店した時に、「ライフスタイルブーケ」と名付けた出来合いのブーケをたくさん並べたことでしょうか。これが飛ぶように売れたんです。

廣渡 あれは本当にセンス良くディスプレイされているので、ついつい買いたくなってしまいます。

井上 このアイデアの根底には、初めて花に出会った時に感じた「もっとリーズナブルに花が売られていれば、自分でも普段から買うのにな」、という想いがありました。
もともと花屋のビジネスはギフトを前提に考えられていて、同じ薔薇1本を買うのでも、お店によっては、ラッピングをしてもしなくても値段が変わらなかったりする。ラッピングが必要なければ、もっと安くしても良いはずですよね。

廣渡 そこで、青山フラワーマーケットは「普段使い」という発想を持ち込んだ。

井上 もっと気軽に花を飾ってもらうために、切り花として販売する場合は値段を抑えています。
もちろん、ラッピングやアレンジメントなどが必要であれば、相応の手間賃をいただきますが。
切り花を売ることが八百屋商売だとすると、ブーケやアレンジメントなどはサラダを売るようなイメージですね。付加価値をつけることで原価率を抑えることにも成功しました。
こうした考え方を取り入れたのは、世界中でもウチが初めてではないでしょうか。

廣渡 その成功で、出店が加速していった、ということですね。

井上 おかげさまで、ずいぶん出店依頼が舞い込みました。
ちなみに、これと同じ手法が、2015年にオープンしたパリの店でもウケています。

廣渡 それはちょっと意外ですね。

井上 フランス人は大きなブーケを作るのは得意な反面、小さなブーケを同じように作るのが苦手みたいですね。私たちが小さなブーケを並べると、みなさん立ち止まっていただける。
そういう意味ではパリに出店したこともそうですが、世界に通じる「ライフスタイルブーケ」を開発できたことが大きなターニングポイントでした。

新ブランド立ち上げのむずかしさ

廣渡 順調に成長を重ねていくなかで、経営上「これはヤバい」というようなシーンはなかったのでしょうか?

井上 思ったことはすぐ実行していたので、失敗もずいぶんありましたよ。スクールや結婚式企画、あとは「グリーンクリニック」とか・・・

廣渡 「グリーンクリニック」とは?

井上 観葉植物に問題があったら相談を受けますよ、というサービスなんですが、まだ観葉植物を持っている人も少ない時代だった(笑)。
あとは、良い物件をご紹介いただくことが増えたので、出来合いのものだけを売るブランドを立ち上げたものの、お客さんのニーズに柔軟な対応ができずに撤退したこともありました。

廣渡 私たちの他のクライアントにもよく見られるのですが、すごく良いアイデアだと思った新規ビジネスやブランドが案外うまくいかず、従来のスタンダードなものがずっと残っていく、というのが面白いですよね。

井上 ただ、私たちは生ものを扱っているため、仕入で大きなリスクが負えないという特徴があります。無理な出店は考えず、マイペースに経営することができたので、深い傷を負うようなこともありませんでした。

海外展開、アジアへのカギはコールドチェーン

廣渡 出店というと、先ほどおっしゃっていたパリの出店は、それこそ苦労されたんじゃないですか?

井上 そうですね。でも、物件を探し、内装を考え、市場に口座を開き、人を集め、教育して・・・などと考えていくと、あたりまえなんですけど「なんだ、やることは日本と同じじゃないか」と気付くんです。

廣渡 言葉こそ違えどビジネス自体は変わらない、と。
パリのほか、現在はロンドンにも出店されていますが、やはりブランディング目的という意味合いが強いでしょうか。

井上 パリやロンドンについては、もちろんブランディングもありますが、何より情報や感性をどんどん吸収する場にしたい。それを日本、これからはアジアにも展開していきたいですね。

廣渡 東南アジアへの展開などはどのようにお考えですか?

井上 これから、ですね。
ただし案外難しい話で、この間、京都吉兆の徳岡さんに「海外にはなぜ出店しないんですか?」と聞いてみたんですよ。

廣渡 吉兆なら、引き合いもずいぶん多いでしょう。

井上 すると、「私たちにとって大切なのは、水なんです」とおっしゃる。
日本のやわらかい水があってこそ成り立つのが本当の日本料理だから、日本を出ることができないのだそうです。
これこそが本物だな、と。

廣渡 なるほど、花も気候に影響されますからね。

井上 私たちの商売も、日本にいろんな花があるからこそ成り立っています。じゃあ、その花がアジアの暑い国で育つのかというと、そう簡単ではない。となると、花の調達が重要になりますから、インフラとしてコールドチェーン(低温物流)が構築されているか否かがポイントになるでしょう。
その点ドバイなんかは空港から完璧に温度管理されていて、積込場所から納品口まで外気が入ってこないようになっているんです。

廣渡 中東の気候は相当厳しいからこそ、コールドチェーンが進んでいるのでしょうね。
そうした海外展開を考えるうえで、(花きの)生産事業に乗り出す選択肢もあるのではないかと思いますが、その辺りはいかがでしょうか?

井上 市場にとって、生産者が減少してきていることは大きな課題なので、考えてはいます。
ただ、例えば薔薇だけを一生かけてつくり続けているような農家さんがいらっしゃるんですが、その方の薔薇は簡単に真似できるようなものではない。
そうした職人技術を要しない、枝物のような素材については、自分たちで生産していくことも考えたいですね。

無機質な都会の生活に、花と緑で豊かさを

廣渡 最後になりますが、今後の展望についてお聞かせいただけますでしょうか?

井上 青山フラワーマーケットは現在120店舗ぐらいですが、200ぐらいまで伸ばしていけると思っていますし、海外も良いところがあれば出店したい。先ほど触れた生産や、品種改良、室内緑化などの分野にも可能性を感じています。
あとは何より、ブランドをひとつひとつ大切に育てていって、「花と緑が身近な世の中になった」と言っていただけるような会社にしたいですね。

廣渡 花も緑も、私たちには必要なものですからね。

井上 私たちの花という商売は本当に特殊で、「見る」ことと、香りを「嗅ぐ」ことしかできない。他に何の機能もないんです。

廣渡 食べるものでも、着るものでもない。

井上 いまの都会はコンパスと定規さえあれば描ける、円と直線の無機的な世界ですが、花と緑はそうではなく有機的。生きているんです。
そして、都会は二酸化炭素を排出しますが、植物はそれを吸って酸素を生み出します。

廣渡 おもしろい対比ですね。
parkERsの公園づくりの話を伺って感じたのですが、日本人はもともと庭が好きですし、センスの良い花と緑の空間を増やしていくことができれば、いろいろな意味で豊かになっていくと感じます。

井上 人は、都会の生活のなかでプレッシャーやストレスを感じ、自然なものに癒される。
私たちのサービスが人の心を豊かにできるよう、拡げていければ良いなと思っています。

廣渡 すごく良いお話が聞けました。
本日はどうも、ありがとうございました。

※この記事は2024年12月18日の取材を基に作成したものです。

【株式会社パーク・コーポレーションのご紹介】
花や緑に囲まれた心ゆたかなライフスタイルを提案するという想いのもと、青山フラワーマーケット(フラワーショップ)をはじめ、Aoyama Flower Market TEA HOUSE(カフェ)、parkERs(空間デザイン)、hana-kichi(スクール)、青山フラワーマーケット ANNEX(法人事業)など多角的な事業を展開している企業です。
株式会社パーク・コーポレーションのHPはこちら

監修者

  • 井上 英明

    株式会社パーク・コーポレーション 代表取締役

    井上 英明

    いのうえひであき

    1963年、佐賀県生まれ。87年に早稲田大学政治経済学部卒業後、ニューヨークの会計事務所を経て88年、株式会社パーク・コーポレーションを設立。代表取締役に就任し、現在に至る。
  • インタビュアー
    廣渡 嘉秀

    株式会社AGSコンサルティング 代表取締役社長

    廣渡 嘉秀

    ひろわたりよしひで

    1967年、福岡県生まれ。90年に早稲田大学商学部を卒業後、センチュリー監査法人(現 新日本監査法人)入所。国際部(KPMG)に所属し、主に上場会社や外資系企業の監査業務に携わる。 94年、公認会計士登録するとともにAGSコンサルティングに入社。2008年より社長就任。同年のAGS税理士法人設立に伴い同法人統括代表社員も兼務し、現在に至る。