借方と貸方とは?覚え方や考え方、仕訳の例や損益計算書等との関係を解説

借方と貸方とは?覚え方や考え方、仕訳の例や損益計算書等との関係を解説

「借方」と「貸方」とはどのような用語か解説しています。わかりやすい覚え方や考え方、基本的なルールや仕訳例、代表的な財務諸表である貸借対照表や損益計算書を用いる際のポイントについても紹介します。借方・貸方について調べている方は参考にしてください。

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「借方」「貸方」とは

「借方」「貸方」とは

「借方」と「貸方」は、複式簿記により取引を記帳する際に使用される会計用語です。
資産・費用は借方に、負債・収益は貸方に分けられます。

複式簿記は、取引を原因と結果の2つの側面から記録する方法です。所得税における青色申告特別控除で最大65万円の控除を受けるには、複式簿記による記帳が必要とされます。

取引先に商品を売った結果、普通預金が増加するなど、取引の結果を反対側の原因で補足することで、取引内容をより詳細に記録します。

借方・貸方のわかりやすい覚え方・考え方

借方・貸方のわかりやすい覚え方・考え方

複式簿記において、借方は左側、貸方は右側になります。

借方貸方
普通預金

100

売上

100

かりかたの「り」が左払いなので借方は左側、かしかたの「し」が右払いなので貸方は右側と考えると、左右の位置が覚えやすいでしょう。

複式簿記では資産・費用は借方に、負債・収益は貸方に記載するのがルールですが、これは資産の増加や費用の発生、負債の増加や収益の発生がある場合です。
反対に、資産の減少や費用の減少は貸方に、負債の減少や収益の減少は借方に記載します。

複式簿記に慣れないうちは、借方と貸方のどちらに記載すればいいのかを判断するのに時間がかかるかもしれませんが、日常の業務でいくつも取引の仕訳をしていくうちに慣れてきます。
簿記の勉強をしている方は、1つでも多く仕訳を行って判断スピードを向上させましょう。

借方・貸方の基本的なルール

借方・貸方の基本的なルール

複式簿記で記帳をする際には、いくつかの基本的なルールがあります。

そのうち、借方・貸方に関するルールは、以下の3つです。

  • 借方・貸方の合計金額が一致すること
  • 取引項目は5つに分類されること
  • 借方と貸方は左右が決まっていること

それぞれについて解説します。

借方・貸方の合計金額は一致する

複式簿記では、1つの取引を借方・貸方の2方面から記録するため、借方・貸方の合計金額は必ず一致します。

例外はなく、もし借方・貸方の合計金額が一致していなければ、必ず何らかの仕訳ミスが生じていることになります。

商品を売って、普通預金口座にお金が振り込まれた場合、登場する科目は借方・貸方1つずつなのでシンプルです。

借方貸方
普通預金

100

売上

100

しかし、例えば売った側が振込手数料を負担する場合、借方に「普通預金」と「支払手数料」の2つの科目を記載する必要があります。
科目が複数登場する場合でも、借方・貸方の合計金額は一致していなければなりません。

下記の仕訳では、借方は普通預金95円と支払手数料5円の合計で100円、貸方は売上100円で、借方・貸方の合計金額は共に100円で一致します。

借方貸方
普通預金95売上

100

支払手数料5 

取引項目は5つに分類される

取引項目は資産・負債・純資産・収益・費用の5つです。

項目ごとの借方・貸方の記載は下記のとおりです。

取引内容借方貸方
資産増加減少
負債減少増加
純資産減少増加
費用増加減少
収益減少増加

項目ごとの具体的な勘定科目は、例えば下記になります。

取引内容勘定科目
資産現金、預金、棚卸資産、売掛金、有価証券、固定資産など
負債支払手形、買掛金、未払金、前受金、借入金など
純資産資本金、資本剰余金、利益剰余金、自己株式など
費用仕入、給与、支払家賃、水道光熱費、支払手数料など
収益売上、受取利息、受取配当金、有価証券売却益など

借方は左、貸方は右に記載する

借方は仕訳の左側、貸方は仕訳の右側に記載します。どんな場合も、このルールは変わりません。

前述したように、かりかたの「り」が左払いなので借方は左側、かしかたの「し」が右払いなので貸方は右側と考えると、すぐ覚えられるでしょう。

慣れないうちは、紙に下記のように書いておくと混乱せず、ミスをしません。

借方貸方

借方と貸方の左右を間違えて記帳を行なうと、仕訳を丸々間違えてしまっていることになります。借方は左、貸方は右のルールは、複式簿記を覚える際に、一番最初に頭に入れておきましょう。

借方・貸方の仕訳について

借方・貸方の仕訳について

仕訳の具体的な流れは、まず取引を原因と結果に分け、勘定科目に当てはめ、借方と貸方に記入します。

例えば、商品を仕入れて現金100円を支払ったとすると、商品を仕入れた原因と、現金100円を支払った結果に分けられます。この取引の勘定科目は、原因が「仕入」、結果が「現金」です。

あとは、仕入と現金それぞれが、借方・貸方のどちらなのかを判断し、実際に仕訳を記入します。

ここでは、借方・貸方の仕訳について4つの取引の場合を想定して解説します。なお、本記事では税込経理方式を採用します。

現金で仕入れた場合

商品やサービスの提供に対して、現金で支払う、または現金で受け取る場合を「現金取引」といいます。

例えば、商品を仕入れて現金100円を支払った場合の仕訳は下記になります。

借方貸方
仕入

100

現金

100

5種類ある取引項目のうち、仕入は「費用」であり、現金は「資産」に該当します。
前出の表に従うと、仕入の発生は費用の増加なので借方に、現金の支払いは資産の減少なので貸方に記載します。

借方の合計金額は100円、貸方の合計金額も100円で、借方・貸方の金額が一致していることも確認してください。

買掛金で仕入れた場合

買掛金は「掛取引」により発生します。

掛取引とは、商品の引き渡しやサービスの提供時に代金を支払わず、後から払う取引です。
例えば、月末など定められた締め日に1ヵ月分の代金を取りまとめて請求書を発行し、請求書を受け取った側が決められた支払期限までに代金を支払う取引が該当します。

買掛金とは、商品の仕入やサービスの提供を受け、まだ支払っていない代金をいいます。
買掛金は「負債」に該当するため、買掛金の発生は貸方、代金を支払い買掛金が減少する時は借方に記入します。

商品100円を掛取引で仕入れた場合の仕訳は下記になります。

借方貸方
仕入

100

買掛金

100

サービスを現金で販売した場合

形のある商品を売った場合だけでなく、形のないサービスを販売した場合でも仕訳は変わりません。

例えば、マッサージを行って現金100円を受け取った場合の仕訳は下記になります。

借方貸方
現金

100

売上

100

形のある商品は渡した時点で取引が完了しますが、例えば継続的なサービスを提供する場合は注意が必要です。

難しい考え方になりますが、売上を認識するのは「履行義務の充足」がされた時点になるため、継続的なサービスを提供する場合、実際にサービスを提供した段階で売上を計上します。

以下、例を用いて説明します。

サブスクリプションサービス(12ヵ月年プラン)を提供した場合

例えば、サブスクリプションサービスを提供していて、12ヵ月プランで契約してもらい、代金1,200円を先払いで受け取ったとします。

この場合、代金を受け取った時点で売上1,200円を計上したくなりますが、これは先払いであり、まだサービスを提供していない状態です。そのため、代金を受け取った時点では、下記の仕訳を行います。

借方貸方
現金

1,200

前受金

1,200

現金は「資産」、前受金は「負債」です。資産の増加は借方に、前受金という負債の増加は貸方に計上します。

この取引の場合、サブスクリプションサービスの提供が履行義務の充足にあたります。
契約期間において1ヵ月が経過するごとに、代金1,200円を12ヵ月で割った金額を売上として、計上します。1ヵ月ごとに前受金を取り崩し、売上を計上しましょう。

借方貸方
前受金

100

売上

100

前受金という負債の減少を借方に、売上という収益の増加を貸方に記入します。

売掛金が振り込まれた場合

商品やサービスを提供し、まだ受け取っていない代金のことを「売掛金」といいます。
代金が未回収の段階では売掛金を計上し、代金を回収した段階で売掛金を取り崩します。

商品100円を掛取引で販売した場合、下記の仕訳になります。

借方貸方
売掛金

100

売上

100

売掛金は「資産」であり増加したため借方に、売上は「収益」で増加なので貸方になります。

その後、代金が預金口座に振り込まれた時は、資産である預金の増加と、資産である売掛金の減少となるため、下記の仕訳になります。

借方貸方
預金

100

売掛金

100

借方・貸方を用いた会計処理

借方・貸方を用いた会計処理

複式簿記で各取引を借方・貸方に分けて会計処理を行った後、全ての仕訳を集計して「財務諸表」を作成します。

財務諸表とは、経営・融資・投資などの利害関係者に対して、1年間の財務状況を報告する決算書類です。

銀行に融資の相談をする際に提出を求められる他、青色申告で確定申告を行う事業者には税務署への提出が義務付けられています。

代表的な財務諸表には「貸借対照表」と「損益計算書」があり、青色申告を行う場合は、この2つの提出が必要です。

「貸借対照表」と「損益計算書」について解説します。

貸借対照表

貸借対照表は、「B/S(バランスシート)」とも呼ばれ、個人事業主や法人のある一定時点における資産・負債・純資産の状態を表した書類です。

貸借対照表では、左側に資産を、右側に負債と純資産を記載します。作成にあたっては、期末時点における1事業年度の仕訳の中から、借方・貸方に記載した資産、負債、純資産を集計し、合計金額を貸借対照表に記載します。

貸借対照表の左右の合計金額は必ず一致します。もし一致しない場合は、仕訳のミスか、集計漏れが考えられます。

会計ソフトに仕訳を入力すれば、各科目の集計を自動で行ってくれます。
手動で集計作業をすると集計漏れが起きやすく、時間もかかってしまうため、財務諸表の作成が必要であれば会計ソフトの使用をおすすめします。

損益計算書

損益計算書は、「P/L(ピーエル)」とも呼ばれ、個人事業主や法人の1年間の収益と費用を報告する決算書類です。損益計算書をみると、その事業者の収益性が分かります。

損益計算書には、収益、費用、純利益が記載されます。

借方に費用と純利益、貸方に収益という関係です。損益計算書も借方と貸方は必ず一致します。

ただし、損益計算書の表示の仕方は、左右に分けるのではなく、縦一列に記載する形式が一般的なため、借方と貸方はあくまでイメージで考えてください。

純利益はそれ単体で仕訳が発生するのではなく、収益から費用を引いた残額で算出する形になります。
よりシンプルにいうと、収益から費用を引いた「儲け」の部分です。

まとめ

借方と貸方とは?覚え方や考え方、仕訳の例や損益計算書等との関係を解説

借方と貸方は、複式簿記の基本となる重要な概念です。借方が左側、貸方が右側というルールを必ず覚えましょう。

資産・負債・純資産・収益・費用が、どのような場合に借方あるいは貸方にくるのかも把握する必要があります。

借方と貸方の分類は、基本的には覚えるしかなく、何回も仕訳をして理解していくしかありません。実際に手を動かして仕訳を作成することで、徐々に借方と貸方に慣れていきます。

簿記の勉強をしている方は、仕訳を作る練習を何度も繰り返して覚えましょう。

監修者