棚卸資産とは?該当する資産や評価方法、評価損の計上などについて解説

棚卸資産とは?該当する資産や評価方法、評価損の計上などについて解説

棚卸資産とはどのような資産かを解説しています。製品や仕掛品などの該当する資産や原価法・低価法などの評価方法、取得価額や評価損が発生した際の計上方法なども紹介しています。棚卸資産について調べている方は参考にしてください。

すべて表示

棚卸資産とは

棚卸資産とは

棚卸資産とは、販売目的で購入した商品や製品のうちまだ販売されないまま滞留しているものを指します。いわゆる在庫と呼ばれるものです。
購入した商品の他、製造業であれば加工前の材料や加工中の仕掛品も該当します。

「棚卸資産」は会計上の流動資産に該当し、「商品」や「原材料」の勘定科目で、貸借対照表の資産の部に表示されます。

商品や在庫などの棚卸資産が、会社の店舗や倉庫内にどれくらい残っているかを確認する作業が「棚卸」です。

棚卸には、大きく分けて、帳簿棚卸と実地棚卸の2つがあります。

帳簿棚卸とは

帳簿棚卸とは、在庫の出し入れのたびに種類や数量を在庫管理表に記録し、帳簿上で在庫をチェックする方法です。

帳簿棚卸では在庫の数量を常に把握できるメリットがあるものの、在庫の品質チェックを行わないため、破損や汚損が確認できないのがデメリットです。
また、記録漏れや紛失、盗難などにより、管理表上の在庫数と実際の在庫数が合わない場合もあります。

通常は帳簿棚卸と、後述する実地棚卸の両方を行い、棚卸資産のチェックをします。

実地棚卸とは

実地棚卸とは、会社が保有している在庫を目視で確認し、数量と品質のチェックを行う方法です。原則として実地棚卸を行う日には入荷や出荷を止め、在庫が動かないようにして実施します。

帳簿や在庫管理表で在庫数をカウントしても、商品の劣化や破損、汚損により実際に販売できない可能性もあるため、実地棚卸による在庫の品質チェックが欠かせません。
記録上の在庫と実際の在庫の数が一致しない状況を防ぐためにも 、実地棚卸は重要です。

万が一、従業員による在庫の盗難や横流しが起きている場合、発見する手段の1つが実地棚卸であり 、会社の内部統制上でも必要な作業です。

棚卸資産に該当するもの(勘定科目)

棚卸資産に該当するもの(勘定科目)

棚卸資産に該当するものとして、法人税法施行令第10条では下記が挙げられています。

  • 商品または製品(副産物および作業くずを含む)
  • 半製品
  • 仕掛品(半成工事を含む)
  • 主要原材料
  • 補助原材料
  • 消耗品で貯蔵中のもの
  • 上記の資産に準ずるもの

それぞれ、個別に解説します。

商品または製品(副産物および作業くずを含む)

販売目的で仕入れた商品や製品のうち、販売されずに残っているものです。
製品の生産過程から生まれる副産物や作業くずも含まれます。

副産物とは、例えば豆腐を生産する上でできる、おからなどが挙げられます。
ある生産過程において複数の生産物がある場合、何を主産物として何を副産物とするか、厳密なルールはありません。一般的には価値が高い方を主産物、価値が低い方を副産物とすることが多いです。

また、作業くずとは、製品を製造する際に発生する原材料の残りくずのうち、売却価値のあるものを指します。

例えば、革製品の切れ端や、鉄くずなどです。

半製品

半製品は、一定の製造工程が終了し、そのまま販売や貯蔵が可能な中間製品です。

製造工程に1~5までのプロセスがあったとして、製品のラベル張りやパッケージも完了済みで出荷を待つだけというのが、工程5を終えた状態です。

ただ、工程のうち3や4まで完了した段階でも販売が可能なら、それらは半製品に該当します。

また、自社工場で冷凍総菜を生産して各店舗に配送し、注文が入った時点で調理して客に提供するレストランチェーンが、他社の飲食店やホテルにも卸販売しているようなケースでは、この冷凍総菜が半製品に分類されます。

仕掛品(半成工事を含む)

仕掛品は、製造途中でまだ完成していない製品です。原材料を少しでも加工していれば仕掛品とされます。

半製品との違いは、それだけでは販売できない点です。

レストランチェーンを例にすると、カレーに使うために加工されたじゃがいもは仕掛品です。
また、シュウマイの餡を自社工場で作り、それ自体では他社に販売できない場合、シュウマイの餡も仕掛品に該当します。

仕掛品は業種によって呼び方が異なり、造船業では「半成工事」と呼ばれます。

主要原材料

原材料とは、製品の製造目的で消費される物品で、まだ使用されていないものを指します。
原材料には、主要原材料と補助原材料があります。

主要原材料とは、製品本体を製造するために必要な主要なものです。鉄板や銅板などが該当します。

製品原価を正確に計算するためには、原材料を「直接材料費」と「間接材料費」に分けます。

直接材料費は主要原材料であり、どの製品に使用するかが明確なものを指し、間接材料費は補助材料で、どの製品に使用するのか明確に区別できないものが該当します。

補助原材料

補助原材料とは、原材料のうち、製造過程に必要な原材料のうち補助的に使用されるもので、材料同士を留めるための釘や、材料を塗装するための塗料などが該当します。

なお貸借対照表では、主要原材料も補助原材料もまとめて「原材料」として記載するのが一般的です。

消耗品で貯蔵中のもの

消耗品で貯蔵中のものとは、自社で使用する目的で購入した消耗品などのうち、使用されずにまだ残っているものです。

一般的に「貯蔵品」と呼ばれることもあります。

例えば、未開封のコピー用紙や未使用の切手、収入印紙などが該当します。

また、見本品として使用するものも1つです。見本品とは、試用品として取引先や消費者に配布されるもので、日常生活ではサンプル品とも呼ばれます。

見本品は、通常は無償で提供されるものであり、提供した段階で「広告宣伝費」などの販管費として処理されます。

これまで解説した資産に準ずるもの

法人税については、これらの資産に「準ずるもの」についての説明はありません。

ただ、所得税基本通達2-13では、棚卸資産に準ずるものとして、以下に挙げるような資産のうち、一般に販売(家事消費を含む)の目的で保有されるものを例示しています。

  • 飼育または養殖中の牛、馬、豚、家きん、魚介類等の動物
  • 定植前の苗木
  • 育成中の観賞用の植物
  • まだ収穫しない水陸稲、麦、野菜等の立毛および果実
  • 養殖中ののり、わかめ等の水産植物でまだ採取されないもの
  • 仕入れ等に伴って取得した空き缶、空き箱、空き瓶等

これらがそのまま法人税にも当てはまるわけではありませんが、参考にしてください。

出典:法人税法施行令第10条「棚卸資産の範囲」
出典:所得税基本通達2-13「棚卸資産に含まれるもの」

棚卸資産の評価方法(計算方法)

棚卸資産の評価方法(計算方法)

棚卸資産の金額を貸借対照表に記載する場合、在庫をどのように評価するのか、その方法を決めなければなりません。
棚卸資産の評価方法は、原価法と低価法の2種類に分かれます。

さらに、原価法には複数の方法があります。

  • 個別法
  • 先入先出法
  • 移動平均法
  • 売価還元法
  • 総平均法
  • 最終仕入原価法

低価法もあわせて、それぞれ解説します。

原価法

商品や原材料は、仕入れるタイミングによって金額が変わります。昨今の原価高騰で野菜や食品の値段が上がっていることをイメージすると分かりやすいでしょう。

例えば、卵を仕入れるとして、1パック199円の時に150パック、250円の時に80パック、228円の時に100パックをそれぞれ仕入れ、期末に残っている卵が15パックあったとします。

仕入れ時の価格はバラバラなため、期末に在庫として残った卵について1パックいくらで評価すればいいのかという問題が生じます。

これを踏まえ、各評価方法を説明します。

個別法

個別法とは、それぞれの商品や原材料を仕入れた価格そのままで棚卸資産の評価額として計算する方法です。

正確な棚卸資産の評価額にはなるものの、商品ごとや原材料ごとに仕入価格が異なるため、評価計算も一つひとつを個別に行わなければならず、膨大な手間が発生します。
チェーン展開しているレストランで、全国数百店舗の材料在庫を個別で評価すると考えると、あまり現実的ではないでしょう。

そのため、個別法は、土地などの不動産や貴金属のように個数が少なく原価が大きいものに使用されます。

先入先出法

先入先出法とは、先に仕入れたものを先に販売すると仮定して評価する方法です。
先ほどの卵の例でいえば、合計350パックを仕入れ、在庫が15パックだったとすると、315パックの卵が消費されたことになります。

先入先出法では、仕入れたタイミングが一番早い12月5日に199円で仕入れた卵から先に消費され、次に12月15日に250円で仕入れた卵、最後に12月23日に228円で仕入れた卵が消費されると考え、在庫の15パックは12月23日に仕入れた卵と評価します。

この評価方法は消費期限の短い食品などに適しており、商品販売のプロセスと相性が良い方法です。

移動平均法

移動平均法は、商品や原材料を仕入れるたびに、現在抱えている在庫と新しく仕入れた在庫を合計し、平均単価を計算する手法です。

商品を販売した際の売上原価は、実際の仕入値ではなく、移動平均法によって算出した平均単価で計算した値を使います。

12月5日に199円で150パック卵を仕入れ、12月6日~12月14日に140パック使った場合、原価単価は1パック199円で、残りは10パックです。

その後、12月15日に228円で80パック仕入れたタイミングで、平均単価を計算します。

199円 × 10パック + 228円 × 80パック = 20,230円
20,230円 ÷ 90パック ≒ 224.78円

後に、12月16日~12月22日で60パック使い、そのまま新たな仕入れをせずに期末を迎えたとすると、在庫は30パックで、棚卸資産としての評価額は下記のとおりです。

224.78円 × 30パック = 6,743.4円

このように、商品や材料を仕入れるたびに平均値を計算し、売上原価や在庫の評価単価を決定するのが移動平均法です。

比較的正確な在庫評価ができるものの、取り扱う在庫の数量や仕入頻度が多くなると計算が煩雑になり、事務負担が大きくなるデメリットがあります。

売価還元法

売価還元法は、商品や製品の売価から原価を推定する方法です。

商品の回転率や値入率別などでグルーピングした上で、グループ毎に原価率を設定します。
商品グループの販売価格に、それぞれの原価率をかけた値を棚卸資産の評価額とするのが売価還元法です。

個別の原価管理が不要になり管理コストが下げられる一方、正確な原価計算は難しくなります。

総平均法

移動平均法が仕入れのたびに平均単価を計算し直すのに対し、総平均法は一定期間に仕入れた商品の総仕入額を、仕入れた商品の総数で割って平均単価を求める方法です。

12/5に1パック199円で50パックの卵を仕入れ、12/15に250円で80パック仕入れ、12/23に228円で100パック仕入れたとして、在庫が15パックだった場合の平均単価は下記になります。

(199円 × 150パック + 250円 × 80パック + 228円 × 100パック) ÷ (150パック + 80パック + 100パック) ≒ 220.15円

移動平均法に比べて計算の手間が減るメリットがありますが、仕入単価がそれぞれ大きく異なる場合、棚卸資産の評価が正確に行えない可能性があります。

仕入れるタイミングで単価があまり変わらないものを多く取り扱う場合に向いている計算方法といえます。

最終仕入原価法

最終仕入原価法は、期末に一番近い仕入時の取得単価で棚卸資産を計算する方法です。

計算が簡単であるメリットがありますが、期末になるまで棚卸資産の取得単価が確定せず、評価が遅れるデメリットがあります。

それぞれの仕入タイミングにおける取得単価の差を反映できないため、適時に経営や営業状態を分析したい場合には、最終仕入原価法は向いていません。

棚卸資産の評価方法は、新たに事業を開始した時や事業の種類を変更した時に税務署に評価方法の届出をしなければなりませんが、届出がなかった場合、この最終仕入原価法が適用されます。

低価法

低価法は、原価法により評価した棚卸資産の金額と、期末時点の棚卸資産の時価のうち、低い方を選択する方法です。

例えば原価法により評価した棚卸資産金額が1万円で、棚卸資産の時価が9,500円だった場合は、価格が低い9,500円を棚卸資産の金額とします。
原価法との差額500円は売上原価として計上します。

仕入れた資材が期末までに値崩れしている場合などは、低価法で評価することで在庫の価値を正確に反映できます。

時価は原則として正味売却可能価格を用いますが、製造業における原材料などについては、継続適用を条件として、その時点で再調達するとした場合の原価である「再調達原価」を適用できます。

棚卸資産の取得価額

棚卸資産の取得価額

棚卸資産を評価する際には、いくらで取得、あるいは製造したかという「取得価額」を使います。

棚卸資産の取得価額には、仕入れにかかった購入代価だけでなく、その資産を販売または消費するためにかかった「付随費用」も含まれます。

取得価額は資産の取得形態によって異なるため、それぞれの場合について解説します。

購入した棚卸資産

外部から商品や材料を購入した場合の取得価額は、購入代価に加えて、引取運賃や荷役費、運送保険料、購入手数料、関税など購入のために直接かかった費用や、商品を販売するためにかかった費用も含まれます。

こうした「付随費用」を取得価額に加えず、販管費として処理していると、適切な売上原価を算定できず、商品や製品の実際の利益率の把握も難しくなり、適切な経営判断が行えません。

適切な経営判断のためには、どういった費用が売上原価や棚卸資産に含まれるのかを把握する必要があります。

製造した棚卸資産

製造した棚卸資産の取得価額には、製造・加工した製品の原材料費の他、製造にあたった従業員の人件費や、製造場所である工場の光熱費、製造工程の一部を外注した場合の外注費など、製造のためにかかったすべての費用が含まれます。

各製品の製造に直接かかった従業員の人件費などは、直接費としてその製品に割り当て、工場の現場監督員の人件費など、特定の製品と直接結びつけられない費用は間接費として一定の基準で各製品に割り振ります。

贈与、交換などの取引で取得した棚卸資産

贈与や交換、低廉な価格で取得した棚卸資産は、取得時の時価に加え、その棚卸資産を販売または消費するのに直接要した金額が取得価額となります。

適格分社型分割または適格現物出資などで取得した棚卸資産

適格分社型分割や、適格現物出資などで取得した棚卸資産の取得価額は、取得価額に加えて、販売または消費するのに直接要した金額を含みます。

棚卸資産の評価損とは

棚卸資産の評価損とは

低価法により棚卸資産を評価した結果、原価法による評価額より価格が下がった場合、低価法と原価法との差額は棚卸資産の評価損になります。

税金の計算において、棚卸資産の評価損を計上できるのは、下記のいずれかです。

  • いわゆる季節商品の売れ残りで、今後通常の価格では販売できないことが過去の実績などと照らして明らかなもの
  • 当該商品と用途の面では概ね同様であるが、型式、性能、品質などが著しく異なる新製品が発売されたことにより、今後通常の方法で販売することができないもの

棚卸資産の評価損が生じやすい商品の例と、評価損の計上方法について解説します。

棚卸資産評価損が生じやすい商品(製品)

棚卸資産評価損が生じやすい商品や製品は、一般的に下記があります。

  • 一時的な流行になりやすい商品
  • 季節が限定された商品
  • イベントに特化された商品
  • 市場価格の変動が大きい商品

季節限定商品として、例えばクリスマスパーティー用の商品などが挙げられます。
また、服や靴など流行の移り変わりが激しい商品も、棚卸資産評価損が生じやすいといえるでしょう。

他にも、パソコンやソフトウェアなど、技術の発展スピードが速く、すぐに型落ちになってしまう商品も該当します。

棚卸資産評価損の計上方法

棚卸資産の評価損は、原則として、決算書の損益計算書において売上原価に計上されます。
商品低下評価損として個別に表示するか、売上原価に含めて開示して注記事項で棚卸資産評価損を記載する場合が多いでしょう。

ただし例外として、評価損の発生要因が、重要な部門の廃止など臨時かつ多額の損失が発生したことであったり、地震や水害などの災害だったりした場合は、特別損失に区分して計上します。

棚卸資産評価損を計上する明確な理由がないと、税務調査で否認されてしまう可能性があるため、計上理由が税務上認められるものか確認が必要です。

まとめ

棚卸資産とは?貯蔵品との違いや評価方法、評価損の計上などについて解説

棚卸資産は、商品や原材料、製品などのうち、期末まで残った在庫です。棚卸資産には、製品を作る上で発生した副産物や作業くずも含まれます。

棚卸資産を評価する原価法には複数の方法があり、自社の仕入販売や製造の実態に見合ったものを採用する必要があります。

棚卸資産を評価するにあたっては取得価格の算定が必要ですが、取得価格には商品や材料を仕入れるのに直接要した費用や、販売に直接要した費用が含まれる点に注意しましょう。

 

監修者